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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第4章 魔導都市の陰謀
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16-3 強さと・・・弱さと・・・

 ゆっくりと。


 ゆっくりと天井近くまである巨大な石像の瞳に宿る光は強くなる。

 この光が目の前にある巨大な穴を照らすとき、私たちは・・・殺される。


「魔獣の復活?ははっ、あの悪魔が使役すると言われている伝説の?そんなものを信じるとは・・・」


 私の後ろでトキが力なく、馬鹿にしたように言った。

 でも、そららと私は知ってる。

 魔獣ダリアントは存在することを。


 巨大な体。


 アリシアの魔法を受けても平然とし、全く歯が立たなかった。


 残忍で、狡猾な魔獣。


 以前遭遇したときは倒せたけど、もうあの人はいない。

 今は、エルフィンも、そららの魔剣も、アリシアも輝石があるし、アメリアやトキもいる。

 でも、王宮魔導師マッシュよりは戦力として見込めないだろう。

 今この場で復活したら、間違いなく殺される。

 そして、トキの国、サン=ドラゴも滅ぼされる。

 私とそららは目を合わせてお互いに言葉を失った。


「手始めにこの界隈を蹂躙し、死せる大地に変え愛しのわが祖国を滅ぼしてくれようぞ。そしてムーンブルグを血で染め上げ、偉大なる賢王様をこの地に召喚するのだ!!」


 言っていることは、わかる。

 邪竜王の時とやってることは一緒。ローラもアレクサンドリアでクーデターを起こし、モンスターを利用して多くの人間を殺した。そして、天空の輝く魔法陣。そこから奴は来た。

 それをムーンブルグで再現しようとしているのだ。


「ティ、ティグレさん。どうしてそこまでするんですか?・・なんであなたが・・・」


「飽きたんだよ。」


「あ、飽きた?」


 彼はつまらなそうな顔で。表情がほとんどない能面のような顔をした。

 それは、子供が一人公園で立っている時のような、刺激が足りない。と言いたげな顔だった。


「この世界は、神魔の玩具ではない。我々は、駒ではない。時には神々の予期せぬことをしてすべてを覆し

 てみたいのだ。私は、この世界に終わりを告げるものとして名を残す。」


「そんなっ、そんなくだらないことでこの世界の人を巻き込むんですか!?全く関係ない人も、友人も、家族も殺しちゃうんですか!?」


「うるさい!!」


 睨み。・・・狂気が混ざる視線を浴びた私はそのまま動けなくなってしまう。

 男性特有の低い声。

 怒りに任せて叫ばれたその言葉に私は萎縮してしまう。

 この人に、何があったかはわからない。でも、でも


「間違ってます!!」


「きらら・・・」


「そんな弱い人だと思いませんでした!!見損ないました!」


「・・・もういい」


 後ろでトキが私に声をかけてきたが、今はかまっている場合ではない。

 心の中で、今言わないと絶対後悔する。そう言っている誰かがいる。


「弱い?弱者は貴様達だ!今も捕らえられ、生贄になり、我が野望の手助けをしているではないか!」


「私たちは、あなたみたいに弱くない!あなたが言っているのは、大義名分なんかじゃないわ!ただの子供のわがままじゃない!自分の思い通りに行かない。つまらない。自分が恵まれていない。それが、こんな集団を作って、ただ自己満足しているだけよ!あなたが弱いから・・・、あなたがそんな弱虫だから悪魔に心を奪われてしまうんだわ。私たちは・・・、あなたみたいに弱くない!!」


 肩を上下に動かし、涙が頬を伝いながらも、言ったわ。言ってやった。

 なにか、そららがモグモグ言っているけどよくわからない。でも、目を見るとなんとなくわかる。


『よく言った!』


 そう言っているような気がする。

 その向こうにいる女の人も・・・。どうだろう?初めましてだし、よくわからないかな。でも、なんか怒ってる??


 バシッ!!


 強い衝撃で、私は顔が左へ大きくもっていかれた。その直後に口の中に生暖かいものを感じた。

 それと同時に、左の頬が熱くなるのがわかる。


「言いたいことはそれだけか?」


 眼前には怒りの表情がなく、喜びでも、楽しみでも、悲しみでもない。ただ、何かに絶望した初老の男が立っていた。

 私を見下ろすように。

 足が、震える。手も、肩も、顔も・・・。全身が小刻みに揺れているような気がする。

 強く、精一杯のチカラで体を押さえつけようと力を入れてみるが結果は変わらない。手もグーを作って握り締めるも震えは腕まで伝わってくる。


「私は・・・。私たちはあなたに負けないわっ!絶対に!」


 私も、震える体で精一杯のヤセ我慢でティグレを睨みつける。

 少しの間・・。ほんの少しの間時間が止まったように静かになった。

 その静寂を壊したのは教団のどよめきだった。


 おおぉぉぉおお・・・


 あいかわらず穴の前に跪く彼らは、私たちのそばにある光の輪を見ながら声を漏らしていた。

 さっきまでこんなところに光なんか来てなかったのに・・・。

 視線を石像に送ると石像の瞳から発する光は角度を変えて、確実に穴へ向かっている。


 この穴に光が入る時・・・私たちは死ぬ。


 静かなカウントダウンが始まった。

 アメリアは動かない。

 トキも、ダメそう。

 そららは身動きがとれないみたいだし。

 エルはどっかに捨てられたのか見えないし・・・。

 向こうの女の人は誰だかわからないし。


 ティグレはあたりを見渡しながら落ち着きがなくなった私を見ると一瞬満足そうに顔を歪ませていた。

 そして、私の前から姿を遠退けていく。石像の下。祭壇、と呼ぶには少し貧相な場所へ行くと、手に持っていた魔剣を祭壇へ静かに置き、代わりに巨大な鎌のような、斧のような不思議な形をした武器を持ち上げた。


 容易に想像ができる。


 どうせそれで生贄である私たちを殺すつもりだ。それ以外に用途はない。

 目の前が真っ暗になり、真っ白になり、急な吐き気に襲われ、四肢から熱がなくなり、一気に冷たくなっていくことがわかった。


「間もなく、時は満ちる!!」


 ティグレの声が響き渡る。それと同時に、光は確実に穴へと近づく。


「だ、だれか・・だれか助けてよ!!」


「これより、魔獣ダリアント復活の義を行う!」


 おおぉぉおお!!


 私の声をかき消すように、ティグレが声を上げると、それに呼応する教団信者の声で大きく空気が揺れる。

 一歩。

 また一歩祭壇を降りながら穴の周りをゆっくりと旋回しながら光が穴に重なるタイミングを計りながら私たちの方へ近づいてくる。

 彼がここへ来た時が、最期の時。そらら、トキ、アメリア。みんなに声をかけるも誰も私の声に答えてくれる人はいない。


 そららの向こうにいる女の子の顔に、麻袋がかぶせられる。

 背後から急にかぶせられたせいで、女の子は正気を失いジタバタと動かせる範囲で精一杯暴れている。

 恐怖のあまり、失禁してしまい、それが椅子の周りにある溝を辿りながら静かに穴へ落ちていく。

 そららは今まで見たことないような顔をしてフガフガと言いながら暴れていたが、急に静かになり目を閉じた。


「ど、どうしたの?」


 彼女は動かなくなって、呼吸を整え、静かに意識を集中させ始めた。

 ゆっくりと、そららの周りに風が集まってくる。

 空気が、大気がそららを中心に集まり密度がかわる。


 空気が・・・重い。


 口元が、静かに動く。何かを言っているような感じだけど、聞き取れない。


気翔グラ・・


 そららがフガフガ言いながら精一杯叫ぼうとした瞬間、右手にあった見慣れない金色の蛇がそららの右腕を締め付ける。


「あああぁぁ!!」


 全身が一瞬金色に光ると、そららはアリシアのように痙攣を起こしその場でバタバタと動き、すぐに動かなくなった。


「そらら?そらっ!」


 呼びかけにも反応しない。

 気を失っているようだ。アメリアの時と同じく、魔力を封じる類のアイテムなのだろう。またこいつは変なもの身につけて・・・。こんな時になんで。

 一瞬期待したせいで、ガッカリ度も半端ない。

 ティグレはあいかわらず教団相手に何かを話しながら穴の周りを旋回している。

 距離は確実に迫っている。

 そららに麻袋を被せようと、男が近寄ってきた時だった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


 地面の下から、大きな音が響き渡る。地面は大きく揺れているわけではない。その割に音が大きい。

 小刻み揺れる大地。

 その場にいた誰もが地鳴りに驚いていた。


「土龍様はお怒りだ!今こそこの汚れた大地を浄化するとき!!」


 ティグレの声がするのと同時に、石像の目の前に赤い火柱が大地から吹き出し、天井を突き破った。

 その火柱は土を焦がし、岩石を溶かして力強く立ち登る。

 その様子を、ただただ、全員が見惚れていた。

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