4-13 邪竜王バルド
「ひゃーはっはっはっは!!」
お腹を抱えて笑う赤髪の男。
「こいつ。邪竜王じゃないかな。赫い瞳。燃えるような髪色。1,000年前の神魔戦争の時とは違うけど・・・。」
「たしかに・・・特徴は似てるけど・・・」
フレイアとシルウィアの声が聞こえると笑うのをやめて真剣な顔をする男。
「あーそうだ。俺は邪竜王。魔王様を守護する六芒星の一つ。邪竜王バルド。正確には2代目ってやつだな。初代は死んじまったからなぁ」
「うるさい・・・」
「あん?」
「よくも娘を・・・」
「あぁ、あのおんなかぁ?見たかあの顔?あーははは!!間抜けな顔しやがって、地面にぺしゃんこだぜ!あーひゃひゃひゃあ!!」
「・・す」
「人間ごときがこの邪竜王様に歯向かうからこーなるんだよ!おとなしく縮こまってりゃさっきの女みたいにこの俺様が生きたまま、くたばるまで血をのんでやったのによぉ!!」
「貴様だけは・・・殺す。絶対に」
「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!そこのガキィ・・・。逃げるなよ?お前の血はうまそうだぁ」
マッシュが大きく両手で描く円からフレイアが放ったものとは比較にならないくらい大きな火炎鎗が邪竜王バルドに襲い掛かる。
「その汚い口を閉じろ。貴様には生きる資格はない。この宮廷魔導士マッシュが貴様をこの場で処刑する!」
「マッシュ様!こいつにはその程度の魔法、聞きませんよ!!」
ニヤッっと笑うバルドは迫りくる炎をその身に浴びる。
「ぬるいなぁ。こんな炎じゃあ熱さも感じないなぁ。」
「そうかい。じゃあ、本番を始めようか・・・。」
マッシュが右手を大きく振り下ろした。
上空にいた土龍が邪竜王に向け猛進する。
炎に焼かれるバルドは向かい来る土龍を右手で軽く受け止める。
「こんな木偶人形が俺に通じると思ってんかぁ?」
「そうだな・・・。多少はな。」
不敵な笑みを浮かべるマッシュ。
「来る!!!」
フレイアは再び赤いカーテンのようなものでアリシアを包むと、アリシアの背中を押して急いでその場を退散する!!
「シルウィア・・・我が契約の印を」
右手を前に出すマッシュ。
マッシュの手のひらに着地するシルウィア。
その表情は少し険しく、困惑したようなものだった。
「いいんですか?マッシュ様?」
「二度は言わん」
マッシュの気迫に押され、シルウィアはマッシュの腕に噛み付き、血を吸う。
シルウィアの身体に金色の光が満ちる。
「ぐぅ・・・。」
片膝をつくマッシュ。
そのそばを申し訳なさそうに飛ぶシルウィア。
「かまわん。お前の責任ではない。奴を倒せれば、私はそれでいい!!母なる大地を守護する神の龍!今ここにその真の力を現せ!!」
シルウィアの身体と土龍が共鳴しあっているかのように金色に光輝く。
「大地に刻め!!地龍咆岩破!!!」
ヒィィィィィンンンン・・・ズドォォォォォォ・・・
聞き取れないくらいの轟音が世界を揺らす。土龍の口が輝き、目の前に立ちふさがる邪竜王を襲う。
閃光が土龍から放たれ、街を貫き、大地をえぐりながらそのままはるか彼方の山を消し飛ばす!
地龍咆岩破の波動が大地を揺らし続ける。空には山を吹き飛ばした衝撃波で暗い雲がすべて吹き飛ばされて青空が見えていた。
「・・・す、すごい。これが」
「今のは特大級だね。精霊契約の神髄、契約の印を交わしたからシルウィアも全力だったんじゃないかな。でもほら、見てごらん。」
視線の先には土龍がその姿を保てなくなり、ボロボロと崩れていく。
尻尾、腕、翼、が次々と崩れ、邪竜王に向けた頭が今、崩れ去った。
立ち込める砂煙の中、邪竜王の姿を確認できない。普通、あんなものくらって生きていられるとは思わないけど・・・。
「荒ぶる魂燃える躯。我が前に立ちふさがる愚かなる者へ裁きの炎を!」
無から炎が生まれる。青い、万物を溶かす炎。
「獄炎神召陣」
アリシアが作り出した青い獣が再び姿を現す。大きさはアリシアのモノと比べて倍以上あるが。
「薙ぎ払え」
そう命じると青い獣は粉塵舞い上がる場所へ炎を吐く。
直撃しているのかすら不明な中、炎は勢いよく砂煙や粉塵を吹き飛ばす。
「炎の精霊フレイア。我が望みを聞き届けよ。紅蓮の炎を現世へ。我が望みは世界の滅び。我が望みは世界の混沌」
マッシュの周りにオレンジ色の球体が次々に現れる。その数は瞬く間に増えていき、すでに20~30個程度が浮遊している。
「その身を捧げよ、青き獣」
大きく咆哮を上げた青き獣はその体を球体の中へ溶けるように移動させていく。
「紅蓮爆砕陣」
青き炎が邪竜王を襲う。
その時、誰もが疑わなかったマッシュの攻撃を止める者がいた。
一筋の閃光がマッシュを襲う。
細く、速く、鋭い閃光はマッシュの右胸を貫いていた。
行き場を失った青き炎はそのままゆらゆらと散り散りになり、邪竜王にたどり着く前に大爆発を起こす。
「ッガフ!!」
マッシュが血を吹き出しその場に倒れ込む。
シルウィアが小さな体で支えようとするがそれはかなわなかった。
「おいおい、随分と好き勝手にやってくれてるな。次は俺の番だぜ?」
邪竜王は手にした弓でマッシュを撃ち抜いた。
矢はどこにもない。ただ、黒い本体に真っ黒い光る弦が張られている。
「あれは、神弓エルフィン。なんであんなやつが!!」
シルウィアが黒い弓の正体に気付いた。
「んあぁ?森にいた女を殺したら拾ったんだよ。使えるからもらっといただけぇ」
そう言うと無作為に弦を引くと、真っ白な矢が現れる。
「便利だよなぁ。魔力があればいくらでも矢が現れて、自分の思った通りに射貫けるんだからなぁ」
そういうと城に向かって矢を放つ。
細く、鋭い矢だった。
ズドオォォォォォンン・・・
城に向けられた矢は大爆発を起こし、城はガラガラと巨大な音を立て瓦礫の山へと化す。
エドや、数多くの報われない魂と一緒に。
「まぁ、こんなものなくってもこんな世界滅ぼすなんて楽勝だろうけどな。」
あれだけの攻撃を受けて未だ立っていられる邪竜王バルド。
体中に傷は出来ているものの、致命傷は与えられていないようだった。
「けどまぁ」
弓を捨て、ゆっくりとマッシュの元へ歩き出す。
弓からは黒い光が失われて、ただ弦のない棒切れになってしまった。
「この俺にここまでのダメージを与えたのは人間にしちゃ大したもんだぜ。」
「近寄るな!!薄汚い魔族め!!」
翼竜が邪竜王に立ちはだかる。勝機はない事がわかっているのに。
「薄汚いぃ??」
鋭い眼光に怯みながらも、その場を退かないシルウィア。
「地精衝哮破!!」
シルウィアの口から黄金色の閃光が邪竜王に向かって放たれる。
「てめぇらが勝手に俺らをみくだしてんだろーがぁぁ!!」
ドフゥ!!
鈍い音を立ててシルウィアの体が地面に叩きつけられる。
邪竜王の右腕も同時に宙を舞う。
噴き出す鮮血。
「ぐがぁぁぁっぁぁぁぁ!!」
獣のような雄たけびを上げてその場に跪く。
しかし、邪竜王はそのまま自ら傷口を焼き付け止血する。
気絶するような激痛の中、邪竜王は魔王直属の部下を名乗るだけあって意識を失わなかった。額には大量の冷や汗が見える。
一方シルウィアは邪竜王の一撃を受けたあと、身動き一つしない。
「シルウィア!!」
「無理だよ、アリシア。あそこにはもうシルウィアはいない。あれは、魔力の残骸。言えば抜け殻だから」
「そ、そんなこと言っても、マッシュ様が死んじゃう!やられちゃうよ!」
「・・・」
フレイアは黙ってその姿を見ていた。
「くそ、あのトカゲ野郎。最後に一発かましてくれたな。でもこれで、俺の邪魔はいなくなった」
バルトはマッシュとシルウィアに残された時間が少ないことがわかると、自らの洋服を引きちぎり、なくなった腕に巻いて簡易的なガーゼのようにしている。
「終わりだ。このままでは勝てない・・・」
「・・・」
アリシアもわかっていた。自分の魔力では魔獣も駆逐することができなかったこと。
魔力の絶対容量、質、鍛錬すべてにおいてマッシュに勝っていない今、自分には勝ち目がないこと。
きららも死に、フランも、そららもいない。
残されたマッシュも今その命の灯を消そうとしている。
シルウィアはすでにこの世界にはいない。
今いるのは、フレイアと、自分。そして憎き邪竜王。
自分からすべてを奪った存在。
大切な姉妹。
一族の長。
これから、生きていく未来。
全てを目の前の男が奪った。
そして、この後自分の未来も奪われる。
「アリス。このまま死ぬのかな。」
「アリシア・・・」
身動きしないまま、アリシアは泣いていた。真新しいメイド服はすでにボロボロ。
銀色の髪も、きれいな肌も、新しい靴も。
全てボロボロで、土埃で汚れていた。
肩を震わせ、涙を流しながら無言で泣いている彼女。
フレイアは最後まで悩んでいたが、ある結論を導き出す。
「アリシア。僕に君の命をくれるかい?」




