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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第3章 宮廷に潜む闇
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11-3 各々の夜 ~きらら・そらら~

 私たちはトルヴァニアの前にいた。

 忙しくて、アレクサンドリアにいるときによく目には入るものの、久しぶりにそばまで来た。

 太陽は随分高くまで登っている。


 時折、東門から人が出てくるのが見える。


「ねぇそら?もしかしたら、あの人たちが試験の参加者なのかな・・・」


 男女がバラバラに10名程度だろうか。私たちのとなりを通り過ぎていく。

 今はアレクサンドリアで買った洋服だし、おそらくいつものメイド服で見慣れた人はそうそう私たちには気づかないだろう。

 通り過ぎて行く試験の参加者らしき人たちは私たちのことなんか気にもとめずに歩いていった。


「アリシア、あんな人達の中で戦っているんだね。みんなうちらよりも年上に見えるけど・・・」


「そうだね。きっとアリシアが一番子供なんじゃないかな。フランも、史上最年少って言ってたし。」


「あ、そんなこと言ってた!」


 そららはすっかり忘れていたようだ。


 私たちはトルヴァニアの根元に腰掛けると、そのまま風を感じながらボーッとしていた。


 こんなにゆっくりできるのはいつ以来なんだろ。


「えるぅ?どこいったの?」


「あうぅ」


 樹の反対側から声がするとエルが走って戻ってきた。


「あまり、遠くに行ったらダメだよ。ここ!お座り!」


 意味が分からず首をかしげたエルはそのまま樹の反対側へ行ってしまう。


「やっぱ、ダメか。」


「あんな小動物、エル様と名付けたのが間違いよ!改名して!」


 気の陰に隠れたエルを指さしながら、そららは少し怒っているような、くすぐったそうな、不思議な顔をしていた。


「小動物じゃないもん!エルだもん!」


「エル様ぁ。この人、あんな毛むくじゃらの小動物を主と同じ名前にしてるんですよぉ。メイドとしておかしいですよねぇ?」


 ずっと、手が届かないずっと上の方に覆っている葉や、枝の部分を見上げながらそららは私を軽い軽蔑の眼差しで見ている。


「そんなことないもん!そららはエルがかわいくないの?」


「可愛くないなんて行ってないもん!あの小動物の名前が気に入らないだけだもん!」


「小動物って、そんなかわいそうな呼び方しないでよ!」


 エルをめぐって、私とそららが座りながら言い合っていると、意外な仲裁者が現れた。


「じゃあ、モジャモジャよ!毛むくじゃらなんだからモジャモジャで十分よ!」


「あうぅ!」


「うきゃ!?」


 モジャモジャ、と言われた瞬間、そららの頭の上にエルが勢いよく飛び乗る。


「ちょっと、なにすんのよ。このモジャモジャ!驚くじゃない!」


「エルも仲良くしたいって!」


 その光景を見て思わず笑い出してしまう私。


「だから、別に嫌いなわけじゃ・・・」


「あぅぅ」


 そららに抱き上げられると困ったような鳴き声をあげるエル。

『嫌いなわけじゃない』。と言いかけたそららは困った顔でエルを見つめる。

 しばらくにらめっこしていた1人と1匹だけど、先に諦めたのはそららだった。


「ちゃんと、餌やりとかしなさいよ。人様に迷惑もかけないこと!わかった?」


「は~いっ!」


「あう!」


「ほんとにわかってるのかしら?」


 まるで子供が初めてペットを飼ってもらう時のような言い方。

 本当は、面倒見のいい妹だ。

 エルかぁ、首輪とか作ろうかな。名前・・・。ん?なまえ?


「そら!文字教えてよ!」


「文字?いきなりなによ。・・・きら、まさか文字読めないの?」


「うーん・・・。記憶がおかしくなってから、文字がねぇ。」


「ファミリアでは依頼書見てたじゃない?」


 私の急な提案に驚いた彼女は、若干めんどくさそうな顔をしていた。


「あんなの、それっぽくしてるだけよ。なんとなくでみてるだけ、なんとなく。雰囲気ね」


「うちのお姉ちゃんは、文字すら読み書きできないくらいのバカだったなんて・・・」


 大きく肩を落とすそらら。


「そ、そんなどうしようもない子みたいに言わないでよ!記憶がないんだから仕方ないじゃない!」


 俯いた彼女の視線が痛い。

 そりゃ、読み書きできないのは本当だけど、・・・。そんな言い方しないでもいいのに。


「んで、なんて書きたいの?」


 なんて書きたい?そうね。言われると考えちゃうけど・・・。


「んー。そらとアリシア、ふたりの名前?あ、あとエルも!」


「自分の名前はかけるの?」


「あっ!、書けない・・・。」


 自分の名前なんて書く機会ないし、ついつい元の世界の文字で書いて通用するものだと思っていた私は、そららからしたら少し間抜けな顔をしながら笑ってしまった。


「ばか?」


「バカって言わないで!」


 まるで、本当に馬鹿なんじゃないの?と言いたそうな視線が痛い。小馬鹿にしたように笑う彼女は立ち上がると、


「それじゃ、とりあえずアリシアから頑張ってみようか」


 そららが地面をノート代わりに文字を書くための枝を探し始めた頃、聞き覚えのある声した。


「そら、隠れて!エル、おいで!!」


 私はとっさに、見つかってはいけないと思ってエルを抱えると急いで街道から死角になるトルヴァニアの反対側へ身を隠した。


「ど、どうしたのよ?いきなり・・・」


「シッ!多分、フランがそばにいる。なんか、声がした気がする・・・。」


「フランがいるなら、アリシアも?」


「多分ね。」


 私たちが息を殺し、身を潜めていると街道の方からは数人の話し声がした。


「トキ、試験が終わったら帰るの?」


「あー。そうだなぁ。予定もないし、滞在するか、帰るか。どのみち結果を報告しに一度は国に帰らないといけないからなぁ。めんどくせーなー。なんだ、アリシアは俺がいなくなるとさみしいのか?」


「別に、そんなんじゃないけど・・・。」


【あ、アリシアが誰か男の子と話してるー!!】


 私とそららは顔を見合わせながらその場で足踏みして興奮を隠しきれないでいた。


【相手って、どんな子かな?】


【トキ、だってぇ!かっこいいのかな?】


 私たちはトルヴァニアの向こうにいる妹とトキ、と呼ばれる男の子の姿を妄想の中で膨らませているだけだったけど、なんか、姉妹としてこれは楽しかった。


「まぁ、宮廷魔導士になれたら俺もこの国にいるつもりだ。そんな深く考えなくてもいいだろ。ちょっと里帰りするだけだ。」


「だから、べつにどうでもいいから」


【アリシア、照れてるのかな?】


【本気でどうでもいいのかもよ?】


 木の陰からこっそり覗こうとしたとき、[それ]は現れた。

 私は急いで顔を隠す。


「あ、アメリアさん。少し離れようか?」


「あら、フラン様って、純粋なお方なんですね?私、真面目な殿方って好きですわよ?」


 若い女性の声と一緒に、フランの声が聞こえた。


【す、すごい!アリシアがおっきくなったみたい!!】


 木の陰から見るとそららが驚いて私のもとへ報告に来る。

 私も、再びそっと覗いてみる。

 銀髪の私たちと同じか、もう少し年上だろうか。

 アリシアが大人になったらあんな風になるのかもしれない。


【でも、くっつきすぎじゃない?あれ。】


 私たちの目の前には、腕を組み必要以上にくっついて歩く男女の姿・・・。

 不思議と右手に力が入る。


(あれ?なんでこんなイライラしてるんだろ・・・。)


 アリシアたちの姿はすぐに見えなくなり、声も聞こえなくなってしまう。


「あぶなかったね。今から試験なんだ」


「そうね」


「見つからなくてよかった!またうちら怒られちゃうとこだったし」


「そうね」


 そららがなにか話しかけてきているのはわかっているけど、それは頭にあまり入ってこない。


「・・・アリシア、大丈夫かな」


「そうね」


 私が彼女の問い掛けに対して上の空で答えていると、


「あっ!フランが帰ってきた!」


「っえ!?」


 私は街道の方に視線を送るも、そこには誰もいない。


「・・・」


「・・・」


 気まずい沈黙が漂う。


「なんか・・・ごめん」


 最初に、そららが口を開いた。


「うんうん。どうしたんだろ。私」


 今まで、特に何も意識したことなかったのに・・・。


 今日フランが知らない女の人と歩いてて、あんな光景見て、胸がモヤモヤした。


 今すぐ、フランを怒鳴りに行きたかったけど、私にそんな権利はない。


「あうぅ・・」


 エルが私の顔を見上げている。


「きら、フランのこと・・・」


「ちがう!きっと違う!驚いただけ。だから、誰にも言わないで!2人の秘密にしていて!」


「う、うん。分かった。」


 私は枝を拾うとそららを呼んで、再び文字の練習をすることにした。




「アリシア、今日も頑張ってたのかな?」


 帰りの馬車の上で、私はそららと話しながらのんびりしていた。


 今日は夕食もアレクサンドリアで済ませてきた。

 あれ以上トルヴァニアにいると、また見つかりそうなのでアリシアへのメッセージを書いてすぐにアレクサンドリアで買い物を始めた。


 私はエルフィンをダメにしてしまったので再び西地区の工房に行き、弦を張り直してもらった。その間に、食料の買い物、アリシアはきっと勝つから今のうちにご馳走を用意しておこう。と言って買い物をした。馬車も修理しないといけない。傷んだ場所の修理を行い、半日必要と言われたので市場をブラブラと買い物、エルフィンの修理、2人で夕食を済ませて現在に至る。


「多分、今日の試験もクリアしたでしょ。今頃、『お腹減った!』って言ってるんじゃないかな」


「そうかも!」


 私はレストランでテーブルいっぱいのご飯を食べるアリシアを想像するとおかしくて笑ってしまった。


「明日が最終日だねぇ。」


 そららが、月を見ながら馬車を走らせる。

 笑っている顔も、どことなく、寂しそうだった。


「なんか、アリシアがいないと寂しいね」


「うちも、なんかさみしい。今まではきららと2人だったのに、今じゃ3人が普通だから変な感じ」


 なんだか照れたような笑いを浮かべるそらら。

 正確には、1匹増えたんだけどね。


「今日はフカフカのおふとんが待ってるわー」


「お風呂にも入れるー」


「そららが淹れてくれる紅茶も飲めるわ!」


「えぇ!?うちがやるの?」


 屋敷に戻ったあとにやりたいこと!って話をしている中、私がそららの淹れた紅茶が飲みたい!と希望を言っても疲れたのか露骨に嫌な顔をする彼女。


「キッチンはそららの領域なんでしょ?」


「お茶くらい自分でやりなさいよ!」


「いーやーだー」


 昨日とは違う平和な夜を満喫し、私は笑いながらそららにもたれかかる。


「ちょ、重いんだけど・・・」


 そららが窮屈そうに声をあげる。

 私はそれを無視したまま、ボーッとしたあとに、口を開いた。


「昼間、アリシアと話してた子。誰かな。」


「あぁ。トキって子?見えなかったからねぇ」


「カッコいいかな!?」


 私はまだ見ぬトキ。と言う男の子がどんな子か気になり、いたずらにそららへ笑いかける。


「お姉ちゃんは、フランがいるでしょ?」


「だれが、あんなやつ!。彼には銀髪の女性がいましたし?そもそも私は好きでも何でもないですけど!」


 ムキになって答えたあとに、少し虚しいような、悔しいような。何とも言えない感情が胸の中を充満する。

 なんか、悔しい。というか。気持ちに整理がつかないような感じ。


「はいはい」


 そららは私にそれ以上言うことなく、無言で手綱を握っていた。

 その姿を見ながら、なんか気まずくなった私は、とにかくなにか話しかけようと口を開いた。


「そららは、好きな人いないの?」


「うちだって、好きな人くらいいるもん」


「えっ!?いるの!?誰!?ハイムさん?・・・まさかボッツとかモロゾフ!?」


 あっさり、好きな人がいる。と宣言したそらら。私はその言葉に驚いて、勝手にあたふたとしてしまう。


「ぶー。うちの心はずっとエル様一筋・・・」


「あうぅ?」


 そららがエル。と呼んだせいでエルが首をかしげながらそららを見上げている。


「小動物!お前じゃないわよ!なんであんたが返事するのよ!」


「エルだから」


 私はその光景がおかしくて笑ってしまう。

 そららはまるで自分が馬鹿にされたように顔を真っ赤にすると、大声で叫んだ。


「だからその名前は嫌だって言ってるのよー!!」


 そららの怒りの声が街道に響きながら、夜が静かに更けていった。


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