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2.魔物を従える力を”1”手に入れました

 結局、僕は従魔の儀式を成功させて、黒龍を使役する事に成功した。

 ――町の中心で変な行動をする少年という変なウワサと引き換えに。



「……ううっ、何でこんな事になったんだ。これも全部君のせいだからな、ヴァルド!?」

「その割にはお前もノリノリだったじゃねえか、アーク!?」

「無視しようとしたのに掴んできて引き止めようとしたのは君だろう!?」

「フンッ! なら今すぐ契約を解消しろよ。出来るもんならしてみろよっ!」

「ああ、分かった。やってやる。君は頑張って一人で呪いの手掛かりを探すんだね」

「……ちょっ、待てって! 今のは冗談だ! だからもう少し話し合おうぜ、なっ!?」



 そんな感じで僕と黒龍ヴァルドは人目につきにくい町外れで会話をしている。

 というのも、町中だと僕がひたすら独り言を言いまくっている変な人に思われるし、町の外だと魔物がいて危ないしでそうするしかないのだ。


 もし人が通りがかった時はヴァルドにいくら話しかけられようが無視する事を決めている。

 もうこれ以上変人扱いされるのはたまったもんじゃない。

 母親からもだいぶ心配されたし……うん。


 ちなみに父親は時々しか帰って来ないので、基本的に今は母親と僕の二人暮らしだ。

 兄はもう旅立ってしまったからね。



 こうしてヴァルドを使役し始める事になってから数日経過。

 それでも僕が魔物を使役する力、カリスマ力は全く上がっていないらしい。

 カリスマ力は教会の牧師など限られた人にしか見る事が出来ないが、この黒龍は人のカリスマ力を見る事が出来るのだという。

 そしてそんな彼が言うには僕のカリスマ力は変わらず0なのだとか。



「ヴァルドって、本当に人のカリスマ力が見えるの?」

「お、俺様を疑うってのか、お前!? なら試しに適当な奴のカリスマ力を見てやってもいいんだが!?」

「いや、いいよ、別に。そうしたら余計に僕がみじめになるだけだからさ。ハァ……」



 ヴァルドのその言葉の真偽は別として、少なくとも僕にカリスマ力がない事は間違いないんだろう。

 何しろあれから僕自身も変わった実感がない。

 変わった事といえば、外へ出る時にいつもヴァルドがつきまとってくるようになった事位か。

 正直それじゃただちょっと生活が面倒になっただけだよなぁ。



「ちょっと思ったんだけどさ……必要カリスマ0の魔物を使役しても僕のカリスマ力は上がらないんじゃ?」



 僕がそう言うとギクッとしたような反応を見せたヴァルド。

 それってもしかして――



「そ、そんな訳あるはずないだろ? きっと上がるって!」

「そう言い続けてもう数日経つんだけど。あー、期待した僕が馬鹿だったかもなぁ」



 カリスマ0の魔物を引き連れてカリスマ力を上げるという発想自体がそもそもおかしかったのかもしれないな。

 だってよくよく考えればカリスマが全くない人でも使役できる魔物を使役してカリスマが上がると思うだろうか?

 これはうかつだったな……。



「万が一カリスマ力が上がらなくてもお前には俺様がいる。なら、問題ないじゃないか! さっさと町を出ようぜ!」

「えー、そうかなぁ……。でもカリスマ0の状態で外に出るという事自体おかしな行為だしさ。余計に変な人に思われちゃうよ、僕」



 カリスマ力が0であり、魔法が使える魔法使いでもない。

 そんな奴が一人で外をフラフラ出歩くなんて、どう考えても奇妙に思われるだろう。

 そもそもそんな状態で外に出歩いたら、ヴァルドの機嫌一つで僕は外で魔物にやられかねない。

 そんな危険な状態はできるだけ避けたい。


 だけど、確かにこのまま過ごしてもラチが明かないのは事実。

 少し行動を起こした方が良いのだろうか?



「うーん……でも、ちょっとだけ―――」



 僕がヴァルドの誘いに乗ろうとした瞬間、キャーッという悲鳴が聞こえてきた。

 そしてその後も何やらザワザワと騒がしい声が。



「この気配……アーク、行くぞっ!」

「えっ、ちょっ、ヴァルド、どこへ行くの!?」



 ヴァルドに腕を掴まれながらどこかへ連れて行かれる僕。

 ヴァルドの姿が見えない他の人から見たら、今の僕は斜めの変な体勢のまま高速で移動する変質者だ。

 ……ううっ、何でこんな事に。


 結局その体勢のまま町の大通り近くまで移動する事になった。

 途中すれ違った何人かにはやはり奇妙な目で見られる事になったが。

 ……ヴァルド、この騒ぎが落ち着いたら覚えてろよ。



 ヴァルドが手を離してきてようやく解放された僕は大通りを覗いてみる。

 すると大通りには逃げ惑う人々の姿が。

 そしてその奥には――



「グレートウルフ!? 何でこんな所に!?」



 グレートウルフ。

 ウルフの上位種であり、その戦闘力はCランクだと確か本に記述されていたはずだ。

 ちなみに魔物の強さはランク別に分けられていて、強い順からA、B、C、D、Eとなっている。

 この辺りに住む魔物がEランク程の強さであることを考えると、その二ランクも上の魔物である事から飛びぬけた強さを持っている事が分かるだろう。

 当然この辺りに生息するような魔物ではないはずなのだが、何故こんな町中に?



「誰か! 魔物使い様! いらっしゃらないのですか!?」

「うわー!? こっちに来るぞー!?」



 混乱する人々。

 そしてそんな人々の一人にグレートウルフは標準を定めたようだ。

 このままではその人が危ない!



「アーク、早く指示を!」

「えっ!?」

「俺様に指示を出すんだよ! お前、俺様の魔物使いなんだろ? なら魔物使いらしく俺様を上手く使ってこの問題を解決してみろよっ!」



 そうだった。

 一応ヴァルドは僕の従魔だ。

 つまりこういう時はヴァルドに指示をして、導いてあげるのが、僕の魔物使いとしての仕事。


 あのグレートウルフは野生の魔物ではない。

 恐らくは誰かの従魔が暴走した魔物だろう。


 一部の魔物使いの間では、従魔をより強くする為に、従魔を別の魔物と融合させる”合成”という技術が使われる。

 合成に成功すれば、従魔はより大きな力を得て、魔物使いのより大きな力となる。

 だが失敗すれば、そこのグレートウルフのように、魔物使いの手に負えなくなり暴走する事があるという。

 故に魔物使いの間では合成はあまりよく思われていないようだが、新たな未知なる力を得られるというだけあって、合成を行う魔物使いも一定数いるようだ。


 この”合成”によって暴走した魔物を元に戻す事はできないので、いかに被害なく倒す事が出来るかどうかだけが求められる。

 さて、それじゃ早速頑張ってみるとしようか……!




 ウルフよりも一ランク上の魔物であり、攻撃力と敏捷性にさらに磨きがかかった種族、グレートウルフ。

 その素早さ故に、その者からの攻撃を避けたり、または攻撃を当てたりする事は困難だと言われている。


 そんなグレートウルフに対して、どう攻めていこう?

 まずは足にダメージを与えて、動きを制限するべきか?



「ヴァルド、グレートウルフの右前足に傷を入れられる!?」

「ああ、右前足だな。了解だ!」

「それから次は左後足……ってええー!?」



 ヴァルドは右手の爪に風のオーラをまとい、グレートウルフの右前足を切り裂こうとする。

 するとグレートウルフの体全体が木っ端微塵に切り裂かれ、細かく刻まれた亡骸だけがその場に残された……。


 ……どうやらヴァルドは力の加減が苦手らしい。

 つまりはどんな指示をした所で結局相手を一撃で倒してしまうという事。

 これじゃ僕が指示した意味って一体何だったんだ……?



 突然肉片と成り果てたグレートウルフを見て、どよめく観衆。

 そして観衆の目線が僕の方へと注がれる。


 ……えっ?

 いや、これやったの僕じゃないからね?

 ヴァルドだからね?

 だから僕は無関係……って、そっかヴァルドはみんなには見えないんだった。

 ってこれじゃ僕がグレートウルフを倒したみたいじゃないかぁ!?



 結局案の定、町の人々には僕がグレートウルフを何らかの力を使って倒したものと勘違いされた。

 そしてその時から町の人々が僕の事を”切り裂き魔法使い”と呼ぶように……。



「ど、どうしてそうなったんだよぉ!?」

「まあ、落ち着けって。町を救えたんだからいいだろ? それにアークに一つ良い知らせがあるぞ」



 町外れに来た所でヴァルドに愚痴を言う僕。

 それにしても良い知らせって何だろう?

 悪い知らせならいっぱい思いつくけど、良い知らせなんてあったか?



「良い知らせだって? それはどういう内容なの?」

「そうだな……アークのカリスマ力がつい先程1に上がった」

「……へっ? 僕のカリスマ力が1に上がっただって? 冗談だろ?」

「いや、何度確認しても紛れもなくお前のカリスマ力は1だ。間違いないだろう」



 カリスマ力が1に上がった。

 カリスマ力が1でもあれば、いくらでも力を上げる方法はある。

 それはつまり、紛れもなく僕が魔物使いへの第一歩を踏み出せたという事だ!



「……これで、これで僕はようやく魔物使いへの第一歩を踏み出せるんだね!?」

「ああ、そうだ。良かったな、アーク。実に良かった。それでアーク、その貴重なカリスマ力はどう使うんだ? 前々から何か考えていたんだろう?」

「……うん。僕はこれから必要カリスマ力1の魔物、スライムを従えに行くつもりだ」



 スライム。

 それはこの世界のどこにでも存在し、そしてどんな魔物からも蹂躙される貧弱な存在。

 戦闘力はほとんどないものの、特筆すべきはその生命力。

 食料を長い間摂取しなくても生きていけるし、どんな物でも食料にし得る。

 正直適当に野に放てば食料の補給は完了してしまうほど、食料には困らない。

 つまり、従魔として維持し続けるには最も簡単な魔物でもあるのだ。



「スライム? そんな奴を従魔にする意味はあるのか? まあ、アークがより多くの魔物を使役して自身のカリスマ力を上げたいのは分かるが」

「その目的もあるんだけど、スライムには僕の魔物使い生活の要ともなる存在になってもらおうと思うんだ。まあ、見ていれば分かるさ」

「ふーん、生活の要なぁ。それよりスライムはどうやって従えさせるんだ? さっきの奴みたいに倒しちまえばいいのか?」

「いや、従えさせる魔物は生きている必要がある。だからそんな事をしてはダメだよ」

「ならどうするっていうんだよ? 俺様、スライムを弱らせるなんて器用な事は出来ないぞ?」



 ああ、うん。

 グレートウルフの惨状を見れば、ヴァルドが力加減を苦手にしている事はすぐに分かる。

 という事で、スライムを従える為には僕だけで何とかしなくてはならない。

 でもその方法は元々考えてあるから心配は無用だ。



「僕に考えがある。だけどスライムの生息地に行くまでちょっと危ないから、それまで僕を守ってもらっても良いかな?」

「守ってやってもいいが、その代わり高くつくぞ? 何て言ったってこの魔王ヴァルド様の力を借りようとしているんだからな、お前は!」

「あーあ、協力してくれないと、危ないから僕は外に出られないし、一生ヴァルドの呪いについても調べられないなぁ。仕方ないからもう諦めるしかない――」

「分かった! 分かったよっ! ただで働けばいいんだろ、働けばっ! ったく、人使い荒いんだからアークは……あっ、今のは嘘です、すいません」



 ヴァルドの言葉を無視して帰ろうとすると、こんな感じでヴァルドはやけに弱気になるんだよな。

 まあ、僕に無視されたらヴァルドは他に話し相手がいない訳だし、弱気になるのも無理ないけど。

 よほど話し相手に飢えているんだろうか、ヴァルドは。

 ちょっと弱みに付け込んでいる感じがするけど、ヴァルドも同じような弱みにつけこんでくる事を言ってくるんだからお互い様だよね、うん。



 という事で、僕は町の外へと出る事にした。

 そして町の出入口には門番がいるのだが、その門番から「切り裂き魔法使い様どうぞいってらっしゃい!」と言われる始末。

 本当、そのあだ名早く忘れてもらえないかなぁ……。


 だけどその変なあだ名に助けられた所もある。

 というのも、カリスマ力がほぼなく、魔法が使える訳でもない僕が外に出ようとすれば、間違いなく町の外へ出る事は止められるだろうからね。

 魔物使いを志して、軽い気持ちで外へ出たら命を落としたという人が時々いる為、そういう人を減らすために規制があるのだから。

 そんな状況の中でも、魔法を使えるという誤解をされている影響で、僕は町の外へ出ても大丈夫な人物と思われるようになったのだ。

 変なあだ名も役に立つ事はあるんだな。


 ちなみにヴァルドによれば、僕の魔法適正は人並みらしい。

 つまりは別に魔法使いになろうと思えばなれなくはないとのこと。

 だから本当に切り裂き魔法使いになろうと思えばなれなくないんだろうけど、正直魅力を感じないのでやめておく事に。



「あっ、あそこにいるのはゴブリンか! これから従える事ができる可能性を考えると、何だかワクワクする!」



 町の外へと出て歩いていると、遠目にゴブリンの姿が見えた。

 ゴブリンはランクEの魔物で、僕の住んでいる町の周辺に生息しているありふれた魔物だ。

 ゴブリンを使役するのに必要なカリスマ力は3~10と言われている。

 体の大きさや潜在能力によって必要なカリスマ力にばらつきがあるのだ。


 ゴブリンは個体によっては人の武器を扱う者や、魔法を扱う者もいるので、結構攻撃手段は多彩で面白い魔物だ。

 後々はゴブリンを僕の従魔にしようと思っているのだが、今はまだ早いな。

 カリスマ力がもう少し上がったらその事を考えようか。

 とりあえず今できる事を頑張っていこう。

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