14-3 砂漠の穴
闇に紛れ、私たちは砂漠を移動した。
光源はなく、夜空の明かりのみが頼みだった。
「伝承だと・・・このあたりにあるはずなんだが」
力なくトキは呟くとラクダから降り、砂漠の上を歩く。
私たちもそのあとを追うように、ラクダから降りて砂漠を歩いた。
「伝承って、トキは行ったことないの?」
「あぁ。大地の神殿はこのあたりにあると記録はあるが、その姿を見たものは少ない。」
「若が言っているのは本当です。おそらく、普段は姿を隠しているのではないかと思われます」
「普段は姿を隠すって、それほど大事な何かが隠されてるってわけ?」
「さ、さぁ?そこまでは存じておりませんが」
「トキ、間に合う?」
「大丈夫だろう、まだ朝までは時間がある。このあたりにあることは間違いない。目撃者もいるんだ。きっと、どこかに神殿への入口か何かがあるに違いない。」
私たちの問いかけに応えているのか、自分に言い聞かせているのか。
その表情には言葉と裏腹に余裕があまりなかった。
私たちはてっきり、砂漠の真ん中に神殿がドーンとあるものかと思ったけど・・。実際には見渡す限り普通の砂漠。
その光景にはトキも驚きを隠せないでいた。
「ティグレ、このあたりなんだ。なにかないか?探してくれ」
「わかりました、若、こちらはお任せ下さい」
「ねぇ、あれはなに?」
アメリアが指差す方向になにかの建造物が見える。
細長い、そこそこ大きな建物だ。
「ティグレ、教えてやれ」
「はい、あの建造物については一切不明でございます」
「なにっ!?」
「不明?」
一番驚いていたのはトキだった。
まさか、建造物の正体が不明とは思わなかったのだろう。
でも、こんな砂漠になんのようがあって作られたのか一切が謎だった。
「いつからあるのか、なぜ作られたのか、どうしてあの大きさなのか、誰が管理していたのか・・・。記述
が残っていないため一切が不明でございます。」
「そんな、古いものなんですか?」
「そうですね、ここ数百年の建築物ではないと思われます。」
はぁー。あれが、そんな神秘的な建造物だとは。
「あの建物は大地の神殿には関係ないのですか?」
「おそらく、関係はないでしょう。このあたりに存在している大地の神殿。目撃者もいるのですからここに有ることは間違いないはず・・・。数少ない書物にもあの建造物と神殿を結びつけるものはありませんでしたから」
「そうですか・・・。」
関係ない。
そう言われてしまえばこの国の部外者の私たちはそれ以上何も言えなくなってしまう。
アメリアは暇なのか、トキの方へちょっかいを出しに行ったようだ。
「ちょっと、そんなペースで大丈夫なの?神殿、みつかるんかなぁ~?」
「うるさいぞ!ウロチョロウロチョロと!!」
「だぁってぇ!なんかだいぶ余裕ないみたいだからさぁ」
「ここにあるはずの神殿がないんだ!そりゃ誰でも余裕がなくなるわ!」
あぁー、やっぱ余裕ないんだ。今。
アメリア、ほんといちいちトキに絡むわねぇ。
「きら、気づいた?」
「なにに?」
砂漠をキャンパスに絵を書いて遊んでいるお気楽娘がここにも一人。
「アメリアって、いつもなんか1人で孤独なオーラ出してるんだけど」
「あぁ、わかる。なんか自分はちょっと違うのよ、って感じね」
「でも、トキにちょっかい出してる時って楽しそう」
「トキが嫌いなの?」
「最初はそう思ってたけど・・・。トキもなんかアメリアといると楽しそうだし・・・」
「もしかして・・・」
「うん、きっとアメリアはトキが好きなんじゃないかなぁ」
「でも、敵国の王子様なんでしょ?」
「一応、そうみたいだけど・・・」
「この世界って、いろいろと、国とか、身分とか、めんどくさいよね」
「うん、・・・ねぇ、さっきからエルはなにやってるの?」
アリシアは私たちから少し離れたところをウロウロと彷徨うエルの姿を見ていた。
「おしっこ、、かな。」
「見た目犬だもんね。犬かきとかで掘ったりするのかな」
「あははっ!ありえる!!穴掘りそう!」
「うぅぅ・・うぁん!!」
砂漠を走り回って鳴いている姿は散歩待ちの犬ね。
アリシアと顔を見合わせて笑ってしまう。
「大地の神殿って、シルウィアを祀ってるのかなぁ。」
「そうでしょ?きっと。フレイアの神殿もあるのかな?」
「さぁ、そんなこと聞いたこともないけど。アレクサンドリアには神殿なんて聞いたことないし」
「あぁ、確かに」
「おぉい!!うるさいぞ!敵に見つかるからどうにかしろ!!」
遠くの方でエルよりもうるさい声でトキが叫ぶ。
あんたの声の方がみつかりそうなんだけど・・・。
仕方なくアリシアとエルを回収に向かう。
「何を怒ってるのかなぁ?おいでぇ?こわいこわいがくるよー」
「あぅう・・・」
困ったように尻尾を振りながらその場でウロウロするエル。
「でも、シルウィアの神殿って、なんでこんなところにあるんだろうね?」
「あう!!うぁん!!」
ずず・・
「ん?」
ずずずず・・・
「ちょちょちょ、なにこれ!」
「きら!はやくこっちに!!」
「え、えるぅ!!」
エルがクルクル回っていた場所がゆっくりと割れた。
砂が地下へ流れ、ゆっくりと観音扉が左右にスライドし、大量の砂とエルを飲み込んだ。
夜だからか、そこにはおおきな丸い穴が現れる。よく見ると、階段らしきものが見える。
「あぅ!!あう、あぅ!」
階段からエルが急いで飛び出してくる。
「どうした?何があった?」
その光景を見ていたトキたちも駆けつけてくる。
「わ、わからないけど、エルが吠えたらいきなり地面が動いて、割れて、穴があいて・・・。」
「もしかしたらその小さいの、そららの匂いを感じてるんじゃないの?」
「そうなのかな?」
「しかし、若。これはおそらく・・・」
「あぁ、大地の神殿への入口だ。」
どこまで続いているかわからない底なしの穴を見つけた私たちはゆっくりと地下へ降りていった。