EXTRA 冬に咲く花 4
さて、どうしたものか。
私はいつもと違うこの城下町にひとりぼっち。
案の定アリシアともそららともはぐれてしまい行く宛のない私。
唯一いつもと違うのは、屋敷の鍵を持ってるのが私だから、帰ろうと思えば何時でも帰って寝れること。
普段なら、得たいの知れない森の中。とか、どっか遠い国とかでひとりぼっちにされるけど、今回ほど一人でも心強い場所はないわ。
だから、今私は余裕なのよ。
だからこそ、私は困る。
帰るか、あいつらを探しにいくべきか、好きなことするか。
「まぁ、適当に歩いて帰りますか」
誰に言うでもなく、自分の考えた結果を口にするとそのまま人の並みに乗って散策を始めた。
とりあえず、せっかくだから見ていこう。
それで、馬車へついたら帰るか、フランにアリシアのことを聞きにいけばいい。
安易な結果だけど、ここでアイス食べて立ってても仕方ないし。
特に考えもなく、そのまま行くあてもなく歩き出した私の前に大きな人だかりができていた。
(おっ?もしかしてそららがまた誰かともめてるかも?)
人混みにイライラして誰かともめてるイメージがすぐに浮かび上がると、少しにやけた顔で人の間を縫うように進んでみる。なんだかんだ言いながらも、そららがすぐに見つかってやはり嬉しいものだ。
ようやく、先頭までたどり着くとそこには立て札が1枚。
私には解読不能な文字が羅列を並べている。
周りの人はガヤガヤとして立札を見ては上機嫌で去っていく。
なんと書いてあるものか。
私は誰か知り合いがいないか見回しているが異国の人間も多く、顔見知りとは会えない。
(とにかく、ここにはそららがいなかったわね)
私は少し肩を落とし、そのまま人だかりを離れようとした。
「おねぇちゃん!」
私は聴き慣れた声を受け振り返ると、そこには小さな私の知り合いが立っている。
「ローレン!あなた、こんな時間に出歩いてていいの!?」
「今日は特別なの。お店のお手伝いもしないといけないし・・。それより、今日はエルちゃんも、他のおねえちゃんもいないの?」
「あはは・・・、そうなのよ。みんな勝手にどっかいっちゃって。あっ!ローレン、あの立札なんて書いてあるかわかる?」
「ふだ?」
私が人だかりの先を指差すとローレンは背伸びをしてみるも、目に入らないようだ。
やはり、子供の身長では見えない。私も見えなかったし。
「ここからじゃ見えないよー。でも、おねえちゃんさっき見てきたんじゃないの?」
ギクッ・・・。
「いや、行こうと思ったんだけど途中で引き返したのよ。人が多くて・・・」
小さな私のプライドが、『文字が読めないおばかさん。』なんて思われたくないせいで純真なローレンに嘘をついてしまった。ごめん、ローレン。
私が照れくさそうに笑っていると、通りの向こうが急に賑やかになった。なにかイベントだろうか?人が一気に音のする方向へ流れていく。さっきの人だかりが嘘のよう。
「人、いなくなったね。なんて書いてあるのかな?」
神様のばかやろう。いるなら、ホントに殴りたい気分だわ。私に恥をかかせようってことかしら。
「うん・・。そうね」
そこには立札が一枚。
「あー、なるほどねぇ」
私は、意味も分からず適当に相槌を打ちながら時々ローレンの顔を伺いながら出方を待つ。
なんて書いてあるのかしら。
「あー、いいなぁ。おねえちゃんも見に行くんでしょ?」
「え?っみ、見に行く?そそそ、そうねぇ。行こうかしら。でも忙しいからなぁ」
「もったいないよー。宮廷魔導士の出し物かぁ。パパに言って見に行きたいなぁ」
「いいじゃない。聞いてみなよ。。ハイムさん、優しいからOKしてくれるかもよ?」
「うんっ!早くお店の用事済ませなきゃ!バイバイ!おねえちゃん!!」
ローレンは私に手を振ると真っすぐにお店に向かって駆け出した。
(宮廷魔導士の出し物・・・。だからアリシアは連れて行かれたのか)
ローレンに手を振りながらとりあえず、アリシアが連れて行かれた理由はわかった。
でも、見に行くとは?
彼女の姿が見えなくなったあと、とりあえず行くあてもなく歩きだした。
「なんか、わたしだけ蚊帳の外ね」
ひとり、東門の外にある大樹、その正体は私たちの育ての親である元エルドロール伯爵。理由あって今はこのような姿になっている。当然、会話もできないし、知らない人から見れば私は気が好きな人、にしか見えないだろう。
ため息をつき、そのまま気にもたれかかるように座り込む。
確かに、街は綺麗。
この世界に来て、初めて明るい街を見たわ。夜の都心のような明るさ。人も多く、いろいろ売ってるしイベントも多くてなんだが懐かしい。
でも、そのせいかなんだかちょっとさみしい。
そららはいなくなっちゃって、アリシアも連れていかれちゃった。
なんか、つまんないな。
座り込む私に、枝と葉が擦れて話しかけるかのような音を出している。
「元気出せって、言ってくれてるんですか?」
「あぁ、そうだな」
「・・!!?」
私は驚きと恐怖に固まってその場に身構えた。
ただの木が返事をするわけがない。
「だ、だれ?」
今は武器もない。戦う術がないのだ。こんな時に・・・。敵!?
「そんなに怖い顔するなよ。驚かせてごめん、僕だよ」
強張る私の顔をみて、なんか言いたそうに暗闇から姿を表せたのはフランだった。
私は見慣れた人物の登場に安堵し再びその場に座り込む。
「なによ、いきなりおどろくでしょ。」
「いや、さっき街から出るのを見かけたからついてきたんだ。今日は異国の者も多く危ないかも知れないからね」
言いながら彼は何気なく私の隣まで来ると立ち止まる。
「今日は、楽しめたかい?」
「んー、そうね。楽しかった・・・。と思うわ。」
「それは良かった。あぁ、君の妹。ちゃんと城で預かっているからね」
「お城で?」
「あぁ、酔っ払いに絡まれて喧嘩しているところを捕まったんだ。まぁ、目撃者の話では酔っぱらいが悪いようだから注意くらいで済むとは思うけど、朝までは開放してもらえないと思うからさ。」
あぁ。やっぱり揉め事はお越していたのね。
あいつはどうしてこう、いつも誰かと揉めるのかしら。
「もうすぐ、始まるよ」
私が呆れて笑っていると彼は木に背中を預けて上を見上げながら言った。
「始まる?」
「うん、アリシアやリカ達宮廷魔導士の出し物。」
出し物。
そういえば、さっきローレンもなんか言っていたわね。
「出し物って・・・何が始まる」
私が最後まで言う前に空が昼間のように輝いた。
一瞬明るく、真っ白な光に包まれると再び暗い夜に戻り、空には巨大な火柱が昇っている。
「あれは・・・」
ここからだと、少し見えにくいけどあれは宮廷魔道士の試験の時にアリシアが出した火柱に似ていた。
風が巻き起こり、火柱は勢いよく天空へ上り、下がりを繰り返しこれから始まる何かを予感させていた。
真っ白に輝く光、小さな、本当に小さな氷の結晶がそれに反射しキラキラと輝きアレクサンドリアの上空すべてを輝かせる。
「今年は、過去最高傑作だな。アメリア、アリシアの氷と炎の魔道士がいると、ここまで変わると
は・・・」
「これは、なに?」
「宮廷魔道士から国民へのプレゼントさ。魔導士が国民へ出来る魔道士らしい形での・・ね。」
ばぁぁぁあん!!
一際大きな音を立てて、夜空に大きな花が咲いた。
「あれは・・花火」
アリシアの炎と、アメリアの氷の融合魔法。魔力で作った色とりどりの氷を一瞬でアリシアの創造した新たな魔法で一瞬で砕く。
その氷は炎は夜空に大きな花の模様を描き、その周りに砕かれた色鮮やかな氷が乱反射し何色にも色を変えていた。
「おぉ!!綺麗だ。虹色の花が夜空に咲くなんて」
花火を知らないこの世界の人はそれは驚きだろう。
きれいだなぁ。
不意に、頬を涙が伝うのがわかった。
やっぱり、さみしいんだ。私。元の世界が恋しい。戻りたい。でも、そんなこと言えない。いろいろな葛藤が私の瞳からこぼれ落ちる。
「きらら?どうした?」
「うんうん、なんでもないの。大丈夫。少し、眩しくて涙が出たのよ」
フランに言っても通じないし、私はそのまま前に歩きだした。
「行こっ!アリシアも見たいし、そらも迎えにいかにとっ!?」
私の左手をフランがつかみ、珍しく真剣そうな顔でこっちを見ている。
「な、なに?」
なんだろう、心臓が高鳴るのが分かる。
意味なんてない。
こんなところで、ただ友人のフランがいる。
いきなり掴まれて驚いただけ。そう言い聞かせていた。
「あ、あのさ。言いたいことがあるんだけど・・・」
「うん・・なぁに?」
珍しく言いにくそうに、彼は私の手を掴んだまま続けた。
私も、それにどう答えていいのか分からずにそのまま彼の言うことを黙って聞くことにした。
「今、誰か好きな人はいるのか?」
「すっ、好きな人!?いないわよ。特別そんなの」
「そうか・・・」
挙動不審な私を見ても何も言わないで、そのまま何か一人満足そうに彼は笑っていた。
「な、なによ?いなかったら、なんだって言うの?」
「いや、その・・」
彼は私の手を離した。
私は、彼と少し距離を取って正面から向き合った。
こういう場合、いきなり抱きつくとかされる可能性がある。
べつに、嫌ではないけど、いい気分もしない。
でも、なんだろう。私の中にもうひとつの心が。この体の持ち主の心があるならば、きっとそれが今すごい高揚感を持っている。ずっと好きだった人と対峙したような、そんな感覚。
・・・。
相手の呼吸すら聞こえるのではないか?と思えるくらい静かな時間が流れた。
夜空には、再び大きな花火が広がる。
「と、とにかくいこっか?」
「いやっ!待ってくれ。俺は・・」
現場の雰囲気に耐え切れなくなった私はどうにか逃げ道を探すも、どうやら無駄のようだ。
(だ、誰か助けてー!!こんなのどうしたらいいのよ!!)
「俺は・・。俺は・・。」
多分、これって
『俺はきららのことが好きだー!』
とかって行くパターンよね?まさか、アリシアが好きとかで仲を取り持ってくれとか言わないわよね・・・。でも、仮に好きだって言われたらどうしたらいいの?この体の本人はフランが好きかもしれないし、私が断っていいの?どうしたら・・・。
「俺は、小さい頃からお前のことが・・・っ!?」
ゴンッ・・。
「あっ・・ふふふ、あはは!!」
フランの言葉は、最後のひと踏ん張りのところで大きな木の実に妨害された。
フランの頭に大きな大きなドングリのような木の実が直撃したのだ。
さすがに痛かったらしく、その場に倒れこんで悶絶している。
たまらずおかしくて笑っちゃったわ。エル様も、もしかしたら私に元気出せって言ってくれてるのかも。
それに、悪い虫がつかないように見張ってくれているのかもしれないわね。
「ててて・・・。こんな木の実、今落ちてくるか?普通」
自分の顔よりもでかい木の実を見ながら頭を撫でるフラン。
その姿を見てとりあえず元気そうであることを確認した私は再び街へ向かって歩きだした。
「ほらっ!おいてくわよ!!」
今は、この世界を楽しもう。帰れる時が来たら、きっと帰れるから。
拘留中のそららを受け取るのと、頑張っているアリシアを見に私は何か言いたそうなフランをあとにアレクサンドリアへと向かった。




