11-2 自力でクエスト初クリア!ボロボロだけど・・・
「る、ルカ様!?」
私たちの前に現れたのは北の鉱山で知り合ったオレンジの髪が印象的な宮廷魔導士のルカだった。
私はエルを馬車に残しそららの横に並んだ。
「どうしてここにおいでなのですか?昨夜鉱山で別れたはずでは」
「そのリアクションは、生まれてこの方何度も味わっているが、いい加減に鬱陶しいものだな」
ルカと思われる人物は不機嫌そうな面持ちでそのままゆっくりと私たちのもとへ歩いてくる。
「おかしな点はないか?お前たちの知るルカと」
両手を広げて『どうだっ!』と言わんばかりに聞いてくる。
声も、最初に門を開けてより少し高くなったような気がする。
「え、っと・・。少し、小さいような・・・。」
「声も、違うかな?」
「あ、あと不機嫌そうです・・・」
一瞬ルカ?の表情がひきつる。
「誰のせいだ!お前たちが私をルカと呼ぶからだ!私はリカ!リカ・ローズ・リーベルだ!ルカは私の双子
の弟だ!」
『ふ、双子ぉ!?』
言われてみれば、少し胸がふっくらしているような・・・。
髪型はそっくり。表情も、初めて見た時の不機嫌そうな顔は同じ・・・。まぁ、声は少し高いように感じるし、身長も小さく見えるけど・・・。
「り、リカ様も宮廷魔導士様なのですか?」
「あぁ。」
私は不機嫌そうな声と顔で睨まれる。
「よ、よく似ていらっしゃいますね。」
「私が男っぽいとでもいうのか?」
「いっ!いえっ!!そにょようなことでは!!」
驚いたそららが急いで弁解をするも舌がうまく回らない。
私が不意に王宮を見上げると、トロイヤがこちらを見ていた。
私の視線に気付いた彼はすぐにその場から消えてしまう。
(あいつ・・・知ってたな。この双子のこと)
さっき見直したなんて撤回。今度会ったら懲らしめてやる・・・。
「もういい!荷物はどうした!?」
「こ、こちらにございます。」
不機嫌さがピークに達したのか、声を荒げるリカ。
静かな宮廷にその声は響き、門兵さんも不安そうにこちらを見ている。
そららが急いでコーチの扉を開けると、リカは中を覗くように見ていた。
「どちらにお運び致しますか?」
「ここでよい。今、違う者を連れてくる。・・・これをファミリアへ持って行くがいい。ハイムへ依頼完
了のサインをしておいた。これで依頼は終わりだ。」
「あ、ありがとうございます。」
そららはリカの差し出した紙を受けと取るとルカに預かった書簡に丸めて入れた。
「私は忙しいのでな。これで失礼する。あとは原石が運び出されたら勝手に帰って良いぞ。」
そう言い残すと、リカは私たちに背を向けそのまま王宮の門をくぐって行き、それ以上何も言うことなく消えていった。
「なによ!あの態度!!」
道に転がる小石を蹴りながらそららが文句を言っていた。
「あんなソックリなのに、わかるわけないじゃん!間違えられたくないなら名札でもつけてなさいよ!」
まぁ、確かに・・・。
私はエルとさっき露店で買ったぶどうを食べながら横で黙ってついて行く。
あの後私たちはしばらく門の前で待っていると数人の男性たちが王宮の門を開けて原石を取りに出てきた。
コーチの中にある原石の数を数えて問題ないことがわかると、そのまま全て運び出し、『ご苦労様』と言い残して城へ消えていった。
まぁ、その後やることもないので城を出た私たちはとりあえず馬車を停めて、近場の洋服店で適当に着替えを買って着替えたあと、市場の中を通りながらそららの好きなぶどうを購入し食べ歩きながらファミリアへ行く道中にいる。
「まぁまぁ。そこまで怒らなくても。これで無事にクリアできるんだし。いいんじゃない?」
「お姉ちゃんはムカつかないの!?あんなふうに言われて!」
「う~ん。確かに嫌だったけど、相手は宮廷魔導士様だし、間違えたのは私たちのせいだしなぁ。それに、試験のこともあって忙しいんじゃないかなぁ」
「よくそんなのんびりしてられんね。ほんとムカつく!」
「あっ、ムカつくって言えば・・・。」
ムカつく、の言葉で思い出した。王宮から私たちを見下ろしていたやつ。
「ムカつくって言えば?」
「さっき、そららがリカ様に『男っぽいとでもいうのか!?』って言われてたとき、王宮のほう見てたんだけどトロイヤが上からあんたのこと見てたわよ?」
「あいつ・・・。私たちがルカ様と会ったことを知ってて、双子のリカ様に会うと見分けがつかないくらい似ていること黙ってたわね。こうなるとわかってて・・・」
おぉ、怒りの矛先がリカから変わった。意外と単純なのか?
「今度見つけたらぶっ飛ばすっ!」
(ごめん、トロイヤ。)
なんとなく、巻き添えになった彼に気の毒な感じがした。
お城の方を睨みつけながら怒りに燃えるそららを置いて私はファミリアへと先に入る。
「ハイムさ~ん!帰りましたよー!」
ファミリアの中は静かなものだった。
冒険者も、傭兵の姿も少なくそこには赤毛の親子が談笑しながらカウンターの向こうに立っている。
「今日は、随分と静かなものね・・・」
私は店内を見渡しながらカウンターに腰掛ける。
私たち2人に気づいた親子はいつもと違う服装を珍しそうに見ていた。
「おかえり。無事に原石をとってこれたみたいだね」
「お姉ちゃんおかえりー!今日はいつものお洋服じゃないの?」
「汚れてボロボロになっちゃったのよ。それで、さっき着替えたの。あ、ローレンに新しいお友達がいるのよ?エル!おいで」
店の外をうろついていたエルは私に呼ばれると尻尾を振りながら店内に入ってくる。
「あ、ハイムさん。この店、ペット禁止?」
「いや、今までこんなケースはなかったから・・・。まぁ、今日はお客さんも少ないしかまわないよ」
「かーわいいー!!」
「あうぅ」
エルはローレンに擦り寄り頭を撫でてもらうとその場にひっくり返りながらゴロゴロと喉を鳴らしながらローレンになでてもらっている。
「こんな子、初めて見たー!モフモフしてて可愛い!」
「あううぅ」
目を閉じて幸せそうなエルと嬉しそうなローレンをよそにそららはハイムに近づく。
「はい。リ・カ・様から受け取りのサインももらったわ」
そららはリカのことを思い出し、不機嫌な態度で書簡をハイムへと手渡す。
「ねぇねぇ、おねぇちゃん。なんであんなに怒ってるの?」
ローレンが私の耳にこっそりと耳打ちしてくる。
「お城でね。ちょっと怒られちゃったんだって」
「ふぅ~ん・・・」
苦笑いしながら私はローレンに答える。
「ハイムさんは、依頼主のリカ様に双子の弟さんがいるって知っていましたか?」
「いや、知らないなぁ。基本的に依頼主の詮索はしない主義でね。無愛想な人だなぁ。とは感じたけど」
「すごいそっくりなんですよー。北の鉱山で働くルカ様って宮廷魔導士様と双子の兄妹なんですけど、リカ
様とルカ様。何にも知らないでいきなり会うと驚きますよ~?」
「あの人に双子の弟ね~」
カウンターに腰掛ける私たち。今日は、昨日と違ってボッツもいないせいでほんとに広く感じる。
ハイムはそららの渡した書類に目を通している。
「はい。いつもの!」
ローレンはりんごジュースを私たちの前に置いて少し大人ぶった様子を見せた。足元にはすっかりなついたエルの姿がある。
「あ、ありがと。どうしたの?なんか変よ?」
「酒場の女将は、ワイルドに行かなきゃ!ついて来な!エルちゃん!」
「あぅっ!」
りんごジュースで買収されたエルはローレンの言うことを聞いて後を追っている。
微笑ましい姿とは裏腹に、ローレンの態度がおかしい。
「ハイムさん、何かありました?」
「いや、変な客の真似してるだけでしょう。注文の時にいつもの、って言う人もいるからね。違うお店の女将を見て感化されたのか・・・まあ、あの子なりに何か感化されたんでしょう」
「ローレンが、大人になっちゃう・・・」
私は店内を忙しそうに歩き回る女の子を見ながら少しさみしい気持ちになった。
怖がりで、可愛らしいお手伝い好きな女の子ってイメージだったのに・・・。
「そいえば、ボッツは?」
そららがいつも彼が座っている席を見つめて呟く。カウンターを陣取る巨体がいないので店内が広く見え落ち着かないようだ。
「せっかく、お礼を言おうとしたのに。たまには仕事行くのね」
「しばらく戻らないんじゃないかな。南の盗賊討伐に向かったらしいから・・・。」
「あぁ、そんなクエストもあったわね」
「大丈夫なの?一人でそんなとこ行って」
「いや、複数のギルドでできたパーティーで、その中のひとつに選ばれたんだ。しばらくとは言っても、4日くらいで戻ってくるんじゃないかな。」
そららから預かった書類に目を通し終わると、そのままカウンターの後ろの方へハイムは行ってしまう。
「ほかにも仲間がいるのね。大丈夫ならいいけど」
「そららが人の心配するなんて珍しいね。最初はあんな喧嘩腰だったのに」
あまり他人の心配をしないそららが珍しく他人の、男性の心配をするなんて・・・。
もしかしたらエルドロール以外に恋の予感かしら?
私はそららの変化が珍しくニヤケてしまう。
「まね。せっかく出来た下僕をみすみす逃すには惜しいかと・・・。いい感じに言うこと聞くようになってきたのに」
「下僕って、あんた・・・」
あぁ。どうやら趣旨が違ったみたい。
ボッツへの心配って言うのは、そうゆう心配のようです。
「おまたせ。書類の確認は終わったよ。特に問題ないようだね。お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。前回はお情けだったけど、今回は無事にクリアできてよかったわ!」
「そうだね、これで君たちもクエストクリアだ。もう我がファミリアの名実ともに仲間だね。」
ハイムは白い書簡に書類を詰めながらニコニコと笑いながら上機嫌に話しかける。
「ありがと!で、このあとはどうすれば報酬をもらえるの?」
そららは足をバタバタと揺らしながら報酬が気になっているようだった。
正直、私も気になる。自分で出来た仕事の対価。この世界で自分自身が最後までやった初めての仕事だ。
「今回の報酬は、『輝石のアクセサリー。6種類から1つ進呈。』だったからふたりの希望は?」
「火の輝石をちょうだい!明日まで!明日の宮廷魔導士の試験で使うのよ!」
「わかった。いま準備するからまっててくれ」
ハイムは何かを紙に書くと、白い書簡に丸めて入れる。
私とそららははやる気持ちを抑えながらソワソワと待っていた。
「ローレン!」
ハイムは書簡に全ての紙を入れ終わると、黒い紐で封を締める。
「なぁに?パパ。」
「この書類を城のリカ様へ。門兵さんに話せば大丈夫だと思う。ファミリアからの急ぎの用事って言えば大丈夫だから。」
「わかったわ。エル、ごめんね。お仕事に行くから、また今度ね」
ローレンは名残惜しそうにエルをなでる。
「大丈夫よ。またすぐに来るから。可愛がってあげてね」
「うん!約束だよ!またね!」
エルの頭を撫でるとそのまま外へ走っていく彼女。
心なしか、エルも寂しそうにその姿を見送っている。
「あの、もしかして今すぐ貰えないんですか?」
ローレンがいなくなってから少しして、今日は何も貰えないかも?という無言の圧力に耐えかねたそららがゆっくりとハイムに問いかける。
「あぁ、すまない。申請して準備が出来次第。と言われているんだ。速やかに払うことがルールだから、明
日にもらえると思うけど・・・。また、明日の朝にきてくれないか?」
「も、貰えなかった場合って、直談判しに行ってもいいんですか!?」
「い、いや、それはいくらなんでも・・・。」
「明日ないと困るんです!」
「わ、わかった。明日、王宮にいく用事があるからその時に確認してくるから。今日のところは待っていてくれないか?」
「・・・わかりました」
噛み付きそうな勢いでハイムに迫るそらら。その剣幕押されるハイムだが、明日確認してくる。と物腰柔らかにそららを説得しているようだ。途中ハイムと視線が何度かあったけど、そららの勢いに勝てない。と判断した私は小さく首を横に振った。
わかった。とは言ったものの、あまり納得できないそらら。
私も、すぐに貰えるものと思っていたから少しがっかりはしたけど・・・。
「と、とにかく、今日はクエストクリアでよかったわ。また明日朝来るから、お願いね」
残念な気持ちを押しつぶしながら、私はとにかく2人が気まずくならないようにその場で明るく振舞った。
コップに入ったりんごジュースを飲み干すと、そのまま私はそららの手を取り、ファミリアから出ることにした。




