17ー2 邂逅 アリシア
いつもと変わらない冬が来る。
私たちの村には冬が来る前に薪、食料を備蓄する習慣がある。
魔道士は自然の理りに反することなかれ
村長様の教え。
私たちは、それが普通であり、選ばれた魔道の民として受け入れていた。
でも、本当は
・・・羨ましかった。
町に行くと、私と同じくらいの子供がたくさんいる。
一緒に遊びたかった。
同じように、ご飯を食べて、遊んで、勉強して・・・。
当たり前にできる行為ほど、
私には無縁だった。
「・・・~~」
彼女は声なき声をあげて、大きなあくびをしながら目を覚ます。そこはいつもと変わらない暖炉の前。
暖炉といえば聞こえはいいけど、寒い冬に暖を取るためにこの村の家にはすべてあるもので、立派なものじゃない。
そこが彼女の特等席。寒い家の中でもいつでも暖かく落ち着く場所。
【っ!!!??】
アリスは、少し遅れて異変に気づいた。そこには、小さな女の子が居る。
見たことある。あの銀色の髪、雪のような白い肌・・・。でも、どこか何かに怯えたような、曇った表情と覇気のない瞳。
あれは・・・。
【うん、あれは君だね】
【!!!?】
アリスの隣には、いつも通り、毛玉の羊がどこから沸いたのかふよふよ浮いている。
【フレイア・・・。ほんと、いつも突然だね】
【僕とアリシアくらいの仲になると、召喚の言葉なんて不要さ!】
【・・・】
見渡してみるも、どこか見知らぬ家の中。
部屋の中央には暖炉が煌々と照らす暖かい光が眩しい。
少女は暖炉の前で目を覚ましたようだ。アリスは、その少し裏で彼女の様子を見ている感じ。
【ねぇ、なに?ここ】
【・・・普通に、無視するんだね。君は】
精霊ジョークを聞いている場合ではない。
神出鬼没、前回の砂漠の一件では一切の手助けなしで今更現れて、「僕と君の仲には~、」なんて言われても正直うざい。
この羊、そのうち丸刈りにしてやる。
【ねぇ、ここ】
アリスは指を二回床に向けてクイックイッっとやって少し苛立った素振りを見せた。
怒っているわけではないのだけど、正直不満、不安という感情はある。
それに、・・・あの少女。
【ここは、君の記憶・・・。いや、君の体に残った記憶の残留思念。魂の記憶ってやつかな】
【残留思念?魂の記憶?】
説明が難しいのか、フレイアも少々困り顔。
でも、いきなり難しいことを言われてアリスも困り顔。
【君は、きららと同じ世界の住人だよね。この記憶は体に残るこの世界に住むあの少女の魂の記憶。君の体には魂が二つある。アリシアの分と、あの少女の分。この世界は、負の感情が渦巻いている。アリシアではなく、あの少女の記憶の世界。僕たちの存在は別次元、アストラルサイドにあるといってもいい。こちらからは見れても、向こうからは見れない。それに、お互い干渉もできない。何かに触ることも、話すことも】
【・・・】
ここは、あの子の。アリスの体の持ち主の記憶の世界。つまり、アリスの知らない世界。
「だれか・・いるの?」
目の前の少女は部屋をキョロキョロと見回している。
それに驚き、見えてない、と言われても反射的に物陰へと身を潜めてしまう。
それでも、少女とアリスたちとは視線が合うことはない。
アリスたちの動きを目で追うこともない。
【さすが、未来の大魔道士様。感受性が高いこと。アストラルサイドの僕たちのこと、無意識に感じているのかもしれないね。】
【なんで、アリスたちはここにいるの?】
【なんでって、そりゃぁ・・・】
ドンドンドン!!
フレイアが言いかけた時に、部屋のドアが勢いよく叩かれる。
アリスも、少女もそれに驚き一瞬目を丸くしてしまう。
「アリーシャ!!アリーシャ!!起きてるか?今日は買い出しの日だぞ!いつまで寝てるんだ!」
「ご、ごめん!すぐに行くから・・・」
アリーシャ。と呼ばれたその少女は近くにあった厚手の毛皮をコートがわりに羽織るとドアを開けて出て行った。
扉の向こうにはアリーシャと同じくらいの年頃の少年が不機嫌そうに立っている。
アリーシャは『えへへ』という感じに少し照れたような笑い方をして少し頭を下げると、少年の後についていった。
ここはアリスの知らない世界。
体に、魂に刻まれた憶いの世界。