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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第3章 宮廷に潜む闇
77/126

9-5 エル

 私たちは追われていた。


「だれよ!ついさっきまで今回は余裕だったなぁ。とか言ったやつ!」


「うちだって、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったよ!」


 馳せる馬車馬。

 闇夜の中猛スピードで風を切る。

 頼りは月明かりとルカにもらった光る石。


 鉱山の村を出て2時間ほどだろうか。

 まだ道は半分以上あるのに、そいつは現れた。


『グガァワアァァァ!!』


 森に獣の声が響く。

 たくさんの足音はドンドン近づいてくる。

 原石が乗っているせいか、馬車の進みも遅い。


「お姉ちゃん!どうにかならないの!?弓持ってるんでしょ!」


「たしかに、あるけど・・・」


 私は後ろを振り返ってみるものの、馬車のコーチが邪魔で何にも見えない。


「コーチが邪魔で何も見えないの!これじゃアリシアだって攻撃できないわよ!」


「なんで荷馬車で行かなかったの!?」


「それ私のせいじゃない!」


 モンスターに襲われ半泣きのそらら。

 暗闇&コーチが邪魔でモンスターの正体すらわからない。


「一体、何が襲ってきたの!?」


「わかんないけど!でも、ウェアウルフの森は抜けてるからウェアウルフとは違うと思う!」


「そんな適当な!」


「でも、ゴブリンよりは間違いなく強いよ!!」


「そんなのわかってるわよ!」


 ・・・あの後、採掘場を出発してからしばらくは静かなものだった。

 虫の声まで聞こえるくらい静かで、馬車も急がず適度に走っていたのだ。

 道中そららが、


【今回は魔物やモンスターが現れなくて助かったぁ。このまま帰ってご褒美ゲットぉ!】


 なんてはしゃいでいた。

 確かに、すごく平和だった。

 まさか、モンスターが現れるなんて予想もしないくらいに。


 急に街道の結界石が砕けると、その暗闇から何体ものモンスターの影が現れて私たちに襲い掛かってきた。

 あれから、どのくらい走ったのだろうか。


 モンスターも疲れて消えていく者がいたが、街道脇の茂みから次々に現れて襲い掛かってくる。

 気が付くと結界石が次々に砕けて街道にはモンスターが溢れかえっていた。


「どうしよう・・・」


「なに?どうしたの?」


 そららが深刻顔で正面を見つめる。


「けっこう走ってるから、このままじゃ馬がダメになっちゃう。どうにかしないと・・・。馬が倒れたらアレクサンドリアまで戻ることもできなくなっちゃう」


「それって、休憩が必要ってこと?」


「うん。」


 この絶対的にピンチな状態で休憩と言われても、私もどうにもできない。

 もし止まったりしたら間違いなく背後に迫るモンスターに追いつかれてしまうだろう。


「あれ?お姉ちゃん、静かになった?」


 不意に、そららが後ろの足音が聞こえなくなったことに気が付いた。


 私たちに迫る足音がさっきまでとは嘘のように聞こえなくなっていた。

 あれだけドタバタと走っている音がしたのに、今では静かなもので近づいてくる気配すらしない。

 馬車の走る音と、馬の乱れる呼吸が一番大きく感じるくらい。


「だいじょぶ、後ろには誰もいないみたい。」


 私は揺れる馬車の上に立ち上がり、コーチに捕まりながら後ろの様子を覗いてみた。

 あれだけうるさかった大群の足音が一瞬で消えた。


「どー!どーっ!」


 そららは馬の手綱を軽く引き、スピードを落とす。

 馬は呼吸を整えながら減速していく。


「さっきの。なんだったんだろ」


「わかんない。うちだってあんな体験初めてだよ。でも、追いつかれなくてよかった。」


 静けさを取り戻した街道は、静かさが不気味に感じるほど静かだった。

 さっきとは違う。

 虫の声も、

 鳥の声も、

 生物の気配がしない。


「なんだろ。ここ。息苦しい」


「お姉ちゃんも?うちも、なんか気持ち悪い」


 そこは空気が淀んでいて、重い、なんとも表現できない場所だった。

 馬も少し落ち着きがないように見える。


 淀んだ空間を進んで少し経った時だった。

 私たちが周囲の茂みに目を配る。

 その時、暗闇の中で何かが光ったような気がした。


「ね、ねぇそらら。あれ、見た?」


「あれ?どこ?」


 街道の茂みで動かないでじっとこちらを見る二つの光。

 それは馬車が通り過ぎるのを待っているかのようだった。


 パキッ・・・


 木の枝が折れる音がした。

 ほぼ同時に街道に設置される結界石が砕けると、その破片が馬にあたり、落ち着きを失った馬が急に走り出す。


「グオォォォオオ!!」


 獣の雄たけびがそばで聞こえた。


 ガタッガタガタ・・


 私は驚いて両耳を塞いだ時に、馬車が悪路により大きく揺れた・・・。


「あっ」


「そ、そらっ」


 私たちにとっては一瞬の事だった。

 手綱を握るそららが、ゆっくりとスローで遠退いていく。

 私は、片手を伸ばすも、何も届くことはなく、そのままゆっくりとそららが、馬車が私の横を通り過ぎる。


 ザザッ・・ザザザー


 馬車から街道に勢いよく転げ落ちた私は全身を強く打ち、その場で悶える。


「い、いたぁい・・・」


 私は顔をあげると、そこには1体のモンスターが立っていた。

 毛むくじゃらの体。

 猪と人間の中間のような感じのシルエット。

 体は大きく、筋肉質。

 鎗のような・・・。なにか鋭利な長い棒を持っている。

 牙が出ていて、口がでかく、鼻は豚のようになっている。

 太く、握られたら潰されそうな腕。身長は2メートルくらいの大きな体が月明かりに照らされる。


(ヤバいかも・・・)


 私はゆっくりと立ち上がると、呼吸を整えゆっくり整える。

 馬車は見えない。

 そららがどこまで行ったのかもわからないけど、馬があの調子では戻ってくる前に私が殺される可能性が高いだろう。

 白く、鋭い眼光が私を睨み付け動きを竦ませる。


(ここは、こいつの縄張りで、さっきのたくさんいた奴らはこいつが怖くて入ってこなかったのかしら・・・)


 動物的本能とでも言うべきか、モンスターの世界にも縄張りがあるのかもしれない。

 ここは、こいつにとっての狩場なのかも。


 私はエルフィンを構える。

 ネスタから戻ったあと、この弓は魔力の消費が多いので連発が現状出来ない。私はどうにかできないモノか王都の工房へと足を運んだ。

 エルフィンを傷つけることなく、弦を張ってもらい、なるべく普通の弓と変わらないようにしてもらった。

 できるだけ、普段から通常の武器としても使いたかったのだ。


 矢を構え、私は奴、この場ではそうね、イノシシ人間とでも言おうかしら。

 イノシシ人間の右目を射貫いた。


『グオガアァァ!!』


 私の矢は奴の目に刺さり、鮮血を流し、苦しむイノシシ人間。

 私はその場に散らばった矢をできる限り掴むと、その場から走って逃げだした。

 こんな場所にいても、あいつに殺してくれって言ってるようなものだわ。


 はぁ、はぁ、はぁ・・・


 どのくらい走ったのかな。

 暗い、普段通らないこの街道では距離感がわからなくていつまでも同じ景色を見ていると気がおかしくなりそうだった。


 馬車から落ちたせいで体中は痛いし、ちょこちょこ擦り傷もある。

 せっかく衣替えしたのに、1日で汚れてしまった。


 相変わらず周囲には生き物の気配がしなかった。

 しかし、足元の結界石を確認すると緑に輝いている。


(よかった。このあたりにあいつはまだいなそうね)


 私は足をとめずに走り続けた。


 はぁ。はぁ。・・はぁ・・・


 ダメ、足が重い。

 後ろを確認するとイノシシ人間の気配も足音も聞こえない。どのくらいの距離があいたのかわからないけど、すぐに追いついてくるような場所にはいなそうね。


 私はこの先どのくらい走るかわからないのであれば、茂みに身を隠す覚悟を決めた。

 歩きながら、周囲にある結界石を集める。

 結界石で街道が安全なら、結界石があれば街道の外の茂みに隠れても安全だと思ったから。


 1つ・・・2つ・・・3つ、4つ。


 私は街道を早歩きで進みながら4つの結界石を祠から拾い上げると茂みをかき分けて中に入っていき、街道から少し離れた木の根元に腰かけた。


 疲れた。


 全身が痛くて、正直これ以上歩きたくない。

 まだ、月はずいぶん高い位置にある。

 朝まではまだ時間がかかるだろう。


(そら、戻ってくるかな)


 私は静かな街道を見ながら妹が助けに来てくれないかも・・・。

 と一瞬考えてしまった。


 怖くて、戻ってこれないかも。

 今日はアリシアがいない。

 フランもいない。


 たった一人でこの暗い、モンスターがいるとわかっている街道に戻ってくる勇気があるのだろうか。

 私は自分だったらどうするかな。と考えてみた。


 でも、やっぱり助けに行くのかな。

 みんな好きだし、後悔したくないし・・・。

 私は誰もいないのに、面白くもないのに笑ってしまった。


 そららが来ないかも。そんなこと考えるなんて、どうかしてるわね。

 私は自分の周りを囲うように4つの結界石を配置すると、少し目を閉じて休もうとした。


 耳にはなんの音も聞こえない。

 呼吸する音、

 馬車が来る音、

 話し声、

 虫の声。

 何も聞こえない。聞こえるのは風が木々を揺らす音。

 静かなものだった。


 パキッ


 私は枝が折れる音で目を覚ました。

 どのくらいだろう。一瞬、意識を失った私は自分のそばで何者かが枝を踏み折る乾いた音で目が覚めた。


(あれ?寝てた?どのくらい意識がなかったんだろう・・・)


 私は周囲に意識を集中させてみる。


 なにか、いる・・・。


 全てを飲み込みそうな暗い闇。

 その向こうに、何かがいる。


 私は、ゆっくりと立ち上がり、弓を構える。

 向こうも私に気が付いたのか、姿を表そうとしない。

 自分の呼吸が、耳からではなく、頭の中に響くような感覚。喉を通る唾液が音を鳴らすのが聞こえるくらいの研ぎ澄まされた感覚の中、私は瞬きも忘れ闇の中を見つめる。


 闇の中に、銀色の光がボンヤリと浮き上がる。


 対になっている銀色の瞳。

 それは、ゆっくりと私に近づいてきた。


『ググググゥゥ・・・』


 低く唸るようなその声は、少しづつ私に近づいてくる。

 雲が晴れ、月明かりが差し込むとそこには銀色の瞳、銀色と白い毛並みの小さな犬がいた。


「い、いぬなの?子犬?」


 私は暗闇から現れた意外な相手に驚きはしたものの、弓を構え様子を伺う。


(あ、もしかして・・・あった!)


 私は弓を下ろして朝買ったパンがないかポケットに手を入れてみる。

 そこには、見る影もなくなったペチャンコで美味しそう。とはお世辞にも言えないパンの姿があった。


 まぁ、馬車から落ちるわ、朝からずっと入れっぱなしだったし・・・。あるだけマシね。

 私はペチャンコパンをちぎると犬に向かって投げてみる。


 犬って、雑食だからきっと食べると思うんだけどな。

 目の前に落ちたパンを不思議そうに見ると臭いを嗅いで、食いつく。

 おぉ!食べた!

 私は犬に向かってなんどかちぎってパンを投げる。

 犬は尻尾を振りながらひょこひょこと近づいてくる。


 この世界にも、犬っているんだ。

 私は最後のかけらを手に乗せて犬に与える。

 警戒心がなくなったのか犬は私の手から最後のパンを食べた。

 犬は結界石を飛び越えて私のところに来ると手に付いたパンの残り香、味を噛みしめるように舐めていた。


「おいしかったの?ごめんね。今はもうないの。無事にここから帰れたら、一緒にお屋敷に帰ろうね。そしたら、ご飯いっぱいあるから」


 私は犬の頭をなでる。

 野良犬なのか、体のあちこちが汚く汚れていた。

 まぁ、こんな森の中だし。きっと恐かったろうな。

 私は子犬に自分の立場を重ねてみると無性に可愛くて、可哀想で、手放したくない気持ちになった。

 勝手に、この犬と会えたことが運命。そう思っていた。


(よし、帰ろう!)


 私は結界石を持って、子犬と帰ることを決めた。


 名前は、エル!


 そう、困った私を助けてくれたし、元気をくれた。

 助けてくれたから、エルドロールの名前から取ってエル!

 きっとそららは反対するだろうけど・・・。


「エル、帰ろっか!」


「あうっ!」


 私はゆっくり街道に頭を出して左右を確認するも、どこにもイノシシ人間の姿はない。

 大丈夫。まだ追ってきていない。

 私はエルと街道に出ると走ってアレクサンドリアを目指した。


『グゴォワアァアァ!!』


 真っ暗な、先の見えない闇の中。後ろの方で雄たけびが聞こえた。

 さっきのイノシシ人間のものに似ていた。

 エルも立ち止まり後ろを気にしているようだ。 

 犬といえど、獣同士。なにか通じるものがあるのだろうか。


 ドォゥゥオォン・・


 凄まじい音を立てて、後方で木が倒れていく・・・。

 森から鳥が驚き飛び立つ。

 まさか、あのイノシシ人間がやったの?


「エルっ!おいで!!」


 私は急に怖くなり、街道を走り続けた。


 はぁ、はぁ、はぁ


 エルは余裕でついてくるも、私にはその余裕がもうない。

 時折振り返ってみるものの、そこにはまだイノシシ人間の姿はない。

 でも、確実に距離が詰まってきている。


 あの時、あんなところで休まないですぐに逃げていればよかったのかもしんない。

 胸に本気で『後悔』の二文字が浮かび上がった。


 やばい。やばい、やばい!捕まったら、追いつかれたら確実に死ぬ。

 エルフィンが使えるかわからないけど、万が一魔力が足りないとかで使えなかったら意識も失ってほんとに死ぬ!


 心臓が口からでるって、こうゆう感覚なのかしら・・・。

 頭ではもっと早く走りたいのに、体がついてこない。

 足がもつれそうになって、何度も転びかける。


「あうっ!!グゥゥウ・・・」


 エルが急に後ろの暗がりを気にして立ち止まった。


「エルっ!急いで!早くおいで!!」


「アガウゥゥ!!」


 エルが吠えた先には、片目を失い血走った隻眼のイノシシ人間の姿があった。

 心なしか、そいつは少し笑ったように見えた。

 背筋がゾクッと寒くなり、身震いをしてしまう私。


「エルっ!おいで!!」


 私は叫んで再び走り出す。

 手に持っていた結界石を街道にすべてばら撒く。

 エルは最後までイノシシ人間を気にしていたが私が走り出すと仕方なく後をついてくる。


『アガァァァ!!』


 イノシシ人間の咆哮が響く。

 その見た目からは想像できない速さで迫ってくる。

 街道の曲がり角でイノシシ人間は木に突っ込む。


 メキメキメキメキメキ・・・


 木が、イノシシ人間の激突でゆっくりと倒れていく。

 あ、あんなのくらったら一撃で終わりよ・・・。


「あっ!!」


 私は木が倒れた振動、その轟音に驚き足がもつれ、その場に転がるように転倒してしまう。


(やばい、やばい!)


「あうっあうっ!!」


 私の周りをクルクルと回るエル。

 私は頭の中が真っ白になりすぐに立ち上がりエルフィンを拾うとイノシシ人間の姿を確認する。


 ゆっくりと木からその体を離すと、その大きな口からヨダレを垂れ流しながらこっちを見る。

 この先、カーブはない。次に突っ込んで来れば避けることはできないだろう。


(お願い、お願い!死にたくない!言うこと聞いて!)


「私の声が届いて!光よ!」


 私がエルフィンを構え、左手に意識を集中させると弓は光り輝く弦を現し、クラーケン討伐の時と同じ姿を取り戻した。


(イケる!)


 私が弦に手をかけ弓を構えると、そこには光り輝く矢が現れる。


「闇を払う力となれ!」


 私がエルフィンの矢を放つと同時に、イノシシ人間が私に突っ込んで来る。

 光の矢は間一髪のところでイノシシ人間に・・・当たらない。


 ドオォオオンン!!


『ぐがあゎあぁぁ!!』


 エルフィンが放った矢はイノシシ人間の後ろにあった木にぶつかり大爆発を起こす。

 衝撃波でイノシシ人間、私、エルは飛ばされてしまう。


 私は声にならない悲鳴をあげながら、茂みの中に吹き飛ばされる。

 イノシシ人間も街道の上に弾き飛ばされたようだ。その衝撃波の強さで牙が折れてしまい、顔面、体のあちこちが傷だらけになっていた。


 私はエルフィンを使ったせいで、工房でつけてもらった普通の弦が切れてしまい、攻撃する手段が残されていない。

 いいとこ、光を失いただの棒切れになったこのエルフィンをあいつに突き刺すことくらいだろうか。


「っいたた・・・」


 私は全身を強く打ち付け、正直動けそうにもなかった。

 骨が折れてるとかはないと思うけど、ここまで連続で叩きつけられると正直限界。

 起き上がろうとするも、全身に力が入らない。


(ヤバいかも・・・。これ)


 イノシシ人間の方はまだ立ち上がる余力があるようで、ヨロヨロとしながらもゆっくりと立ち上がる。


「そら・・・。アリシア。ダメかもしんない。」


 私は力なく茂みの上に倒れ込み夜空を見上げた。


 街道にイノシシ人間の足音が響く。

 なんで、あの時もっと狙わなかったのかな。

 なんで、あの時そらに掴まなかったのかな。

 なんで、あの時休まず逃げなかったのかな。

 なんで、今日アリシア抜きで冒険に来たんだろう。

 頭の中を後悔がグルグルと回った。


(せっかく神の弓があっても、使う人間がこんなへっぽこじゃ弓が泣くわね。)


 そう思うと、自分の無力さがなさけなく不思議と笑ってしまった。笑っている場合じゃないのに。


「あうっ」


 私のお腹の上にエルが飛び乗ってくる。

 せっかく友達になれたのに、こんなに早くお別れだなんて。

 私の涙をエルが舐める。

 顔もところどころすりむいてて、エルが舐めると少ししみる・・・。


「痛いよ、エル。・・・・ごめんね、早く逃げて。」


 私の言葉を聞いているのか、聞いていないのかエルは私の手や腕を舐める。


『うがぁあ・・・』


 イノシシ人間の姿がこちらに迫る。

 その大きな口からでる臭そうな息。

 汚いヨダレ

 私、もしかしてあいつに食べられたりしないよね・・・。


『ウグゥウウ』


「エル?」


 エルが、迫り来るイノシシ人間に向かって威嚇していた。

 エルは私から離れ、迫るイノシシ人間に敵意を表す。

 小さな身体、尻尾を立てて、銀色の毛が逆立っているように見える。



「無理だよ、お前みたいな小さいのが勝てないよ!」


「あうぅうっ!!」


 エルの身体が淡く光り出す。

 銀白色の毛が一本一本光り輝く。銀色の瞳はイノシシ人間を捉えて離さない。


「ど、どうしちゃったの?」


『うがぁ!!』


 イノシシ人間が叫ぶと、私をめがけて走ってくる。


「い、いやぁー!!」


 私は目を背けてギュッと唇をかみしめた。

 迫りくる足音。私は最期の時を覚悟した。


「アアァグゥア!!」


 エルの雄たけびが聞こえると、凄まじい風が吹き荒れ木々が揺れる音が重なり、遠くの方でなにかが衝突するような、ぶつかる音が聞こえた。

 吹き荒れる風が収まるとイノシシ人間の足音は消え、ゆっくりと目を開けた私の前にいたのは尻尾を振るエルの姿だった。その姿にはもう光り輝くものはなく、出会った時と同じ銀白色の薄汚れた毛をしたエルだった。


「え、エル?」


「あうっ!」


 私は体を起こし、あたりを見回すと、街道には葉がたくさん落ちていて、イノシシ人間の姿はなくなっていた。


(と、とにかく助かったぁ)


 私は再び茂みの上に倒れ込み、おなかの上に乗っかったエルの事なんか気にも留めずに意識を失った。




「・・・ちゃん!」


 う、ううぅん・・・。


「お姉ちゃんってば!」


 私は身体を揺さぶられて大声で叫ぶ妹の声で目が覚めた。

 目を開けるとそこには紫頭の女の子、そららがいた。

 どうやらすでに朝になっているようだ。

 陽が昇り、辺りは明るくなっていた。


「あうっ!」


「そら・・・遅いよ・・・っててて」


 私は体を起こそうとするも激痛で身体が動かない。


「よかった、生きてた!死んじゃったかと思ったんだから!」


「痛い!は、はなして・・・」


 抱き着いてきたそららに殺されそうだわ・・・。

 それにしても、よく生きてたわね。


「あうっあうっ!!」


「エルぅ。ずっと待っててくれたの?」


「あうぅぅ」


 上目使いで尻尾を振る姿がまた愛おしい。なんてかわいいのかしら。


「ふふっ。可愛い。」


 エルは私の顔を舐めてくれる。


「お姉ちゃん、それ、どうしたの?」


 そららはすごく嫌そうな顔でエルの事を見ている。

 犬、嫌いなのかな。


「森で拾ったのよ。イノシシ人間に追われていた時に偶然知り合ったの。木の下で。」


「なにそれ?」


「走って逃げてたんだけど、途中疲れたから結界石もって茂みに隠れたの。そしたら、この子もそこに偶然いたのよ。」


「それで、イノシシ人間ってなに?」


「夜、襲ってきたモンスターよ。名前わかんないから見た目で名付けただけ。最後、私に襲い掛かってきたはずなんだけど・・・」


「オークの事?」


「オーク?」


「イノシシみたいな顔で、大柄で、力の強い奴。」


 あぁ、あいつ、オークって言うんだ。でも、そう言われてみるとどこに行ったのかしら?


「そうそう、そんな感じのやつ。最後よだれ出しながら近寄ってきたからホントに死ぬかと思ったわ」


「それなら、向こうの方で木に体がめり込むようにして死んでたわ。」


「めり込む?」


「そう、すごい勢いで押し付けられてたような・・・無理やり押し込まれた感じ。その感じだと、お姉ちゃんがやったわけじゃなさそうだね。」


「ふぅん。・・・」


私はそららの指さす方へ視線を送るも、その姿を確認することはできなかった。


「昨日の風が吹いたときかな?私はもう、動く力もなかったから」


「風?倒したのはお姉ちゃんじゃないの?」


「私は、弓を使ったんだけど、しくじって、この通りよ」


 私が送った視線の先には、エルフィンの矢が当たり、爆発した衝撃で木々がなぎ倒されていた。


「魔力はなくなるわ、衝撃波で吹き飛ばされるわ、馬車から落とされるわで散々よ」


「最後の、馬車から落ちたのはきららのせいじゃん!」


「そうだっけ?」


「そうだよ!うち落としてないもん!」


 顔を見合わせて笑ってしまう。

 あぁ。無事に生き残れたんだって感じ。


「エル、おなか減ったねぇ」


「エル?」


 なにか、すごく文句言いたそうな顔の彼女。そりゃそうよね。そららの大好きな名前だもん。まさか犬につけるなんて。


「そう、この子の名前よ」


「はぁ!?なんでエルなのよ!」


「だって、私が困ってた時に助けてくれた恩人だもの。エル様の代わりに守ってくれたんだわ。だから、エ

 ル。」


「いやよ!そんな小動物がエル様と同じ名前なんて!」


 顔を大きく左右に振って反対し続けるそらら。


「だって、そらら助けてくれなかったし」


「・・・それは、馬が暴走してうちも大変だったんだもん。」


「だから、今日はエルのお手柄よねぇ?」


「あうっ!」


 尻尾を振りながらエルは私の腕を舐めて来る。

 でも、昨日、誰がオークを倒したんだろう・・・。

 街道には昨日の夜に吹き荒れた風のせいで道一面に葉が落ちている。

 ま、いっか。助かったんだし。


「う、うちは認めないんだから!そんな小動物とエル様が同じ名前だなんて!」


 そららが伸ばす手を掴むと、私はゆっくりと立ち上がる。


「い、いたた・・・」


「と、とにかく、アレクサンドリアへ戻ろうか。」


 私はそららに手を貸してもらって馬車に乗る。そららの隣で横になり、エルを撫でながら、休むことにした。王都に戻って、早く原石を届けないと・・・。

 納期の日の朝はもう来てしまったのだから

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