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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第5章 月下の雫(仮)
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17-0 プロローグ

「無事に、ムーンブルグ領まできたわね」


 沈黙を破ったのは、アメリアだった。

 その表情には、疲労と安堵の色が混ざっていた。

 私たちは幸運にも商人のキャラバンに砂漠で遭遇し、ムーンブルグへ行く途中だと説明をしたら【用心棒】としてならタダノリを許可してもらえ、今では移動、食事、宿、すべて無料!と言う高待遇な状態。

 一番満足、満喫しているのは顔のそらら。

 そりゃ、仮にも一国の宮廷魔導師様が2人もいるのだから、頼む方は安いものでしょうよ。


「ほんと、途中死ぬかと思ったわ。」


 日が暮れた砂漠を遠くに見つめながら本気で嫌そうな顔をするアメリア。

 そう、トキの城から脱走して約1日経過した今。

 私たちはキャラバンと遭遇する前に野ラクダを手懐け、暑い砂漠を横断していた。

 呼吸すらままならないほどの暑さ。

 空気が熱く、肺に空気が吸い込まれるとむせてしまいそうになる。

 なぜ、こんなことになったのか・・・。誰も口にはしなかったがきっと思っていたはず。

 今回ばかりは、私もほんとにダメかと思った。そんなところに遭遇したこのキャラバンは私たちにとって本当にありがたい存在だった。


「いろいろとあんたのせいでしょ!トキに黙って夜中城から脱走しよう、なんてことになったのも、灼熱の砂漠を無謀にもラクダと横断しようなんてことになったのも・・・あぁー、なんかムカつく」


 キャラバンの荷台でゴロゴロ転がったり、見慣れない食料を探すそららにアメリアの怒りが溢れ始めた。


「えぇ!?うちのせい??今回もうちなの?おかしいって!!そもそも誰よ!!逃げるって言い出した奴!!」


「・・・」


 荷馬車の中に再び沈黙が広がる。

 それぞれが、それぞれの顔を見合わせるも、一巡して皆の視線はアリシアへ集まった。


「・・・あ、アリスじゃないもん!!」


 その視線に耐え切れなくなり、アリシアは立ち上がると指を突き出しアメリアへ向けた。


「アメリアが、・・・アメリアが逃げるしかない!!って言ったもん!アリス・・・、本気じゃなかったのに。なんか、もう冗談とか言い出せなくて。」


「ちょ、アリス!あなたずるいわ!その言い方だと私が悪いみたいじゃない!ちょっと二人共、どんな教育してきたのよ!!」


 エルを片手で抱きしめながら、まるでいじめっ子の事を大人にチクる子供のように、今にも泣き出しそうな顔でアメリアを指さしながらアリシアは言い放った。

 アメリアもまさか自分へ火種が来るとは思っていなかったようで、その責任をこっちへと投げてくる。


「いやいやいや、やっぱ今回はうち悪くないでしょ!?」


「・・・そららが悪い。」


「はぁ!?」


「きらら!」


「お姉ちゃん!」


 私の言葉に感激して歩み寄る二人。

 とっさ的に握りこぶしを作る奴がひとり。

 このさい、誰が悪いとかもうどうでもいい気がしてきた。


「もともと、あんな奴らに拉致られたそららが悪い。油断してなければ倒せたでしょ」


「・・・そ、そりゃあ。あんなやつらに負けないと思うけど・・・」


「じゃあ、そらが悪い。はい。おしまい。」


「・・・~っ。」


 そららは、プライドが高い。

 今は取られちゃったけど、あの魔剣があった時はそこらのゴロツキに負けるような剣術でもないし、魔族とも戦えるほど今はレベルが上がっている。

 それは、本人も知っているし、ある程度自覚している。

 それを利用したのだ。

 本人はあんな田舎の山賊まがいな奴らに負けたくない。そう思っているに違いない。むしろ、今でも彼女の性格上【あいつら殴りたい。】と考えていてもおかしくはない。

 だから、そららが油断した、悪いのはそら。だけど、そららは強い。と褒めたのだ。

 案の定、なんて言っていいかわからなくなったそららは外の景色を見ながら不愉快そうな顔をしていた。


 昔から、嬉しいのと嫌なことがあったら上手く消化できなくてこうやって一人でいじけるように時間を潰していた。

 こうなれば、あとは少し時間を置いて放っておけば大丈夫。

 なんかのタイミングでシレっと会話に入ってくる。

 ・・・あれ?。なんでそんなこと知ってるんだろ。私は、そららの子供の頃なんて知らないのに。


「さすが、長女ね。」


 心にモヤみたいなのが広がった瞬間に、アメリアが声をかけてきた。

 モヤは私の心の中に蔓延する前に消えて行き、何に引っかかったのかも忘れてしまった。


「何を今さら。だてにお姉ちゃんをしてないわ」


「うん。アリスもすごいと思う。」


「おだてても、何も出ないんだから。それよりアメリア、ムーンブルグに行ったら、どうすればいい?」


「うーん。正直、私が知っているのも魔導研究施設かな。他にないもの。・・・あ!教会に行ってみるとな

 にかわかるかも知れないわ。」


「教会?」


「お祈りするとこ?」


 手を合わせて目を閉じる仕草をするアリシア。

 確かに、教会って結婚式かお祈りかくらいしか想像できないけど。


「ムーンブルグは、水と闇の精霊を祀っているの。水と闇の聖霊様は魔属性。魔の象徴アビス様は予言の力を持っているの。先見のお力をお借りできれば、なにかわかるかも知れないわ。」


「アビス?魔属性ってなに?」


 せっかく精霊の事がちょっとわかったのに、今度はまたわからない言葉が出てきたわ。魔属性っていわれてもいまいちピンとこないのよね。そもそも、私には魔法の魔の字すら使えないんだから。


「ごめん、きららはあまり魔術に詳しくないから」


「そうだったわね、簡単に言えば、6大精霊は2つに分類されるの。聖属性の火、光、風。魔属性の水・闇、地。それぞれは神に属する。魔族に属するとも言われているけど、すべて実証されたわけではないの。ただ、6大聖霊の上に位置するのが聖と魔。さらにその上が神の力と魔族の力を直に引き出す魔法。とされているわ。」


「・・・ごめん。よくわからないから、もういいです。まぁ、フレイアよりも偉いのかな、ってことで。」


 正直、せっかく魔法が使える世界にいても魔法を使うための魔力がないから使えません。

 なんて言われたんじゃあ覚える気にもならないわ。


「あなたって、本当に魔法に疎いのね」


「仕方ないでしょ。得意じゃないんだから。そもそも、アメリアだって料理嫌いだったらあまり覚えないでしょう?私は、魔法が嫌いだから覚えが悪いの。向き不向きがあるってだけよ」


「あー、なるほど。今のはわかりやすかったわ。納得。」


 なんだか、納得してもらって嬉しいんだか悲しいんだか・・・。


「ムーンブルグって、どんなとこ?」


 エルの足をプニプニと押しながらアリシアが隣に座ってくる。

 エルはたいそう気持ちいいのか、ダラシナイ顔でぐったりとしている。


「そうねぇ。魔術都市、って感じかな。ムーンブルグの森にはまだ妖精が住んでるって聞いたことがあるわ」


「妖精?羽が生えてて空飛べる?」


「そう!そんなことは知ってるのね。」


 ちょっとイジケ気味にいた私はアメリアの妖精って言葉に反応した。

 ファンタジーなら必ず出てくる小さい人が他の羽が生えた妖精。

 正直、ちょっと興味あるかも。


「その妖精が悪くて、人間を困らせて喜ぶらしいわ。私も見たことないから本当にいるのかは微妙だけど。このあたりでは【ピクシー】。いたずらな妖精って言われているわ。」


 私たちを乗せた荷馬車は、ゴツゴツした岩がむき出しの荒廃した道を抜けると薄暗い森に入り口に差し掛かる。

 荷馬車の中ではピクシーの話や、ムーンブルグの事を冗談っぽくアメリアが話していた。

 私たちは自分たちのやるべきことも忘れて、これから訪れる月と雪の国ムーンブルグへの期待に胸を躍らせていた。

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