17-4 邂逅 アメリア
いつでも、いい子なリア。
なんでも出来る器用なリア。
賢くて、大人に対してのウケがいいリア。
私は、小さな時自分を隠して、何かを演じていた。
そんな私には妹がいた。
妹の名前はアリア。
アリアは、私の真似をして背伸びをするときがあった。
銀色の髪が、ムーンブルグの雪原に反射する月光に照らされてさらに輝く姿。
私はその姿を見るのが好きだった。
ムーンブルクの街は雪が多く、アリアと一緒に街を歩くと彼女はいつもなにかを探すようにキョロキョロとしていた。
目新しい植物。
普段会うことのない小動物。
雪の小さな結晶が煌く砕けながら宙を舞い、光に乱反射するダイヤモンドダスト。
時には、小川を流れる水でも彼女は喜んでいた。
そのくらい、なんにでも興味があって、なんでも楽しめる妹だった。
私にとって、彼女の存在は全てだった―。
曇った空。天花が舞い降りそうなここは、いつもと変わらない。
私の前には見慣れた風景が広がっていた。
「リアおねえちゃん!」
「・・・っ!?」
急に幼名で呼ばれて振り向くと、そこには私の妹、アリアがいた。
見た目はお世辞にも私と似てるとは言えない。
アリアの方がまるで人形のように可愛らしい、抱きしめたら壊れてしまいそうな少女だ。
「どうしたの??いきなり立ち止まって・・・。なにか忘れ物??」
首をかしげながら私の目をみつめ、何かを見透かされるような、瞳の奥を覗き込むような感覚。彼女のまっすぐな視線が私の視線を捕らえて離そうとしない。
「あ、アリアなの?」
「えっ??そーだよ?どうしたの。リアおねえちゃん変だよ?」
一瞬眉を細めると、彼女は私のそばに駆け寄ってきた。
ここは、ムーンブルグ。
目の前にいるのはアリア。私のたった一人の妹。私がこの世界で何よりも大切にするべき存在。
「じぃー・・・」
「な、何を見てるのよ。大丈夫。・・・うん、大丈夫よ。ちょっと考え事してただけよ」
小さな顔を精一杯近づける彼女。少し、ほんの少し動けばそのくちびるに触れることができそうな距離・・・。
私は、心臓が高鳴るのを押さえ込みながら、平静を装っていた。
いい匂い。懐かしい、アリアの匂いだわ・・・。
「考え事?また、・・・アリアをおいていくの?」
「また?・・・。」
少し悲しい顔をしている彼女。【また、置いていく。】という言葉に少し違和感を覚えたけど、まったく心当たりはないわ。
「置いてなんか行かないわ。ずっと。ずっと、ずぅーっと一緒よ。そうね、少し、難しいことを考えていたの。とても難しいこと・・・。だから、アリアはまだ子供だから、わからないわよ」
私は少し意地悪を言うと、彼女の頭を2回ポン、ポンっと叩くとそのまま歩き出した。
(置いていく・・・。私が?アリアを?)
「リアおねえちゃん!!ちょっと、待ってよぉ!!」
私の行動が理解できないアリアはその場で少し考えたあと、納得できない顔で私の後を追ってきた。
懐かしいなぁ。この感じ・・・。
あの頃はアリアとこうしているのが普通だったのに、今では・・・。
(今では・・。いま?)
「・・っつぅ」
急に頭にモヤが広がるような感覚に襲われてその場で足がもつれてしまう。
その瞬間にさっきまで頭の中に考えていたことが嘘のように思い出せない。
今まで、なんだっけ?。
あの頃?あの頃って、いつ?
「ほら、リアおねえちゃんやっぱり変だよ。早く帰ってお休みしよう?」
あぁ。
なんでもないかな。
大好きなアリアの顔を見ていると、思い出そうとしたことはどうでもよさそうに思えてきた。
そこまで、大切じゃないから忘れちゃう。きっとそうだ。
そう思うと、次第に体も軽くなってくる。
「うんっ!心配かけてごめんね!寒いし、早く帰ろう」
私はアリアの手を握ると、そのまま人の気配がしないムーンブルグの街を歩き進んだ。