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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第5章 月下の雫(仮)
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17-1 邂逅 そらら

 うちは、いつも一人で頑張ってきた。


 うちは、いつも我慢してた。


 欲しいモノがあっても、


 食べたいものがっても、


 遊びたくても、休みたくても、


 ずっと、うちはあなたのために頑張ろうと。


 何もできないうちを助けてくれた、育ててくれたあなたのために、うちは頑張ろうと決めた。


 一人でも精一杯、あなたの役に立てるように。


 それが、うちの願い。うちがあなたにできる恩返し。


 ・・・。遠のく意識の中、まぶたを閉じると体がふわっと軽くなる不思議な感覚。

 うちはその心地よさに身を任せることにした。


 再びまぶたをあけるといつもの我が家、住み慣れたお屋敷がある。でもそれは、いつものうちが知る屋敷とは何かが違った。

 変わらぬ佇まい。

 変わらぬ庭園。

 どこを見ても、いつもの我が家。


 この中には・・・。この中には、誰がいるんだっけ?

 あれ?うちは、誰とここで住んでいたんだっけ?

 うちの頭の中にうっすらともやのようなものが浮かび、思い出そうとするうちを妨げるように濃くなっていく。

 うちはそれを必死に振り払おうとするも、思い出そうとする記憶ほど、遠くに行くような錯覚に襲われてしまう。


 うちは思い出すことを諦め、とりあえず屋敷に向かって歩き出す。

 記憶ははっきりしないものの、この屋敷に誰かがいて、うちは帰るべき。ここが自分の戻るべき場所。だということは理解している。


「この扉・・・こんなに大きかったかな?」


 ドアノブに手を伸ばし、小さい体で精一杯開けると、中には男性が2人。


「おかえり、そらら」


「・・・っあ」


 扉を開けると、うちと同じくらいの大きさの男の子が声をかけてきた。


「た、ただいま・・・」


 おかえり、と言われて反射的に答えてしまったものの、うちはこの子のことを知ら・・・。

 いや、知ってる。この子、小さい時によくあったことがある。


「こんにちは。フラン様」


 特に何も考えもなく、体が勝手に反応するようにうちは男の子。フランへ軽くお辞儀をした。

 そう、この子はフランだ。小さい時、よくお屋敷に来てたんだ。うちにとって年頃が近い唯一の存在。


「おかえりそらら。お庭のお手入れかい?いつもありがとう。お茶にしようか」


 もうひとりの男性はうちに笑いかけると、うちの頭をクシャクシャっと撫でて食堂に向かってゆっくりと歩いて行った。あれは・・・、そう、忘れもしない。


「ご主人様。今、うちが紅茶をご用意しますね!」


 懐かしい匂い。

 大きな手のひら。

 優しい笑顔。

 子供の頃に見た我が主の姿があった。




「今日は二人に話があるんだ。」


 食堂でお茶の用意が終わると、エル様はうちたちに話を切り出した。

 とりあえず、食堂にてこの小さい体でお茶の準備をしている間に思ったことがいくつか・・・。

 まず、勝手が違う。そう、物の配置がなんかしっくりこない。それに、なんか少ないような・・・。

 なんか、モヤモヤする。それに、この体、なんか小さい。動きにくいし、もともと背が高くなかったのに余計高いものに手が届かない。それに、裏庭にハーブを摘みに行ったらうちの家庭菜園がなかった。

 育てるの大変だったのに・・・。 

 まぁ、そのあたりはいいわ。どうせ、こんなの夢だもの。


「うんしょっと・・・。」


 ふざけるのはこの辺にして、今までにわかったことや疑問はいくつかあった。

 まず、うちは今子供になってる。

 もちろん、理由は不明。

 2つ目、なぜか周りも、うちが子供の頃に戻っている。エル様がいる。フランが子供だし。

 これも、理由は不明。時間移動?なのかもしれないけどよくわからない。

 3つ目、他のことがあまり思い出せない。

 これも、理由は不明。

 まぁ、結局すべてわからない。ここに来るまでの記憶も、今でははっきりとしない。ジワジワと記憶が消えていくような感じね。


 ただ、自信を持って言えるのは気を抜くと一瞬本当にここが現実の世界なのではないか。と錯覚してしまう。

 でも現実にエル様はもういない。その悲しさが、うちにこの世界は幻想だと思いださせてくれる。

 でも、うちはまだこの世界にいたい。幻想だとしても。一番楽しく、充実していた時だもん。

 心のどこかで、この世界が本当だったらいいのに。そう思っている自分がいるのも事実。

 うちはフランの隣に座って目の前の世界を満喫していた。

 心の中で必死に何かに負けそうな自分を押し殺しながら目の前の紅茶に手を伸ばす。

 なんか、現実じゃない、って思ってるけどお茶の味までしっかりするのが少しムカつく。

 でもここってよく見るれば見るほど、なんだか懐かしいのよ。

 別に、記憶が戻ったわけでもはないし、ここにあるものではっきりとなにか印象に残っているわけでもない。

 でも、なんだろう。


(懐かしい・・・)


 そう、居心地がいいのだ。

 うちが、ずっと欲しがっていたような。

 ずっと、好きだったような。

 なにか、そんな感覚。


「そらら、今日は君に紹介したい人がいるんだ。」


「伯父上、紹介とはいささか仰々しく聞こえますが」


「紹介って、だれかいるんですか?フラン・・様はなにかご存知なのですか?」


 なんか、最近ずっと適当に過ごしていたせいかなかなかうまくしゃべれないわ。

 これもあの・・・。

 あの・・・。


(あれ?誰だっけ?ウチがだいっきらいなやつ。手が掛かって、すぐに泣いて・・・。)


「うーん・・・」


「どうしたの?そらら。」


「体調でも良くないのか?」


 目を閉じて、なにか、思い出しそうな感じのモヤモヤに声をうならせると二人が心配そうにうちの顔を覗いてくる。


「あはは、大丈夫・・です!すこし考え事をしていて、その、すいません。」


「そららはいつも伯父上のことを考えてるからね。今日の晩ご飯のことかな?」


「夕食が気になるのはフランの方だろう?小さくてもそららの料理は大人顔負けだからな。」


 フランの言動を豪快に笑い飛ばすエル様。

 うちはその姿を見ていると思い出せないことなんてどうでもよくなってきた。


「さぁ、入ってきなさい」


 大きく手を打ち合わせてパン、パンと音を立てると食堂のドアがゆっくりと開き、フランよりも少し暗い金色の髪をしたうちと同じくらいの女の子が顔を覗かせた。


「っ!!」


 頭の中で、その顔を見た瞬間になにか映像と言葉が頭の中に浮かんだんだけど、それはすぐに消えてしまった。

 結果、うちは声無き声で魚のようにパクパクしているだけだった。


「紹介しよう、きらら、こっちに来なさい。」


「そらら、君の一つおねいさんなんだ。今日から妹だな!」


 正気に戻れないうちに向かって、フランが意味不明な言葉をかける。


「い、いも・・う・・よ?」


「違う、妹だ。いもうと」


「・・・」


 驚いた。

 子供ながらに、急に目の前に同じくらいの女の子が現れて周りからはお姉ちゃんだの、妹だの、言葉が理解できない。

 確かに、見た目はうちと変わらない・・・。いや、少し大人っぽい感じはするけど。


「きららは、孤児でな。身寄りがないんだ。そららと偶然か名前も似ていてな。他人の気がしなくて連れてきた。二人仲良くしてくれまいか」


「ご、ご主人様がそう命令されるのであれば・・・」


「命令ではない。これは願いだ。可愛い娘達が健やかに育つのをみたい。それが願いだ。」


「・・・あ、あの。・・・よ、よろしく」


 小鳥が鳴くようなようなか細い声で彼女はうちに声をかけてきた。


「・・・」


 これは、エル様からの命令ではないわ。だから、拒否しても良いのよ。そうよ!ここにはうちがいるんだもん!こんなどこの誰だかわからない子と仲良くしろだなんて・・・。

 しかも、よろしくぅ!?もう居座る気マンマンじゃないのよ!こんな図々しい奴と仲良くなんて無理だわ!

 そもそも、誰が許可したのよ!うちは認めないわ!うちが大好きなご主人様と一緒にいられる場所を奪われてたまるものですかっ!


「う、うちはっ!!・・・。」


「そららは、なんでも知ってるし、料理は上手だし、器用で頼りになる妹なんだ、二人で仲良く、これからはこの屋敷で頑張ってくれ」


「・・・」


「いやぁ、そららときららかぁ。ほんと。偶然にしてはそっくりな名前だよなぁ。姉妹といっても違和感ないし。」


「・・・」


「あ、あの。そらら。これから、よろしく・・・ね?」


「・・・」


 あぁぁぁぁあああっっっ!!!


 どいつもこいつも、なんなのよ!うちはまだ許可してないわ!

 エル様はいいのよ!エル様が望むならなんでもするわ!でも、あんたたち二人までなに便乗してるのよ!

 おかしくない?

 名前が似てるから姉妹でもいいって、どんな理由よ!

 アリアとマリアも姉妹成立じゃない!一文字違いなんていくらでもいるわよ!

 って、目の前の小娘っ!あんたも最後の最後に『そらら、よろしく』じゃないわよ!って、誰がいつ呼び捨て認めたのよ!

 ほんっと、だからコイツは嫌いなのよ!!


「うん、よろしくね!きららおねえちゃん!」


 うちは、全身が小刻みに震えそうなほどの怒りと文句をお腹の中に溜め込みながら精一杯の笑顔で彼女を迎え入れた。

 この流れで『うち、この人きらぁ~い』なんて言った日にはみんなから嫌われる・・・。

 エル様も、言葉では言わなかったけど「仲良くして」と望まれている。あれはもはや命令と言っても過言ではない。

 気持ちとは逆に、うちはきららに手を伸ばした。この家に仕えるメイドとして、おそらくこれが最善だと思う。


 でもそれが、うちの間違いの始まりだったのに・・・。




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