5-2 ファミリアでのギルド登録。初めてのお仕事は人探し
「はい、冷たいりんごじゅーすですよ」
笑顔の可愛い女の子が私たちのテーブルにグラスに入ったリンゴジュースを持ってきてくれる。
ここは、さっき覗き見ていた酒場の中。お店の前での乱闘騒ぎで迷惑をかけて怒られると思ったのだけど、少女が
『お姉ちゃんたちに会いたいってパパが言ってるから、』
とテーブルに座らせてくれた。
お店の中はさっぱりとした作りで、なんの飾り気もなく、ただお酒を飲んだり、ご飯を食べるとこなんだろうな、と印象を受けた。
「あ、ありがとう」
「ねえねえ、お名前はなんて言うのですか?」
少女は私たちが知っている女性。ローラによく似ていた。
それはもう、みれば見るほど。
ローラは王宮騎士フランの直属の親衛隊。その一人が赤髪の魔剣士ローラだった。
でも、彼女は先の戦いで命を落としている。この、何事もなかった平和な世界に禁呪で移動したときも、ローラの転生はない。ときいていたのだけど・・。
それにしても、この子、顔立ちはローラに似てるけど、笑った顔がまたかわいい!!
「ろ、ローレンです。」
「今いくつ?」
「もうすぐ、10歳です。」
「剣とか使えるの?
「ま、まだ無理です。」
私とそららは少女に興味津々だった。
ローレンと名乗った少女は自分に興味深々な私たち2人にけっこう驚いていたけど、愛想笑いをしながらうまくかわしている。
ローラ・・・。ローレン・・・。
名前までそっくりとは。
「そ、それにしても3人とも、すごく強いんですね!あの人、ボッツさんはこの酒場でもすごく強い人なのに、あんな簡単に勝っちゃうなんてすごいです!」
先ほど、腹黒そららと大砲アリシアにいちゃもんをつけ、戦いを挑んだおっさんは私たちがローレンに気を取られている間に人混みの中にそそくさと紛れていった。
その後ろ姿がなんとも情けなく、二人とも追いかけることなく見送るのみ。
去り際に何か文句を言っていたが二人の睨みに負けたのか、すぐにその姿は完全に見えなくなってしまった。
アリシアはそこに生まれた危険な火球を、指を鳴らし消していた。正確に言えば、指を鳴らそうとしたけど音がうま鳴らなかったのに消えていた。仕草は関係なく、強制終了が可能なようだ。とりあえず、王都の平和と私たちの平凡な日は守られた。
「あれで、強いんだ」
アリシアがバカにした表情でリンゴジュースをすする。
「うちたち、3人揃ったら最強かもよ?」
2人が楽しそうに話している。でも、そりゃそーですよ。
だって、あなたたち、邪竜王と戦って、モンスターが蔓延る王都で魔獣と戦ってきたのだから、今更普通の人間にそうそう負けないでしょ。相手がフランとか王宮騎士であれば話は別だけど。
まぁ、たぶん私が一番お荷物ですけどね。
魔法は使えない。
剣は使えない。
弓はあっても使いこなせない。
あぁ、なんて屈辱的なポジション。
「そうかもね」
私はリンゴジュースを飲みながらつまらないなぁ、と思い適当に返事を返す。
「よかったら、ギルド登録してみませんか??」
ローレンの後ろに男性が立っていた。
ローレンと同じ赤い髪。赤い瞳だった。
「だ、だれですか??」
多分わかるけど、この赤色の特長は。
「あ、失礼。私はこの店のマスター、ローレンの父ハイムと申します。お姿、拝見しておりました。そのお力、よかったら当ギルドで使っていただければと思いまして」
やっぱね、知ってたわよ。
ハイム、と名乗った男性は一枚の紙を私たちの前に置く。
「これは?」
「依頼書です。」
「なになに??」
そららとアリシアが依頼書を読み始める。
「ギルドって、なんですか?私たちあまり知らなくて」
「そうでしたか。では、簡単にご説明させていただきます。」
ハイムはそういうとローレンをカウンターに戻らせた。彼女の手には紙が数枚見える。
「ご承知だと思いますが、この酒場の名前はファミリア。、ファミリアは酒場でもあり、この国で困った方が個人的に冒険者の方、傭兵の方に自己資金で依頼を出すことができます。王国にも許可の申し出を出しているので、お国の方からお咎めはいっさいありませんので、ご安心ください。そして、依頼の内容は様々、屋根の修理、草むしりなどの簡単な雑用から仕事の代行、荷馬車の護衛、鉱山のモンスター退治、浮気調査、まで幅広くあります。」
う、浮気調査をなぜ最後に盛り込んだのだろう。最初の方のインパクトが薄すぎて忘れちゃったじゃない。
「こちらのご依頼。正式にはクエストと呼んでいます。クエストは全て自己責任。死んでも、文句は言えません。その代わり、依頼の最中になにしてもOK。納期さえ守れば問題ないです。また、ギルドに登録いただくときは最低3人以上。その後は増やしていただいてもかまいません。代表者1名がなにかあれば責任を取っていただくようになります。」
「ハイムさん、この依頼難しいの?」
そららが依頼書の下にある星マークを指差している。そこには星が3つ。
「いえいえ、簡単な方です。炎天下、真冬の草むしり3時間が同じ星3つ程度です。星が6つ以上のモンスター討伐クエストは実績が必要なので素人の方にはいきなりご紹介できません。あれをご覧ください」
ハイムの先には依頼書がたくさん貼られた壁、その中に星が赤く塗られたものがいくつか。
「赤いものは討伐クエストです。ゴブリンからオーガまで、さまざまです。さらにその上には裏クエストがあります。希少アイテムの回収から、口にできない仕事まで・・・」
引きつった笑いで恐怖を演出しているのだろうか。顔が優しいからあまり怖くない。
「それで?なんて書いてあるの?」
私は読み終わったであろう二人に内容を聞いてみた。
「南の海で行方不明の父を探してほしい。戻ってきたら渡したいものがあると言われたけど、そのまま漁に出たきり行方不明。消息を探してほしい。マリア」
「あー。惜しい!」
アリシアが珍しく少し大きな声を出す。
「惜しい?」
「いなくなったのが『彼』だったらプロポーズだと思った」
『あぁ~』
思わずそらと納得してしまった。最近の子供はませてるわねー。
ポロポーズだなんて、よくそんな言葉。
「君たち、不謹慎な・・・」
「そ、そうですね。ごめんなさい」
すっかり忘れてた。実際にお父さんがいなくなっちゃったんだからマリアさんは探しているはず。
「でも、私たちが探しても見つからなかったらどうなるんですか?」
「確かに。南の海って言っても情報ないし。それにもし、万が一に死んじゃってたら・・・?」
「その時はここに書いています。」
紙の一番下を指差すハイム。
【もし、父を見つけた場合は、居場所の調査、本人を連れて来る。もしくは直筆の手紙を受け取ること】
「あの、うちが言ってる死んでたら。が選択肢にないんだけど。」
「依頼者が望んでいるのは生きていることで、生きていたらが前提の事ですから。この場合、死んでいたら依頼不達成。ようはタダ働き。ってわけですね。」
「あぁ、だから星3つなんだ」
ようやく意味が理解できた。
ようは、生きてたら話して連絡を絶った意味を聞けばいいし、死んでたら不成立。
ただ、南の海、漁師街へ行き、話を聞いてくるだけ。って感じなんだと思う。
「うちたち、海行くならついでに引き受けてみようよ。」
「アリスも賛成。やってみたい」
確かに。よくゲームであるような内容のクエストだ。
「えぇ、失敗してもノーリスク。さらに報酬も依頼される方が裕福な方が多いので破格ですよ」
「報酬?」
「おねぇちゃんたちが、お仕事クリアしたらお金とかアイテムがもらえるんだよ!」
ローレンが他にも何枚か紙を持ってきていた。
「そら、読んで」
「え~・・・めんどいなー」
そういいながらも、他の依頼書に目を通す。意外と、依頼件数は多いようだ。
「今回は、報酬は何があるんですか?報酬はこの星の下に書いてあります。」
「アリシア、お願い。」
なんだか、文字が読めないのも情けないなぁ。
「うーんと・・・。。金貨、10枚。」
身を乗り出して紙を見るアリシアがボソッと発した。
金貨10枚。どの程度なのかわからない。
「どうなの?それ」
金貨10枚、価値がわからない。
「まぁ、遊びに行くついでならいんじゃないかな」
「あぁ!!これすごい!」
そららがみつけた一枚の依頼書。報酬のところを見て彼女は叫んでいた。
「ど、どしたの?」
「ほら、ここ!!火のイヤリングって書いてある!」
「あっ。」
アリシアは自分の耳を触る。そこには対の赤い輝石の入ったイヤリングがあったのだけど、今はちょっと理由があってなくなってしまった。
「それ、ほしい。」
「ハイムさん、これ、受けられませんか?」
「それは、赤い星だからちょっと。決まりなんだよ。ごめんね。」
討伐内容はエルサーナの盗賊退治。
あれ?こんなの、私たちが前の世界でやったような。
「どうすればこの依頼を引き受けられますか?
「まずは、実績を積まないと。それからかな。」
実績か。確かに、ここにいる二人はそこそこ強い。とくにちっちゃい方はかなり強い。
だけど、まずは証明しろってことか。それがこの世界のルールであるなら仕方ない。あまり波風立てたくないし。
「そしたら、まず依頼を受ければいいんですか?」
「こちらの書類にサインを。最終的な契約内容、今回はマリアさんのお父さんの特徴などが書かれています。あと最初はメンバー登録からお願いしますね」
「依頼不達成の場合はどうなります?」
私は一通りの書類を2人に書いてほしいと渡す。
「今回のケースだと、特に罰則はありません。しかし、モンスター討伐、荷馬車の護衛などの場合は被害が出たり、失敗して盗賊に襲われたりしたら被害額のいくらかを負担する場合もあります。しかし、今回はないので初心者にはもってこいですよ。安心してください。」
「終わった。」
「それじゃ、うちたちも買い物すませちゃお!!」
そららは勢いよく立ち上がると、出来上がった書類をハイムに渡し、残ったリンゴジュースを飲み干す。
そららのサインした書類を手にハイムはローレンと一緒に私たちを見送ってくれた。




