6-4 魔法が使えると海水浴は死にますよ?
「いぃぃやっほおぉぉ!!」
そららが海に飛び込んでいく。
私は荷物をシートの上に置いて、その光景を見ていた。
アリシアがテクテクと後をついていき、ゆっくりと波に揺られながらも後を追う。
昨日の嵐は嘘のように快晴。そして暑い。何が暑いって上も下もジリジリと・・・。
上は日差しが照り付けて、下には日差しで熱された熱い砂。
今日は二人の念願の海。
他の旅行客なのか、地元の人なのかわからないけど、海で遊ぶ人もそこそこ。なのよね。
この暑い時期に海で遊ぶ人がこれしかいないモノなのかしら。
それほど広くない砂浜にはまばらに人がいる程度で混んでいなかった。
遊ぶ方としてはありがたいのだけど、少ないと少ないで不気味ね。まさか、この世界もクラゲが時期により発生するとか?
そんなことを考えつつも、私たちはのんきに海水浴を楽しんでいた。
アリシアは、可愛いなぁ。もし自分に娘が生まれたらあんな可愛い水着を着せたい。
ピンクのワンピースタイプで、子供のど定番。最後まで抵抗してたけど、あきらめてくれてよかった。
「・・・ん?」
あら~?あの子。海の中にしゃがんで何してるのかしら?
私の視界にはすっごい悪い顔してニヤけるアリシアが海の中に体を沈めて顔だけを出している姿。そして、両手にはオレンジの球体。暑さでやられたのかしら。目の錯覚?まさかこんなところで・・・
「爆裂球。ちょー弱く!!」
沖に泳ぎに行ったそららをめがけてそのまま水中に放つ。
(おいおいおい!そんなことしたら・・・)
オレンジの球は何も知らないそららにゆっくりと近づく。
「お姉ちゃん!!アリシア!気持ちいいよ!こっちおいでよ!」
沖で手を振るそらら。
そららの水着はその自慢なのか知らんが大きな胸が強調されるビキニだった。私の牛柄の推薦を蹴って彼女が選んだのは水色と白のモノで、リボンが装飾されているものだった。
「気をつけてねぇ!」
いろんな意味で。
チラッとアリシアに視線を送るとこいつは知らんぷりして笑顔で手を振る。
こいつ、悪魔だわ。人の皮をかぶった。
「だいじょーぶよ!波も弱いし!」
何も知らない彼女は、再びこっちに戻ってくる。
「弾けろ!!」
「ん?なにこ・・う、うきゃあぁぁ!!」
アリシアの掛け声で水中に放ったオレンジの球が破裂したんだと思う。
海面がモコっと大きくなり、異変に気付いた時にはもう遅く、そららはそのまま軽く沖に吹っ飛ばされ水中に沈む。
「よしっ!」
身長140センチの小娘は胸辺りまで波が来るところでピョンピョン飛びながらガッツポーズして喜ぶ。この子の未来が恐ろしい。
2番目は浮上してこないけど・・・。だ、大丈夫なのかしら。
「っぷは!!」
プルプルっと頭を振ってこっちを見る。いや、睨み付けている。
「アーリーシーアー!!」
叫びながらものすごい勢いでこっちに戻ってくるそらら。
アリシアはあっぷあっぷしながら泳いでいる。と言うよりも溺れている、に近い犬かきのような、そもそも歩いているだけのような微妙な姿を披露しながら慌ててこっちに戻ってくる。
「お、おねえちゃん、助けて!!」
後ろを見て姉の顔に恐怖を抱き狂乱しながらバチャバチャと水しぶきをあげて戻ってくる。
「ケガしないでよー!!」
「ケガする前に、アリス死んじゃう!!」
涙目で水をかき分けながら急いで陸に向かうも、尋常じゃない速さで迫るそらら。
「待ちなさいーー!」
「ひぃぃ!!」
喧嘩すれば間違いなくアリシアが勝てるのに。あれが姉妹の本能なのかしら。姉には勝てないって言う。
「つ、か、ま、え、た~」
「ムリムリムリ!!アリス泳げないの!」
後ろから抱き着かれ、身動きが取れなくなるアリシア。惜しい。海面は腰よりも下のとこまできたのに。少し気の毒だけど、たまにはほっといてみても面白いかもしれない。いつもそこまでケンカしないしね。
「うち、ほんとビックリしたなぁ?」
「ごごご、ごめんなさい!」
「水着破れたり取れたら、うち恥ずかしくて死んじゃうんだけどなぁ」
そういいながら後ろから自分の胸をアリシアに押し当てる。
「ごめんなさいぃ!!」
「どうしよっかなぁ~?」
「きききき、きららがやれって」
チラッとこっちを見るそらら。アリシアはパニックでジタバタと暴れている。
私は急にとばっちりをくらってとにかく首を横に振る。
「そっかぁ。お姉ちゃんが、言ったんだぁ。」
「そうです!あの無駄にでかい乳を懲らしめろって!」
「そんなこと言うわけないでしょ!嘘つくなぁ!!」
沖にゆっくりとアリシアを連れていくそらら。
「いや!!ムリ!!」
バタバタ暴れていたアリシアも足がつかなくなるくらいのところまで行くと静かになってそららにしがみつく。
「ごめんなさい。ちょっとしたオチャメさんです。」
「悪い子には罰が必要よねぇ?」
「ムリムリムリ!!絶対に離さないで!!死んじゃう!」
「えー?きこえなぁい」
泣きながら訴えるアリシアを勝ち誇った顔で見下ろすそらら。
「きららぁ!どうすればいいー?」
なぜ私に聞くのかな。この場面で。
「あんまりいじめちゃだめよー!」
「いじめちゃダメって言うから、もどろ?」
子犬のような瞳で訴えるも、それは虚しく却下される。
「ふふー。だめぇ。潜りまーす!」
「ムリムリムリ!!死んじゃ!!ー」
その叫びを最後に2人は海の中に潜って姿を消した。
あの2人。どこ行くんだろ。
(まだかな・・・)
私はあれから1分くらい待っているけど、まだ二人の姿はない。さすがに、危ないかな。
私は羽織っていた上着を荷物のところに下すと、海に向かって歩き出す。
ホントに、加減を知らないんだから。
海に足を入れたときに、2人がいた場所の海面がさっきのようにモコっと膨れ上がる。
「今度は何?」
私の視界に海面から二人がゆっくりと浮上してくる。それに、海に浮いてる?
「お姉ちゃーん!!」
アリシアが手を振っている。
とりあえず手を振り返してみる。
アリシアとそららは海面に立ちあがり、そのままゆっくり二人三脚のように走ってくる。
(どうなってるのかしら?)
2人は海面を走ってくると私の前で、ボチャン!っと海に入る。
「楽しかったよ!お姉ちゃん!」
「何してたの?二人で。何さっきの?」
「ねぇねが空気の球を作ってくれて中で遊んでたの!」
「へへぇー。最初は沈めたけど、可愛い妹にそんな意地悪なんかしないよぉ!」
そらがアリシアの頭をガシガシとする。
「海の上ってねぇ、グラグラするの!」
「グラグラ?」
「そう!海の中も見れたんだよ!」
「それはよかったわね。」
でも、この子魔力少ないから途中でへばったら本当に溺れそう・・・。
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ!」
「えっ?」
「楽しかったよ!ねぇね!もう一回!!」
「わ、私はいいわよ!見てるから。」
「きらだって水着かったんだから行こうよ!」
そららが私の手を引っ張る。
私も水着はあの時にちゃっかり買っていた。実は、そららの色違い。
この子と並んでいたくないんだよなぁ。買ってみたのはいいけど。胸がね・・・。
私の思いをよそに、命がけの遊びが始まった。
魔法の使える世界での海水浴は、危険らしい。
意外と、空気の球に入る遊びは楽しいものだった。
私たちは比較的浅いところ。アリシアの身長くらいのところでのんびりと遊んでいた。
転んでもいたくないし、海の中も見れるし、思ったよりも快適だった。
「そら、ここの下まで下ろしてよ」
ただ、欠点はそららの意思により動くことだろう。毎回お願いしないと海の中には入れない。海面を動くだけならアリシアと歩けば動くんだけど・・・。
ゆっくりと水の中を潜る空気の球。水が、私たちを避けていく。不思議な体験だった。
「お姉ちゃん、なにかあるよ?」
砂の中に何か小さいものが埋まっている。けど、砂の球の中では手が出せない。
私は背伸びして海面から顔を出し、そららに浮上するように伝える。
「どうしたの?」
「なにかこの下にあるのよ。取りたいんだけど、どうすればいい?」
ボチャン!!
私たちを包む空気の球が破裂し、海に落ちる。・・・
「あ!」
私は隣でもがくアリシアに手を差し出す。
「ねぇね、絶対にわざとだ」
咳込みながら泣きそうな顔で怒るアリシア。
「ご、ごめん。忘れてた。アリシアにとってはここ深いこと。」
あはは、と笑うそららを睨み付ける。
「アリス、もう出る。」
ご立腹の彼女は得意?の犬かきで砂浜に向かって泳ぎ出す。
「そ、それで、この下のあるのが欲しいの!」
「潜って取ればいいじゃん。」
「ムリ」
めんどくさそうなそらら。
「私、目が開けられないから。」
「ふっ」
鼻で笑った!こいつ、鼻で笑ったわ!!信じられない。
「わかったよ。取ってくるから、どの辺?」
「この辺。」
私は自分が落ちたところを指差す。
「砂に埋もれて、あまり見えないの。多分、金属だと思うんだけど。」
「はいはい。んじゃあ、探してみましょうかね」
そららはその場に潜る。
アリシアは・・・、無事に足がつくところまでたどり着いたようだ。
「っぷは!」
「どう?」
海面に出てきたそららは首を振る。
「だめ、見つからない。ほんとにこの辺なの?」
「さっきはここにあったんだけどなぁ」
もしかしたら、流されたり砂に隠れちゃったのかなぁ。
「そららの魔法で、海の水をどかしたりできないの?」
「もう無理かなぁ。今日はけっこう魔法使っちゃったし。これ以上は休まないとキツイ。」
「そっかぁ。残念。でも、楽しかったわ!ありがとう!」
「べ、別にいいよ。姉妹なんだから。たまには」
普通にお礼を言ったのだけど、照れてるのか、フンッと顔を隠してそのまま沖に向かう。
もうお昼も過ぎてるし、沖でアリシアのご機嫌を取って帰らないといけないかしらね。夜はあの子の待ち望んだバーベキューですから。
1人陸に上がったアリシアは砂浜で波に打たれながらぼーっと沖の方を見ていた。




