4-6 真の敵とは・・・
「探してたんだから!このバカローラ!!」
「久々に会ってそうそうバカとは何よ!?こっちも忙しいのよ。あんたたちの相手ばっかりしてらんないの!」
私たちに声をかけたのは王宮騎士の一人、フランの親衛隊を務める女剣士、ローラだった。
彼女の剣、鎧は血に汚れていた。今回の王都での戦いがどれほど激しいのかを物語っていた。
「どこいってたのよ!!」
「ゴブリンの事や、アンデットの事もあったし、私にもやることはあるのよ。野暮用があっただけ」
「エル様も大変なのに。アレクサンドリアだって、こんなになっちゃうし・・・」
「確かに・・・。あまり戦況はよくなさそうね。」
城門の前で苦戦しているフランたちを確認すると、なにか考えるローラ。
「ローラでも、どうにかならない?」
私は考えているローラに無理だと思っても一応聞いてみる。
目の前にいるモンスターの大群。これをどうにかしないとフランとの合流は難しそうだ。
「あんたたち、囮になる覚悟ある?」
「おとりぃ??」
「うちらに、死ねと?」
「違うわよ!あいつらを、あそこから数を減らすの。城門の前から、数体ずつこっちに近づけることができれば、もしかしたら倒せるかもしれないわよ?」
あぁ、なるほど。一気に100体は無理でも、少しづつ切り崩すってことか。
「アリシアは戦力になるから私とここで攻撃を。二人はとにかくゴブリンをこっちへ誘導してくれる?」
やっぱ私らにそーゆー仕事はまわってくるのね。
「時間がないし、わかった。」
「え!?お姉ちゃん、今日聞き分けよすぎない!?これ、失敗したら死ぬんだよ?」
そららがモンスターにビビっている。そりゃ、ビビるよね。私も怖い。でも、私は大丈夫。なぜなら
「そら、時間がないの。フランたちが死んじゃう。ここはローラたちを信じて頑張りましょう。」
「う、うん。」
私はそららの手を引っ張りながら瓦礫の外に出ると、弓を構える。大丈夫。ローラまでの距離は、すぐ瓦礫の真裏、数メートルしか離れていない。相手がめっちゃ早い獣なら無理だろうけど、さっきアンデットのの突進も、ゴブリンの速度も見てきた。この距離で追いつかれるわけがない。逃げるのは過去に経験した。
「いくよ・・・」
弓がきしむ。弦が切れそう・・・。
シュッ!!
矢が風を切る。
ドスッ!!
うがあぁああああぁあ!!
矢はゴブリンの右足に命中した。
ゴブリンの叫びが戦場に響く。その声にフランが気づいた。
数匹のゴブリンが私たちを睨み付ける。あの、小さな赤い目で。
「早く戻りなさい!!」
ローラが後ろで叫ぶ。
私たちはハッと我に返り、もう一回矢を放ち、敵意があることを見せてから二人で瓦礫の奥へと隠れた。
「ど、どぉ?うまくいきそう?」
「上出来よ、よくやったわ!」
5・・・いや、7匹のゴブリンがこっちに走ってくるのが瓦礫の隙間から見えた。
「来る」
アリシアが言ってから数秒後にゴブリンが私たちの前に現れた。
「火炎鎗」
アリシアが描く3つの円からは炎の槍が3つ現れ、ゴブリンめがけて放たれる。
ローラは2体のゴブリンの首を即座に刎ねていた。
ゴブリンは残り2体。ローラがもう1匹のゴブリンの腹を斬りつけた。
鮮血が噴き出し、その場に倒れこむゴブリン。
アリシアが円を描こうとしたとき、ゴブリンは持っていたロングソードを振りかざし、アリシアを襲った。
ギン!!
刀身同士のぶつかり合う鈍い音が響く。
「うちの妹に、手を出したら許さない」
そららがレイピアで受け止める。
「火炎鎗」
アリシアの指先から生まれた炎の矢はそららの横をすり抜けゴブリンを襲う
うがああぁああぁぁぁぁぁぁ!!
7体目のゴブリンも撃破。
「あんたたち、やるじゃない!騎士見習いよりも素質がいいわ!」
ローラが称賛の声を上げる。お世辞だろうけど、二人はちょっと照れていた。
城門の方はというと・・・、あまり変化はない。
「こりゃ、だめね。全く数が減りやしない。アンデットやゴブリンが群がる群がる。城に何かあるのかしら」
持っていた剣を鞘に納めた。
「どうしたの?」
ローラは不敵な笑みを深べている、おかしくなっちゃった、とか??
「あんたたち、一つ忘れてるわ。私がフランの親衛隊になれた力の一つを。そこで見てなさい」
両手で柄を掴み大地を踏みしめる。
「大地の精霊、シルウィア。汝との契約の印をここに捧げ、我が魔力を糧に力を開放せよ!」
ローラの体が薄い黄金色に輝く。
「地龍破翔撃」
瓦礫の向こうで持っていた剣を鞘ごと地面に思いっきり突き刺す。
その瞬間。地面が大きく動きだす。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
地面が大きく揺らぎ、大地から龍が現れる。
ガアァァァァアアアアァア!!
大地から生まれた龍は大きく咆哮をあげ・・・てはいない。
「なんか、派手な登場のわりに随分とちゃっちぃのね。それ・・・」
そららが後ろから指さす龍。
大きさは、お城より全然低い。多分、私たち3人の身長を合わせた方が大きいと思う。
土でできている龍は、鱗?と言えばいいのか表面がポロポロと崩れている。
「あれは、土属性の魔法。アリスの紅蓮爆砕陣と同じ上級魔法。のはずなんだけど・・・」
「そこ!!外野はうっさい!仕方ないでしょ!!私の魔力じゃこれが精いっぱいなの!だいぶもってかれんだから使うだけ感謝なさい!」
城では小さくも、土の上位魔法により作られた土龍の姿に歓声が湧く。
ゴブリンたちも城への攻撃をやめて土龍を囲むように集まってくる。
ジリジリと近づくゴブリン。
土龍は宙を漂いながらローラからの命令を待つ。
「アリスの知ってる土龍なら、地龍咆岩破が使えるはず。お城も多少壊れるけど、このさいぶっ放すべき!」
「アリシア、その地龍咆岩破って、どのくらいすごいの??」
アリシアは鼻息が荒く、土龍をじっと見つめている。
そりゃ、確かに地面からいきなり龍が現れましたよ。驚きますよ。すごいと思いますよ。でも、そこまで?
「地龍破翔撃って言えば、土属性でも使える人が少ない高位魔法。使うブレスも強力。見たことないけど、地面をえぐりとるなんて訳ない!」
『おぉ!!』
そららと私は魔法にそこっまで詳しくないので、そこまで言われる大魔法。興味がある。
そんなすごい魔法、ゴブリンどころか、すべてきれいに・・・きれいに・・・
「みんなきれいになくなっちゃう?」
「です!」
「それダメだから!!ローラ、そんな危険なもの絶対に」
「あんたたち、勝手に盛り上がってるけど、そのブレス。使えるわけないでしょ?このドラゴンはサイズも小さければ存在するための魔力も足らないんだから」
そう言ってるそばから土龍の鱗?がドサっと崩れ落ちる。
「時間がないから、行くとこまで行くわよ!なぎ倒せ!土龍よ!!」
土龍は目の前のゴブリン相手にかぶりつく。
小型と言えど、ゴブリンの上半身を噛み砕くほどの口は持っている。
「おぉぉおおぉおぉぉ!!ローラさまあぁああぁ!!!」
城門からは歓喜の叫びがあがる。
「残念。ブレス。見たかったな」
その反対席では、アリシアが物騒にも城ごとぶっ飛ばすアイデアを支持している。
この大砲娘。ほっといたら絶対に破壊の神、とか異名をもつ存在になるわ。
グゴォォォアアァアア!!
ゴブリンたちの咆哮が轟く。
土龍は身体の至る所に矢が刺さり、表面がはがれていく。
ゴブリンたちも必死だった。土龍はゴブリンの身体に巻きつき絞め潰し、アンデットの身体を尾で叩きつけ、モンスターを巨大な口で噛み砕く。あたりには肉片や血の海が広がっていく。
しかし、次第にゴブリンが土龍に攻撃を当てていく。
斧、ロングソード、矢が土龍に刺さり、硬いはずの表面にある鱗?は砕かれる。
がぁぁあぁ・・・
土龍にも意思があるのか、ゴブリンの一太刀が身体に斬りつけられると断末魔の声らしきものを発し、そのまま地面に崩れ落ちる。
「こ、ここまでか!」
数はあと20体程度。それでも一気に数が減った!
ゴブリンの気はかなり荒立っているようだったが、それでもどうにかなりそうな数になった。こっちにはまだアリシアがいる。
「火炎鎗」
「凍氷槍」
ぐがあぁああぁっぁ!!!
数体のゴブリンが叫び、絶命する。
「全軍、出撃!蹴散らせ!!」
フランの号令と同時に魔導士たちがゴブリンに燃えさかる槍、氷の槍を放つ。
城門からは一気に兵士が雪崩出てくる。
「なによ。根性あるなら初めからやんなさいよね・・・」
私たち3人はローラのもとへ駆け寄る。だいぶ疲れているようだ
「大丈夫?」
「ふふ、どっかの誰かみたいに寝たりしないから平気よ」
ぐがぁああぁあ!!
最後の1体が倒された。
「大丈夫か!?」
「ほんと、空気読めないんだから。ついさっきおんなじセリフをもらったところよ」
「どこに行ってたんだ!?連絡もなしに!!」
フランが剣を納めローラに手を出す。
「ちょっと。どうしてもやらなきゃいけないことがったもので・・・。心配かけたわ。・・・よっと」
フランの手を取り立ち上がるローラ。
「落ち着いたら、説教だからな!」
「は~い。落ち着いたら、ねぇ・・・」
あたりに散らばるゴブリンの死体。街をうろつくアンデット、燃えるアレクサンドリア。この状況がおちつくのはいつの事やら。
ため息交じりに返事をするローラ。
「きららたちも、いったん中へ。まずは状況を整理しよう」
フランに呼ばれ、私たちはそのままついていく。
城門前には傷つき、血を流す兵士も多かった。
ローラは一瞬で取り囲まれ、騎士や魔導士にもみくちゃにされて進んでいった。
何事もなく。進むはずだった。
ローラも戻ってきた。
お城に群がるモンスターを退治して、
部隊の編成を行って、
ローラ、フラン、それにアリシアもいる。
みんなでモンスターの討伐に出て、
取り残されている人を助けて、
街からモンスターを追い出すはずだった。
きっと、そんな未来もあったんだと思う。ほんの少し、何かが変わっていれば。
ドオゴオゴゴオゴゴオォォン!!!!
東にある街の入り口がある方向に轟音、黒煙が立ち昇る
ドオォオオオォォォォンン!!!!
南門
ズガアアァァァッァアァンン!!!
西門
城を中心にすべての門がおそらく砕けた。
ほぼ同時に。
街から出る手段がなくなった。
「危ない!!」
ローラが私たちのもとへ駆け寄ってくる。
・・・
「だ、大丈夫だよ?ここまでは瓦礫も飛んでこないみたいだし」
ローラが城や城門を見ている。
辺りのみんなは急なローラの行動に驚いていた。
「そ、そうね。ものすごい音だったから・・・。大丈夫ならよかった。あんたたちはすぐに怪我するから!」
何かを隠して笑うローラ。
お城の方に何かあったのだろうか?
次の瞬間、ローラの後ろに一瞬銀色の残像が見えた。
ガギィィン!!
鈍い音が鳴り響くと、ローラの顔が苦痛に歪む。
背後ではフランが、自らの剣でローラの背中を斬りつけていた。
血が、足を伝い大地に流れ落ちる。
すべての時間がゆっくりと進んだ。
その場で崩れ落ちるローラ。
彼女が伸ばした手を、私もそららも、
必死につかもうとしたが、手が届かない。
最後に見た彼女の顔には、後悔のある笑顔があった。
『いやああぁぁああああああああぁあああああああああああ!!!!!』
私とそららの悲鳴が、倒れるローラを前にその場を包んだ。




