4-10 宮廷魔導士
城の中を突き進む3人。アンデットの数は奥に行けば行くほど多くなる一方だった。
迷宮のようなアレクサンダー城の中をひたすら走る3人。
「見えた!!」
長い廊下の突き当りにある部屋。扉の装飾が明らかにほかの部屋とは違っていた。
「あの部屋が宮廷魔導士様の部屋になる。今は無人だろうけどね。」
フランがゆっくりと歩き出す。このあたりには人の気配はない。静かなものだった。
広い廊下には3人の足音だけが響く。
「魔石・・・。フランは見たことあるの?」
「一度だけ、見たことがある。先代の宮廷魔導士が作ったとされる石。その製法も、使用方法も長いこと不明だったんだ。ただ、誰にも触られないように管理されていただけだったのになんで今こんなことに」
「どんな石だったの?やっぱり、触ったらバチバチしたりするの??」
「バチバチって」
軽く笑われた。でも、魔石。さぞすごい石ならそのくらい・・・ねぇ?
「どんな・・・うーん。黒のような、黒くないような・・・。小さい石だよ。見ていると石の中に引き込まれるような感じがする不思議な。みれば解るさ」
扉の前に立ったフランが異変に気が付く。
扉に耳を当てて中の気配を探る。
その姿をじっと見守る私。よくこーゆーシーンがあるけど、なぜ、中から撃たれたり、剣で突き刺されないんだろう。と毎回思う。まぁ、今はそんなこと黙っておこう。
「どうしたの?」
「しっ!!」
扉の中を気にするフラン。
「気配がする・・・」
扉の中に何かの気配を感じたフランは私たちに離れるよう合図を送る。
緊張が走る。
扉を開けたらいきなりラスボス!とかって落ちはないわよね??
魔石の保管されている部屋の扉に手を伸ばした瞬間に城が大きく揺れる
ゴオォォォォゥゥゥンンン!!!
凄まじい轟音と共に城が揺れる。
「きゃ!!なに!?この揺れ!!地震!?」
「いや・・・地震じゃない。」
階下でガラガラと音が聞こえる。何かが崩れているようだ。どこかで大きな爆発でもあったのだろうか。
「城事態になにかしらのダメージがあったと考えるべきだろう。おそらくは・・・」
「アリシアたちの影響・・・」
ぎゅ・・・あぁ・・・・が・・ぁぁ・・
再び獣の声が聞こえた。しかし、魔獣の声とは違うことが分かった。その咆哮はさっきよりも大きく。窓がない廊下では外の情報は手に入らないが、何かが城のそばにいることだけは理解できる。
「外で、何が起きてるの?」
「わからない。僕たちの常識では考えられないこと。とだけはわかるけど。」
ギイィィィィィィィ・・・・
大きな扉をフランが開けると、中にはアンデットが数体入り込んでいた。
「くそ!!こんなところにもいるのか!!」
生者の気配、臭いでもあるのだろうか・・・。私たち3人が扉を開けるとゆっくりと生きる屍がこちらに振り返る。
それほど広くない部屋。奥の方にカーテンで仕切られた何か小さな個室のようなものがある。
魔石は、おそらくあそこにあるだろう。
アンデットたちはゆっくりと動き出し、そのままフランへと突き進む。
ウガァアアアアア!!
亡者の声が部屋に響く!およそ8体
部屋の中にいたアンデットたちがフランに一気に襲い掛かる。
バスッ!!
ザシュッ!!
フランは順調に1体、また1体と斬り倒していく。
片足を斬られ動けなくなる者。
首を刎ねられ、彷徨い絶命する者。
鬼神のような動きでアンデットたちを一掃する。
「がぁっ!!」
フランの悲痛の声が上がる。足元には片手、両腕を斬り落とされたアンデットがフランの足に噛み付いている。
「フラン!!動かないで!」
そららがフランの足に噛み付くアンデットの首を刎ねる。
ふくらはぎに噛み付いているアンデットの生首をレイピアの先で突いて落とす。足にはうっすらと血がにじむ・・・。
「ありがとう、助かったよ」
あまり余裕のない顔。だいぶ疲弊しているのだろう。
「貸しを返される前に死なれたら困りますから」
「はは、こりゃ高そうな貸しだな・・・」
迫るアンデットを二人で切り崩していく。
そららは的確に、足、腕を切り離し、フランが首を刎ね、胴体を一刀両断する。
カーテンの向こうから現れた最後のアンデット。こいつを倒せば魔石を手に入れるはずだった。
そららとフランの足が止まる。
「・・・こいつは」
小さな声でフランがもらした言葉の先には、知っている顔が立っていた。
「エド・・・。」
そららがひきつった困り顔で私を見ていた。
「マッシュ様!!」
フレイアが声をあげて叫ぶ。
アリシアはマッシュ、という名前に聞き覚えがあった。
ヘルムの村で村長を務める人間。マッシュ・ヘルム。膨大な魔力、知識を有していて世界でもトップクラスの魔導士。彼の前では精霊さえも跪くと言われている。
まぁ、フレイアの場合膝があるのかわからないけど・・・。
エルドロールはフレイアの言葉が聞こえているのかいないのか、全く相手にすることなく魔獣ダリアンドへとゆっくりと歩み寄る。
エルドロールの横にはフレイアと同じくらいの大きさの小さな翼竜が羽ばたいている。
「あの、ドラゴンは?」
アリシアはただ目の前に現れた巨大な力を呆然と見ていた。
「シルウィアだね。土の精霊だよ。マッシュ様がいればこんなや―」
言うより早いか、アリシアがフレイアの言葉をさえぎる。
「マッシュって、ヘルムの村長?」
「あぁ。マッシュ・ヘルム。姿は違うけど、魔力の質を変換することはできないからね。最初に会った時からわかっていたけど、本人が秘密にしたそうだったからそのまま黙っていたんだ。世界で5本指に入る大魔導士だよ」
「でも、村長は・・・」
「死んだ。ことになってるよね。でも、本当に村長だったのかな。だって、彼は宮廷魔導士様なんだから、ずっと村には帰っていないはずなんだ。それに、そんだけ強いんだよ?やられちゃうわけないと思うけど。」
ヘルムの村にいた村長は影武者。本物の村長は宮廷魔導士として生きている。そして、それは姉が住むヴィルサーナ領の領主、エルドロール。
アリシアはさっぱりわからなかった。
一体何がどうしてこうなっているのか。ただ、フレイアが言っていた意味は分かる。世界トップクラスの魔導士が王国兵ごときにやられない。なぜ今までそれに気が付かなかったんだろか。
「アリシア、まずはこの獣を倒すのが先だ。魔道の民として、我が力を存分にその目に焼き付けよ」
フレイアがアリシアの周りに真っ赤に光る壁を作る。
「や!やっばいのが来るよ!!逃げて!!!」
フレイアが叫ぶのと同時に、エルドロール。宮廷魔導士マッシュの右手が動く。
ぐががああぁっぁあぁぁぁぁぁぁ!!!
天空に佇んでいた巨大な土龍が凄まじい勢いで魔獣に喰らいつく!
それは一瞬だった。上空から急降下してきた土龍はその巨体からは考えられないくらいのスピードで魔獣の胴体に噛み付こうとする。
魔獣は一瞬で一歩後退したが、それ以上は間に合わず右の後ろ脚をもがれる。
ぎゅがぁぁぁぁっぁあ!!
唾液をまき散らしながら魔獣が叫ぶ。
失った足の部分からが赤紫色の血液と思えるものが流れ出ている。
苦痛に歪むその顔からは余裕の表情が失われ、憤怒に狂気めいた殺気がこもる瞳で睨み付ける。
「どうだ?楽しんでもらえたかな?」
土龍が音を立てながら魔獣の足を口の中で噛み砕く。
土龍の口元からが赤紫の液体がボタボタと滴っている。
「我が僕は、まだまだ足りないようだが・・・。楽しませてくれよ?」
「うわぁ。マッシュ様。それ、悪役のセリフですよ」
小さな翼竜。シルウィアが少し引いた顔でツッコミを入れる。
「どこかの王族が言っていたな。力こそが正義だ、と。まぁ、その国は今を持って滅ぶことになるが」
「・・・」
シルウィアは無言でアレクサンドリアの街を見渡す。
「まぁ、ここまでなったら再建は厳しいだろうなぁ。・・・」
ギョロッとフレイアの方を大きな瞳が見る。
「うぅ」
フレイアはバツ悪そうにアリシアの陰にフヨフヨと浮かびながら消えていく。
「人間ごときが、いい気になるなよ!!」
体液をまき散らしながら魔獣が吠える。
口から吐き出す炎がマッシュを襲う。
「ふん。」
マッシュは何もせずにそのまま身動き一つ取らない。
「あ、あぶない!!」
アリシアが叫ぶと同時に炎はマッシュに直撃し、巨大な火柱になった。
ふふふ・・・
「ふはは!!」
魔獣の薄気味悪い声と歓喜な、声が響く。
「身の程を知れ!人間ごときが我に歯向かうからこうなるのだ!力なきもの、餌は餌らしくしていればいいものを」
喜び叫ぶ魔獣は一瞬で凍りついたように制止した。
火柱が小さくなり。その中心からは、何一つ変わることのないマッシュの姿が現れる。
「チっ。ただの火遊びならフレイアの方がマシだな」
「僕も、遊んでるわけではないんだけど・・・」
フレイアはアリシアの陰に隠れたままボソっと言い返すが、よっぽど出たくないのか隠れたままになっている。
「ねぇ、フレイア?この赤いのって溶炎壁?なんで使ってるの?」
「あぁ。さっきの感じだと、地龍咆岩破が来ると思ったんだけど。」
「どうして?」
「絶対に内緒だよ?北の山の間に巨大な湖があるんだけど、昔マッシュが作ったんだ。なんでも、村の秘宝を盗んだ盗賊を殲滅するときにぶちかました。とか。シルウィアが知ってるんだけどね。真相はあいつしか知らないよ。」
当の本人。翼竜はケラケラと魔獣を嘲笑っている。
あまり、性格はよくないのかも・・・。
「土龍がいて、マッシュもけっこうあれはキレてるね。だから、一瞬で灰にするかと思ったんだけど・・・」
「フレイア、マッシュ・・・いえ、エルドロール様は強いの?」
「あぁ、強いね。低級の魔族ならたぶん敵じゃない。さっきの炎にしても、魔法障壁があるんだろうね。今は地龍破翔撃を使っているから、それ以上の魔法をぶつけないと、精霊の加護、魔法障壁に守られてるから無敵状態さ」
「魔獣は?」
「聞く?それ・・・」
まぁ、シルウィアとフレイアの態度を見ていればさっきまでの絶望が一切感じないことは明白。おそらく、エルドロールにとってはザコなんだろう。
「終わりだな。魔獣の名もこの程度か・・・」
「な、なぜだ!直撃したは」
土龍が最後まで聞くことはなく、魔獣の首を喰いちぎっていた・・・。
首を失った身体はヨタヨタと歩きながらその場に倒れこんだ。
黒く濁ったような血が噴き出している。
「怪我はなかったか?アリシア」
そこにはマッシュ・・・と呼ばれるエルドロールの姿があった。




