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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第3章 宮廷に潜む闇
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9-3 鉱山へ

 私たちが王都を出発して数時間。

 馬車はすでに人狼ウェアウルフの森と呼ばれている場所の一角を走っている。


 こっちの方は隣国、魔道都市ルグナリアに通じる街道である。

 アレクサンドリアには、西にある私たちのヴィルサーナ領をはじめ、東、南とそれぞれ領主が存在する。さらにその先は国境、そして隣国へとつながる。

 北は険しい山の麓にある王国の所有地がある程度で、森と険しい山がそびえている。北には領主は存在しない。


 山を越えれば北にある魔道都市ルグナリア。

 この標高の高い山のせいか、魔道都市ルグナリアとアレクサンドリアはあまり国交がない。

 そのおかげでしばしば、お互いに仲の取り合いが難しく衝突するようだ。


「そら、あとどのくらいかかりそう?」


 揺れる馬車の上で私は少し拍子抜けしていた。

 ファミリアでは、『モンスターが現れるかも!?』と言われていたので身構えていたら気疲れをして、何もしていないのにすでに疲労困憊。


「こっちの方はあまりこないからね。うちもよくわかんない。でも、ハイムさんからもらった地図だと、もう少しで着くと思う。」


 そういうとそららは1枚の紙を私に手渡す。

 いや、見てもわかんないんだけどなぁ。これが。もらった地図をクルクルとまわしながら、そもそもどんな見方で、目的地なんだか文字も読めないしさっぱりわからない。


「モンスターとは遭遇しなかったわね」


「そう毎回何回も遭遇してたまるもんですか!本来モンスターなんて街道やうちたちの住む市街地には現れないはずなんだから」


「そうなの?」


 今までさんざんモンスターに遭遇し、追いかけまわされたこともある私には信じがたい言葉だった。


「ホント、今更なんだけど王国中の街道。これは宮廷魔導士様が結界を張ってくださってる結界がある。この世界でも、多分。だから、・・・あそこっ!!見て」


 話しながら途中自信がなくなる彼女だったが、馬車が街道を走ると都合よく小さな何かがあった。

 そららが指差す方向に緑に光るクリスタルが置かれていた。

 置かれている、と言うよりは街道の地面に小さな祠があり、そこに置かれている感じ。


「なに?アレ?」


「結界石よ。魔物を寄せ付けないクリスタル。この世界でも同じかわからないけど、だいぶ前の宮廷魔導士様が作った物。とエル様から聞いたわ。輝石を人工的に加工し、魔力を注ぎながら精製する。らしいけど。・・・とにかく!あれのおかげで、本来はモンスターに襲われることなく生活できるはずなの。」


 馬車は一瞬で祠の横を通り過ぎてしまう。


「ただ・・・」


「ただ?」


 そららは言いにくそうに重たい口を開いた。


「結界石で防ぎきれないモンスターもいるよ。例えば、人狼ウェアウルフとか。」


 深い緑に包まれる森に視線を送りながら怪談でもやっているかのような口調で話すそら。


「防げないって、どういう事?」


「つまり、ゴブリンみたいな弱いモンスターなら結界石の力で防げても、強いものは結界なんてビクともし

ないで街道や市街地へ出てきちゃうんだよ。そうなったら、本気でやらないと殺されるでしょうね。」


「つまり、今、街道でモンスターと遭遇したら本気で逃げないと死んじゃうってこと?」


「まぁ、勝てない奴に出くわしたらそういう事ね。だから、あまりへんなこと考えないでそのままモンスターが出てこないように祈ってて!」


 そんな、出会ったら死ぬかもしれないなんて全然安全じゃない!お城から出るとこんな世界なのね・・。

 そもそも、強い敵を防いでなんぼの結界なのに、それじゃありがたみが半減だわ。


 ウゥゥオォォォ・・ンン


 赤く染まる空に、獣の遠吠えが聞こえる。


「な、なに?今の?」


 私はあたりをキョロキョロと見回すが、そこには人の気配や、誰かの視線を感じることはない。


人狼ウェアウルフね。うちらが今あいつらの森に近いから。においで気づかれたのかも・・・」


「においって。そんなことできるの?」


「相手は人狼だよ?頭もいいし、あまり正直関わりたくない。アリシアがいれば、炎の魔法で撃退もできるけど・・・。うちらではあまり牽制もできないから、今は早く採掘場に行って他の人と合流しよう。人数が多くなれば人狼だってむやみに襲ってこないだろうから」


 手綱を握るそららは馬の走るスピードを上げた。



 意外と、採掘場はあれから近かった。

 まだ暗くなる前に採掘場に付いた私たちは馬車を適当なところへ停めると、ここで働く人の姿を探した。

 採掘場は山に穴がいくつもあけられていて、小さい村のような、集落のような形で家屋が並んでいた。

 村のあちこちには灯りが灯っていてここで働く人が生活している感じがする。


「こんなところモンスターがいる森に、人が住んでいるんだ。」


 私はあたりを見回すと、村の入り口には街道に合った緑に光るクリスタルがいくつか祀られている。

 ここも宮廷魔導士の加護を受けているようだ。

 蔽い茂る木々で暗くなるのが早く感じる。


「見て、お姉ちゃん・・・」


 そらは鉱山に空いた穴、洞窟の入り口を指差して呟いた。


「なにあれ。すごい。光ってる・・・」


 私の視界には鉱山の入り口が6色に光っているように見える。

 赤、黄色、緑、水色、白、黒。

 精霊の加護の色。

 坑道から輝石の放つ光がうっすらと輝いてみえる。

 山に開けられた坑道のほぼすべてが光り輝くその姿は幻想的なものだった。

 赤が強いところ。

 赤と青が混ざって紫のところ。

 いろいろな光が混ざっているところ。

 しばしその光景を二人でただ見つめてしまう。


「っおい!そこで何してやがる!!」


 私たちに声をかけ現実に引き戻したのは作業服をきた40歳ぐらいの男性だった。作業員。というには少し品のあるおじ様だった。

 私たちは身体をビクンっと動かして驚いてしまった。

 なにも、そんな大きな声で言わなくてもいいのに。


 まぁ、輝石の採掘現場なだけあって、国としても重要なポジションなのだろうか。部外者はお断りらしい。

 今私たちを睨み付ける赤毛で短髪のおじ様も、私たちが輝石を盗みに来たとでも言いたそうな顔をしている。


「あ、あの。うちたち輝石をもらいに・・・」


「あぁ!?輝石だと?やっぱ盗賊のもんか!?」


 明らかに場の空気が悪くなる。

 これ、逆効果っていうか、最後まで言えばいいのに!


「ごめんなさい。私たち、王国の依頼で輝石を取りに来ました」


「剣と弓を持ってか?話し合いにはそんな物いらねぇだろが!」


 確かに・・・。

 でも、これがないと襲われた場合こっちが危ない。


「ちょっと待ってください・・・。これ、依頼書です。」


 私は弓を地面に置くと、そらが握りしめてクチャクチャになった依頼書を持ち男性に手渡した。

 怪しそうに見ていた男性が一通り依頼書に目を通すと、一応理解してくれたような感じがした。


「こっちだ。責任者のところに連れて行ってやる。ついて来い」


「あ、ありがとうございます!」


「俺から離れるなよ。ここは輝石の発掘で重要な場所なんだ。よそ者が勝手に歩いていると盗賊と間違われてもしかたないからな」


「はい・・・。」


 おじさまの凄みに負けて萎縮してしまう。


「なによ。あの言い方。気分悪い。」


「こらっ!余計なこと言わないの!」


「ふんっ」


 そららが私に隠れてブツブツと言っている。

 臆病なんだか、強がりなんだか・・・。年上には噛み付かないのかしら?


「あの、責任者の方ってどちらにいるんですか?」


 集落の中を歩く私たち部外者はここの人間からしたら珍しいようで、すれ違う人にジロジロと見られていた。

 興味があるだけのような人から、今道案内をしてくれている人のように敵意がある人もいる。


「村の中心だ。もう見えるだろ。」


 指をさした方向に他の建物よりも大きく、レンガでできたような建物が見える。


「あれ、何かしら?」


 建物の隣に灯りに照らされてキラキラと輝くものが無造作に置かれている。


「あれは、鉄鉱石、銀行石、銅鉱石、金やガラス。この鉱山で採れる輝石以外の鉱石だ。いわゆるおまけだな。」


「あれで、おまけなんですか!?」


「あぁ、輝石の発掘をメインでやっているんだ。他の鉱石はついでだ。だが、触るなよ?あれも国へ渡さないといけない。ここの連中は興味がないから野ざらしだが、他の国では貴重な鉱石なんだ。発掘権で戦争だって起きる。あまりチョロチョロしないでさっさと用事がすんだら出ていけ」


 そう言いながらおじさまは扉を3回ノックすると、返よりも先に扉を開けた。


「ほらっ、さっさと行ってこい」


 さっきの依頼書を渡すと、そららと私が中に入るのを見るとそのまま扉を閉めてどこかに行ってしまう。

 部屋の中にはさらに扉。奥にも部屋があるようだ。

 この部屋にも珍しい石や、輝石らしきモノ、光る鉱石がたくさん棚に並んでいるが、さっき忠告されたばかりなのでここは潔く奥の扉へ向かう。


 コンコンコン・・・


「どうぞ。開いてるから開けてください。」


 私たちがゆっくりと扉を開くと中には20代くらいに見える若い男性が座っていた。


「おや、見ない顔だね。君たちはどうしてここにいるのかな?」


 にこやかな笑顔とは反対に手には青く輝く輝石が埋め込まれた短剣ダガーを持っている。

 肩まで伸びるオレンジ色の温かそうな髪。言葉とは裏腹に少し冷たい青い瞳。それは私にも作り笑顔だとわかるような笑顔。

 私もそららも手に取るダガーを見て背筋が冷たくなる感じを覚えた。


「い、いきなりすいません。道案内をしていただいた男性がここまで連れてきてくれました。」


「うちたちは、怪しいものではございません。この度、王都アレクサンドリアのファミリアマスター、ハイム様より正式にクエストの受注を受けこの地に来ました。」


 そららが珍しく、他人口調になっている。最近は聞いてなかったから、変な感じだなぁ、と隣で見守ってしまう。さっきのおじ様はだめなのに、こっちは普通にしゃべれるのね。


「正式に受けたのなら、何か証拠があるのかい?」


「ございます。お姉ちゃん」


 そららが肘で私を小突く。


「え?あ、あぁ。はい。こちらでございます。」


 私は男性に握りしめてクチャクチャになった依頼書を見せる。


「ずいぶん。ぐちゃぐちゃなようだけど・・・」


「申し訳ございません。薄暗い中こちらの作業員の方に声をかけられたときに驚きのあまり、その、握りつぶしてしまいそのようになってしまいました。お目汚し申し訳ございません。ですが、今現在証明できるものはそちらのみでございます。」


「・・・。でも、紙は本物のようだ。ありがとう2人とも。あまり時間がない急な案件でね。頼らせてもらうよ」


「は、はい!ありがとうございます!」


「僕の名はルカ。ルカ・ローズ・リーベルト。ルカと呼んでくれてかまわないよ。この採掘場の責任者であり、宮廷魔導士の一人。よろしく頼むよ」


「私はきららと申します。きらら・ウィル・トルヴァニア。こちらはそらら。妹です。以後、よろしくお願い申し上げます。ルカ様」


 私たちはルカに頭を下げる。

 宮廷魔導士。エルドロール以外で初めて見た。

 王国に使える人でもこんなに冷たい人雰囲気の人がいるんだなぁ。と、正直に思った。


「トルヴァニア・・・。あの神樹と同じ名前か。珍しくて、とても気品のある名前だね」


「お褒めにあずかり、身に余る光栄でございます。ルカ様」


「そんな堅苦しくしないでいいよ。さぁ、それじゃあ鉱山へ向かおうか。」


 ルカは立ち上がると銀色に煌くローブを纏い、ダガーを内側のホルダーにしまうと建物の外に向かった。

 私たちはルカの後を追い、夜の鉱山へと向かった。

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