EXTRA 冬に咲く花 2
馬車が揺れ、私たちはいつもの道を、いつのもように進んでいく。
違うことといえば、今日は年に一度の特別な日。
ふたりの妹たちはまだ見ぬ何かに心を躍らせているようだった。
「アリシア、なにか知ってるの?」
「なにかって?」
「ほら、なんかそわそわしてるから」
なんとなく、外の景色を見たり、そわそわして落ち着きのない様子が気になって声をかけてみた。
『何が?』って顔をしてるけど、いつもいろいろなものに興味をそれほど示さないあなたがそんな落ち着かないなんて・・。しかも無意識で。
「別に、なんでもないけど・・・。変だよね。体が勝手にさ。昔・・・」
「むかし?」
「きっと、アリスがこの世界に来る前、この体の持ち主はきっとこの日に何かあったんだと思う。ねぇねに言われたとき、何かを思い出しそうになったんだけど・・・」
照れくさそうに左手で馬車の窓に何か書いているその姿は、乙女のように見えたわ。
なんていうのかな、こう、恥ずかしいというか、言いたいことが言えなくてモジモジしているような・・・。
「で、思い出せた?」
「うぅん。よくわからなくて」
「今日、王都で何があるの?」
「ぶぇっくしょい!!」
アリシアが『さぁ?』って顔で首をかしげるとほぼ同時に、外からおじさん顔負けのくしゃみが聞こえてくる。普段聞いたこともないようなくしゃみ?に肩をすくませて目を合わせる私たち。
「ふ、ふふふ・・・」
「あははっ!!今の、そらら!?」
急に面白くなった私たちは吹き出すように笑いあった。いつもはあんなに、『メイドとはっ!!』とか。『礼儀正しく』なんて言っているそららが、あんなおじさんみたいなくしゃみをしながら馬の手綱を握っていると思うと面白くて仕方なかったの。でも、確かに外は寒そうね・・・。冬だし、夜だし・・・。しかも、お風呂上がりにコートを羽織っているだけ。
「そらっ!!とめて!!」
「なぁに?どうしだの?」
そららは鼻水が詰まったような声で答えたあと、馬車がゆっくりと減速し止まった。
やっぱり、外は寒いらしい。
「どうするの?きら」
馬車を止めた事を不思議がるアリシア。
私は馬車の扉をそっと開いてみる。
開けた瞬間に、隙間から冷たい夜の空気が入ってくる。
(寒い!こんな中、あの子は馬車を走らせてたの?・・・。)
すきま風に心折れそうな私は、そらの鼻水が垂れた顔を想像すると面白さと可哀想さで胸がいっぱいになって一気に扉を開けた。これだけ寒い中、1人おいてはいけないもの。
「さ、さむいよっ!!」
アリシアが一気に縮こまってこちらを驚きと、睨むような顔で見ている。
私も、寒い!!
「来て!アリシア!」
「ちょ・・!?外へ!?」
私はアリシアの手を掴むと外に飛び出して、そのままそららの隣へアリシアを押し上げる。私もいつかのように置いていかれないようにすぐにアリシアとそららがいる運転席へ乗り上がる。
やっぱり、寒いわね。ここ。
「おねえちゃん?どうしたの?」
すでに顔が真っ赤。耳も、鼻も赤くなって、鼻水が滴っているそらら。
いつもは威張って、おこりんぼで、頑固だけど、こんなに世話が焼けて可愛いところがあるなんて・・・。まだやっぱり妹なのね。
隣でガチガチ震えるアリシアは何か言いたそうな顔でこっちを見ている。
視線が、痛いわ。
「寒いでしょ?そらだけ」
私の問い掛けに、『えっ?』って顔で一瞬驚いたような顔のそらら。
「たしかに、寒いけど。・・・馬車はうちしか操縦できないじゃん?」
「そうなんだけどね。でも、一人だけ寒いのは可哀想っていうか・・・不公平じゃない。だから、3人でいようかと思って」
「でも、・・・」
「大丈夫、アリシアがいるじゃない?」
『はぁ?』と、なにか言いたそうな顔をしている彼女。
この世界には、車もない。暖房なんて、せいぜい暖炉程度。だけど、魔法がある。
「アリシア、炎を出して?そららが風邪ひいちゃうから」
「あぁ!そっか!」
「いいけど・・。燃やすものがないと魔力が・・・。」
「大丈夫!うちがスーパーテクニックで過去最高記録を樹立してみせるわ!」
(いや、走るのは馬で、道は1本だから何をどうしてもそんな時間は変わらないと思うけど・・)
自信満々の鼻垂れそららを見ながら心の中で思ってしまったけど、そこは黙ってアリシアに『お願いっ!』と両手を合わせてみた。
「別にいいけど・・・」
アリシアは断りきれないと察すると、指をパチンっと鳴らして手のひらに炎のたまを作って見せてくれた。その球体は周りの空気を吸い込み、少しづつ大きくなり、両手を広げたくらいの大きさのところで成長を止めた。でも、オレンジに光る炎はあたりを煌々と照らし、暖かさを感じた。
『あ、あったか~い!』
3人、炎の球に寄り添うように近づいて、お互いの顔を見て思わず笑ってしまう。
そららも手袋を取って、赤く小刻みに震える指先から冷えていたことがわかる。
妹に辛い思いをさせてしまったことを悔いる私に気がついたのか、そららは急に明るく振舞ってくれた。
「よしっ!あったまったし、人間暖炉のアリシアが居てくれればあったかいぞぉ!!早く王都にいかなくちゃ!」
再び手袋をはめると、手綱を持ち再び馬車を動かし始める。
「獄炎障滅陣」
夜の空気が、私たちにあたると、アリシアがもう一つ魔法を馬車にかける。
魔法防御ではなく、物理防御の魔法。
「寒い。風が来ないように・・・」
馬車を包み込むように淡い、赤いベールが光っている。うん、目立つけど、寒くない!
むしろ、炎もあって暖かいかも・・・。
「アリシア、やるぅ!さすがうちの自慢の妹だわ!」
「ほんと、どっかのおじさんとは大違いね!」
「ちょ!?おじさん!?誰のことよ!ってか、くしゃみのこと誰かに話したらホントに怒るから!掃除もしないし、ご飯も作らないし、何にもしないんだからぁ!!」
そららの怒りの叫びは私たちには耳に入っていなかった。だって、目の前に見えてきた王都の入口には夜とは思えないほどの賑わいがあったから。




