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異世界3姉妹の日常と冒険物語  作者: 作 き・そ・あ / 絵 まよままん
第4章 魔導都市の陰謀
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15-3 銀色の獣

「捕まえた・・・捕まえましたよ・・・。いひひいひひ。処女の血は使い道が多いですからね・・・。今日はなんと幸運な日でしょうか」


 ゆっくりとこっちへ近づいてくるその姿を見て、私はなにもできることがなかった。


「あ、あっち行きなさいよ!変態!クソじじぃ!!気持ち悪い!!そららを返しなさいよ!!あんたなんか・・・あんたなんかみんながいればすぐにズタズタのボロボロにされちゃうんだから!!」


「・・・・」


 黒いムチに囚われた私がもがけばもがくほど、男の生気のない顔に笑顔が宿るのがわかる。

 濁った瞳。

 ひきつるような口元。

 その顔を見ると声にならない恐怖が全身を襲う。


「あ、アメリアァ・・・」


「そんな情けない声出さないの!今どうにかするわよ!」


「だって・・・だってぇ」


 涙が頬を伝うのが分かる。

 もう、どうなるのかわかりゃしない。

 少なくとも、体の自由が効かない今、この先を考えると心臓が張り裂けそう。

 こんなとこ、こなきゃよかった。


「水の精霊アクアよ。我が呼び声に答えよ。深き海より来りてその力を我に示せ。神に創造されしその力、遠き精霊界より門を開きて、今ここに闇を討ち消す力となれ!」


 おぉ!!その呪文は宮廷魔導士試験の時に使った変なヘビを召喚するやつ!!


「あなたは、少し・・すこしすこしすこしすこしすこしめめめ目障りですよよよぉ!!」


氷魔降神撃ヴァッス・クロウ!!」


 パチン・・・


 男が投げた何かが、私の頬をかすめてアメリアにぶつかった。

 ぶつかったというか、アメリアに吸い寄せられるように飛び、手首に巻き付いた。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」


 次の瞬間、アメリアの絶叫が響く。鼓膜が破けるんじゃないか、っくらいに響いた。

 水色の光に包まれ、全身をガクガク揺らして抜け殻のようにその場に力なくうなだれる。


「あ、あ・・・アメリア?どうしたの!?ねぇ!!アメリア!!」


「いひひいいひひひひ・・・無駄ですよ。その魔力封じを付けられた魔導士は死んだと同じ・・・。いひひいっひいい・・・。」


 男が少しづつ近づいてくる。その顔、息づかいが近くなってくる。


「あああ、あんたなんか、怖くないもん!!本気で怒る前に、あっちへ行きなさいよ!!」


「あうぅぅ・・・あうっ!!あわうっ!!」


 エルが足元をクルクル回りながら吠え続けている。


 ドンッ!!


「あぁぁっ!」


 壁にナイフが突き刺さる。

 そのナイフは私の腕をかすって壁にささり、切り傷から少量の血液が流れていた。


「しょしょしょしょ処女の血血血血血ちちち。神への供物。復活のしょしょ象徴ううぅぅぅう!!」


 火傷のように熱い感覚。腕を血が垂れる感触。そして・・・。

 歩けば、すぐそこには白目を向いた男の顔。


 なんだろう・・・。

 息苦しい。

 空気が、重い。

 なにか、毒でもさっきのナイフに塗られていたのだろうか。

 声が、物音がうまく聞き取れない。

 意識はしっかりとしているのに。

 男が、私にそっと手を伸ばした。


 気持ち悪い。・・・

 私は抵抗する術がなく、そのまま唇を噛み締め、ただ瞳を閉じた。


「うぅぅ・・・」


 低い、唸り声がハッキリと聞こえた。

 目を開けると、銀色の光。

 それは足元から発せられていた。


 刹那-


 ドオォォン!!


 目の前を目に見えない何かが飛んだ。

 飛んだといえばいいのか・・・。弾けたといえばいいのか・・・。

 ただ、その何かは白目男を弾き飛ばした。


「う”う”う”う”」


 毛を逆立たせ、

 自らが銀色に輝くエル。

 そういえば、初めてエルにあった時もオークに襲われてて、気がついたら・・・。


(もしかして、あの時もエルが助けてくれたのかな)


 普段の姿からは想像ができないくらいに口から牙が見え、男を威嚇している。

 唸る声もいつもそららに怒られて『やめてよ!』と怒っているようなふざけている時とは全く違う。

 その厳然たる姿からは神々しささえ感じてしまう。


「なななな、なんですか??この獣は・・・。邪魔をするんですか?邪魔ですか・・・。じゃまジャマ邪魔!!忙しいんですよぉおお!!」


 男はナイフを連発でエル、そしてその裏にいる私たちをめがけて投げつけた。


「うぉう!!」


 エルが鳴くと、ナイフはその動きを止め、音を立てて次々と床に落ちた。


「あがァう!!」


「ななな、お前はなんですっ!?ガハッ」


 男が叫ぶよりもエルの声のほうが早く、男へめがけてエルの放った見えない何かが男を壁に弾き飛ばした。

 男が壁にめり込むとアメリアと私を拘束していた闇のムチはうっすらと消えていった。


「アメリア!!アメリアってばっ!!」


「っ~・・・」


 私の声に、微かに反応する彼女。大丈夫、生きてる!


「エルっ!そのまま倒して!!」


「あうぅぅう!・・・うぅ・・があぁぁっ!!」


 先行の如く輝くと通路を破壊しながら見えない何かが男へ一直線に突き進む。


 ガラガラガラッ・・ドッォォオオォォ・・・ン


 エルの放った攻撃の威力のせいか。もしくは敵の運か。

 天井が崩落しエルの攻撃が当たることはなかった。

 エルはすべての力を出し切ったのか輝きもなくなり、その場に倒れた。

 そして、男と私たちの間には瓦礫の山ができあがり、分断された。


 動けないアメリア、エルを抱えている以上、結果的には助かった。

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