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21.二体のDランク魔物と戦う事になりました

「ラス、エルフの頭と足元に分裂して拘束! ゴンはエルフの腹部にゴブリンクラッシュ!」

「りょーかいだよー」

「…………任せろ」



 僕の指示通り、ラスはエルフの頭と足元付近に体を分裂させ、エルフを拘束。

 そしてゴンはエルフの腹部に攻撃し、体勢を崩させた。

 チャンスという事でゴンが追撃を仕掛けようとする。


 しかし、エルフはDランク魔物。

 ただでは終わらせてくれない。


 体勢を崩したエルフだったのだが、自身の体から氷の刃を発生させる技を使ってきた事により、ラスの分身は消滅。

 ゴンは紙一重の所で、その氷の刃を避けたのだった。

 自身にひとまず身の危険がなくなると判断したであろうエルフは、自身の体についた氷の刃を解除した。


 ゴブリン相手とはいえ、何度も戦ってきた事により戦いの勘が備わったからか、ゴンは助かった。

 さて、あの氷の刃化する体は厄介だな……。

 果たしてどうすればいいものか。



「め、メルさんには指一本触れさせないんですから……!」

「そ、そうだニャ! あ、あっち行けニャ!」



 テイニーとレクの声が聞こえてくる。

 二人の方を見てみると、そこにはテイニー達を襲おうとするアルラウネの姿があった!?


 Dランク魔物、アルラウネ。

 下半身が巨大なツタになっている植物人間みたいな見た目をしていて、ツタを使った攻撃が厄介な魔物だ。

 ツタの拘束がとても強力で、相手に一切攻撃をさせないまま仕留めてくる事もあるという。

 何でこんな時にそんな奴が……。



 そんな相手を前に、テイニーとレクはメルを守るべく、メルの前に立ちはだかっている。

 守ろうとする姿勢は良いのだが、どうして戦おうとしないのか?


 ……そうだ。

 レクは攻撃技は全く使えないと言っていたな。


 ケットシーが使える技は大きく二つに分けられる。

 一つがラッパを使ったサポート技。

 もう一つが自身のしなやかな体を活かした体術だ。

 体術の中には攻撃技、防御技など様々なものがあると聞いた事があるが、もしやレクは体術自体が使えないのでは?


 だからなのか、レクは頑張ってメルをかばおうとしているものの、足はブルブルと震えていて、まさに万事休すって感じだ。

 もしレクがラッパを使った技しか使えないのなら、マンドラゴラを呼び寄せる可能性があるし、レクに打つ手はないという事になる。


 果たして、どうしたものか?

 少なくともラスかゴンのどちらかを助けに向かわせないといけなさそうだが……。



「あーく、ぼくがたすけにいくよー」

「ラス、大丈夫なのかい?」

「うん、まかせてー。ぼく、せいいっぱいがんばるからねー」



 そう言うとラスがテイニー達の方へと向かっていった。

 ラスはスライムという弱い種族ではあるが、だいぶ合成による強化をしているはずだ。

 何しろ僕がついていなくても自力で合成をしていた位だからね。

 相当な強さになっているだろうし、きっと何とかしてくれるだろう。


 さて、問題は目の前のエルフだ。

 強さでは決してこちらが劣っている訳ではない。

 ただ、体を氷の刃化してくる事から、エルフの体に触れる事が迂闊にできないのだ。


 ラスはテイニー達を守るので精一杯だろうし、僕が使えるのはゴン一体だけ。

 むしろ早くラスを助けに行かないと危ない気がするから、早めに片を付けなくてはいけないだろう。

 さて、どうする……?



「…………考えがある」

「考えだって? どんなものなんだい?」



 ゴンは僕に考えというものを話してきた。

 ……うんうん、確かにそうできればいけそうだけど。

 果たして行けるのか?



「ゴン、それはできる自信があるの?」

「…………任せろ」



 ゴンは僕の目をまっすぐ見据えてそうつぶやく。

 どうやらゴンにはやり遂げるという強い意思があるようだ。

 なら、その意思に応えようじゃないか!



「分かった。ゴンに任せる」

「…………感謝する」



 ゴンはそう言うと、僕に背を向けて、エルフの方へと走っていく。

 するとエルフの周囲には冷気がまた顕現し始める。



「ゴン、来るよっ!」

「…………!?」



 エルフは再び自身の体に氷の刃をまとわせた。

 しかしゴンはその刃を避けつつ、さらにエルフに近付いていく。


 そしてエルフの体を強打して氷を砕き、氷が砕けた所に怒涛の連続攻撃!

 あまりに激しい攻撃を受け、エルフは体に氷をまといなおす余裕はなく、エルフは倒れ、動かなくなる。



「…………アーク」

「うん、ありがとう、ゴン!」



 僕はエルフに近付き、そしてエルフの髪を切って、リュックに保管する。

 よし、これで目標は達成か。



「…………危ない」



 ドンッと僕を付け飛ばしたゴン。

 するとその場所にはツタが迫ってきていて、ゴンはそのツタに絡めとられてしまった!?



「ゴン、大丈夫か!?」

「…………問題ない。…………みんなを頼む」



 ゴンはツタから必死に脱出しようともがくが、ツタは一向に外れる様子がない。

 むしろ、よりきつく締め付けられているようだ。


 僕をかばってゴンが拘束された……。

 という事は、アルラウネの攻撃がこちらの方まで伸びてきたという事だろう。

 みんなは大丈夫なのか!?


 僕はテイニー達がいる所を見てみる。

 するとそこには青く透きとおった小さなドームみたいなものが出来ていた。

 そのドームにいくつものツタが襲いかかるが、そのツタをぼよんぼよんと持ち前の弾力性で弾いていて、全く寄せ付けていない。


 どうやらラスが身をもってテイニー達を守ってくれているようだ。

 つまりはラスの中にいるみんなは無事だという事だろう。

 本当に良かった……。


 ただ、攻撃を受け続けているラスは大丈夫なんだろうか?



「ラス、大丈夫!?」

「だ、だいじょぶー……あっ、でもやっぱりつらいかもー……」



 度重なるアルラウネによるツタ攻撃によって、ラスの体は若干ではあるが欠けてきている。

 ラスの中に入っているテイニーとレクが必死にラスに薬草を与えているようだが、その回復量がアルラウネの攻撃力に追いついていないようだ。

 このままではラスがみんなを守りきれなくなるまで時間の問題だろう。


 しかし、この状況、どうすればいいんだ?

 ラスはみんなを守るので精一杯。

 ゴンはアルラウネのツタに捕まっていて身動きがとれない。

 メルは魔力を使い果たしたのか、うつぶせになって肩で息をしているような状態だ。

 つまりメルにはこれ以上無理をさせられそうにない。

 テイニーとレクは……うん。

 技を使ってもらうと余計に状況を悪化させるだけだ。

 ……これって詰んでいるんじゃないか?


 いや、突破口はどこかにあるはずだ。

 突破口になりうることは……拘束されていないラスがアルラウネと戦う事。

 ただ守りは崩すのは危険過ぎる。

 無防備な三人をアルラウネに狙われる可能性が高いからだ。


 なら、分裂すればどうか?

 守りは維持しつつ、攻撃用の分体を作れれば、守りを維持しつつ攻めることが可能だ。

 だけど今のラスにはそんな余裕はないだろう。

 守りを維持し続けるのも厳しいのだから。

 アルラウネの攻撃以上にラスを回復させる何かがあればいいんだけど……。


 ……ん、待てよ?

 もしかしたらこの方法なら……?



「ラス、僕の声が聞こえる!?」

「うん、きこえてるよー、どしたのー?」

「ラスって色んな物を吸収する事が出来るけど、音も吸収する事は出来るの!?」

「おとー? うん、がんばればできるよー」

「なるほど、そういう事かニャ!」



 音も吸収出来る。

 よし、それだったらあの方法が使える!

 どうやらレクも勘付いたようだな。



「レク、ラスに向かって自然治癒力アップの技を使って!」

「理屈は分かったニャ。でも、もし音が漏れたらどうするのかニャ?」

「その時はその時だ。そうならないとも限らないけど、ラスが音を吸収できると言っているんだ。なら、僕はそれを信じる!」

「レク、お願いです……技を使って下さい!」

「……分かったニャ。あっしはどうなっても知らないからニャ!」



 レクはラッパを出現させ、ラスに向かってそれを吹く。

 …………しかし、僕にはその音は聞こえない。

 どうやら上手くラスが音を吸収してくれているようだ。

 そしてその音を一身に受けたラスの体に変化が。



「おっ、おおっ!? みるみるうちにラスが元気になっていくニャ!?」



 ツタの攻撃を受けてどんどん体が削られていたラス。

 しかしレクの技を受けた事によって自然治癒力を増した彼は、今や体を削られる以上に回復していた。

 そして十分な大きさになるまで回復した所で。



「あーく、いまならぶんれつできるよー」

「うん、なら分裂をお願い!」

「おっけー、まかせといてー」



 ラスは体の一部を分離して、その一部は僕の前に降り立った。

 さて、ここから反撃開始と行きますか!

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