12-8 アメリア対アリシア
闘技場には湿った熱風が広がった。
氷の鎗と炎の鎗がぶつかり合い、一瞬で相殺し合ったのだ。
アリシアは炎の鎗を放つとそのまま連続で数本の燃え盛る鎗をアメリアへ放ち、ゆっくりと距離を取るべく後退していく。非力なアリシアには接近戦は向かない。
アメリアもまたアリシアから距離をとり、そのまま向かってくる炎の槍を水の魔法障壁で受け止める。
地味な魔法だけど、お互いに魔力の高さを確認しているように見えた。
「すごいね、おねえちゃん。あのおっきい方も、氷の魔法とかすごいなぁ」
「アメリアよ、アメリア」
「さすが、恋敵の名前はすぐに覚えるんだね」
「アメリアとお前はそういう仲なのか?」
「ち、ちがいます!」
そららが余計なことを言うばかりに、リカまで変な興味を抱いたようだ。
「氷魔弾!!」
アメリアが作った氷の塊がアリシアに襲いかかる。
氷の塊は物理的ダメージも与えることが出来るようで、地面に埋まるように突き刺さる。
「溶炎壁!!」
無数に襲いかかる氷の塊を避けきることはできないと判断したアリシアは、防御魔法で自分の体を包み込むようにするも、契約者のアメリアが放った1つの氷の塊が防御魔法を突破しアリシアの左足に直撃した。
「痛いっ!!」
アリシアはその場で体制を崩し、倒れ込んでしまう。
左足は折れてはいないものの、青紫色になりその衝撃の強さを表している。
「あ、アリシア!!」
「動くな!黙っていろ。死にはしない。これが試験だ」
「し、試験って言ったって・・・」
そららが立ち上がろうとするのをリカが腕を掴んだ。
「失格になると、すべて無駄になる。耐えろ。信じてやれ」
リカの言葉を聞きながらもソワソワと戦う2人を見続けるそらら。
私も、出来ることなら助けてあげたかったけど、リカの話を聞くと動けずにいた。
「あら?あんな魔法も防げないの?もう魔力切れ?」
余裕の表情で近づいてくるアメリア。
アリシアは起き上がると、片足を引きずりながらアメリアに背を向けて距離を取る。
その動きは、既に俊敏さはない。
「あははっ!逃げるの!?なによ!さっきまでの威勢はどうしたの?」
アリシアはその声に応えることなく、アメリアから逃げる。
「氷蛇鞭」
アメリアは氷のムチで地面を勢いよく叩き上げる。
叩かれた地面は一瞬で凍りつき、土埃さえも凍ったのか陽の光にキラキラと反射している。
「ほら、避けなさいよ!」
アメリアは氷のムチをアリシアへと叩きつける。
ムチはアメリアの魔力を源にドンドン伸び、アリシアのすぐとなりの地面を叩く。
「爆裂球!!」
アリシアの放った無数の炎の球はすべてアメリアの氷のムチに破壊されてしまう。
「そんな魔法じゃ、私には勝てないわ!ここが戦場なら、あなたは死ぬのよ!」
「ここは、戦場じゃない。アリスは、負けない!炎蛇鞭!!」
「こんなもの、無意味よ!」
アリシアが燃える炎のムチをアメリアに向かって真上から思いっきり叩き落とす。
しかし、その攻撃には隙も多く、簡単に避けられてしまう。
「ねぇねが・・・きららがアリスのために一生懸命だったんだから」
「だから?」
「だから、アリスは想いに応えたい!炎蛇鞭!!」
再びアリシアは炎のムチを振り下ろすも、それはアメリアにカスリもしなかった。
合計4回。
アメリアは炎のムチをまったく相手にしなかった。
それどころか、足が動かなくなっても、惨めに逃げ惑いながらも諦めないアリシアの姿勢に苛立ちを見せ始めていた。
「そういうところが・・・」
アメリアの体が青く輝く。
アメリアの魔力が空気中の水分を凍らせていく。
「炎蛇鞭!!」
アリシアの放った炎のムチは、そのままアメリアに振り下ろされるも、彼女はよけなかった。
炎のムチはアメリアに届くことなく、彼女を纏う魔力に打ち消されていた。
「こ、これやばいんじゃない?」
そららが私に言った瞬間だった。
「氷蛇鞭!!」
アメリアの手から氷のムチが伸び、驚き戸惑うアリシアを掴むとそのまま自分の元へ引っ張り寄せる。
「そういうところが気に入らないのよ!」
会場にアメリアの大きな声が響く。
「氷よ」
アメリアが呟くと、地面から大きな氷柱が生えてくる。
アリシアの体をそこに氷のムチで縛り付けると、アメリアは憎しみの表情を浮かべると大きく右手を上げる
「昨日も」
アメリアの平手打ちがアリシアの頬にあたり、うっすらと赤くなる。
「出会ってからずっとよ。その態度が・・・自分にはどうにかできるってその自信が気に入らないのよ!」
アメリアは数発の平手打ちをアリシアへぶつける。
場内は騒然としていた。
魔法対決。のはずが一方的なリンチと化している。
リカも、苦い顔をしながらその光景を見ている。
王女に関しては目を背けてしまい、ヴァネット国王は黙ってその姿を見続けている。
私は、何もできずにほかの観衆同様その姿を見ていた。
「あ、あいつ・・・」
一番にキレたのはそららだった。
右手に持つ魔剣がカタカタと小刻みに音を立てているのがそららの震えなのか、魔剣とそららの魔力が同調しているせいなのかはわからない。
「アリス。別にそんなこと思ってない。アメリアは、アリスをどうしたいの?」
「私は、故郷で何もできなかった。妹も、置いてきちゃった。」
「うん。聞いたよ。」
「戦う力があれば・・・もっと強い心があれば・・・恐怖に飲まれなければ・・・」
「わかるよ・・・アリスにだって」
「わかるわけない!!」
「アメリア・・・」
「妹と強制的に離れ離れにされた気持ちも・・・家族を失う気持ちも・・・道具や、駒みたいにされる気持ちも・・・、自分の無力さを呪うことも・・・恵まれたこのアレクサンドリアで生きるあなたにはわからないわ!」
「・・・」
私は黙ってアメリアの言い分を聞いていた。
まだ、出会って少しだけど、なにかの闇を背負っているんだと思う。それが、アリシアになにか重なるものがあるんだと感じた。
「どうすれば、アメリアは満足するの?」
「私は・・・あなたを倒すわ。完膚なきに。みんながあなたを特別扱いなんてしないように・・・。私がこの場で、完全に勝利するの。」
「ふぅん」
アメリアは既に正気を失っているのか、歪んだ欲望に満ちた顔で縛り付けらたアリシアを見ながら彷彿としている。
アリシアは血の混じった唾を足元に吐き出す。
顔が腫れて痛そうで正直見てらんない。
「そこで、無力なまま終わればいいわ。二度と逆らわないように・・・戦いの恐怖をその身体に刻んでやる!」
「っああぁあぁぁぁぁあああ!!」
アメリアは青紫色に変色したアリシアの足を蹴飛ばすと、そのままアリシアに背を向けて少し距離をとった。
アリシアは痛みに悶えながら苦痛に歪む顔。
終わったな
誰かがそういったような雰囲気だった。
氷の柱に張り付けられ、身動きがとれずリンチに合い、今もまだ拘束されている。
リカも、国王たちも、観客も・・・。すべての人間が諦めたように感じた瞬間だった。
「夜の底に蠢く闇の眷族。漆黒の波に漂うその姿を我が前に表せ。忘却の彼方より現れし漆黒の翼。ナイトメア!」
アメリアが闇の精霊を召喚する。・・・も、フレイアのようなモノは見当たらなかった。
「ナイトメア?どっかに精霊がいるのかな?」
「姿を隠しているだけかもしれんぞ。精霊が視認できるかどうかは私たちに選択肢はないからな」
リカが私の言葉に答えた。
アメリアの体が黒い光に包まれる。
アリシアが強力な魔法を使うときのように、魔力をその身体に纏っている。
涙目になりながらも、黒い輝きを放つアメリアを黙ってアリシアは見ていた。
【だいじょうぶ】
アリシアの口が、声は聞こえなかったけどそう動いたと思う。
彼女は顔を上げて、私とそららに精一杯の笑顔を向けた。
「よくこの状況で笑ってられるわね。誰も助けは来ないわ。私の闇魔法で終わらせてあげる!」
アメリアの両手には、黒く燃える炎が現れた。
2階では、アリシアの叫び声を聞いて驚いた王女が国王ヴァネットにしがみつきながら2人の戦いを見守っていた。
「お、お父様・・。もう、あの子は負けちゃうのですか?」
「このままでは、な」
「このままでは?」
「あの少女は、なにも怪我をして逃げていたわけではない。ただ、殴られていたわけでもない。彼女なりの
作戦だったんだ。」
「私は・・・、もうあのような少女が虐げられて限界です。見てられません。」
顔を伏せてしまう王女。その頭を撫でながら国王は確信していた。
「あの子は精霊に愛された娘だ。今奇跡が起こるよ」
眼下に広がるふたりの戦う闘技場には、赤い光が輝き始めていた。
「あぁぁぁあああぁぁぁ・・・」
アリシアの声に呼応するように、私たちの視界がうっすらと赤い光につつまれていく。
彼女を中心に、闘技場に歪な魔法陣が出来上がっていた。その魔法陣が今、輝き出す。
アリシアが足をやられてから逃げていた理由。
炎のムチをおおきく振りかぶって地面に叩きつけていた理由。
そして、アメリアに殴られた時に吐き捨てた血の混ざった唾。
「精霊、召喚・・・」
そららが赤く輝く光を眩しそうにしながら呟いた。
「紅き光よ、我が呼び声に答えよ。
万物を燃やす汝、炎の精霊フレイア。
我が求めるたるは汝の力。我が欲するは汝の炎。
遠き異界の門を開きて、今再び、我が前にその身を現せ!!」
アリシアが叫ぶと、大地から火柱が数本、天に向かって伸びる。
リカのものとは比較にならない程の火力を持つ火柱はそのまま見る者の視線を奪いながら静かに天空へ消えていく。
アリシアの胸には、小さく、紅く輝く輝石。
「炎よ!!」
アリシアが叫ぶと、彼女を拘束していた氷柱、氷のムチは炎に包まれ一瞬で水になる間もなく蒸発し消えていく。
地上に降りたアリシアは怪我は治らなくとも、アメリアを睨みつけると
「アリスも、なめられるの大っきらい!」
彼女の怒りに応えるかのように大地から無数の火柱が吹き上がった。




