7-1 月夜の水面に現れたるモノ
「もぉ、ムリ・・・」
大きめの流木の上で横になりゲフッとぐったりなそらら。
「アリスも、さすがにもういい。」
砂浜に座り込んでぐったりするアリシア。
そうね、もういいんじゃないかしら。
20人前以上あった肉。半分をアリシア、あんた1人で食べ尽くしたんだから。
そらも今日はよく食べたわね。
戦意喪失の2人を見ながら、私はさっきの3バカのやり取りの後に漁師の方から頂いた魚や貝を焼きながら残った数人前のお肉と魚や貝を1人ゆっくりと焼くことにした。
漁師の方も、田舎だからとなめて来る若造はムカつく!と、ご褒美をいただいてしまったのだ。
あのあと、3バカが消えた後にアリシアに火がつかない。とお願いしたところ昨日の洞窟で使ってた炎で一気に着火できた!
そもそも、そんなことできるなら、このマッチもいらなくない?と思ったんだけどあまりご機嫌がよくなかったのでそこは黙ってた。次回は、最初からお願いしよう。
その後はもうハチャメチャ・・・。アリシアがもうむちゃくちゃにお肉を並べるから、一気に脂が燃え上がるわ、お肉はそのまま炭のようになるわで大変だった。
まぁ、楽しかったけど。
途中、落として砂まみれになっちゃって海で洗ってまた焼いたりしてたみたいだけど、普段やれないことがたくさんできて面白かったのは事実ね。
野菜は荷物の都合上持ってこれない。(おもにアリシアのお肉のせい!)魚は3バカのせいで釣る時間がない(結果的にもらえたけど)。といくつかトラブルもあったけど、すでに二人はゴロゴロと横になって満足そうだ。
「2人とも、牛になるわよ」
「アリス、牛のように大きくなりたいから寝てる」
「うち、もう牛みたいなもんだし。お姉ちゃんも、横になったら?」
「うるさい!!」
言い負かされてしまった。気にしてることを。
「満月??」
そらがニヒヒッと笑いながら腕を上に伸ばす。
空には大きなまぁるい月ときらめく星々。
「満月は明日。今日はまだ満月じゃないよ」
「アリシア、よく知ってるのね」
「魔導士にとっては常識」
よくわからないけど、そうなんだ。とりあえず適当に相槌を打っておく。
「おねぇちゃん!さっきの3バカの中にいた、金髪の奴覚えてる?」
「んぁあーと、モロゾフだっけ?宮廷騎士の」
「そうそう!あいつ、本当に強いと思う?」
「どうかなぁ。正直、そらよりも弱いんじゃない?」
「だよねぇ。あんな奴がいるなら、うちも宮廷騎士になろうかな。根性叩き直してやらないと」
「ちょっと!領主の仕事はどうするのよ?」
「ふふっ、うそだよ。騎士とかめんどいし。うちはエル様と思い出の詰まったあのお屋敷から離れたくないもん。それより、王宮魔導士見習いの奴いたよね?」
「あぁ、あの弱そうな緑の髪?」
「わぁお!お姉ちゃん、珍しくハッキリ言うねぇ。」
あ、ついつい口が滑ってしまった。
「ねぇアリシア、さっきの本気?」
「なにが?」
苦しそうにお腹をさすりながら、ゴロンっとそららの方に寝返る。
「さっきの3バカにやった攻撃よ。どのくらい本気?」
「うー・・・どのくらい」
お腹をさすりながら考えているようだ。
考えている・・・のかな?
・・・おーい?
「聞いてる?」
しびれをきらしたのはそららだった。
「ごめん、あんなの、ヘルムの村では赤ちゃんでもできるくらい。」
あ、赤ちゃん以下?
『ぷっ、ふはははっ!!』
私とそららは顔を見合わせて笑う。
赤ちゃんでもできるようなことで、大の男3人が尻尾巻いて逃げるなんて。
「なにがおかしいの?」
涙を拭きながらそららが起き上がる。
「お、おかしいっていうか、なんかうちの妹はすごいんだなぁって」
「そーね、本当にこのまま宮廷魔導士、王宮魔導士になっちゃうんじゃないかな?って思って」
「そんなにおかしい?」
不機嫌そうに、ふんっ!とした感じで起き上がるアリシア。
「ごめんごめん!うちたちの自慢の妹だよ!」
「そうね。きらもアリシアの事大好きだよ!」
不機嫌そうな顔のまま仰向けにゴロンと転がっている。
「また・・・」
苦しそうな顔から、急に真剣そうな顔をしているアリシア。
「また?」
「また、来るかな。昨日の船」
昨日、洞窟から出たときに見たあの船か。そう毎日来ないと思うけど。
「なに?なんか気になるの?」
「ん?うんー。あ、来た」
アリシアが指さす方向には暗い海にうっすらと浮かぶ船体。
漁船と比べ物にならないくらい大きい。間違いない。昨日の船だ。
「昨日の?」
「うん。そうだと思う。」
風に揺れているのか、船の明かりが揺れている。
私たちは船が入り江に近づいてくるのをただ、呆然と見ていた。
その大きな船体はゆっくりと近づいてきて、昨日と同じくらいの場所で制止する。
「あそこって、そんなに深いのかな?随分近くに見えるけど・・・。」
そららが口を開く。
「あんな大きなもの、ムリなんじゃない?」
「アリスも、今日ずっと考えてた。多分、ムリ」
船は静かに、その場に停泊しているだけで動こうとはしない。何かを待っているのだろうか?
「桟橋??」
私は桟橋に目を移すが、そこには誰の姿もない。
「昨日と同じなら、誰かいると思ったんだけど」
昨日のように、荷物を引き取るわけではなさそうだ。
「荷物が降りて来るとか?」
そららの提案もむなしく、しばらく様子を見るも動きはない。
「もぉー!!一体何なのよ!あいつは!!」
ちょっとキレ気味のそらら。確かに、2日連続であそこにいると気味が悪い。
「あれは?」
アリシアの指差す方向にオレンジのような、赤のような光が海に浮かんでいる。
「なにかの、ひかり??」
「お昼にお姉ちゃんが何かあるって言ってたところじゃない?」
あぁ、そう言えばそんなことも言ったかも。すっかり忘れてた。
でも、その光は今にも消えそう。
「もうすぐ消えそうだけど、どうするの?」
私はそららを見ながら、どうする?とは聞いているものの『行け!』と目で訴える。
「どうするのって、うちが潜るの?」
アリシアと私の視線を感じ、『えっ?今?』って顔でこっちを見ている。
「アリスは無理だもん」
「と、とにかくそらら!一緒に来て!ホントに消えちゃう!」
私は上着を脱いでそららと急いで光のもとへ向かう。その光はドンドン弱くなり、海面からは見えなくなってしまう。水をバシャバシャとかき分けながら光を目指す2人。
「こ、この辺だったんだけど、もう光が見えない!!」
「そらら、お願い!」
私は昼間のアイデアを思い出した。
風魔法で水をどかす。今はこの方法が一番確実。
「ここでダウンしたら、うち絶対に死ぬんだけど!?」
嫌そうな顔のそらら。確かに、海で睡眠薬や麻酔打たれるようなものなのよね。
「大丈夫!私がちゃんと拾ってあげるから!」
「ねぇ、本当にだいじょうぶ!?」
ため息のあとにジッと私の顔を見る。
「はやくー!」
「もう、絶対に助けてよね!」
私のしつこさにそららが嫌そうに両手を星空に掲げる。
「楯空壁」
手を振り下ろすと、一本の淡い緑の柱が私の目の前に立っていた。その柱は少しづつ、周囲に広がっていく。それと同時に、海水も私のまわりから押し出されるように退いていく。
「お姉ちゃん。早くね?これ、しんどい」
そららが手を小刻みに震わせながら苦痛な顔をしている。
「わかった!」
私は海底の砂を探す。
貝殻。ちがう!
水着?だれのよ!!
お金。落ちてるのよね。
光る指輪。変なの。
ポイポイと投げて探していた私。
「あれだ!!」
先ほど放り出した今にも消えそうな光を纏う指輪を拾い上げる。
「あ、あったー!!」
「は、はやく立ちなさいよ!!」
キレ気味のそららの声で我に返ると、すぐに立ち上がりそららに回収したモノを見せる。
「あー疲れた」
一気に脱力して海に流木のように漂い浮かぶ彼女。
「まいど、お疲れ様です」
「お姉ちゃん、このつらさわからないでしょ?」
「アリシアはそれほどツラくなさそうだけど?」
「あの魔力無限娘と一緒にしないで!あれが特別なのよ!あれが!」
「そーでした」
「んで?なにがあったの?」
横目で私の持っている指輪を見る。
あ、光が消えた。
「光らなくなっちゃったね」
「そうだね。で、それなに?」
「指輪、だよね」
私は拾った指輪を海水であらうと、月明かりでよく照らしてみる。
金色の指輪がある。
「石、取れてるね」
「あ、ほんとだ」
宝石がはまっていた部分と思われるところは爪だけが残っていた。
大きさはけっこうありそうだった。小指の爪くらいは。
(ん?)
私は、これを前に見た気がする。
どこだったっけなぁ・・・。
うーん。と考える私にアリシアが遠くで手を振っている。
「お姉ちゃん、とにかく戻ろう。夜は寒いよ」
「そうね、とにかく上がりましょ。」
私たちは二人で陸に戻ることにした。
「あれ?」
私たちが海から上がると、潮がだいぶ満ちていた。
さっきまで座っていた流木は完全に海に浮かんでしまっている。
アリシアが荷物を流されないように移動してくれていたようだった。
「こんなところまで海水が来るんだ。」
「どうりで、うちらが歩いても歩いても陸に戻れないわけだ。こんなに伸びてたら」
振り返ると10メートルちょっとは波打ち際が伸びていた。
「なにがあったの?」
アリシアが私にタオルを持ってきてくれる。
「ありがと。これが落ちてたわ」
そららはシートの上に座り、横になっていた。
かなりお疲れのご様子。
「指輪?それも壊れてる」
まぁ、石が取れてるから壊れたに違いないか。
「そうね、なんで光っていたのか知らないけど。」
「でも、きっとあの船には関係あるんじゃないかな。」
そうね。あの船が来てから光ってたのなら、アリシアの推測は間違っていない。
船と指輪。どんな意味があるのかしら。
「ねぇ、そららは・・・」
私がそららに意見を聞こうとした時だった。
ブグオォォォォォォオオオオ!!
洞窟から急に音が鳴り響いた。
それは風が抜ける音よりも、『叫び』に近いモノがあった。
私たちは驚きのあまり言葉を失って、洞窟を見つめたままその場から動けなくなってしまった。




