17-5 アメリアの記憶
『炎風咆』
整備された屋内闘技場の中、向かい合った二人の少女は両手を互いに向けて魔法を放つ。
そのうちの一人はアメリアの妹、アリアだ。
銀色の髪に、細い手足。子供っぽさが抜けていない顔立ち。
アメリアはその様子を2階から見下ろしていた。
(ここは・・・、私は知ってる。ここは魔導研究所。それも、まだ私が学生だった頃の・・・)
白い特殊な対魔法防護服を着て、学生同士の戦い、模擬訓練を行う施設。
より強大な力を。
より多くの精霊との契約を。
より強い魔法を。
力のみを追い続けたのがこの施設だ。
そして、目の前にいるのは可愛い妹のアリア。
でも、アメリアの心に心配の文字はない。
なぜなら、アリアはアメリアよりも魔導に長けているから。
「うぅぅう・・・あぁうっ!!」
ドドドドゥウゥゥ・・・ンン
部屋に大きな爆発音と、アリアの対戦相手の悲鳴が響く。
そう。アリアはアメリアよりも強い。
アメリアにとって自分が守るべく妹は自分よりも強かったのだ。
それが、彼女の見えないところでコンプレックスになっているのも事実だった。
「そこまでっ!!アリアの勝利!これで248勝0負け!」
「おぉぉおー!!」
「アリア先輩っ!かっこいい!」
負けた少女の元へ担架が駆け寄り、勝利したアリアはアメリアへ向かって手を振ってその勝利を喜んでいる。
同じ境遇の学生たちも、容姿とは真逆に強いアリアに魅了されているようで、彼女の人気は絶大だった。
「おねえちゃーあん!!」
アリアは走って向かってくる。
そう、ここはムーンブルグの魔導研究所。私が育ってきた第二の家。
ここが、私が魔導士として生きると決めたスタート地点だった。
「どうだった?お姉ちゃん!今日も勝ったよ!アリア強くなった??」
魔導研究所の中層にある公園。外部に自由に出ることができない私たちにとって息抜きとなるのがこの外の世界を真似て作った空間。
多くの学生がベンチに座り昼食を食べたり、話し込んだり、息抜きに使っている。
そんな私たちも、息抜きに来ているのだけど。
「ほんと、強くなったわね。私はもうアリアに勝てないかもしれないわね」
「ふふぅ~ん!!アリア、お姉ちゃんを守れるようにもっともっと強くなるんだ!先生が言ってたの!アリア、まだまだ強くなるって!大人になればもっと魔力も大きくなるって!」
先生、とはムーンブルグにおいて絶対的な権力を持つ人間の一人。
城に仕える魔導士様だ。アレクサンドリアでいうところの、王宮魔導士様ね。その魔導士様の側近がこの施設の管理、運営を任されているって聞いたことがあるわ。だから、先生とは王宮魔導士様に匹敵するくらいの地位にいらっしゃる方。
このムーンブルグは女性が多く生まれて来る。軍事的には脆弱な代わりに、魔術が進化している。
女性でも、年寄りでも魔術は関係ない。関係あるのは魔力の質と量。
それでこの国、ムーンブルグは魔術への力の込めようが他国とは大きく違う。
しかしそれは力ないものへの待遇も非なるものだということを表している。
この施設にて素質がないと判断された物は辺境の地、生活するには過酷な地へ送られ、人生の半分がそこで強制労働になる。
国のため、力ないものは食料などの受給率を上げるために開墾、漁などに出向くしかない。
アリアの体力では、それは死を意味するだろう。
幸い、アリアには才能、素質がありこのままいけばそうなることはなさそうに思われる。
この魔導に対する素質については、ずっと一緒にいた姉として知らなかった私は正直に驚いた。
無邪気で、子供で、怖がりで、魔法を使うことなんて考えられなかったのに。
「今日は、相手と同じ魔法で魔力の力比べをするって先生に言われたの!先輩だったけど、アリア勝てたよ!魔力量が多ければ同じ魔法でもパワーが違うんだって!」
私の気持ちなんて知らないのか、得意げにはしゃぐアリア。
まだ、この施設に来て日が浅い。それでも、もともと持っている魔力。言うなれば才能の違いで私たち姉妹はここまでとんとん拍子で上がってきた。
経験、実績、魔力量の3つから総合的に判断され3つのグループに分けられ、そのさらに頂点には6人が選ばれるようになる。
私たち姉妹はすでに上位グループ。成績優秀者はこの施設を出て外での仕事もあるらしく、私の夢はアリアとこの施設を出て二人で外で仕事がしたい。
「いつか、また外に出ようね。それで、二人で仕事できたらいいね」
「うん!アリア、お姉ちゃんのためなら頑張っていくよ!」
「ふふふ、そうね、まずは、私もアリアにおいていかれないようにもっと頑張らなきゃ。」
「えへへーっ!」
頭を撫でてあげると得意げに笑う。その仕草からは想像ができないほどの才能を彼女は持っている。
あながち、おいていかれないように。というのは嘘ではなかった。
私たちがここにいるのは国による大規模な徴兵令があったせい。
アリアはきっと、外での仕事が戦争に関わることや、人を殺してしまうかもしれないことには、気づいていないと思う。
それでも、今は二人でここを出ていくことを考えて頑張りたい。
それが、今は生きる目的だから。
私は喜ぶアリアの頭を撫でながらこの施設から出ることを再び誓った。