10-4 宮廷魔導士試験、2日目 試験の部
街道を歩くと、すぐに道が二手に分かれていた。
6人が分かれ道を北へ向かうと、そこには王宮の中庭よりも広い、開けた土地があった。
すでに参加者のほとんどが集まっているようだ。
「アーク、ここまで来たあとに言うのもなんだが、馬車は使えなかったのか?」
「トキ様、申し訳ございません。魔導士と言えど、体力は必要。と言うことでほかの参加者同様、馬車の使用は制限されております。何卒、ご理解ください」
「まぁ、王宮の意向であれば仕方ない。異論があるわけではない。俺の方こそわがままを言ってすまない」
「いえ。・・・間もなく、開始されるかと思います。しばしお待ちください。」
「わかった。」
アークは軽く頭を下げるとそのまま広場の隅へ歩いて行った。
「トキ、大人っぽいね。」
「そうか?みんなこんなもんだろ」
「そうかなぁ・・・。」
アリシアは数人の人間を思い出すも、そこまで大人っぽい人はいなかったように思える。
「トキ、いくつ?」
「俺は今年14だ。アリシアは?」
「・・・に。」
「え?聞こえないぞ?」
「だから、12!」
「やっぱ俺より年下か!昨日見た時から妹みたいな女の子だなって感じたんだ!」
「フランの妹、って言われるより、まだましか・・・」
アリシアはまだアメリアと話しているフランを見ると、呆れて失笑してしまう。
「どうした?」
「うんうん。なんでもない。」
「年が近い子がいて、俺は安心したよ。けっこう、年上ばかりだったからさ。」
辺りを見回すと確かに、参加者は20歳を超えているようにも見える。
「トキ、その頭・・・」
「い、今更気にすんじゃねーよ!俺だって好きでこんなもの」
アリシアに指摘され、急に恥ずかしくなったのか頭の髪飾りを両手で隠すようにしてしまう。
「そもそも、女用しかないってのがおかしいだろ!」
誰かに言うでもなくその場で言い放つトキ。
「あ、アリシア。僕は向こうで待ってるから、また後でね」
「はい。フラン様」
フランに呼ばれると振り返り、無表情のまま丁寧に頭を下げるアリシア。
「どうか、したのか?」
「ううん。別に、トキには関係ない」
アリシアはアメリアに逆らえなくなったフランに少し嫌気がさしたようだった。
上手くは言えないけど、相手のことを大切にしたり、みんなを大事にするのはすごい事だとは理解できるけど、時には断ることも必要なのではないか・・・。とアリシアなりに考えているようだ。
ただ、それがうまく伝えることができなくてモヤモヤしてしまう。
「お、始まるみたいだぞ」
トキが前方で等間隔で並ぶ食器のサラダプレート程度の大きさの木の的が20個並ぶのを確認する。
「なによあれ。あれを壊せばいいのかしら?」
2人の背後でフランと別れたアメリアが合流してくる。
「そうみたいだな。そんな簡単なことが試験なのか?」
「あんなの。だれでもできるでしょ。ねぇ?アリシア」
「そうだね」
不機嫌そうに答えるアリシア。
その露骨な態度にトキもアメリアも機嫌が悪いことをすぐに理解した。
「お、おい。どうした?」
トキはアリシアの不機嫌な理由がいまいち理解できていない様子だったが、アメリアは自分がフランを独占していることでアリシアが嫉妬しているのだと感じ取った。
「もしかして、私がフラン様と仲良くしているからかしら?」
「関係ない」
トキもその言葉を聞いてアリシアの不機嫌な理由を理解したようだった。
「小さいお姫様は、騎士様を私に取られて怒ってるのかしら?」
「ちがう」
「やめろよ、二人とも」
アメリアがアリシアを挑発する。
「フラン様は、別にアリスには関係ない」
アリシアはアメリアに顔を向けずに答えた。
「アメリア、あまり仲間内でケンカするな。アリシアも、意固地にならないで仲良くやろう」
「トキは黙ってて。それにアリス、怒ってないし」
アリシアがフランに顔を向けると、フランはアリシアへ手を振る。しかし、後ろでアメリアがフランへ手を 振っている事に気が付くとアリシアはフランから顔をそむけてしまい、フランの気持ちはアリシアに届くことはなかった。
「2日目の試験を始める!」
不意に広場へ声が響くと、ガヤガヤと聞こえていた喧騒が静まっていく。
宮廷魔導士の数が25人程度。
参加者が20人に対して明らかに多い。
「今回の試験は簡単だ。あの的に魔法が当たればいい。」
試験官が指さす方には先ほどトキが見つけた木で出来たサラダプレート程度の大きさの的がある。
「壊す、当てる、なんでもいい。早くクリアした8名を採用とする。それでは、各自準備!」
簡単に、的を壊すだけ。と説明された20人の候補者は試験官に促されるまま的の前に並ぶ。
的まで、およそ100メートル程度。
【ここから、あの的を狙えばいいなんて、簡単。】
参加者の誰もが、思っていたであろう。
しかし、現実はそれほど優しいものではなかった。
目の前の木の的が、色を変えていく。
アリシアの前の的は青く光っている。
トキの的は緑に、
アメリアの的は赤く。
他の参加者の的も、黄色、白、黒と輝きだす。
「溶炎壁・・・」
アメリアが的を見て言葉を漏らした。
防御魔法。
つまり、参加者が苦手な属性の防御魔法を宮廷魔導士が使い的を守る、参加者の攻撃魔法は威力を打ち消されるため、生半可な魔法では的が壊せない。
魔法の多様性、使い方、知識、それが試されるのがこの試験なのだろう。
木の的を撃ち抜けばいい。と短絡的に考えていた参加者からどよめきの声が上がる。
「はじめっ!!」
試験官の声が、無情にも広場に響き渡った
「巌撃波!!」
最初の一撃を放ったのはトキだった。
空中に彼の魔力を源に生成された無数の岩は緑に光る的に激突しバラバラに砕ける。
「魔力の相性も、時には壁になるんだよね。」
試験官の一人が漏らしたその言葉。
傷ひとつ付いていない的を見てほかの参加者たちに動揺が漂う。
仮にも一般参加者ではない者が放った魔法。それが傷一つつかないことは、参加者にとってあれがどれほどの防御力なのか簡単には想像できなかった。
ざわつく会場に再び試験官の声が響いた。
「このくらいの的も破壊できないような軟弱者はこの場で消えよ!宮廷に仕える心意気があるものは、己の力をここで示せ!」
「凍氷槍」
アメリアの声が小さく聞こえる。
アリシアは隣に立つ彼女の方を振り向くと、普通の一本しかない氷の槍が的に向かって走った。
当然、水属性の中でも低級な魔法のため、的には当たるも氷の槍は粉々に砕け散って消えていく。
「ダメか」
「ダメだよ。そんな魔法じゃ壊せない」
アメリアの行動に理解し難かったアリシア。
でも、アリシアにも打つ手はない。フレイアがいない今、使える魔力は限られている。相手は『氷結壁』を纏った的。中途半端な魔法では魔力の無駄。考えていかないと魔力切れにもなりここで脱落してしまう。
「アリシア、私のとっておき。見せてあげようか?」
考え込むアリシアに、不敵な笑みを浮かべるアメリア。
左手にしていた薄手の手袋を取ると、小さな指輪をしている。その指輪には、黒く輝く石。
「ま、魔石・・・」
「違うわよ!物騒なこと言わないで!いい?よくみてなさい!お姉さんの力を!」
黒い石は、アメリアの呼びかけに応えるようにその輝きを大きくしていく。
「夜の底に蠢く闇の眷族。漆黒の波に漂うその姿を我が前に表せ。忘却の彼方より現れし漆黒の翼。ナイトメア!」
アメリアの体が黒く輝く光に包まれる。
会場にいた他の参加者、フランたちの視線もアメリアへ集まる。
「な、なにがおこったんだ?」
「なんで、闇魔法が使えるんだ!?」
参加者から驚きの声が漏れる。
水魔法の適性があったアメリア。でも、精霊は1体しか契約できないとは限らない。
エルドロールも土のシルウィア、火のフレイアを従えていた。別に、不可能ではないことだった。
「闇、魔法」
アリシアはアメリアの纏う黒い輝きの中に、1条の光も届かないほど真っ黒な体をした猫の姿を見つけた。銀色に光る対の瞳が不気味に光る。
視線があったと思ったら、黒い猫は何も言わずにアリシアから視線を外し、アメリアの肩に飛び乗る。
アメリアはアリシアに笑いかけると、両手を前に突き出した。
「暗焔龍咆!!」
両手から現れた黒い炎。それはアメリアの赤く輝く的に猛スピードで襲いかかる。
黒い炎は燃え盛る火炎となって、大地を焦がしながら一直線に的へ向かう。
「すごいな。闇魔法。攻撃力に長けた属性とは聞いていたけど、こんな魔法があるとは・・・。」
燃え上がる黒い炎を見ながら関心の声を上げるトキ。
その場にいた全員がその姿を見ていた。
アメリアは軽くため息をつくと再び手袋を左手に戻す。
猫を撫でるような仕草を見せると、そのまま黒い光は小さくなり、猫とともに消えていく。
「んじゃっ、おさきに~!」
アメリアが静かになった会場を背に、ひとり歩き出した。
試験官のもとへ向かうアリシアの標的は、的を完全に燃やし尽くすとその場で消えた。
「爆旋風」
「黒炎魔弾」
参加者は各自的に向かって攻撃を繰り返すも、アリシアはまだ動かなかった。
アメリアの後を1人、また1人と確実にクリアして進んでいく。
会場にはアメリアの姿はもうない。監視役の魔導士と共に帰ったようだ。
合格枠はあと3人。トキもすでにクリアしている。
「ローク!クリアっ!!」
また1人、合格者がでた。残りの枠もあと2つ。
フラン、トキ、アークはアリシアのことを見ていることしかできない。
「あいつ・・・。大丈夫か?」
何も行動しないアリシアを見て、トキはたまらず誰に言うでもなく言葉がもれた。
「恐れ多くもトキ様、アリシアは、きっと何か考えがあるのではないかと思います。」
「考え?」
試験開始後、魔法を一回も使っていないアリシア。
周りから見たら、攻撃する術がないか、あきらめたか・・・。
トキはアリシアがこの試験を投げたものだと思っているようだった。
「アリシアは、私の知る限り最高位の魔導士と言えます。今はまだ幼いですが、いつかは、蒼天大魔道に近
づく事ができる器だと信じております」
「あの蒼天大魔道にアリシアが!?・・・また、蒼天大魔道とは大きく出たな。あの小娘にその器が」
「きっと、彼女にはなにか考えがあると思います。信じてお待ちください。」
フランが言い終わると同時に、アリシアが動いた。
彼女の身体は、うっすらと、弱弱しい赤い光に包まれる。
「荒ぶる魂持ちたる炎龍、我が前に立ちはだかる愚か者に焦熱の怒りを!」
右手にうっすらと青い火の玉が現れる。
「あの程度の魔法だと、おそらく威力が足りないな・・・。」
魔法障壁に守られている的の方が強い。と判断したトキは、アリシアの行動を無意味と判断したようだった。
黙って見つめるフラン。
アリシアは右手の炎を維持したまま左手を前に突き出す。
「紅き炎にその身を宿し、全てを無に帰す炎の精霊フレイア。我魔力を糧とし、汝の力をここに開放せよ。」
左手にも、青い炎が渦巻く。
「ダブルっ!!炎龍咆!!」
彼女は両手をパンっと胸の前で合わせた後、前に突き出した。
アリシアの両手に作られた青い火種。それは決して交わることのなかった青い炎。2つの青き炎は合わさると、一気に大人が数人余裕で入れるくらい巨大な青い塊に成長した。
「焼き尽くせ!!青き炎!」
アリシアの掛け声と同時に、青い塊からはアメリアが出した炎とは比べ物にならない大きさの炎が噴き出し、そのまま的を一瞬で灰にすると、森を焼き払い・・木々を炭に、灰に変えながら突き進んだ。
そこにいるものがすべてが、アリシアの魔法に釘づけとなった。
魔法の融合は今まで成功例が少ない。
アリシアでも使える威力の強い魔法、これを2つ合わせて足りない威力を補おうという考えだったようだが、それは彼女自身の予想をはるかに上回っていた。
「驚きましたね、トキ様」
フランが口を開けて呆然とするトキに声をかける。
「あ、・・あぁ。嘘みたいだ。あんな小さい体で、なんて威力の魔法を使うんだ」
「どうですか?僕の見つけた魔導士様は」
「蒼天大魔道。・・・王宮に仕える騎士の言葉として、偽りはなさそうだ。俺も、あの少女が気に入った」
2人の視線に気づいたアリシアは大きく手を振っている。
「アリシア。ク、クリア!」
7人目の合格者。
「なんとか、ギリギリ間に合った」
フランはこっそりと胸をなでおろすと、アリシアを迎えに歩き出した。
なんだかんだと言いながら、彼もこの場で、アリシアのことを心配していたギャラリーの一人のようだ。




