16-6 地下神殿の崩壊
私って、なんでも結構出来ちゃう器用な方なんだよね。
いつも、困ったことがあってもどうにかなったし、今回もよくわからないことばかりだけど、どうにかなるんじゃないかな?って思ってた。
実際に、こんな世界に来ても今までどうにかなってきた。
いきなり怪獣みたいなのが出てきた。
魔法なんて初めて見た。
海ではでっかいイカも見た。
魔法で戦ったり、馬車に乗ったり・・・。
今思うとこの世界でもどうにかなるんじゃないかな?って思うことが多かった。
「ねぇ!きらら、どうするのよ!これ・・・」
後半、言葉を失うアメリアは目の前にある巨大な石像を見上げていた。
なんとかティグレの消えた祭壇まで来たものの、このあとはどうしようか。と悩んでいる時だった。
確かに、あいつはこのあたりで姿を消した。
そして、この空間から文字通り消えたのだ。
内心、どうせ秘密の抜け穴程度でもあるんだろう。なんて思っていたけど来てみたら何も穴らしきものは見当たらない。
当てが外れた私も、正直どうすればいいのかわからない。
「きっと、何かがあるはずだ。・・・まだ、敵が来ない。今のうちに探してみよう」
アリシアに肩を借りているトキが力なく辺りを見回している。
全身ボロボロのトキは肉体のダメージが大きく、回復魔法をかけてあげるべき・・なんだけどこの場に回復魔法が使える光属性の魔導士は私しかいない。それも、魔力がほとんどないし、この世界で魔法を使ったこともない。
そんな重傷のトキを祭壇に座らせると、私とかろうじて動けるアメリアは辺りを散策することにした。
私も、まだ意識が戻らない少女を祭壇の上に寝かせる。
「この子、看ててね?」
「・・・」
トキは黙って小さく頷いた。
正直、辛そうだ。少しでも早く何か手がかりを探さないと・・・。
「アメリア、そっちには何もないの?!」
「そんな急に言われても・・・そうねぇ、特になにか逃げられそうなところはないけど・・・」
「もしかしたら、なにか仕掛けがあるのかも・・・。」
「仕掛け?」
「そう、仕掛け・・・」
私は祭壇にあるオブジェ、奉納品などに目を当ててみた。
どうだろう、こんな犬?かなにかの石像の口の中になにかスイッチとか・・・。
私は目の前にある腰ぐらいの高さほどの石で作られた犬の中に手を入れてみる。
ザラザラした岩の感触。なにかスイッチや、仕掛けがあるような雰囲気はない。
「仕掛けがある・・・、ねぇ?」
「う・・うん、その、仕掛けかなぁって」
犬の頭を撫でながら私は胡散臭そうにこっちを見ているアメリアの視線を笑ってごまかした。
(おかしいなぁ。こんな時に、絶対にこのあたりに)
「何かある。あいつは用心深い。きっと非常の脱出口があるはずだ」
「そーよ!!さっき、あのクソじじぃの他に変なやつもそこから消えていったもん!!」
考え込む私にトキとそららが声をかけてくる。
トキは、ティグレはきっと何か用意していると言っている。
そららは、変な奴?が消えたと言っている。
この場合、変な奴とは誰だろう?問いただした方がいいのだろうか。私たちがここへ連れてこられる前に何かがあったのか・・・。
「2人が言うなら、もう少し探す価値がありそうね。手遅れになる前に探すわよ!」
「う、うん!」
アメリアは再び祭壇の周りを探し始める。
私は石像の方へ近づいた時だった。
ドドドドドド・・・・
低い、地鳴りのような音が聞こえる。
ガラガラガラ!!!
「そら!!アリシア!!」
私たちの目の前で、地鳴りのとともに土煙を上げて、ティグレの作った巨大な岩の柱が崩れ始めた。崩れ去ったあとには、瓦礫の山が出来上がっていた。
ほとんどの人間が下敷きになった中、そららはアリシアの魔法障壁の中にいた。
うっすらと赤いシャボン玉のようなもの中にいる2人は無事のようだ。
「あの2人、本当にすごいわね」
「あぁ・・・。」
いくつもの横たわる亡骸の中、2人は佇んでいる。
トキとアメリアはその様子を見て、何を考えているのか私にはわからない。でも、本当にすごい。あれだけいた敵をみんな倒しちゃうなんて・・・。
「ねぇね、元気じゃん」
「あったりまえでしょ?うちを誰だと思ってるの?」
「牛チチぃぃ・・・」
最後まで発言権を与えられずにアリシアはそららにほっぺたを掴まれて伸ばされている。
「だれが??なぁに?」
満面の笑顔のなか、頭に大きな怒りマークが浮かび上がっていそうなそらら。そのほっぺたを摘む手はいつもよりも痛そうに見える。
「ね、ねぇねはやさひぃくてきれいでふ」
「よし!」
「・・・痛い」
つままれた頬っぺたを解放されると、両手で痛そうにさするアリシア。
最強の魔法使いも、姉には勝てないらしい。
「ほんとに、すごい馬鹿だ」
トキが言葉を発した時にアメリアが異変に気がついた。
「なんか、暑くない?」
確かに、暑い。
よく見てみると、大穴の中が赤く光っている。さっきよりも強く光っているように見えるのは気のせいだろうか・・・。
「お、おねえちゃん、な、なんかヤバイよ!!」
そららが慌ててこっちへ走ってくる。
やはり、気のせいなんかではないみたい。大穴の中は今にも溢れんばかりに赤い高熱の液体がユラユラと揺れながらその水位を確実に上げていた。
ズズズズズ・・・
鈍い振動が空間に響く。天井に亀裂が入り、小さな瓦礫、小石が落ちてくる。
「これって・・・」
「もしかして」
私とそららが天井を見上げると、ほかの2人も天井を見上げる。
小さな亀裂は大きな亀裂へと繋がり、やがて天井にクモの巣のように張り巡らされていく。
「崩壊・・・よね?」
「だな」
アメリアたちと顔を見合わせる私たち。
生き埋めになる。
頭の中にその言葉が浮かんだ。
「い、急いで探して!!」
アメリアの声が崩れ始めた空洞に響いた。
私たちは手分けして再び祭壇を調べ始めた。
「あ、あった!!ここに何かあるよ!!」
声を上げたのはそららだった。
石像の足元、といえばいいのだろうか。人が一人通れるくらいの狭い通路がある。
「通路がある!行ってみようよ!」
「ま、まって!みんな連れていかなきゃ・・・」
私は再び意識の戻らない少女に肩を回し、ポッカリと空いた穴のような入口を覗いてみる。
多分ここなのだろうけど、気持ち悪いっていうか、怖いというか。不思議な感覚。
でも、そらと顔を見合わせると黙って歩き出した。なんか、かび臭いような臭いがした。
トキのことは、アメリアが面倒を見てくれてるみたい。
「あの変な奴、このあたりから消えていったし、この辺から出てきたように見えたから怪しいと思ってたんだよねぇ」
「変な奴?」
そう言えば、さっきもこの子そんなこと言ってたわね。変な奴って、あの弓で射抜いても死なないマスカローネとかいうやつかしら?
「うん、よくわからない奴だったなぁ。なんか、うちに似た魂がどうのとか言っていたけど・・・。ここってあーゆー気持ち悪いのしかいないのかしら」
あ、会話できているのね。そしたらあいつじゃないわ。あいつ、なんかしゃべれない変な奴だったし。
「ねぇね。早く」
「あぁ!!エルぅ!!それに弓まで!!」
「あっちに転がってたから。それより早く。もう天井が落ちる」
「そうよ!今はそんなこといいから早く!」
アメリアとアリシアに促されるまま、私たちは通路を降りていくことになった。
狭い通路はすぐに終わり、少し開けたところにでた。
そこにはうっすらと光る魔法陣が床に描かれている。
「なに?ここ」
「転送の魔法陣だな。魔力を使って遠いところでも一瞬で移動できるってものだ。あいつら・・・こんなものまで」
「動くの!?」
「わからん。使ったことないし、現物は初めてだ。」
「アメリアは!?」
「私も、本物は初めてよ。でも、話には聞いたことある。ちょっと、そら、代わってくれる?」
「う、うん」
アメリアはそららにトキを託すと、魔法陣の中心まで歩き、床を触って何かを調べているようだ。
「転送とか、すごいね」
きっとあれよね、離れた場所まで一瞬で行けちゃうとかいう魔法。
そららとかは知ってるのかな。
「魔工機は西にある大国が製造できる魔法道具だ。この転送装置もそこのものだろう。」
「魔工機?」
「お前、城の灯りを不思議に思わないのか?あれはすべて魔法で管理されているのだ。特殊な輝石に魔力を込め、光源へと変える。その技法は西の国でしか伝わっていない。」
「へー!そんな便利なものがあるとは・・・」
「お前、ほんと鈍感というか、ちょっと抜けてるよな」
「うるさいな!私だって知らないことあるのよ!」
「二人共うるさい!!生き埋めになっても知らないわよ!!」
私とトキのやり取りを聞いていてイライラした声を上げるアメリア。
た、確かにうるさかったかも?・・・。
そららの『こんなときに・・・』とでも言いたそうな視線が痛い。
「ご、ごめんなさい」
トキと顔を見合わせて静かに謝る私たち。
そうだった。珍しいものも気になるけど、今は逃げないと。
ここから出たら詳しく聞いてみよう。
ドドドドドド・・・
再びどこかで何かが崩れるような音が聞こえた。ここも、そう長くはないだろう。
「みんな、聞いて。この装置には、魔力があまり残っていないわ。定員はそもそも1名。こんなに一気に転送したらどうなるかわからない。でも、1人転送したら残りはここで死ぬわ。充電完了までなんて待ってられないもの!だから、恨みっこなしで行くわよ!!」
「ちょ、ちょっと待って!!行くって、もう行くの!?まだ、心の準備が・・・」
「そんなの後でしなさい!!みんな、魔法陣に入ってるわね?」
私は人生初の転送、なんて得体の知らない魔法に心の準備が・・・。アメリアはそんなのお構いなしで準備を進めているみたい。
魔法陣にみんなが入ると、彼女は足元にある文字の一節を軽く手でなぞるような素振りを取った。
「行き先は不明!どうなるかもわからない!祈ってて!!」
アメリアの言葉を最後に、私の視界は真っ白くフラッシュアウトした。
最後に聞こえたのは、遠くの方で何かが崩れ去る轟音だった。