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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第2章 黄昏の悪魔
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8-10 魔力の限界

「炎の精霊フレイア。我が望みを聞き届けよ。紅蓮の炎を現世へ。」

 海岸にアルビドの魔法詠唱の声が響く。

 彼の身体には紅いオーラのようなものが纏い、闇夜の中うっすらと明るく見える。

「きら!早く!!」

 私の手を引張って船の残骸を物色するアリシア。

「な、なに!?どうしちゃったのいきなり!」

「頭を吹っ飛ばすくらいの攻撃、この距離からじゃできない。離れないと」

 アリシアは波間に浮かぶ木材で一番大きなものを選ぶとゆっくりと沖の方に押し始めた。

 なるほど。攻撃するのに距離が必要ってことか。

「我が望みは世界の滅び。我が望みは世界の混沌」

「これは、紅蓮爆砕陣フレアボムズ!?アリシア以外で、しかも宮廷魔導士見習いのくせに使えるの!?」

 今まで何回か見てきたけど、アリシアの魔法の中でもかなり威力の高い魔法だった。それが、こんな奴が使えるなんて・・・。

「うん、そうみたい。しかも、妖精と契約しているくらいだから、本当はかなり手ごわいと思う・・・。火属性以外も使えるみたいだし・・・」

「妖精?」

「うん、また今度詳しく話すよ。今は急がないといけないから」

 浮いている木材をオールの代わりにして私たちは少しでも沖の方へ向かう。

 確かに、さっき風属性も使っていたし、アリシアみたいに火の魔法だけってわけじゃないみたい・・・。

「紫頭!くるぞ!!隠れろ!!」

「うるさい!!金色頭!」

 そららとモロゾフも口喧嘩をしながらお互いにアルビドの魔法に備えて離れているようだ。

紅蓮爆砕陣フレアボムズ!!」

 アルビドの声で現れたオレンジ色の炎の球。それは1つだけだった。

「1個?」

 私は顛末が見たかったので漕ぎながら振り返ってみると、そこにはアリシアと同じ魔法とは思えないくらいひ弱に見える炎の球があった。

「魔法は、使う人の魔力に比例する。だから、あの人の魔力ではあれだけ。でも、使えるだけすごい。」

 アルビドから放たれた炎の球はそのままクラーケンに向かう。


『ギュゴォォォ!!』


 クラーケンが叫ぶと同時に、海岸には突風が吹き荒れる。

 雷と同様、これもクラーケンの攻撃技の一つなのだろうか・・・。

 そららが使っていた風魔法よりも激しい風が海岸にいるみんなを襲う。

「アリシア、みて!」

 アルビドが放った炎の球は突風によりその進行を止めてしまう。クラーケンは傷ついた触手を前に出しを接触させると爆発を起こす。

「防がれちゃったみたいだね・・・」

 私たちは沖から海岸を一望できるところにいた。

 瓦礫の上にいるアルビド、その後方にいるトロイア。クラーケンと対峙するようにそらとモロゾフの姿。海賊たちはモロゾフたちのフォローをしているようだった。

「あっ!また光ってる!!」

 私はクラーケンの体に閃光が瞬くのを見た。

 ―また、雷がくる。

「みんな逃げて!!また電撃がくるわ!!」

 みんなに声をかけるも、私の声は海岸まで届かなかった。


 パチパチ・・・


 その閃光は次第に強くなる。

 アルビドも変わらず魔法を撃ち込んで、モロゾフやそららもクラーケンの体を斬りつけていた。

「早く逃げて!雷がくるの!!」

 私の声は戦場に消えていく。

 波の音、風の音と混ざりそれに気づいた人はいないようだった。


 ドォォォオオンン!!


 先ほどの電撃とは比べ物にならないくらいの轟音が響き渡る。

 クラーケンはその身を避雷針のように使い、辺りに所かまわず電撃を放電した。

 行き先がない電撃はその場で一番近くにいた人間を片っ端から襲っていった。

 つい数秒前の事が嘘みたいに海岸は静かなものだった。

 悲鳴も聞こえずに、雷の音が響き渡るだけで、舞い上がった砂塵が風に流されていくと隻眼のクラーケンの姿がゆっくりと現れる。

「そらっ!!みんな!!」

 私の声に返事を返すものはいなかった。砂塵の舞う海岸に立ち上がる人影はなく、ボロボロのクラーケンが怒りの色を表し今、海に向かって動き始めた。




 揺れる水面に漂う私たち。

 空が少しづつ明るくなり、深い、長い夜が終わりを告げようとしていた。

 あと、少しでどのみち決着がつく。

 ここで、クラーケンを取り逃してしまうか・・・。

 蒼月の破壊者を倒し、このネスタに平穏が訪れるか・・・。

 最期の決着の時が来た。

 アリシアが立ち上がると、クラーケンと対峙する。

 私に背を向けたまま、アリシアは続けた。

「きらら。今から、アリスが全力で魔法を使う。」

 いつもより、冷たい、低い声で彼女は言った。

「うん。」

「ちょっと、どうなるかわからない。」

「えっ?それ、どうゆこと?」

「魔力が足りない。フレイアもいない。でも、アリスは火属性の最大魔法を使うつもり。」

「どう・・・なっちゃうの?」

「だから、わからないの」

 小さな体は震えていた。

 自分が、これからどうなるのか想像がつかない。

 その恐怖に。

 私は、その体を後ろからギュッと抱きしめていることしかできなかった。

「私が、アリシアの事支えてる。」

 彼女を抱きしめる腕に力が入る。

「アリシアがどこにも行かないように、何があっても、このままアリシアを抱きしめてる。」

「うん、お姉ちゃん。昔からアリスが困ってるとそうやってくれてた」

「そうだっけ?」

「そうだよ。まだ若いと思ったけど、もう記憶がないのかな。困ったおばあちゃんね。」

「ちょっと、だれがおばあちゃんよ」

 私はアリシアの頬っぺたを両手でつまんでウニウニと伸ばす。

「ちゃんと、アリスを離さないでいてよ?」

 彼女の小さな手が、私の手を掴む。

「わかった。」

 穏やかな気分だった。

 別に、なにかどうなるとか、そんなことは考えていなかった。

 アリシアの身体を抱きしめていると、不思議と目の前に迫るクラーケンとの戦いの恐怖はなかった。

(私たちなら、どうにかできる)

 何の根拠もないけど、私はそう信じていた。

 彼女は深い深呼吸を何回かすると、その小さな両手を天高くに突き上げた。

【深紅に染まる紅き世界の住人よ】

 アリシアの呪文詠唱が始まる。

 今までに聞いたことがないものだった。

 獄炎神召陣ヴァルカノイド・テラでも、紅蓮爆砕陣フレアボムズでもない。

 もっと高位の魔法。

【古より輝き燃える焔の龍】

 アリシアの身体に紅い光が纏われる。

 その光はアリシアの呪文詠唱に合わせ少しづつ大きく、より強い光を発しているようだった。 

【光の神ルミナスの名において

 古き契約の印をここに捧げん

 我が願うは世界の滅び

 我が願うは世界の混沌

 我等に仇なす全ての者に、終わりなき絶望を】

 彼女の身体に纏わりついていた光は上空で紅い、燃えるドラゴンの形を形成していた。

 そのドラゴンは大きく口の中に炎の液体を含んでいた。

 唾液のような、溶岩のような燃える液体は海に落ちると恐ろしいほどの水蒸気を発してその場から消滅していた。

火龍緋焦撃ドラゴニル・ブレス

 アリシアの声が、輝く水平線に響いた。


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