12ー6 輝石のバトン
「あ、あのっ!!」
私はそららを引張ってアレクサンダー城へやってきた。
お城には闘技場へ入りきらなかった人や、警備の騎士たちでごっちゃがえしている。
私はいつも通り門のところで警備をしている顔なじみのおじさんに声をかけた。
そららは、ファミリアから駆け出したときは結構順調に走っていたのだが体力が続かずに途中で私に手を引っ張られる形になった。
この子、体力ないし走るの苦手だったわ。前もゴブリンから逃げる時に疲れてたしね。
「どうしたんだい?もう闘技場は入れないんだよ。せっかくなんだけど決まりでね」
「だ、大丈夫です。」
息が乱れ、まともにしゃべれない私は手に持ってきた紙を渡す。
「り、リカ様に・・・」
そう言うとすでにしゃがみこんでいるそららの隣に私も座り込んでしまう。
「なるほど。わかった。2回戦が始まって随分経っているし、様子を見に行ってこよう。ここで待っていなさい」
そう言うとおじさんは王宮へと走っていった。
「2回戦、もう始まってるみたいね」
「うん」
走り疲れて気持ち悪そうにぐったりしているそらら。
今はアメリアとトキが戦っているようだ。
ここからでは戦っている姿は見えないし、音しか聞こえない。
「おねえちゃんの恋敵。どうだった?」
「こ、こいがたきぃ?!」
「銀髪の人。きたんでしょ?」
「べ、べつに恋敵ってわけじゃ・・・。でも、きっと根はいい子なんだと思う。もっと話せば、友達になれ
るんじゃないかな」
「ふぅ~ん」
私たちの話を遮るように、大きな音が遠くから聞こえる。
瓦礫が崩れるような。
何かが砕かれて崩れるような音だった。
それと同時に、大きな完成が聞こえる。
決着がついたようだ。
どちらが勝ったのか。ここからでは確認できない。
「・・・」
そららが疲れた顔して王宮を見上げる。
土煙がうっすらと王宮の陰に巻き上がる。
「待たせたな」
私たちが土煙を見上げていると、王宮から宮廷魔導士のリカが現れる。
今日は、いつもの不機嫌そうな顔ではなく、どことなく嬉しそう。・・・いや、楽しそうだった。
「こんにちは!リカ様!」
「本日は、輝石の他にこのような処遇を設けていただき感謝しております。ありがとうございます。」
「礼などいい、早く戻らねばならないからな。こっちへこい!」
そう言うと私の手を掴み足早に王宮の扉へ戻るリカ。
(おじさん!ありがとっ!)
そららは小声で門兵のおじさんに礼を伝えると、急いで後をついてくる。
王宮の中はすごい警備が厳重だった。
廊下には等間隔の兵士、宮廷騎士たちがいる。
リカがいなければ即捕縛されているだろう。
「こ・・・こっちですか?」
「あぁ。闘技場の地下へ繋がっている。関係者用の通路と思えばいい」
「関係者。ですか」
地下へ続く階段を前に驚く私たち。
(まさか、このまま幽閉とかされないわよね)
進むにつれ暗くなる階段を進むと、お城とは思えないくらい雑な作りの廊下があった。
「ここ、お城ですよね?」
「この通路はアレクサンダー城が出来てから作られたんだ。突貫工事でな。使う人間もいないからこのまま
ってわけだ。すぐに着く。耐えてくれ」
「は、はい。大丈夫ですけど」
私たちは薄暗い洞窟のような通路をゆっくりと進んだ。
分岐点がある。右と左。
普通、ダンジョンだと行き止まりか罠に引っかかるのよね。間違えた道だと。
「右だ」
今回はナビゲーターがいるから間違えはないし、そもそもダンジョンではないので少しおかしな気分になってしまった。
また変なところでリカの怒りを買わないように黙っていないと・・・。
「うわぁ。ここは綺麗なんですね」
突き当たりにあった立て付けの悪いドアを開けると、椅子やベンチの置かれた控え室みたいなところに出た。
「ホントね。向こうのドアは何があるんですか?」
「あのドアの先は闘技場だ。選手たちの入場口になっている。お前たちの妹も、ここを歩いたんだぞ」
「アリシアも、ここに来たんですか?」
「あぁ。1回戦目で素晴らしい試合だった。きっと国王や王女様もご満足頂けただろう。」
「そうですか。ここに。・・・今は、会えないんですか?」
私はここに妹がいた。そして大勢の前で誰かと戦う。想像もできないようなことをやってのけたアリシアが自慢で、少し照れくさかった。
「あの~。リカ様?アリシアに会えたりしないですか?」
「規則でな。会うことは叶わない。今は、2回戦の間別室で待機している。もうすぐ、ここに戻るだろう。私たちもここから出ないといけないんだ。外で・・・特等席で見れる。安心しろ」
「うちたち、リカ様に頂いたこの輝石。アリシアに渡したいんですけど・・・」
「規則だ」
「そ、そんな~・・・」
自分のチカラで手に入れた輝石を、一番大事な場面でアリシアに渡すことができないことに肩を落とすそらら。
確かに残念だけど、ここまで来て、アリシアも自分の力で頑張っているしリカもリカなりに私たちへ気を使っているのかもしれない。
私はそららの頭を撫でて落ち着かせる。
「ただ。」
「ただ?」
「私はここ最近輝石の精製、この試験の責任者として睡眠不足でな。このあとの一番面白そうな戦いを見るにあたり、仮眠を取ろうと思う。そうだな。5分程度か。その間はふたりが何をしていても私は見ていない。当然、お前たちの妹の名前なんて知らないし、1回戦で勝った娘が火の輝石を持っているかどうかなんて私には全く興味がないし、知らないことだ。」
そう言うとリカは近くのベンチに腰掛け、そのまま横になってしまった。
「これって・・・?」
「だよね?」
私たちはリカの好意に大いに甘えさせてもらった。
火の輝石がついたネックレス。
燃えるように輝くその石を私たちは闘技場へと登るドアの前に置いた。
「これで、気づくかな」
「どうだろ?」
「手紙とか?」
「私書けないし、紙が・・・」
私はエプロンの中に手を入れる。
「あった。書くもの」
ファミリアでもらったメモ紙と鉛筆。使えないからってポケットにしまってたんだった。
「ナイス!お姉ちゃん!昨日書いたじゃん!メッセージ!」
「あ、あたしが書くの?」
「はやく!リカ様起きちゃうから!」
私はそららに急かされるまま、メモ紙にメッセージを書いて輝石のネックレスの下に敷いた。
これで、気づくはず。私とアリシアしか知らない暗号もあるし。
「お前たち。そろそろ時間だ」
「はいっ!リカ様!」
「な、なんだ。気持ちわるいな・・・。」
「なんでもないですよぉー?ねぇ?そら?」
「うんっ!なんでもぉー!」
ニコニコ笑顔の私たちを気持ち悪そうに見比べると、リカはそのまま立ち上がり、地上へのドアに向かう。
「お前たちは私の隣に座っていろ。そこが特等席だ。叫んだり、動いたりするなよ?」
「はいっ!」
「では、行こうか・・・」
ドアに手を伸ばし、ゆっくりドアを開くリカ。その時、私たちは彼女の笑顔を初めて見た。
「なに?この汚い字」
「すいません。なんせ苦手なもので」
申し訳なく頭を下げる私とは対照的に口元を隠して笑うリカ。
ま、まぁ。読めるレベルならいいんだ。別に。昨日習ったんだし。
階段を上がると、外には数え切れないぐらいの観客が闘技場を埋め尽くしていた。




