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3.正真正銘の魔物使いになれました

 僕が住む町、フィラミルの周辺は比較的乾燥した荒野地帯となっている。

 草木はそこまで生えておらず、流れる川の周辺にポツポツと存在する位だろうか。

 そんな感じなので、この町の周辺にはあまり多くの魔物は棲みついておらず、いるとしても小柄で弱い魔物だけ。

 それでも力なき者は外へ出るだけでも危ない事に変わりないのだが。


 ただ今の僕にはヴァルドがいる。

 実際、僕がスライムを探しに外を歩いている最中にゴブリンに襲われても、ヴァルドが瞬殺していた。



「ったく、こんな奴らにも命を脅かされるとかどんだけ弱いんだよ、人間って生き物はよぉ?」

「……そんな人間に存在を消されたのはどこの誰だっけ?」

「うるせぇ! そんな事言ってるとお前をミンチにしてやんぞ!?」

「あっ、別に構わないけど、そうしたら君は一生そのままだろうね。誰にも気付かれずに一人で死んでいく事になる」

「ぐぬぬ……あークソッ! もし俺様の呪いが解けたら覚えてろよ、アーク。お前を真っ先に殺してやるからな!」

「あー、そう。それなら君の呪いを解く手伝いは止めようかな? そうしたら君は僕を殺せないんだろう?」

「あークソッ、汚ねえぞアーク!? そうやってお前はいつも俺様の事を――」

「シッ、静かに! やっと見つけたよ、スライム。こんな所にいたのか……」



 適当にヴァルドをあしらっていると、僕はついに目的の魔物、スライムを見つけた。

 つぶらな瞳がチャームポイントな、青く半透明な生命体、スライム。

 きっと、この子が僕の記念すべき最初の従魔になるんだね……。



「見つけたのはいいが、これからどうするつもりだよ?」

「まあ、見ていなって」



 僕はスライムの進行方向に向かってとある物を置いた。

 するとスライムはその物に吸い込まれるように近付いていき、それを体に取り込んだ。

 そしてスライムはその物を取り込んでから、しばらくその場から動かなくなる。



「アーク、今何をした?」

「何って、スライムベリィというものをスライムに取り込まさせただけだよ」

「スライムベリィ? それはスライムにとって何か毒になるものなのか?」

「いいや、そんな事ないよ。むしろスライムが大好きな物さ。スライムの成長を促す効果すらあるからね。ただ、このスライムベリィ、スライムとの消化の相性が悪く、これを取り込もうとしたスライムはしばらく動けなくなるんだ」

「ほぅ……何でもすぐ消化しちまうスライムが消化に時間がかかるもの、か。それで動きを封じるという事だな、なるほど」



 スライムの大好物であり、スライムだけが何故か消化に手間取る果物、それがスライムベリィ。

 ちなみに僕みたいな人間が食べた場合は普通に消化される。

 結構甘酸っぱくて美味しいし、お店に普通に並んでいたりするので、誰でも入手は簡単な物だ。


 さて、スライムの動きをせっかく封じたのだから、こんなチャンスを逃す手はあるまい。

 従魔の儀式を今のうちにやってしまおう。



 僕は動かないスライムに対して従魔の儀式を始めた。

 まずは専用の棒のような物を使って、スライムを中心に特定の模様を描く。

 続けてスライムに対して自らに服従するよう念じて命ずる。

 それを数分続けて、スライムの心と通じ合い、僕は無事このスライムを従魔とする事に成功した。


 ……うん、うまくいって良かった。

 これで僕は正真正銘魔物使いだと言う事が出来る。

 ヴァルドを使役した時から魔物使いと言えなくもないんだろうが、ヴァルドの姿は誰にも見えないし、だからこそヴァルドが倒したグレートウルフの一件では、僕が魔法を使ったと認識された。

 つまりはヴァルドを使役していても、誰も僕が魔物使いであると認識してはくれないのだ。



「うん、これで僕も本当の魔物使いだ」

「……おい、それじゃ俺様を従えた時は何だって言うんだよ、アーク?」

「うーん、どうなんだろう? 半魔物使いといった所かな?」

「それじゃ俺様が半人前の魔物みたいじゃねえかよ、アーク? しかもその言い方だと俺様がこのスライムにも劣る魔物だと言っているようにも聞こえるんだが?」

「実力的にはともかく、ヴァルドを従えていても誰にも僕が魔物使いであると認識してもらえなかったからなぁ。ある意味ではそう言えるのかもしれないね」

「……俺様がスライムに劣るだとぉ!? 何言ってやがる、貴様!? 今の発言撤回しろぉ!?」



 そう言って僕の体を掴んで揺らしてくるヴァルド。

 まあ、気持ちも分からなくもないけどさ。

 でも事実なんだから仕方ないって。


 ある程度騒ぎ立てた所でヴァルドはようやくおとなしくなる。

 僕はその間も周りを観察して、とある生物を見つけた。



「あっ、見つけた!」

「何だ? 何かいたのか? ……って、またスライムかよ? 今のお前のカリスマ力は1しかないから、これ以上スライムを見つけても意味ねえだろ?」

「いや、それが意味あるんだよなぁ。ちょっと見ていてよ」



 僕はスライムベリィを野生のスライムに与え、野生のスライムはその場で動かなくなる。

 それから僕はその周辺に模様みたいな物を描く。



「じゃあ、僕のスライムくん。このスライムを取り込むんだ!」



 僕はスライムに命じて、模様の中心にいるスライムを飲み込ませる。

 すると一瞬ぶるんとスライムの体が揺れたが、少し経つと落ち着いて、元の状態に戻った。



「これってもしかして、”合成”って奴か?」

「うん、そうだよ。魔物と魔物を合わせる、それが合成。こうする事によって合成対象になった魔物は強化されるんだ」

「だがそれって魔物使いの間では忌み嫌われている技術なんだろ?」

「確かにそうだね。でも無理をしなければかなり有用な技術なんだよ? 特に僕みたいなカリスマ力のない魔物使いにとっては、ね」



 先程のグレートウルフのように、合成に失敗すれば、暴走するリスクはある。

 だけど無理のない範囲で行えば、合成による失敗はまず起こらない。


 例えばゴブリンにドラゴンを取り込ませようとしたら、肉体が変化に耐えきれず、暴走する。

 グレートウルフもきっとそのような魔物使いの無茶な合成によって生まれてしまった被害者なのだろう。

 ちなみに暴走したグレートウルフを生み出した魔物使いは既に判明し、今では謹慎処分を食らっているらしい。


 スライムにスライムを取り込ませても変化は少ないが、確実に成長の恩恵は受ける事ができる。

 変化が少ないからこそ、合成によって魔物が暴走するリスクも少ないし、安全に強くなれるという事だ。

 その上、合成をしても、合成元となった魔物を使役するために必要なカリスマ力は変わらない。

 つまり、必要なカリスマ力も少なく、強い魔物を使役できるから、合成はまさに僕にうってつけの技術という事だね。



「なるほど。確かに合成によって強くなっているようだな。能力が全体的に上がっているようだ」

「魔物の能力も見れるんだ、ヴァルドは?」

「当然だ。伊達に何十年も魔王やってないぞ、俺様は? 俺様程の実力となれば、相手の力量を測る位の事は当然できるさ」



 ふーん、そうなんだ。

 今のヴァルドの状態を見ると説得力がないけど、まあ、そういう事にしておこう。

 例の魔法使いの話をするとまた怒っちゃうしさ。



「さすがはヴァルド。ちなみに二体のスライムがしっかりと融合しているかどうかは分かる?」

「ああ、もちろん分かるぞ。どれどれ……ああ、全く問題ないだろう。ほぼ完全に一つになっている」

「そっか……それは良かった……」



 異なる魔物を融合させる”合成”は魔物の能力を高めるが、一方で異なる魔物を一つにしているだけあって、体は不安定になりやすい。

 合成による暴走が起きるのも、この不安定な度合いが大きすぎる時に起こると言われている。


 今回は同じスライムを合成させただけだからあまり問題はなかったんだろう、きっと。

 ひとまず第一関門はクリアといった所か。



「この感じなら、複数体合成させても問題なさそうだよね?」

「複数体……まさか、合成を繰り返すというのか!?」

「うん。無理のない合成を続ける事で、低カリスマでも強力な魔物を使役する。それがカリスマ力の低い僕が強くなる唯一の道なんだ。カリスマ力の高い他の人はそんな事をする必要がないから、合成をする人は少ないけど。あと、合成を覚えるのって大変だし」

「なるほどな。ちなみにどれだけ覚えるのは大変なんだ?」

「そうだね……。僕はその合成の技術をしっかりと覚えるまでに数年はかかったかな」

「もしかしてその数年ずっと勉強し続けたという事か?」

「うん。一応言っておくと、形だけの合成をするだけなら数日もあればできる。だけど、合成を危険なく行う為には、あらゆる知識が必要になるから、それも含めての期間だね」



 あまり理解していない状態で行う合成はとても危険だ。

 そしてそんな合成をする人が多く、それによって被害も多少出てしまっているので、合成に対する悪いイメージを持たれるのも仕方がないのかもしれない。

 だけど、しっかりと仕組みを理解した合成であれば危なくないし、今の僕にとってはこの上ない力になってくれる。

 決して合成そのものが悪い訳ではないのだ。



「そりゃあ大変だな。だけど、その知識をこれから活かしていくんだろ、アークは?」

「うん、そうだよ。カリスマ力がとても低い僕にとって、これからの命綱とも言うべき技術なんだ」

「なるほどな。そうなると、その合成でどこまで上を目指せるか見物だな」

「うん、僕も楽しみにしているよ。どこまで自分の知識が通用するのか、ね」



 カリスマ力の低さを補う程の知識を身につけたと僕は自負している。

 そして今やっている事は、そんな僕が強くなる為の第一歩だ。


 スライムとスライムを合成させて強いスライムを作る。

 それを何度も繰り返す事で、見た目に変化は見られないだろうが、能力にはだいぶ差が出てくるだろう。

 一回の合成で強くなる程度はたかが知れている。

 だけど、それが果たして積もりに積もり重なったらどうなるのか……?


 僕はそれからさらにもう二体のスライムを見つけて、僕のスライムに合成する。

 その合成が終わった所で僕はヴァルドにたずねた。



「ねえ、ヴァルド? 今のスライムの状態がどうなっているか分かる?」

「……そうだな。体の定着は完了できている。全く問題はないだろう」

「やっぱりね。この調子なら問題なさそうだ」



 魔物に他の魔物を合成すれば、体は不安定になっていく。

 ただ僕は工夫して合成を行う事で、その不安定になる度合を極限まで減らして合成する事ができる。

 それに魔物には時間が経てば不安定になった体に順応して、安定さを取り戻す力がある程度存在すると言われている。

 その性質をうまく使えば、きっと合成回数に実質限りはなくなるだろう。


 そんなこんなで合成に夢中になっていると、いつの間にか日が暮れようとしていた。


 さて、そろそろ町に戻らないと。

 だいぶ日も傾いてきたし、あまりもたもたしていると帰り道が分からなくなってしまうからね。

 こうして僕は従魔にしたスライムを引き連れて、町へと帰っていった。




 しばらく歩くと僕は町にたどり着く。

 そして町中を歩いていると、切り裂き魔法使いが魔物を連れているという事で、ちょっとした騒ぎになってしまった。

 何で魔法使いが魔物を連れているのか理解出来ないっていうような状態だ。


 ……いや、僕、そもそも魔法使いじゃないですから。

 本当、この誤解って厄介だよなぁ、うん。


 ちなみに本物の魔法使いは魔物使いと仲が悪く、それ故、魔物使いを兼任する者はほとんどいないそうだ。

 だからこそ、魔法使いと誤解された僕がスライムを連れている様子はさぞ奇妙に映ったのだろう。


 そんな視線を気にせず歩いていると、ようやく自分の家へとたどり着く。

 そして中に入ると――



「ただいまー」

「おかえりなさい、アーク。随分と遅かったわね。……あれっ、そのスライムは何なの?」

「あっ、実はこのスライム、僕の従魔なんだ。僕、ようやく魔物使いになれたんだよ!」

「えっ!? でもそんな事ってあり得るの!? アーク、確かカリスマ力が1もなかったんでしょう!?」



 出迎えてくれた母はひどく驚いた様子だった。

 まあそれも無理はない。

 15歳になってもカリスマ力が全くない者が後ほどカリスマ力を手に入れた事例なんてなかったのだから。

 正直僕だってヴァルドに出会うまでは完全に諦めていたしさ。



「こうやって使役出来ているから、僕にもカリスマ力があるっていうのは間違いないと思うよ」

「そうよね……。おとなしくしているし、しっかりと使役出来ているみたいよね。なら、ちょうど良いわ。父さんに見てもらいなさい、今のアークの姿を!」

「えっ、父さん帰ってきているの!?」

「まだ帰って来てはいないけど、明日の明け方には帰ってくるって手紙が来たの。だから丁度良いと思ってね」



 僕の父親はAランク魔物使いであり、人類でトップクラスの魔物使いである。

 この町はおろか、他の町にも父ほどの実力を持つ魔物使いは指で数えられる程しかいないのだとか。


 そんな父親は僕が魔物使いになれないという事を知って、一番悲しんだ人だ。

 だから僕が魔物使いになれたという事を伝えたらどんな反応をするんだろう?

 何か楽しみだな……。

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