11.メルと交渉してみました
方向オンチのテイニーとレクの事だから、家までたどり着くのにてっきりすごい時間がかかると思っていたが、そんな事はなかった。
「着いたニャ。ここがあっし達が住んでいる家だニャ」
「あれ、意外と早く着いたね?」
「失礼だニャ。さすがにあっしといえども、家までの道ぐらいは迷わないニャ。……テイニーは正直怪しいけどニャ」
「うっ……そ、そんな事ないですよ! わたしだって、きっと頑張れば……」
家まで迷わずに行く事って頑張る事ではないと思うんだけど……まあ、いいか。
「明日、ここまで迎えに来るから、あまりふらふら出歩かないでよ? そうすると合流出来なくなっちゃうからね」
「はい、分かりました。レクも気を付けて下さいね?」
「心配ないニャ。むしろテイニーこそ気を付けるべきニャ。いつもの癖で一人でギルドになんて行かないようにする事だニャ」
「そ、それはレクだって言える事ですよね!? この前だって――」
何かいきなりテイニーとレクが口喧嘩し始めたんですけど。
とりあえず僕は迎えに行く場所が分かれば十分なので、そっとその場から立ち去る事にした。
宿屋に戻ってからは食事などするべき事をして就寝。
そして朝を迎える。
テイニーの家は僕が使っている宿屋から歩いて5分位の所にある。
ちょっとだけ距離はあるけど、途中の目印にしている建物をたどれば迷う事はない。
「テイニー、レク! 迎えに来たよー!」
僕がそう叫ぶと、家の中からは髪の毛がボサボサのテイニーが現れた。
「えっと、どちらさまぁ……? あ、アークさん!? ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
そう言うとテイニーは勢い良く扉を閉め、何か中でバタバタと音をたてていた。
どうやらテイニーにとっては予想外に早い時間に僕が到着してしまったらしい。
それからしばらく経つと、テイニーとレクが出てきて、僕はようやくギルドに向かい始める。
ちなみにギルドで適当な依頼を受けたらメルと合流して、そこに向かうというのが今後の流れだ。
まずはギルドで何か依頼を受けようか。
ギルドの建物の中に入り、とりあえず依頼の掲示板を見てみる。
するとだいぶ紙が剥がされた跡があり、今残っているのは、いかにも残りものって感じがするものだけだ。
「残り少ないみたいですね……これもわたしが寝坊したせいです。ごめんなさい……」
「いや、過ぎた事は仕方ないよ。とりあえず今受けられそうな依頼を探そう。えっと……」
残り物感あふれるとはいえ、まだまだ残っている紙はたくさんある。
とはいえ、僕達が受けられる依頼はその中でもFという印のある依頼だけだ。
なのでなかなか受けられそうな依頼は見つけられなかったが、何件か依頼を確保する事が出来た。
そしてテイニーと話し合った上で、とりあえず一番出来そうな採取依頼だけを受注する事に。
一応複数件依頼を受ける事も可能だが、依頼には時間制限もある。
だから受けすぎると依頼をこなしきれないし、依頼を受ける為に前金みたいなものも必要だから、一つずつ確実に依頼をこなしたいんだよね。
受注の手続きが終わった所で、僕達はギルドの建物から出て、メルの店へと向かった。
「さあ、寄ってらっしゃい! 見てらっしゃい! あらゆる品物が手に入ると噂のアツメル総合店とはここの事なんやでー!」
メルは相変わらず持ち前の大きな声でそのように宣伝をしている。
こんな大声をずっと出していて、よく声が枯れないものだなぁ。
「メル、おはよう」
「おっ、アークはんか、おはようさん。行く所は決まったんか?」
「うん。まあ解毒草を集めるだけだからどこでもいいんだけど……沼地にでも行こうかなと」
「解毒草やと? そんならわざわざ沼地にまで行かんでええって。ウチの店で買っていけばええやろ」
ああ、確かにその手があったか。
僕が今回受ける依頼には、店で購入したものではダメという制限はついていない。
つまり店で買った解毒草を納めても問題はないのだ。
ただ買うという事は、お金が必要という訳で。
「でもそんなにお金に余裕はないし……」
「大丈夫やって! ウチは仲間からそんなぼったくらへんよ」
「うーん、それなら……。ちなみにいくらなの?」
「せやな……普通は一つ100Fの所やけど、50Fでどや?」
100Fが50Fか。
半額にしてくれているということで、だいぶ安いんだろうけど、それでもちょっと、な。
解毒草10個の納品が必要だから、500Fも払う必要があるし、その出費は大きい。
「ごめん、やっぱり厳しそうだ」
「ほ、ホンマかいな? これでも結構安くしてんねんで?」
「半額になっている位だから安いのは分かるんだけど、あいにくそんなにお金に余裕がなくて。だから諦めて沼地に――」
「それじゃ効率悪いやろ。……せやな、アークはん。その依頼の報酬金はいくらや?」
「えっと……300Fだね」
「なら特別に300Fまでまけたる! それなら文句あらへんやろ?」
「……えっと、前金が30Fあるんだけど」
「あんさんも商売上手やなぁ。仕方あらへん。270Fまでまけたる! それでどや!?」
前金の事も考慮して、依頼達成で得られる分のお金と同額で解毒草を買うという事か。
それなら損はないな。
得もしないけど。
前金はギルドへの手数料みたいな扱いで僕達の手元に戻ってくる事はない。
なので結局解毒草の依頼の達成によって得られるお金は270Fとなるし、270Fで解毒草を購入すれば手持ち金額の変動は全くなくなる。
メルと取引をする事で金銭的な得はないものの、依頼を達成したというギルドからの信頼が得られる分、結局は僕達に得はあるって事だろう。
「分かった。それだったら買うよ」
「ふふ、交渉成立やな。ほんなら、今から解毒草を持ってくるから、ちょっと待っててや!」
そう言うと急いで販売を担当している人の所へ向かうメル。
安くしているとはいえ、仲間にもお店の売上に貢献させようだなんて、なんて商魂たくましいんだろう。
こちらにとっても損しない方法をとってくれているんだし、別に構わないんだけども。
それから数分経ってからメルが僕達の所に戻ってきた。
「待たせたな。ほんならギルドに行こか!」
「えっ、メルも行くの!? 魔法使いが魔物使いのギルドに入っても大丈夫なのかな?」
「大丈夫やって。ウチ、魔法使いに見えないやろ? 杖を持っている時に出会ったアークはんは例外やけど、普通は分からへんて!」
確かにメルの服装は魔法使いっぽくない。
僕がメルと初めて出会った時は、メルが杖を持っているから魔法使いではないかと思っただけだ。
本を読んだ、魔法使いは長いローブを着ているという特徴とは似ても似つかない。
「それにウチの店には結構魔物使いのお客さんが多いんや。せやからウチがギルドに行った所で、商人がギルドにやってきたと思われるだけやろ。それにウチ、たまにギルドに依頼を出しに行くこともあるからな」
「なるほどね……問題ないのなら良いんだけど」
魔法使いである事がばれて、メルがギルドで嫌な思いをしたら困ると思っていたけど、そんな心配はなさそうだな。
まあ図太いメルの事だ。
何か多少悪口を言われても、逆に言い返す位の事はしてきそうだな。
とにかく心配ないようなので、早速ギルドに向かうとするか。




