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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第5章 月下の雫(仮)
123/126

17-3 邂逅 アリーシャの記憶

 曇天の空、鈍色に光る空には重い空気が残っていた。


 魔道士だけの村、ヘルム。地図には書かれていない魔道士の隠れ里。

 アリーシャと少年はそこの子供のようだ。

 目の前を静かに歩く二人を、アリスとフレイアの一人と一匹も少し距離を取って歩いていた。


【どこ・・・いくんだろ】


【この方角はアレクサンドリアだね。城下に買い物かな?】


【こんな道、知らない・・・】


【きららやそららと出会うよりも数年前の道で、ヘルムの民が使っているものだからね。裏道か・・・すでに獣道に成り果てたか。】


【ねぇ・・・あの男の子。もしかして】


【死んだろうね。厳しい言い方だけど。彼は僕たちの世界にはいなかったから】


【・・・】


 元気そうに歩いて、アリーシャと仲良さそうに、楽しそうに話している様子を見ると、このあと遠くない未来に彼に襲いかかる禍いを考えると、胸がキューっと締め付けられるような感覚になる。


【・・・ねぇ】


 アリスの姿を見て、フレイアは少し嫌そうな顔をしながら急に視界を遮るように動いた。


【ん?】


【馬鹿なこと考えないでね】


【ば、馬鹿なこと?】


【君は、無茶ばかりするから先に言わないと・・・。この世界には干渉できない。それを忘れないで】


【絶対に、どうにもならないの?】


【ぜえぇっっったいに!!ダメ!】


【わ、わかったから】


 毛玉に詰め寄られて、無理やり押し切られてしまった。

 でも、助かる命ならどうにかしたい。

 それに、この世界が負の感情だなんて・・・。

 この体の持ち主。アリーシャにとって何がそんなに嫌だったのかな。


「聞いてるのか?!」


 アリスとフレイアの方でもめている間に、あっちの二人もなにか進展があったみたい。

 アリーシャが男の子になにか詰め寄られている。


「き、きいてるよ。エドのはなし、ちゃんと聞いてる。」


「お前、いっつも『うん、うん。』ばっかでつまんねーんだよ!そんなに俺らと話したくねーのかよ」


 どうやらエド、と呼ばれた少年はアリーシャの話し方が気に入らないようだ。

 アリーシャはどうすればいいのか困りながらも弁解している様子だけど、不機嫌そうなエドはそれを見ても彼女と仲直りするような素振りはない。


「俺たちのこと、・・・お前本当は嫌いなんだろ?」


「そ、そんなことないよ。みんな好きなんだけど、私、その・・・」


【俺たち?だれ?】


【さぁ?】


 アリスとフレイアは顔を見合わせてエドの言う「俺たち」を誰なのか聞き続けた。

 その間も、アリーシャはエドにどんどん言い負かされてしまう。

 そのうちに声が小さくどもってきて、話すことを諦めてしまった。


「こないだもナッチやダインと遊んでる時、お前なんかつまらなそうだったじゃないか。」


「ち、ちがうよ。そんなことなくて」


「魔法だって上手に使えないくせに、いつも後ろの方でヘラヘラしてて、気に入らねーんだよ!」


「そんな・・・」


 一気にエドにまくし立てられたアリーシャは、そのまま何も言い返せないまま言葉を途中で飲み込んでしまった。

 そのまま、俯いて先に歩きだしたエドのだいぶ後ろの方をアリーシャとアリスたちはトボトボとゆっくり歩く。

 うっすらと涙を瞳にこらえながら、彼女は下を向いて何も言わなくなってしまった。

 気まずい空気が辺りに漂う。


【今のは、ひどい言い方だったね】


【うん、アリスはあーゆーの嫌い。】


 心の中に渦巻くなにか黒いモヤモヤしたものを感じる。

 遠目に見える少年に対して不愉快な気持ちになるけど、少年も、なにか寂しそうな表情をしているのが一瞬見えた。


【アリーシャは魔法が苦手みたいだね。アリシアと違って】


【うん、うまく使えないって・・・。】


 アリーシャと体を共有するアリスは、魔法が得意っていうか、ガンガン使えるのにどうしてなんだろう。

 でも、この二人はほんっと見ててイライラする。

 距離を取って歩くふたりは、仲直りすることなく王都アレクサンドリアに到着した。



 アレクサンドリアの町並みも、今と違って少し古臭い感じがした。

 市場にも、活気はなく、ところどころ空き場所も目立っている。

 遠くから二人を見ていると、相変わらず仲悪そうに買い物を続けている。

 メモ紙に書かれたものを順番に買っていく様子を離れたところで見守り続けている。

 まぁ。見守っても干渉できない以上なにか起きても助けられないけど。


【何か見つからないのかな?】


【どうして?】


【ほら、アリーシャがキョロキョロして何かを見てる】


 先行くエドの後ろで、出店や路地裏の前を通るたびにキョロキョロと辺りを伺っているような様子。


【ただ単に、なにか見てるだけじゃないの?】


【そうかな・・・。】


 フレイアはあまり気にした様子はないけど、なにかあの子の動きが気になった。

 エドはまだアリーシャと仲直りしていないみたい。


(どうして、あの子はみんなと距離を取っているんだろう。)


 結局、アレクサンドリアでの買い物も最後の店になり、2人は手荷物を確認して再び街の入口へと向かい歩き始めていた。

 アリスと毛玉も、その様子を見届けて結局何もないまま2人の後をついて戻るだけだった。


 荷物の確認が終わって、アリーシャがエドに笑いかけると、エドは一瞬表情を緩め何かを言いかけてはいたけど、そのまま口を紡いで黙って歩き出しちゃった。

 ほんっと、可愛くないガキンチョ。


【ダメだねぇ~】


【なにが?】


 フレイアがアリスの心の声を悟ったかのようなタイミングで声をかけてくる。

 その抜群のタイミングのせいもあり、不機嫌MAXで返事をした。


【そ、そんな僕に八つ当たりしないでも・・・。今一瞬、仲直り期待したでしょ?】


【うっさい毛玉】


【だぁかぁらぁ~、僕は悪くないんだってばぁ。それに、これでもこの世界を守護する6大精霊の一角なんだよ?そんな毛玉って・・・。そもそもこの姿は―】


【はいはい。あーあ。いっそのことあの路地からなにか飛び出してきて少しこらしめてくれないかなぁ。】


 フレイアの言葉を遮って先行く2人に目線を送りながら狭い路地裏へ続く道からなにか飛び出してこないかアリもしない期待をしてしまうアリス。

 体を共有しているせいか、アリーシャのことが可愛そうで仕方ない。


「え、エドっ!!」


 ドンっ


 小さな少女は、目の前を歩く少年を力の限り突き飛ばした。


【えぇ!!?】


 フレイアとアリスはその光景を見て、何が起きたのか理解できなかった。


【キレたか】


【やるじゃん!!アリーシャ!】


 何の前触れもなく、アリーシャはエドを突き飛ばすと、エドは正面から勢いよく地面へとダイブした。

 アリーシャはというと、その場で転んではいるものの、急ぎ態勢を立て直してその場から走り出そうとしていた。


【やったら逃げる戦法かな】


【まさか・・・。どっかの誰かじゃあるまいし、性格悪すぎでしょ】


【それ・・・誰のこと?】


【・・・。ノーコメントで。って!そんなことより大変だよ!】


 フレイアに詰め寄っている間に、エドを突き飛ばしたアリーシャに進展があった。

 それはもう、たいしたものでTHE、ゴロツキって感じの人間がまるで子猫でも拾い上げるようにアリーシャのことを掴み上げた。


「うぅ・・・。く、くる・・し・・」


「あ、アリーシャ・・・アリーシャ!!」


 突き飛ばされたエドは顔面をさすりながら振り向くとそこには片手で強引につかみあげられた姿のアリーシャの姿。

 エドは喧嘩をしていたことなんか忘れてアリーシャの名前を叫び続けている。


【これ・・・。】


【ヤバイね。】


「止まれ!!そこの少年!離れなさい!」


「アリーシャが・・・アリーシャが!!」


「離れなさい!!危険だ!」


「あ、あ、アリーシャあぁぁぁああ!!」


 アリスたちが何かをするよりも早く、ゴロツキを囲むように宮廷魔導師、宮廷騎士が数人集まってくると、泣き叫ぶエドを担ぎ上げてその場から離れていく。


「え・・・エド・・。よか・・・っ・・・た」


 涙を浮かべてエドが連れて行かれる姿を見送ると、アリーシャはそのまま気を失ったのか瞳を閉じた。


「お、俺から離れろ。この娘っ子・・。殺すど」


 鉈のようなものを振り回す男は路地から大通りへゆっくりと移動する。

 街に行き交う人はその姿を見ると悲鳴を上げてその場から走り去って行く。

 アリスたちはこの世界には干渉できない。故に干渉されないからそのまま動くことなくアリーシャの様子を見ていた。


【こんな状態でもあいつの心配するなんて・・・。さすがアリス。いい子すぎる】


【いや、アリーシャであって、アリシアではないから・・・。】


 聖女か?!と思うほどの自己犠牲。心から感動していたのに横の毛玉は水を差してきた。


「その子を離せ!関係ないだろ!」


「う、うるさい!!お前たち、俺に近づくな。この娘っ子の腹、かっ捌くど!!」


 ナタをブンブンと振り回して衛兵たちを威嚇するその情けない姿。


【アリスだったら―】


【即炭だろうね】


【ちょっと。今言おうとしたのに】


【いや、ほんとに炭にするつもりならそれは考え直そうか。破壊衝動が魔族と変わらないから。それ】


【ぶーっ】


「風の精霊シルフ。我は汝の加護を受けし者。我が魔力と引き換えに、彼の者を捕らえる戒めの鎖を。

 風縛捕蛇バーグハンド


 そうこうしているうちに、ゴロツキに向かって魔導師たちが捕縛の魔法を放つ。

 刹那―


「あぎあぎあぎぎぎぎいぃっぃ!!」


 汚い悲鳴があたりに響く。

 足、手、体が見えない空気の蛇に縛り上げられ、掴まれていたアリーシャは自由の身になり、そのまま地面に落下する。


「さっさと縛りあげろ!」


 騎士の一人が声をかけると、数人の騎士、魔導師が縄を持って駆け寄ってくる。


「ぎひぃ・・ぎひぎひぎひ」


「何がおかしい」


「頭がイカレタか?」


 衛兵の言葉を聞き、口元が卑しく歪み、その表情は満面の笑みになる。

 それは、まさしくこれから捕縛され城へ連れて行かれ暗い地下牢獄で何をされるのか・・・。それを知っての狂った笑にも感じれた。


「火の精霊フレイア!」


【呼んでるよ?】


 目の前で地面に倒れ込み、そのまま動けなくなったゴロツキはアリスの横にいる毛玉を呼んでいる。


【いや、ここはそ〜ユーふざける場面ではないかな】


【火の聖霊様。でしょ?】


【・・・!!あれは、魔晶剣!!あんなやつが】


【魔晶剣?なにそれ】


【魔工機の武器バージョンだよ!こないだの砂漠にあった転移装置みたいに、魔術と機械の融合があるから、武器と魔術の融合がある!あれは武器と魔術を融合させた―】


 フレイアが口早に説明しているけど、ようは魔法が使える剣ってところかな。

 言いたいことはなんとなく理解できた。

 でも、なにがそんな慌てる必要があるんだろ。

 フレイアが説明をするよりも先に、ゴロツキの方が先に動いた。


「契約の元その力を示せ!!炎魔弾フレイムバースト!!」


 一瞬、あたりが閃光により眩く発光すると、直後に凄まじい爆音と爆風が吹きすさぶ。


「ぐあぁぁ!!」


「いてぇえ!!」


 巻き上がる煙の中、何かを切りつける音と直後に悲鳴が聞こえる。

 その爆発音と爆風、男たちの叫びを聴くと反射的に身構えてしまう。


【アリシア!あいつ、アリーシャ連れて逃げる気だよ!!】


 立ち上る黒煙の中、宮廷騎士の剣を奪い取るとそのまま何人かを切りつけ、再びアリーシャを担ぎ上げて走るゴロツキ。


(あいつ・・・。根性あるな)


 敵ながら必死に逃げる姿を一瞬応援してしまった。

 煙が晴れると何人かの衛兵は腹部、足、背中などを切りつけられて流血していた。

 無傷な者は再びゴロツキを追いかける。

 アリスたちも、そのまま追いかけることにした。

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