12-3 宮廷魔導士模擬戦 アリシア対アルビド
ボン、ボンボン
闘技場の観客席に座りながら時間を過ごしたそららの上空で何かが爆発するような音が聞こえる。
先ほど説明のあった合図であろう。
闘技場の中に王宮騎士、宮廷騎士、宮廷魔導士の面々が隊列を組み、静かに整列し始める。
闘技場の入口から見て、
真上には貴族、王族の席、正面を始め、闘技場の周囲は一般席。そして、左右の観客席の内側には地下へつながる階段。おそらく地下では城とつながっているんだろう。
地下から宮廷に仕える者が続々と現れる。その数、ざっと60人程度。まぁ、警備で人員も割いているのだから全員は不可能だろう。
「これより!宮廷魔導士試験最終日、参加者同士による模擬戦を開始する!」
年配の、・・いや、けっこうなじいさんの言葉を皮切りに2階の席にアレクサンダー城城主、国王、ヴァネット・モズ・アレクサンダー国王とフローラ・レイ・アレクサンダー王女が姿を現した。
2人はそららたち集まった国民に顔を見せると、王女は軽くお辞儀をし、国王は国民に手を振っている。
国民たちは王族の出現に歓喜の声を上げる。
騎士たちは剣を大地に置き、そのまま片膝を折り君主に忠誠を誓う。
宮廷魔導士たちも、纏うローブを脱ぎ、輝石のついた武具を身から外し、大地に置くと同様に片膝を折る。
「みな、ご苦労であった。今日は宮廷魔導士として新たに4人が、このアレクサンダー城に向かい入れられる。すでに地下では選ばれし4人が待機している。我らが予想しているも勇敢で、素晴らしい才能を持ったこのアレクサンダー城、アレクサンドリアを守っていく者たちである。愛する国民たちよ。今日は未来の才能をその目で見ていってほしい。我がアレクサンドリアに使える勇敢な魔導士に盛大なる称賛の拍手を。我がアレクサンドリアを守護する勇猛な戦士たちへの感謝と、期待を込めてヴァネット・モズ・アレクサンダーの挨拶とする。」
場内には割れんばかりの声が上がる。
そららは初めて見る国王の姿をただマジマジとみていた。50歳くらいだろうか。白髪まじりの短髪、あまり着飾っている印象はなく、どちらかといえば質素な感じだ。
王女様についても、きらきらなドレスやティアラ、ではなくネックレスとイヤリング程度で、とてもシンプルな印象を受けた。
ハチミツのように輝く美しい髪が印象的。アリシアよりは年上に見える。15歳くらいか。
歓声の中、宮廷魔導士、騎士たちは立ち上がると持ち場に戻っていく。魔導士たちは、既に閉ざされた闘技場の入口へ集まり、騎士たちは数人を観客席にの警備に回すと、再び地下へ降りていく。王宮の警護へ戻るのだろう。最後の騎士とすれ違う形で見たことのある緑の髪が闘技場に現れる。
場内にいる観客達は、これから始まる普段目にすることの出来ない宮廷魔導師の戦いを前にして、期待に身を踊らせていた。
「ねぇ?どこまでいくの?」
フランがアリシアの部屋に迎えに来たあと、2人は王宮の中を歩いていた。
アリシアにとって、そこは歩いたことのない場所だった。
長い廊下、下へ降りる階段。おそらくそれは地下まで続いているだろう。
外には人が多くなり、王宮の門は解放され一般人がなだれ込むような状況だった。地上は今歩けるような状態ではない。
「今日は、アレクサンドリアとは反対側にある、闘技場を使うことになっている。」
「闘技場?」
「あぁ、今の国王に代替わりする前からあるから、正確には僕も知らない。昔は文字通り闘技場。剣闘士や魔導士、魔獣、モンスターと人間を戦わせたり、罪人を使い非道な娯楽をした時代がある。と教えられたことがある。それ以降、この国では闇に葬られた場所が闘技場。・・・まぁ、ここ最近は数年に1度開放して剣術大会とかにも使ったり、クリーンな場所として活用しているようだけど」
「ここから行くの?」
階段を下りて最下層にまで行くと、そこには粗悪な作りの通路があった。
上の階とは作りの違う、石や泥がむき出しの廊下。
その廊下はヒンヤリとした空気が充満していて、灯りこそあるものの薄暗く不気味な感じがした。
彼女はその空気に当てられたのか、一瞬背筋に悪寒を感じその場で身震いをしてしまう。
フランはなれているのか、鈍感なのか特に気にすることもなくそのまま進んでいく。
「この地下通路は闘技場までの連絡通路なんだ。有事の際にも使うことがある。僕やローラも、ここを通ったことがあるんだよ」
狭い作りの廊下に、ふたりの声が響き渡る。
「こっち」
目に前に現れた分かれ道を、フランはアリシアの手を取り、左側に移動する。そこには扉がひとつ。立て付けが悪いものがあった。
フランがその扉を開けると、中には少し広い整備された空間があった。
椅子やベンチが複数置かれていて、アリシアが入ってきた扉の正面にはもう一枚別の扉があった。
「ここは・・・きれい」
「ここは闘技場の真下。いわば控え室だね。さっきの分かれ道、右にも同じように控え室がある。」
「ここで、待つの?」
「あぁ、よく聞いてごらん?」
フランが指さしたのは天井。アリシアが意識を上に集中すると、わずかながら人の声が聞こえた。
「誰の声?」
「アレクサンダー城、城主。ヴァネット・レイ・アレクサンダー国王様。国王様の挨拶が終わったあと、いよいよ模擬戦の始まりだ。」
「王様・・・見たことない」
「そりゃ、普段は絶対に謁見できない方だからね。僕も毎日お会いするわけじゃないし。」
「模擬戦・・・。フラン、ねぇねたちはどこにいるか知らない?来てるかな?」
アリシアは珍しく不安そうな表情をフランに見せた。
「ごめん、今日は本当にわからないんだ。観客席に入ることはできるから、観客席にいればいいんだけど。数千人いるから探すことは難しいかもしれないね。」
「そっか」
肩を落とすアリシア。その時に、地上では歓声が湧き上がる。
フランはアリシアになにか声を掛けようと考えたが、それは間に合わなかった。
「アリシア、こっちへ・・・」
フランはアリシアの手を取り、地上へ向かう扉の横に、壁に背をつけて静かに立った。
「どしたの?」
「もうすぐわかるよ」
彼は苦笑いをしたまま、その場から動かない。
アリシアはその意味が理解できないようだったが、その答えはすぐにやってきた。
数人、数十人の足音が地上から迫ってくる。
そのけたたましいまでの騒音の主は扉を開けると一気に目の前を過ぎていく。
数十秒・・・数分か。
目の前を大人数の騎士が通り過ぎていく。
アリシアはその光景を目を丸くして見ていた。
「驚いたかい?」
「うん」
最後の一人が扉から出るとき、フランはいたづらに笑いながらアリシアへ問いかけた。
彼女は目の前の大行列に驚き未だ放心状態。
もし、あの椅子やベンチに座っていたらどうなっていただろうか。そんなことを想像すると怖くなる。
「なんで、わかったの?」
「なんで?・・・僕もあの行列に参加してことあるから。かな?今、上では選ばれた騎士、魔導士が国王の前に集合してたんだよ。それで、国王の話が終わったから持ち場に戻る。それだけ。でも、帰るにはこの道しかないんだ。」
「なんで?みんなの通っている入口は?」
「魔道士が結界を張るからね。1回戦が終わるまで通行禁止なんだ」
「結界?」
「あぁ、結界がないとアリシアの魔法で死人が出るでしょ?」
笑いながら結構残酷なことをシレっと言ってのけるフラン。
宮廷魔導士全員の魔法障壁で今回模擬戦に出る4人の魔法を押さえ込むらしい。
「さぁ。出番だね。アリシア・・・。いつもどおりに。きっと、きららやそららはいるから・・・。」
「うん。わかった。」
「これをつけて」
フランが差し出したのは金色に輝くブレスレットだった。
特に、目立ったような装飾も無い、普通のもの。
「これは?」
「マジックアイテムだよ。参加者が万が一にも死なないように。ある一定のダメージを受けるとそれが壊れるようになってるんだ。アリシアの身代わりにね」
「おまもりか・・・。勝つもん」
アリシアは右手首にブレスレットをつけると、そのままなにか言いたそうな顔をしてフランを見上げた。
「うん?どうしたの?」
「・・・うんうん。なんでもない。行ってくるっ!」
首を左右に振り、アリシアはいつもの元気な姿で地上に向かう扉から勢いよく出ていく。
その後ろ姿を黙って見送るフラン。
地上には地下から出ると眩いばかりの陽の光に満ちていた。
見渡す限り、人、ひと、ヒト。
正面にはアルビドの姿も見える。
視線を上に送ると少し豪華な椅子に座る女の子とおじさん。多分、あれが王様だとアリシアは直感した。
軽くお辞儀をすると、アリシアは闘技場の観客に視線を移す。
数百、数千の人がいてきららとそららの姿を見つけることはできなかった。
「よう、久しぶりだな。ネスタと、イカ野郎以来じゃないか」
「うん。久しぶり。ねぇねと海でコテンパンにしたのに。懲りない」
「あんときは手加減してやったんだよ!!」
苦い思い出に苛立つアルビド。
余裕の表情のアリシア。しかし、内心フレイアがいない今妖精と契約している彼にどこまで挑めるかどうか・・・。彼は火の魔法と風魔法を使っているのを見たが、水魔法が使えないのであればアリシアにも勝機があった。
「氷結壁」
「溶炎壁」
「地障壁」
「神風壁」
「黒晶壁」
「光鱗壁」
宮廷魔導師の声が聞こえると会場、観客席の前に6色に輝く光の壁が姿を現す。
闘技場の中で魔法が暴発しないように。観客に被害が出ないように宮廷魔導士達により作られた魔法障壁。
これで魔法が外に出ることはない。
「これより、1回戦、アルビド・ノース対アリシア・ウィル・トルヴァニアの戦いを始める!ルールは簡単、魔法以外の格闘も許可する。ただし、即死魔法を含め、6属性以外の魔法攻撃は禁止する!精霊、妖精は使用可とする。腕のブレスレットが破壊されるか、魔力切れになるか、降伏を認めた場合試合終了とする。審議は私、リカ・ローズ・リーベルが取り持つ!」
魔道士の列の中心に立つオレンジ色の髪をした女性が声を上げる。
彼女が右手を空に向ける。
「はじめっ!!」
彼女の声と同時に、客席には盛大なまでの歓声が。
上空では何かが弾けた音が。
アリシアの前には、アルビドが今まさに攻撃魔法を放った。




