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1.黒龍は町の人々から無視されているようです

 魔物を従える人は魔物使いと呼ばれ、人々のあこがれの対象だった。

 僕もその例外ではなく、一生懸命魔物使いに関する勉強をしてきた。


 だが、15歳の時に行われる魔物使いの適性検査にて、僕には才能が全くない事が判明。

 才能はカリスマ力という数値で表されるのだが、その数値はゼロだった。


 魔物使いになれなくても、せめて魔物使いに関わりたいので、僕は魔物使いである兄の手伝いをしばらくする事に。


 しかしある時、兄は町を旅立ってしまった。

 より成長する為に旅をするのだという。


 僕は途方にくれた。

 村には兄以外には身近な魔物使いはおらず、今までしてきたような手伝いはできない。

 つまり、僕の役目は終わったのだ。



 でもこれからも何かをして生きていかねばならない。

 だけど一体何をして生きればいいのか?

 全く想像がつかないのだ。


 そしてそんな精神状態だったからか、僕はとても奇妙な光景を目にした。

 町の真ん中に巨大な黒い龍が立っていて、人々はその龍を全く気にする事なく普通に生活しているという光景が目に入ったのだ。


 あまりに魔物使いを渇望する余りに幻を見ているのか?

 そう思った僕は目を何回もこすって確認したものの、やはり町の中心に龍が立っている。


 なんで龍があんな所にいるんだ?

 しかもよくよく見れば、何か本で見た事があるような姿だ。

 ……あっ、魔王のヴァルドにどことなく似ている気がする。

 ちょっと確認してみよう。


 僕は恐る恐るその黒龍の元へと近付いていき、そっと黒龍の体を触ってみる事にした。


 硬くて冷たい。

 ……って、完全に触感が龍の鱗のそれなんだけど。

 えっ、これって本当に幻なのか?



 僕がそう疑問に思い始めた時、僕の体に当たる日の光が遮られた。

 というのも、その黒龍が僕の事を覗きこんでいるからだ。

 この黒龍は完全に僕の事を認識している。

 そしてついにその黒龍は言葉を発した。



「お前……俺様の事が見えるのか?」



 ……へっ?

 見えるのかって、そりゃ見えるんだけど。

 何を当たり前の事を言っているんだ、この龍は?



「み、見えるに決まっているじゃないですか。どうしてそんな当たり前の事を聞くんですか?」

「……当たり前の事。そう、少し前の俺様にとってもそうだったんだがな……」



 そう言って黒龍は頭を抱える。

 どうやらこの黒龍、何か訳アリらしい。



「もしかしてその言い方からすると……今の黒龍さんってみんなには見えてない……?」

「その通りだ。でなければ、今頃町の奴らも大騒ぎしているはずだろう?」



 確かにそうだ。

 こんなに巨大な黒龍が町の中心にいたら、普通騒ぎになる。

 にも関わらず、人々は全く黒龍の事を気にする事なく普通に生活している。

 まるでそこに何も存在しないかの如く。



「でもどうして僕には見えるんでしょう?」

「そんな事知るか。それよりお前、早くこの呪いの解き方教えろ」

「……へっ? 呪いの解き方ってどういう事ですか?」

「この存在を消す呪いの事だよ。全く、あの厄介な人間の魔法使いのせいで、俺様の生活は滅茶苦茶だ。本当、どうしてくれる!?」



 そう言って足をどんどんと揺らして怒りを露わにする黒龍。

 すると地面がグラグラと揺れるのだが、周囲の人々はちょっとビックリする程度でまたいつも通りの行動に戻った。



「えっと、落ち着いて、落ち着いてください! よろしければ僕に詳しく事情を聞かせてくれませんか? 何か分かる事があるかもしれません。結構僕、色々本は読んできたので」

「……そうだな。じゃあもし俺様が話をしても分からなかったらお前を殺していいか?」

「な、なんでそんないきなり!? そんな事になるなら、僕は聞きませんよ!?」



 そう言って立ち去ろうとすると、黒龍が体を動かして僕の体を掴んできた。



「ま、待ってくれ! 頼むから俺様の話を聞いてくれ!」

「聞いても殺さないのならば聞きますけど?」

「わ、分かった! 何があってもお前の事は殺さない! 約束だ!」



 そう言って必死になる黒龍。

 一体、この龍は何をしたいんだろうか。

 ちょっと理解できないな……。




 黒龍の話によれば、この黒龍は世界最強の魔物、つまりは魔王ヴァルドだという。

 そんな魔王である彼は毎日のように挑戦者を退ける日々を送っていた。

 だがある日、人間の魔法使いと戦った彼はその人を倒した瞬間から自らの体に違和感を覚えたという。

 そしてそれからというもの、彼は自らの配下の者に話しかけても誰にも相手をしてもらえなくなったらしい。


 ……確かにこの黒龍の見た目は本の絵で見た魔王ヴァルドそのものだ。

 でもヴァルドはあまりの強さ故に、数十年に渡ってずっと魔王を続けていたはず。

 それだけ強いヴァルドが魔法使いの影響で存在が消えてしまっただって?

 そんな事があり得るのか?



「それで自分の存在を消す呪いがかけられたという事に気付いた、と?」

「そういう事だ。だから俺様はその呪いを解く為に同じ人間に聞こうと、こうして町まで降り立った訳だ。だが町に来たものの、ご覧の有様でな……」



 あっ、うん。

 普通はそうなるよね。

 だって存在を消されたんだったら、そりゃあ人間の町に来ても誰にも気付かれないだろうし。



「だからお前が俺様が道を尋ねる記念すべき一人目の人物となる訳だ。光栄に思えよ! さあ、俺様の問いに答えよ、人間!」

「あっ、やっぱり分からないです、すいません。それではこれで……」



 僕はそう言って立ち去ろうとしたのだが、やはり黒龍がそんな僕の体を掴んで離さない。



「お、おいっ!? 分かるかもしれないって言っただろう、お前!? 話が違うじゃねえか!」

「だって……分からないものは分からないですから。僕は結構本は読んできましたけど、この町にある本しか読めていないですから、そんな呪いの内容の本なんて読んだ事もないんですよ!」

「む、むぅ……それだったらこの町以外の本も読めばいいではないか」

「そんな事が出来たら苦労はしないですよ!? 確かに魔物使いになる事ができたら町から出ても大丈夫な程の力が手に入りますし、他の町に行く事もできるでしょう。ですけど魔物使いになれない僕はそれが出来ないんです!」

「どうしてだ? 別になりたいならなったら良いじゃないか。魔物使いに。そうしたら他の町の本も読む事が出来よう」

「……放っておいて下さい! あなたなんかに僕の苦労が分かるはずもないんです!」



 魔物使いになる。

 そんな選択が出来たらどんなに良いか。

 万が一魔物使いになれるのなら、その資格が僕にあるのなら、どんな事だってやってみせる……。

 でもそんな事は不可能だ。

 何しろ僕のカリスマ力は0。

 魔物使いになる為のスタートラインに立つ事すら出来ないのだ。

 僕にはその道は始めから閉ざされていたのだ……。


 僕は向き合いたくない現実の事を考えると、体の力が抜けてしまった。

 そして掴む黒龍の腕を振りほどく事なく、その場に座り込んでしまう。



「……なるほどな。そういう訳か。お前にはカリスマ力が全くないのか」

「そうだよ! 僕はカリスマ力0のダメ人間だよっ! だから魔物使いになりたくても、その資格がない! 頑張ってどうにかなる問題じゃないんだ!」

「そうだな。確かにお前のカリスマ力が0なのは紛れもない事実だ。だが、それでお前が魔物使いになる資格がないと誰が決めた?」

「誰って……そりゃあ、みんなだよ! カリスマ力が0の人はどの魔物も使役する事は出来ない。だからどんなに頑張っても魔物使いにはなれない。そんなのは常識じゃないか!」



 確かにカリスマ力が1でもあれば、まだやりようがある。

 例えカリスマ力が1しかなくても、使役できる魔物を使役し続ければカリスマ力は上がっていき、いつかはカリスマ力が2必要な魔物も使役出来るようになるだろう。

 だがカリスマ力が0の僕にはそれが出来ない。

 だからこそ、詰んでいるのだ。

 どんなに僕が魔物使いを熱望しようとも、その入口にすら立てない。

 故に魔物使いにはなれない……。



「……そうか、それは残念だ。その感じだと、お前は魔物使いになりたい思いは人一倍強かったようだな。だけどその資格がなかった、と」

「そうだよ! 僕は自分が出来る限りの努力はして来た! でもその努力は全て無駄になった! もう、一体僕はどうすればいいのか……」



 魔物使い。

 それはこの世界の人間の誰もが憧れる職業だ。

 そして僕は父親や兄が魔物使いである事から、ただ憧れるだけでなく、自分が実際に魔物使いになった後に役に立ちそうな知識をたくさん身に付ける努力をしてきた。

 自分も当然魔物使いになれると信じて。

 だが、その努力は全て水の泡になった。

 魔物使いにさえなれれば……。

 万が一僕にカリスマ力が1でもあれば、この知識が活かせるというのに……。



「お前、その思いは本気か?」

「ああ、当然だ! 僕がもし魔物使いになれるんだったらどんな事だってやってやる!」

「お前がもし魔物使いになれたら、例えば俺様の望み、俺様の呪いを解く事に全力を尽くせるか?」

「万が一そんな事が出来るのなら、それ位の事はしてやる!」

「そうか、分かった。ならお前は今から俺様を使役して魔物使いになれ。どういう訳か、今の俺様を使役する為に必要なカリスマ力は0だからな」



 ……へっ?

 必要カリスマが0だって?

 そんな事が有り得るのか……?



「えっ、それってどういう――?」

「俺様にも理屈はさっぱり分からねえ。だが必要カリスマが0なのは本当だ。何なら試してみるか? この場で従魔の儀式でもするがいい。そうすれば俺様の言っている事が本当だと分かるだろう」



 そう言ってふんぞり返る黒龍。

 従魔の儀式――それは人間が魔物を従える為に行う儀式だ。

 その儀式を成功させれば、儀式対象となった魔物はその人の従魔となる。

 僕が憧れ続けて、でも決して出来るはずのなかった儀式だった。



「……本気で言っているのかい? 君は?」

「ああ、本気も本気だ。俺様は散々色々な町へ行ってみたが、誰一人として俺様の事に気付く奴もいないし、有力な情報は得られないし、正直ラチが明かねえんだ。なら、何故か俺様の事が分かるお前の協力が得られればこちらとしても都合が良い。ただ、もう一度言っておくが、俺様の呪いを解く手伝いをする事が絶対条件だ。そうでなければ、俺様はお前に協力したりはしない」

「……分かった。僕は君の呪いを解く手伝いをする。その代わり君はその間、従魔として僕に力を貸す。そういう事で良いかな?」

「ああ、それで問題ない」

「なら、早速儀式を始めるよ……」



 僕は従魔の儀式を始めた。

 憧れ続けて、でもあの瞬間からもう僕が一度もする事はないだろうと思っていたこの儀式。

 僕は溢れる思いを抑えながら、この儀式を進めていくのだった。

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