4-5 女剣士、再び
「火炎鎗」
街道にはゴブリン、アンデットが徘徊していた。昨日までとは全く違う世界にいるようだった。
草むら、木の陰など至る所から湧いて出る。どれだけの数が潜んでいるのだろう。
さすがに我が家の大砲娘でも、目に入るものすべてに魔法を使っていてはしんどいらしく、アリシアは走行の邪魔になるモンスターだけを狙って排除している。小出しの魔法と一気にぶっ放すのは、小出しのほうがしんどい。・・・らしい。
それでも、なんだかんだで約15体目。燃えさかる肉片の横を馬車が走り抜ける。
アレクサンドリアまで、もう少し。ゴールはわかっているのに、モンスターが邪魔で馬車が早く走れない。
モンスターの数が多すぎる。
「王都は大丈夫なのかな。こんなにモンスターで荒れてるけど。っていうか、このモンスターの群れはどっから現れたの?」
「死霊使い。」
アリシアがボソッと呟いた。エルサーナでも言っていた死人を操る魔法。有効時間とかないのかしら。あれから3日くらいは経つのに。みんな揃って歩いてこちまで来たっていうの?
「こいつら!エルサーナから来たっていうの?」
そららが手綱を握りながら私の思いを叫ぶ。珍しく気持ちが通じた気がする。
「わからない。でも・・・」
言いたいことはわかる。今日は雲が多く、薄暗い。何かがいつもとは決定的に違った。
なにか、良くないことが起きているんだと思う。この際、死霊使いがアンデットを連れて歩いてきたと言っても信じようではないか。私もこの不思議な世界にだいぶなじんだ気がする。
「あれ見て!!」
私が指さす方には黒煙が空に何本か昇っていた。
方向的には、アレクサンダー城の方向。王都の中も戦場になっていることが予測できる。
「王都の入り口が見えてきた!」
アリシアが指さす方には昨日とは違い、無残にも破壊されたアレクサンドリアの入り口。街道には入り口にあった大きな門の破片が飛び散り、木片や金属が飛び散っている。
そららは馬車を急減速し、馬をゆっくりと歩かせた。入り口のそばにはゴブリンやアンデットの死体が転がっていた。ここでも戦闘があったのだろう。まぁ、アンデットの場合はもともと死体なのだけど・・・。
不意に、そららが降りた。
「な、なにしてるの?」
あまりにもいきなり降りたので、何をしているのか理解できなかった。
「武器・・・ないじゃん?うちら丸腰だし。さすがにやばそう。こいつ、レイピア使っていたみたいだから、借りとく。レイピア使う人少ないし。」
そららはゴブリンの手からレイピアを取り上げた。
確かに・・・
昨日せっかく武器屋へ買い物行ったのに自分の部屋に置いてあるままで、全く役に立たなかった。
近くには弓矢、短剣も数本落ちていた。
「うちは、死にたくない。二人も、もっといたら?」
アリシアもそららに続いて馬車から降りる。
そららはゴブリンの手からダガーを取り、アリシアの前に無造作に放り投げる。
「残酷かもしれない。それはわかってるけど・・・。二人とも、死んでもいいの?」
そららの顔がいつにもまして真剣だった。王都の荒れた状態。徘徊するアンデットやゴブリンの群れ。
3人の中で一番の汚れ役を彼女は買ったのだ。本来なら、私の役目であったのに。
「アリス、死にたくない。絶対にお屋敷に帰る」
アリシアが足元のダガーを拾う。
私も馬車から降りて近くにあった弓を拾い上げる。
刹那―
ズゴォオオオォオオオオォンン!!!!
何の前触れもなく街の中で巨大な爆発音が鳴り響き、大きな黒煙が舞い昇る。
馬は爆発音に驚き、その場を走り出して街の中に消えてしまう。
私たちも最初は爆発音に戸惑ったが、急いで王都に入り目的地である王城、アレクサンダーを目指した。
王都は戦場と化していた。
昨日の面影はなく、道には死体が石のように転がっていた。
ゴブリンのモノ、アンデットのモノ、人間のモノ。
屋台は無残にも破壊され、果物や野菜など、売り物が無残にも散らばっている。
建物もいくつか壊されていて、瓦礫の下敷きになって死んでいるものもいた。
火事も起きていて、今ではエルサーナよりも廃墟になりつつある。
立ち昇る黒煙のせいか、王都の中はさらに暗く感じた。
ごるわああぁあああぁぁぁぁ!!
前からアンデットが襲ってくる。
元、王国兵だろう。傷だらけの鎧、顔の半分が腐っていてところどころに蛆が沸いている。
腕や足の一部の肉は腐り落ち骨が見えている。
「火炎鎗」
ぐぎゃややぁああ!!
アリシアの描く円から炎の槍が現れアンデットを燃やし尽くす。
「街の人は、どこかに避難しているのかな。」
私は街を見渡した。人の気配はしない。炎や煙に包まれた商店や建物が戦場の過酷さを物語る。
「だとしたら、王城の中じゃないかな。一番警備が強いし」
「逃げ場がないけどね。アリスならお城は嫌だ」
ごもっとも。アリシアの言う通り。でも、きっとみんなは王城にいるはず。
私たちはお城へと向かった。
お城は案の定モンスターに囲まれていた。
一つしかない入り口では兵士とアンデット、ゴブリンの死闘が繰り広げられている。
城門の中にはフランの姿があった。
魔導士、騎士が交代でモンスターの戦力を削いでいるが、多勢に無勢。見ていても圧倒的にフランたちが不利に見える。
「助けなきゃ!」
「どうやって?」
気持ちとは裏腹に、力がない私たちにできることは少ない。
1匹ならどうにかなるけど、100体近くいるゴブリンの群れをどうすることも出来ずに離れたところから様子をうかがう。
「どうにかしなきゃ、どうにか・・・」
「うちらには、たぶん無理じゃないかなぁ。この量だとほんとに死ぬと思う」
「アリスならどうにかできるかもしれないけど、魔力がだいぶ減っちゃう・・・さすがにこの数は疲れそうだし、楽勝とはいえない。」
3姉妹は瓦礫の陰に隠れて議論していたけど、結局のところ、まともな解決策がでなかった。
そして、私たちが話しているうちに確実にフランたちは後退している。
「あんたたち、よく無事だったわね!こんなところで何してんのよ?」
瓦礫に隠れて城門を見つめる私たちの背後から声がした。
懐かしい、よく知っている声だった。
赤髪の女剣士。フラン親衛隊の一人・・・
『ローラ!!』
瓦礫から王城を覗く事しかできない私たちを、不思議そうな顔で見守るローラが立っていた。




