13-2 追尾
「落ち着いたのか?」
「えぇ。今はアリシアは一緒にいるわ」
ここはサン=ドラゴの王宮。
泣きつかれて眠ってしまったきららを客間に寝かせると、アリシアは一緒に残る。ときららと客間に残った。
1人やることのなくなったアメリアは応接室のようなところに通され、とりあえずトキへ2人の様子を伝えることにした。
「まぁ、座れよ。元は俺も王族だが、今は出家した身だからな。そこまで気を使わなくていい。いつも通りでいてくれ。」
「えぇ、別に言われなくてもそうさせていただくわ」
トキの正面に座り、従者が持ってくる飲み物をうかがわしい目で見る。
「大丈夫だ。別に毒なんて入っていない」
「どうかしら?この町にきてからそららは拐われたわ。もし、誰かさんの差し金でだったら?街中でアリシアが魔法使えない事を知ってて・・・」
「・・・なにが言いたい?」
「べつに?ただ、そららの一件があってから私たちは誰も信じれないってことよ」
「・・・」
静かな、いやな沈黙が室内に広がる。
アメリアはトキに対し遠慮なしに突っぱねてる。
トキは賊を取り逃した責任感からか、静かなものだった。
「アリシアは?・・・何か言っていたか?」
「ん?・・・」
「その・・・、姉が拐われたことや、きららについて」
「そうね・・・。もし、そららが無事に見つからなかった場合は・・・。この先はなんて言ってたかしら?」
「・・・」
頭を抱え大きくため息を吐くトキ。
その様子を微笑ましく見るアメリア。
仮にも、アレクサンドリアの宮廷魔導士合格者。しかもその能力は国王からの折り紙つき。そんな魔導士を敵に回せば少なくともこの国も無事では済まない。
ひたすらに、あの場で取り押さえることができなかった事を悔やんだ。
「今、連中の居場所をあたっている」
「心あたりがあるの?」
「あの連中は、この砂漠にある神殿を根城にしている信仰者たちだ」
「こんなバカみたいに暑いところに神殿?しかも信仰者ってことは、人間がいるの?」
「あぁ、この魔道都市ルグナリアは、今2つに分断されているのは知っているだろう?」
黙って頷くアメリア。飲み物に一口手をつけるも、味が気に入らないのかすぐに飲むのをやめてしまう。
「だが、元々は1つの国だ。主な外交政権はムーンブルグに。精霊を祀る神殿はサン=ドラゴにあるんだ。その土の神殿を根城に、精霊に異常なまでの信仰心を捧げるのが連中。砂の蠍だ。あの連中はその使いっぱしりだと思う。それを今調べさせているんだ。」
「へぇ~。こっちにそんな神殿があるとは知らなかったわ」
「そうだろうな、そっちは土の精霊よりも、水や闇の精霊を信仰しているから」
「それで?その砂の蠍ってのはなにを考えてそららを拉致したの?」
「それが分かれば苦労はしないのだが・・・。あの場で一番弱そうに見えるのはきららかアリシアなんだ
が・・・。そららにこだわる理由があったのか?」
「さぁ?もしかしたら-」
「若!お待たせしました!」
アメリアの声を遮って、扉からティグレが走り込んでくる。
息を切らし、どこかへ行っていたようだ。
「どうだった?」
「はい、若の睨んだ通りでございます。街から出る賊の姿を国民が数名目撃しております。白いグルグルに
巻かれた何かを持っていたとの証言もあるので、そらら様に間違いはないかと思います。」
「すごいじゃない!トキの予想が当たったわね」
「あぁ、でも、当たるだけじゃダメなんだ。無事に助けないと・・・。国が滅ぶ」
【あら?本気にしてた?】
内心、冗談で言ったアリシアのセリフを本気にしているトキを少し不憫に思えるが、まぁ、別にいっか。とかるく流すアメリア。
彼女にしてみればこの国の存続は大した問題ではないのだ。
「ティグレ、その後のやつらの動きは把握できているのか?」
「申し訳ございません。街を離れてからはなにせ目撃者がいないので・・・。現状ではなんとも。方向的に
は、土の神殿に間違いないのですが・・・。」
「そこまで分かっていれば上等だ。砂漠に出るなら他国か土の砂漠しかないからな。」
アメリアとトキは目が合うと頷いて席を立つ。
そのままアメリアは何も言わずにトキを置いて部屋を出ていってしまう。
「ご苦労だった。なんとか、首の皮一枚でつながったな。2人の様子を見てくる。お前は次に備えて休んでいてくれ」
目的地が決まると、2人はアリシアたちのもとへ向かった。
「きら、もう大丈夫なの?」
「・・・うん。ここは?」
目を覚ました私は周囲を見渡すと、そこは客間のようなところだった。
ベッドと、小さなテーブルと椅子。アレクサンドリアよりもなんだろう。空気が重い。
「ここはトキの国、サン=ドラゴの王宮だよ。きらが泣きつかれて動けなくなっちゃったから休ませてもら
ってるの。」
「そっか。夢じゃなかったんだ。あれ・・・」
私はベッドから体を起こす。エルが心配そうにこっちを見上げている。
いつもなら、そららが『エルって呼ばないでっ!』って言ってくるのに。今はあの声が懐かしい。
「アメリアたちは?」
私は他の2人の姿がないことに気がついた。
もしかして、私がさっきあんな言い方したから、誰かに怒られているのかも?
「大丈夫だよ。トキとアメリアは席を外しているだけ。ねぇねの行方を今探してる。」
「そう、・・・フレイア?いないの?」
私は周囲を見渡してなんとなく声をかけてみる。いつも、余計な時はふよふよ浮いてるくせに、こういう時にはいないんだから。
「フレイア?」
私の声は部屋に虚しく響くだけ。
「いないよ。一応、私が召喚しないと出てこれないんだから。・・・呼ぶ?」
まぁ、いつも勝手に現れる方が異常なのか・・・。
でも、少し聞きたいことがあったのと、フレイアならそららの居場所を知っているかと思ったんだけど・・・。そう、都合よくいくわけないわよね。
「うんうん。・・・いいわ。それより、そらを探さないと」
「まだ寝てたら?トキも国中を探してくれてるし」
「うん、でも、寝てられないよ。あの子、強がるけどビビリだし、さみしがり屋だから」
そう、いつも強がっているけど、実際には私より怖がりなところがある。
暗い夜道とかだと、怖くてしがみついてくるし。・・・。きっと、1人に慣れていないんだと思う。
私はベッドから立ち上がり、急ぎ身支度をはじめると扉が勢いよく開いた。
「あらっ?起きてたの?」
扉の向こうにはアメリアが立っている。どこへ行っていたのか、その表情は明るかった。
「なに?なんで嬉しそうなのよ。」
「そうツンツンしないの。そららの場所。見つかりそうよ。」
「ほ、ほんと!?」
「え、えぇ。」
「土の神殿だ。」
アメリアの後ろからトキの声がした。
アメリアがゆっくりと詰め寄る私から距離を取ると、後ろから困ったような、言いにくそうな、なにかモヤモヤした表情のトキがいた。
「土の神殿?」
聞いたことのない名前だった。しかし、神殿というからにはきれいな建物なのかな?
「土の精霊を祀った場所らしいわ。敵はそこにいる異常者だって」
「土の神殿、精霊を祀った場所・・・。アリスも、行ってみたい。」
「異常者だったら、そららが余計に危ないじゃない!早く助けないと!」
「ま、まぁまて。・・・あと2日は安心だ。」
急いで出ていこうとアリシアの手を引っ張る私の道を塞ぐように、トキが立ち塞がった
「なんで、あと2日なの?」
「朔夜の日。その日にあいつらは生贄としてそららを捧げるだろう。だから、それまでに完璧な作戦を立ててそららを取り返す。」
トキの握る拳は血がにじんでいた。
お昼の戦闘の時に怪我でもしたのだろうか。血が滲み、震えるその拳からはトキの決意を感じた。