10-2 宮廷魔導士試験、初日 夜の部
「このあとは、どこか行くのかい?」
「魔道書を読みに行こうかと思うのですけど・・・」
夜、街で食事を終え王宮まで戻ると、フランは扉を開けながらアリシアに問いかけた。
今日の試験は無事に終わった。
あのあと、結果はすぐに出た。
アリシアとトキ、アメリアの3人はすぐにその場から退場。
一般参加者とは比較にならない。ということで今日の試験はただ、立っているだけ。と言っても過言ではなかった。
ちなみに、順位は最終日まで判定されない。
「フラン様、部屋に紙、受付表が置いてあるので、取りに寄りたいのですが・・・。」
「大丈夫、僕がいればこの城の中ならある程度自由に動けるから、今日はこのまま行こう。」
「でも、必要だって・・・」
「一応、表面上それが決まりだからね」
大きな階段を上りながら話す二人のほかには人影は少なく、お昼の物々しい警備が嘘のようだった。
階段や廊下にはまばらに兵士が立っている。その兵士も昼間のようにアリシアたちを監視するようなことはなく、対応も柔らかかった。
「お昼とは、だいぶ雰囲気が変わりますね・・・。」
「仮にも王宮だからね。今は試験のせいで部外者が多いんだ。そりゃ警備も厳しくなるよ。それでも、もう20人しかいないし、各客人に対して監視、というと表現が悪いけど世話役がついているからね。今は普段より少し多いくらいかな。」
「そうなんですか・・・」
長い廊下を歩いていると、フランが扉の前で立ち止まる。
「ここ。ですか?」
「いや、この扉はちょっと思い出がね。」
「思い出、ですか?」
「前の世界で、僕ときらら、そららの3人はここでアンデットに囲まれたんだ。その時のことを思い出すと、なんとも不思議な感覚でね。廃墟のアレクサンダー城の中を君の姉妹たちと走り抜けた記憶。自分を戒めるための記憶にもなる」
「アリスは、何をしていたんですか?」
「君は、勇敢にも魔獣と戦っていたよ。城が揺れたからね。あれにはみんな驚いたよ!」
笑って壁を手でトントン、叩くフラン。
「だいぶ励まされた。君のように小さい子が戦っているのに、何もできない僕は・・・。ってね」
「いえ、アリスは勝てませんでしたし・・・」
「勝てるから、偉いんじゃない。勝てるから、すごいんじゃない。勝てても、負けても、立ち向かう勇気があるアリシアは、それだけで僕らの英雄だよ」
「は、はぁ・・・」
普段そんなことを言われることもないアリシアは返事に困り、モジモジとしてしまう。
別に、勇気とか、そんなことはなくただ一生懸命で、誰にも負けないっ!と自分のおごりもあった。
それが、うまく表現できなく、過剰評価された事が恥ずかしい気持ちになっていた。
「それじゃ、ここがお待ちかねの宮廷の書庫だ。中にあるものは持ち出し禁止。絶対に持ち出さないように」
「はい!わかりました」
「いつも、そのくらい素直だといいのだけど・・・」
重たい、擦れるような音がする扉をフランはゆっくりと開ける。中には数千、数万の本が並ぶ広い部屋があった。
数人の人間が中にはいたが、アリシアにはおかまいなしで研究をしているようだった。
「明日も来れるから、無理しないでね。これからは好きな時間に来れるから。」
「はいっ!」
「僕は一回席を外すけど、明日も試験が続くから夜ふかしはしないように」
そう言い残すとフランは司書官に話をすると、そのまま部屋をアリシアに手を振って出ていく。
アリシアはフランが出ていくのを見送ると、過去に見たことのないような本を相手に胸を高鳴らしていた。
アリシアは、魔法の構造、研究を調べてようとしていた。
司書官の隣に並べられた、『今コレを読め!明日の王宮魔導士!』特集にあった魔道書に気になるものがあった。
『現在に知られている魔法を簡単に理解する本』
簡単。とはいっても、上下巻になっていて、結構ボリュームがあった。
でも、宮廷魔導士になれないとここに入るのは今日と明日しかないので少しでもいろいろ知りたいアリシアにはもってこいだった。
途中、よくわかる魔獣ブック!。と、異世界の住人たち。というタイトルの本に興味を抱いたが、それは次回にすることに。
ページをめくると、見たこともない魔法陣が1枚目に書いてあった。
魔法陣の意味を理解できなかったアリシアは、気にも止めないでそのままページをめくり続ける。
「どうだい?なにか気になる本はあったのかな?」
「も、もう、用事は終わったんですか?」
気が付くとそこにはフランの姿があった。様子から見るに、お風呂にでも行っていたのであろうか。
寝巻き、というよりも鎧を取っただけの服装だった。それでも、剣は片手に握られている。
「うん、お城ではもう消灯の時間だからね。気がつかなかったかい?」
アリシアは立ち上がり周りに視線を送ると、確かにそこには先程までいた人の姿はなくなっていた。司書官の姿も今はなくなり立札で、『戸締り後、廊下の兵士にカギを渡すように。』と書かれ、銀色に光る鍵が卓上に置いてあった。
「だ、誰もいない・・・。」
「まぁ、みんなはアリシアと違って毎日読めるから。それで、何を読んでいたんだ?」
アリシアは本をたたみ、表紙をフランへと見せた。
「現在に知られている魔法を簡単に理解する本・・・」
「変ですか?」
アリシアから本を取り上げると、笑いながら、懐かしそうにページをめくる。
「いや、変じゃないけど、その探究心すごいね。昔同じ本を読んでいる友人がいたよ」
「友達なんですか?」
「友達、かなぁ。相手はどう思っているかな」
「今は、どちらに?」
「ここから北。輝石の発掘に携わる仕事をしているよ。」
フランは本を閉じてアリシアへ返すと、隣の席に腰掛けた。
「それで、なにか収穫はあったかい?よければ、魔導に詳しくない僕にもわかるように教えてくれないかな?時期宮廷魔導士・・・いや、王宮魔導士様。」
フランはそう言うと優しくアリシアに笑いかける。
最初は面倒だったアリシアも、別に断ることもないと判断したのか、ページをめくり、フランの方に椅子を持っていき説明を始めた。
「今は、だれもいませんか?」
キョロキョロと辺りを見回すアリシア。
「大丈夫、だと思うけど・・・」
「じゃあ。もうフランで平気」
「あぁ、そうゆうこと」
子供、とはいえこの世界では結婚できる年齢まであと少しのアリシアにこの広い書庫で夜中にふたりっきりか?という問い掛けに一瞬胸を高鳴らせるフランであったが、その考えは一瞬で砕かれてしまう。
「なに?」
「いや、なんでもない」
少しがっかり気味のフランの行動に対し、意味が理解できずに不思議そうな顔をしていたアリシアだが、特に気に止めることなく説明を始める。
「まず、魔法は皆が平等に使える素質を持って生まれ、生まれた時に精霊から加護を受けると考えられている。って書いてある。アリスは、選ばれた人間が使えるモノが魔法だと思ったけど、実際には違った。誰でも使えて、魔法の才能はその人の努力次第で開花できるってかいてある。ヘルムの村が特別だったわけではないんだ。って思った。もしかしたら、屋台のおじさんも、商人のおじさんも大魔法使いになれたかもしれないってことでしょ?」
「そうだね、魔法使い=選ばれた人間。そう言う選民思想は間違っている。アリシアが知らないこと、これだといっぱい書いてありそうだね。」
無言で頷くアリシアはページをいくつかめくり、イラストのあるページで手を止める。
「伝承では、妖精、精霊、ドラゴン、神、悪魔族が存在する。邪竜王みたいな人型やクラーケン、ダリアンドみたいな魔獣を総称して魔族。と表現する場合もあるみたい。アリスのいるこの世界の他にも、竜族の世界、精霊界、妖精界、神と悪魔の世界があって、アリスたちはこの4つの世界に行くことができる。らしいけど、そのへんのことはここに書いてない・・・。でも、どの世界も神派、悪魔派は存在するって。竜族の世界にだけ、長き戦いの末に争いがなく平和な世界が訪れた・・・って書いてあるけど。それもよくこれじゃわからない。」
「人間は・・・どうなんだい?神?それとも悪魔?」
「アリスたちは、神派みたいに書いてある。ここに『すべての世界に神、魔族は存在し、互いに牽制しあう。そして、人間界ではゴブリン、オークなどのモンスターが悪魔とし存在し、生きるために、人間はモンスターを倒し、無意識に神に加担していると考えられる。』って書いてある」
「なんか、前の世界でどっかの誰かがそんな文句を言ってたような気がする・・・。」
フランはアリシアの顔を見ながら笑う。
アリシアは誰のことだか思いつかない様子だった。
「ごめんごめん、続けて」
「それで、各世界に天敵が存在するって書いてある。」
「天敵?」
「うん。例えば、妖精の天敵。大神。」
「大神とは、またすごい名前だね」
「こいつは、人間と精霊の魔力を糧に大きくなる。妖精界にはいないで、強くなってから妖精を喰いにいくみたい。邪神、大神って書いてある」
アリシアが指さすイラストには、人狼のイラストが小さな妖精に牙をむくシーンが描かれていた。
「精霊や悪魔族、神にもその大神みたいに力をつける糧、つまり食料みたに必要なものがあるのかな?」
「ここには、悪魔族のことしか書いてなかったけど、アリスたち人間の負の感情が悪魔族の糧になるって。恐怖、憎しみ、痛み、苦しみ、悲しみ、辛さ、怒り・・・。それは悪魔族の生きる源。だから、悪魔は人間を殺すことよりも、飼う方が得。」
「邪竜王は、殺す派だったみたいだけど・・・。」
「そんなの、ここに書いてないから知らない」
「まぁ・・・」
わかんないものは知らない。という態度のアリシアに言葉を失うフラン。
アリシアは悪魔族のことよりも、今は違うところに関心があるようだ。
「いい?次」
「あ、あぁ」
「魔法は、詠唱がいるもの、不要なものが存在する、強力な物になればなるほど詠唱は必要であるが、熟練具合によっては不要。だって!つまり、いつもは精神集中して発動までに時間がかかる紅蓮爆砕陣も、アリス次第では火炎鎗みたいに簡単に使える。ってことだと思う」
「いつも、指で丸く描いてるあれかい?」
「そう、火炎鎗は炎属性で一番初歩的なもの。歩くとかと同じで、体が勝手に動くみたいに簡単に使える魔法、炎の鎗を出現させて、相手に放つ。紅蓮爆砕陣もそんな風に簡単
に使えるなら、きっともっと攻撃方法が変わると思う。」
「精霊との契約ってのは、何か関係があるのかい?」
「それは、こっちに書いてある・・・」
アリシアがページをパラパラとめくると、そこには6つの元素を司る精霊のイメージ画が1つの鏡に向かっているところの絵が書いてあった。
「鏡?」
「鏡は、ここ。人間界を表している。精霊たちは門を通ってその力を契約者へと送り、己が力を示すことができる。」
「その門って、僕らも通ったりできるのかな?」
「その発想は面白いけど、ここには記述がなかった。ここに書いてあるのは、精霊との契約を交わした者は消費魔力が極端に少なくなる。ってことだけ。」
「どうして、魔力消費が抑えることが出来るんだい?」
「原理は未だ解明されていないって。何人かの研究報告によると、大気を漂う精霊の魔力、自分の魔力を合わせることができるようになるため魔力消費が抑えられる。という見方もあるって。」
「まさか、さっき言ってたドラゴンとかも契約できるようになってるの?」
「ドラゴン。とは書いてないけど・・・」
アリシアがめくるページには小さな体に羽の生えた妖精のイラストがあった。
「妖精との契約は精霊よりも簡単である反面、魔力消費は精霊よりも多い。妖精は攻撃よりも、守護の役目が多いと判明している。って書いてある。」
「妖精か・・・。実際にアリシアは見たことあるの?」
「ネスタでクラーケン退治の時に1回。アルビドって宮廷魔導師見習いが使役しているの見た。でも、確かに強力な魔法、というよりもサポートや魔力消費を抑えるような意味合いだったように感じたけど。・・・以上!今読んで分かったことでした!教えてあげたから、読み終わるまでもう少しの間、ちょっと待ってて」
アリシアは『現在に知られている魔法を簡単に理解する本』上巻の残りページ。およそ40ページをフランに見せると再び没頭して読み進める。
その横で、大きなあくびをして頭を揺らす王宮騎士の影が、灯りに揺れていた。




