14-1 献上品の資格
暑い・・・。
それがうちの素直な感想。
身の自由が取れなくなってからどのくらいの時間が過ぎたのだろう。
ただひたすらに揺れ、暑く、なんかもう限界。
たまに緩んだ布から見える外の景色は黄色。
砂塵の世界。
はぁ。これはひどいところに連れてこられたぞ。うちどうなるの?
「ねぇー!!暑いんだけどっ!」
黙っているとイライラがこみ上げてくる。
今頃トキのお城で、美味しいもの食べて、ゴロゴロして・・・。
それがなんでこんなところでぐるぐる巻きにされた挙句に砂漠のど真ん中を移動しないといけないのよ。
「ちょっと、返事くらいしなさいよ!!」
・・・
ちょっと、またムシするの?
なんなの?こいつら。
「ムシしないでよ!このままじゃ死んじゃうわよ!」
「うるさいっ!」
お?やっと返事がきた。と思う矢先に体が宙に浮く感じを覚え、そのまま一気に急降下した。
「ふぎゃっ!」
身動きの取れないうちは放り出されるように砂漠に捨てられた。
芋虫のようにその場でモゾモゾと動いてみるも、体はいいように動かない。
「ついたぞ。立って歩け」
砂漠の上でコロコロと転がされるようにしてうちに巻きついていた布がはがされ、なくなっていく。
(はぁ。・・・なんにもないや)
見渡す限り砂漠。砂漠。砂漠。・・・と、なんか建物が遠くにあるけど・・・なに?あれ。
そして、近くにあるものといえば砂漠の中にポッカリと口を開ける黒い穴。
穴に見えるけど、実際には階段ね。
下になにかるのかしら?
「いけ」
「い、いけって・・。こん中に?」
冗談でしょ!?と思いながらも振り返って男の顔を見てみるも、やつは少しの躊躇もなく頷いた。
こん中に何があるって言うのよ?なに?どうなってるの?
上から覗くように階段を見てみるも、下の方には光も届かないのか途中で真っ暗。
「はやく!」
「わ、わかったわよ!だから押さないでよっ!!」
壁?に手を当てながらそっと、ゆっくりと1段1段降りていく。
パキっ・・・
「ひいぃっ!!」
暗くて狭い階段に、私の声が反響した。
なにか、踏んだ。少し弾力があって、なんか弾けるような感覚が足の裏から伝わってきた。
パキって。なに?今の?
既に明かりがなくて周りがよく見えない。
上の入口は閉ざされているようだ。
「ウォン・シルフィア!」
男が声を上げると、階段の下の方から光が迫って来る。
オレンジがかった、松明のような光が壁に埋め込まれていて、うちたちの行き先を照らす。
その光は暗くと閉ざされていた空間をうちの前にさらけ出す。
「はぁ・・・すっご。もう階段はなかったのね・・。」
目の前には巨大な遺跡。見た目はボロいけど、その圧倒的な存在感。
その遺跡から階段がいくつか上、つまり地上に向かって伸びている。
階段と遺跡は素材や色合いが素人が見ても違うことが分かる。あとから階段は作られたようだ。
階段を下りきると、石で敷き詰められた地面。何かを祀っているもの、なのかもしれないけど・・・。
「早くいけ、見えるようになったろ」
「う、うん・・・。」
早くいけと言われても・・・。
神殿の入口には男の仲間、としか見えない奴らが立っていた。
ガシャン・・・
「ちょっと!扱いがさっきからひどいのよ!出しなさいよ!!」
鉄格子の中に放り込まれたうちは、隙間から腕を伸ばし男の腕をつかもうとするも届かなかった。
案の定、拉致られたうちは遺跡の中にある地下通路へ連れて行かれた。
その中の一つがここ、監獄。と呼ぶべきか・・・。
(なんなの?連れてきといて閉じ込めるなんて・・・意味わかんないんだけど)
愛用の魔剣も取られちゃったし・・・。
こんなわけのわからないところで魔法使って生き埋めになっても困るし・・・。
「みんな、助けに来てくれるかなぁ」
はぁ。大きなため息がこぼれると、それと同時にどこかの扉が開く音がした。
狭い廊下に数人の足音が響く。
(なに?また出ろって言われるの?)
うちは鉄格子から覗くように顔を出すと、急に何かに顔をムギュっと掴まれた。
目の前には、うちの目にもわかる狂ってる奴・・・。他の男たちとは何かが違う、特異なオーラを出す不
気味な男が立っていた。正直、目も合わせたくない。
「な、なにみょ?」
不気味な男はうちの口元を右手で掴みながら、ギョロギョロと不気味な目でうちを凝視してくる。
(い・・きもい。なぜかしら、フランがかなりかっこよく思えるわ。こいつと結婚するなら喜んでフランのお嫁さんになる、だから許して!!ってか離して!!)
「ふぅふ~ん」
男の手が緩んだ隙に、うちは部屋の一番奥まで撤退する。
こいつ、危ない奴だ。ぜぇったいに危ない奴だっ!!
顔をエプロンで拭いながら私は全身の毛が逆立つような不快感に襲われていた。
「・・・」
やつは右指で鉄格子に向かってクイックイッとなにか合図を送ると、取り巻きの男たちが鉄格子を解錠する。
ガシャン・・・
重たい金属音がして扉が開かれる。
奴は、ゆっくりと入ってくる。
さっきまではここから出たい!と思ってきたけど、今ほどその鉄格子を開けて欲しくない瞬間はなかったわ。
「な、なにっ?こないでよ!!」
「あなた・・・処女ですか?」
「へ、変態!!近寄らないでよっ!」
「・・・処女ですか?」
一歩、・・・また一歩と奴は近づいてくる。
「い、いい加減にしなさいよっ!見よう見まねだけど、炎風咆!!」
(フレイア!いるなら力を貸して!!)
心の中でフレイアの事を祈りながらアリシアの使っている炎属性の魔法を奴に向かって放つ。うちの風魔法では攻撃が出来ない。攻撃力のある魔法。今まで何度も見てきた。イメージは出来る。
手が、熱い。
そう感じた瞬間、目の前に膨大な量な炎が私の手から飛び出すように奴に襲いかかる。
「や、やった!?」
溢れでる炎を見て喜びの声を上げるのも束の間。炎の中から右手が伸びてくると、それは瞬時にうちの首を掴む。
「―!!?。ぐぅ・・」
その力の前に、魔法は打ち消され壁に押し付けられると、そのまま体が少し持ち上がるような感じになる。つま先で、やっとてるようなレベルだ。
「もう一回聞きます。あなた・・・処女ですか?」
(な、なんなの!?こいつ。・・・だったらなんだってのよ)
もがいてみるも、手は離れない。
足も、ツライ。
呼吸も、苦しい。
「そ、そうよ。だったらなに!?」
なれない攻撃魔法を使い、一気に魔力を消耗してしまったせいで意識が飛びそうになる。
体が思い、すごい倦怠感・・・。
いつもの魔力切れとは少し、何かが違っていた。
「清らかな、乙女なんですね?」
ヤバイ・・・。こんな時に意識が朦朧としてくる。
うちは数回。頷く素振りを見せる。
「んぁ・・」
うちの右胸に、なれない感触があった。
気持ち悪い。こんな奴に、今何をされてるの・・・。
「そうですか・・処女ですか。それは丁重にお出迎えしなくてはなりませんね。シルウィア様への献上品として朔の日に使いましょう。それまでは大切に、扱わせていただきますよぉおお!!」
狂ったように発狂してるやつの声が頭に響く・・・。
薄れいく意識の中で、うちは床に落とされたあと、奴が監獄から出ていく後ろ姿を見送っていた。
悔しくも涙を流す前に魔力の限界来たのか、そのまま眠りについた。