4-7 邂逅
『ローラ!!』
「ローラ!ローラ!!」
「しっかりしなさいよ!あんた、そんなとこで死ぬような女じゃないでしょ!!」
私とそららはローラに駆け寄り、力のない体を抱き上げる。
「フラン!!」
そららがレイピアを構えフランに挑む。
「ガフッ!」
大きく咳込むと血を吐き出し、苦しそうに何かを言う彼女。
抱き上げた彼女の背中には生暖かい感触がある。
「どうして、どうして!!ローラ、大丈夫!!?」
「お姉ちゃん。回復魔法。なんでもいいから、ローラの傷が治るようにイメージして、ヒールを使って!」
アリシアが私に魔法の使い方を一生懸命教えてくれる。こんなことなら、前にしっかりやっとけばよかった・・・。
「光の精霊!お願い!!ローラを助けて!!」
私はローラを抱きしめながら全力で叫ぶ。
が、何も起きない。
ローラの顔からは血の色が薄くなり、青ざめたような肌色になってしまった。
魔力を使いすぎたせいもあるのか、呼吸も辛そう。
「お姉ちゃん、ゆっくり、落ち着いて・・・」
「やってるわよ!!できないんだから仕方ないじゃない!魔法が使えないの!」
泣きじゃくりながらローラを抱きしめることしかできなかった。
ローラ、ローラ・・・。エル様がいれば。こんな傷、すぐに治してくれるのに・・・。
「ねぇ!!聞いてるんでしょ!光の精霊!いるならどうにかしてよ!!」
一瞬、手に暖かい感じがしたような気がした。
しかし、気のせいなのか何も起きない。
「きら・・・。ごめんね。」
ローラが口を開いた。
「なんで、なんで謝るの!!?ローラは悪くない!」
「みんな、バレてたみたい・・・だね」
ゴホッ、と血の塊を吐き出す彼女。
「フランンンっ!!!」
そららの怒号が響く。フラン相手に駆け出すそらら。
ギィン!!ガン!!キン!!ギィン!・・・
そららのレイピアがフランを襲う。
が、やはりそこはメイドの剣。王宮騎士相手に通じるはずはない。
「くそっ!!くそ!!」
ギィン!!・・ギィン!!
そららが怒りに任せレイピアを振るう。
「きら、私ね、最後の最後に後悔したのよ」
「後悔??なんのこと?」
「私、スラム街で生きてきたのよ。親を、殺されたの」
「殺されたって、誰に??」
不意に戦場に風が吹く。
そららを中心に風が吹き始める。
「そらら。まて、話を聞いてくれ!」
「うっさい!!」
フランの呼びかけに応じることなく、そららは再び斬りつける!
ギィン!!ガン!!カン!!・・・
フランは防戦一方。決して攻撃はしてこない。
そららはさすがに体力が消耗し始めている。肩で息をして顔には汗が流れる。
「私、王国に、住んでた街・・・を滅ぼされたの。両親が死んで、そのあとは王都のスラムで生きたわ」
「うん、うん。わかったから!エル様がくれば、こんな傷すぐなおるから。もう黙ってて」
「汚い仕事もやったわ。体も売った。盗みや殺しもやったわ。そんな私が・・・ゴフッ!!」
咳込むと苦しそうに冷や汗が額に滲み、目を開けた。
瞳の色はいつもの赤い瞳ではなく、すこし濁ったような色だった。
「ちょっと強いからって、王宮騎士の仲間。・・ふふ。笑っちゃうわね」
力なく微笑む彼女
「いいよ、もうそんな無理しないで!死んじゃ・・・やだよ。」
「そら・・ら?いる?」
「そら!!来て!!今来る。すぐに来るからちょっと待って」
「風よ!」
そららが伸ばした手の先に空気の塊があつまり、一気に爆発する。爆発した風は凄まじい勢いでフランを襲い、足止めをする。
急いで駆け寄るそららに、ローラの視線が動くことはなかった。
「なに?うちはここだよ??どうしたのローラ!」
力ないローラの右手を掴む。
「あんたは幸せよ。孤児でも、親がいて、きらがいて楽しいじゃない。」
「うん、うん。うちは楽しいよ!だから、これからはローラも一緒に」
「私も、姉妹がいたらな・・・。」
ローラの目からは、一筋の涙が零れ落ちる。瞬きすらしない瞳は、ずっと虚を見ている。
剣を納め、フランがこっちに歩み寄る
「荒ぶる魂、燃える躯。我が前に立ちふさがる愚かなる者へ・・・裁きの炎を!」
アリシアが声を発するとアレクサンドリアの至るところで燃えている炎が集まってくる。
まるで意思を持っているかのようにそれは1つの大きな炎へと・・・。
集まった炎はフランと私たちの間で巨大な火柱となり空へ渦を巻きながら立ち昇る。
こんなそばにいるのに、不思議と全く熱を感じない。
「獄炎神召陣」
アリシアが小さな声で呟く。
大きく立ち昇った火柱は小さく収束し、赤い色からその色を変化させていた。
赤からオレンジ、黄色、白・・・そして青い炎が生まれ、丸くなる。
急に、一瞬真っ白い閃光に辺りは包まれる。
そこにいたのは青い炎ではなく、尻尾は蛇、コウモリの羽が生えて、胴体はライオン。合成獣の姿をした青い炎を纏った獣だった。
「これ以上、ねぇねたちを苦しめてみろ。こんなクソみたいな街。一瞬で灰にしてくれる」
アリシアが鋭い眼差しで睨み付ける。フランに牽制・・・なのか本気なのか警告を発する。
フランはその場から動けなくなっていた。
「懸命だね。その子に触ったら一瞬で灰になるよ」
「アリシア・・・」
フランの苦渋の声が漏れる。
「エルドロールが言ってた。守れって。アリスは、二人が守れればいい」
グアガアアァァアア!!
炎の獣がフランたちへ咆哮を上げる。フランも王国兵も、誰一人アリシアの召喚した獣の前から動くことができなかった。
「私、死にたくなかった。でも、あきらめられなかった・・・」
「なんで!?なにがあったの!!どうしてローラがこんな目に合わないといけないの!!」
ローラは力なく笑うだけだった。
「私が、こう望んでしまったから・・・」
そういって、彼女の身体は僅かな、残っていた僅かな力を失い、私の中で力尽きた。
最後の最後まで、彼女は後悔を残す笑顔だった。
「ロー・・ラ?」
「ローラ!」
私たち二人はローラに声をかけるがそれは届かない。
力なく、うなだれるだけだった。
「うっ・・うっ・ローラァ・・・」
初めてこの世界に来た時、エドといた市場ですれ違った時に話しかけてくれたローラ。
困ったときは、屋敷まで送ってくれた。
一緒に晩御飯も食べた。
バカみたいな話もした。
馬車を壊して、一緒に怒られた。
討伐隊で、ゴブリンの街にも行った。
怖い時に、助けてくれた。
この世界に来て、間もないのにローラとは思い出がいっぱいだった。
褒めてくれた笑顔。
怒ったときの怖い顔。
冗談言って笑った時、
武術の稽古で厳しくても、優しく教えてくれた。
彼女は、いつも私たちに笑いかけてくれた。
大粒の涙が零れ落ちる。
そららも、声をあげて泣いている。
ローラ。私たちの頼れるお姉ちゃんだった。
(また・・・王国のせい)
私の心に一筋の闇が差し込んだ。
・・・深淵の闇。
闇夜に広がる漆黒の空間。
光の届かない深海のようにすべてを飲み込むような闇。
「お姉ちゃん。うち・・・。うち・・・」
肩を揺らして泣くそらら。
その時に、私の涙は止まっていた。心の感覚が麻痺したような感じだった。
「お姉ちゃん!!あれ見て!!」
アリシアが指差す方向は東門よりも北に位置する場所。紫、と呼ぶにはいくらか黒い光の柱が天に向かって突き抜けている。
「なに?あれ・・・」
「フラン様!!あちらを!!」
フランたちの視線の先、南門と西門の間にも同じような光が天に伸びている。
「あれは・・・」
アリシアが何かを言いかけた。
「3人とも、いいから話を聞いてくれ!もう時間がない!!ローラの事を説明する。エルドロール伯爵にも言われている。アレクサンドリアで僕のところへ!と言われているだろ!取り返しがつかなくなる前に早く!」
アリシアは言われるがまま、青い獣を退かせ、フランとの道を開放する。
「お姉ちゃん、ねぇね。これ、やばいかもしれない。話を聞こうよ。」
フランは急ぎ私たちのもとへ駆け寄ると
「ここは危険なんだ。急いで離れて!第一公園まで避難するんだ!!総員退避!この場から離れろ!モンスターを駆逐しながら進め!!」
フランが来ても、私たちは素直にフランの事を見れない。
「二人とも、冷静に聞いてほしい。ローラは、この王都で悪魔召喚を行っていた反逆者なんだ」




