13-1 拉致
私たちは砂漠の街、サン=ドラゴに来ていた。
砂漠の街っていうのは、私の意見、砂と、岩しかなくて、時折吹くからっからに乾いた風は今までに受けた事がない感触だった。
「ほんと。なにもないとこねぇ」
「お前が言うなよ!お前のとこも雪しかないだろ!同じだ!同じ!」
「あら?雪の方が儚く美しいわ。こんな-」
「はいはいはいはい。そこまでー。」
私はトキとアメリアを仲裁に入る。
どうしてかなー。この2人。ほんとうにいっつも喧嘩ばっかり。
「トキ。喧嘩ダメ。アメリアも」
「そうね、私が悪かったわ。暑くてイライラしてた」
「いや、俺も。その、なんだ。故郷だからって少し浮き足立ってた。すまん」
あらあら、2人共アリシアには弱いのね。
(ん?そららがいない)
私はいつもなら真っ先になにかトラブルを持ってくる問題児がいないことに気がついた。街に入ったところまではいた。覚えてる。どこかではぐれたのかな・・・。
「エル、そらら探して?わかる?」
「あうぅ!」
エルは私の言葉を聞くと来た道を勢いよく走り、細い路地に入っていく。
(・・・こんなとこ、来てないのに)
私たちはエルのあとを必死で走っていた。細い道をウネウネと走り抜け突き進む。
あのバカ、一体どこまで行ったのかしら?
「うぅぅぅぅぅ・・・」
曲がり角を曲がったところで、エルが数人の男たちを捉えていた。
3・・4・5・・7人
そこそこ人数が居る。
なんなのかしら?こいつら。
「あうっ!!」
「しょ、小動物!?お姉ちゃんもいるの!?ちょっと!助けて!!」
ふたりの男が白い布でぐるぐる巻きにしているなにかイモムシの大きなものみたいなのがウネウネしながら叫んでいる。
「その声、そららなの?」
「そう!うちだよ!!ちょっと、助けてよ!!」
男たちはそららを後ろに隠し、刀身が曲がった刀、サーベルを私たちにチラつかせる。
「っこの!!」
「まて。」
私が言いかけたのを、トキが遮った。
「任せろ・・・」
トキは武器も構えずに私たちと、男たちの間に立つ。
「俺は第二王子のトキだ!お前たちが拉致した者は俺の客人、すなわち、この国の客人だ!その客人に対し、どれほどの無礼を行っているのか理解しているのか?即刻解放せよ!」
そう、トキはこの国の第二王子。ちょっとやんちゃなところもあるみたいだけど、この国では偉い人なの。
一瞬ざわつく男たちだったが、トキの言葉は届かなかったようだ。
「あ、あぶない!!」
私が叫ぶのよりも早く、男の中のひとりがトキに斬りかかる。
「地翔針!」
声が聞こえると、トキの周囲に大地からつららのようなモノが生える。
それはトキを囲むように、守るように勢いよく大地から隆起し、斬りかかってきた男の体を貫いた。
私は声が聞こえた背後へ視線を送ると、そこには50代くらいの男性が立っていた。
「若、加勢しますぞ」
「ティグレ!!」
ティグレと呼ばれた男性はこの国に服を来ていた。
トキにゆかりのある人物だろう。
私たちはすっかり出番を失い、トキとティグレが戦うのを見守るしかなかった。
「あの布に巻かれた中に少女がいる。奪還するんだ!」
「若のご命令ならば、遂行しましょうぞ!巌撃波!」
ティグレの右手には拳大の岩が生み出され、男どもを襲う。あと、6人。
「火炎鎗」
「凍氷槍」
アメリアとアリシアの魔法が確実に一人づつ落とす。
あと、4人。
「おぉ!若いのにやりますな」
「あぁ、アレクサンドリアの宮廷魔導士様だからな」
「な、なんと!それはそれは・・・」
あんたもでしょ?と言いかけたが今はそれどころではない。
「アリシア!逃げられないうちに倒して!」
「うん、ねぇねを返せ!!炎風咆!!」
アリシアは燃え盛る炎を打ち放った。
それは凄まじいスピードで1人の男を焦がしていく。
暑さに悶え苦しむ男の姿を見てさすがに恐ろしくなったか・・・。ゆっくりと後ろに下がる3人。
「アリシア!こんなやつら、はやくぶっ倒してよ!!」
「わ、わかってるんだけど・・・」
そららの怒りの声に戸惑うアリシア。
ここは細い路地。さっきの炎風咆も限界ギリギリっていうよりもアウト。反対側でアメリアが氷結壁を使って打ち消したから被害がなかったけど、これ以上の魔法を使うと街にも被害が出て、おそらくそららもただでは済まない。
「巖障壁」
トキが唱えると同時に、地面が隆起し始める。
「行けっ!」
無効にも仲間意識があるのか。そららを担いでいる2人を逃がす男。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!そららぁ!!」
「いや、なにこれ!?きら、アリシアー!!」
私の声は、そららに届いたのか・・・。
そららの姿は見えなくなった。
トキによって作られた牢獄。巖障壁とは、大地の牢獄を作る魔法のようだ。大人3人分しか入れないような小さなサークル状の格子ができている。
これ、アリシアなら逃げ出せそうね。
作りがいびつだった。まぁ、足跡だから仕方ないのかもしれないけど。
「ちょ、ちょっと!トキ、逃げられちゃったじゃないの!?なにが任せておけ!よ!」
「無礼者!若になんて口の利き方をする!処刑ものだぞ!?」
「なによ!やってみなさいよ!こんな国、アリシアがいれば一瞬で廃墟よ!」
「反逆罪だぞ!!」
「知らないわよ!捕まえてみなさいよ!アリシア!フレイア使って滅ぼしちゃいなさいよ!!」
「ちょ、ちょっときらら・・・。さすがにそれは・・・」
アメリアが止めに来る。
アリシアも困っているようだった。
私の言う事を聞くべきか、トキに視線を送っている。
「うるさい。ティグレ」
「若は悪くございません!この者、牢屋にぶち込んでくれる!」
「やってみなさい!私だって山のひとつやふたつ、本気になれば吹っ飛ばせるんだから!」
ティグレと私は一触即発の戦いだった。
妹がいなくなって、引き下がれるものですか!
「黙れ。」
トキは相変わらず、静かな口調でティグレに呼びかける。
その声は、私たちの喧騒で聞こえないが怒りに震えていた。
「いいえ、引き下がれませぬ。ここまで言われてこのティグレ。もう我慢なりませぬ!」
「きらら、あなたもおかしいわ。いつもそんなこと言わないじゃない。どうしちゃったのよ?」
「何が、俺に任せろよ!この役立たず!あんたが出しゃばらなければ今頃アリシアが全部吹っ飛ばしてたのよ!あの男たちも全員殺して、こんな街も廃墟にして、そららは助かってたのよ!」
「ちょっ!!」
「そららはどこに行っちゃったのよ!こんなわけのわからないところで、私の妹は・・・、そらはどこに連れてかれたってのよぉ!!」
後ろで飛びかかる勢いの私を静止していたアメリアは、急に私が振り返り抱きつかれ驚いていた。私はそのまま、そんなのおかまいなしで声を上げ泣き崩れてしまう。
トキは、無言のまま捉えた男を睨みつけるも、男はすでに口に含ませていた毒を飲み、事切れていた。
「ティグレ・・・その方々を丁重に扱え。俺の客だ。もし、粗相があればそのときは俺がこの国を潰す・・・。」
自らが作り上げた岩の牢獄を素手で破壊するトキ。
その怒りは、アリシアとアメリアの目にも映っていた。
「か、かしこまりました。若」
物静かな場所で、私の鳴き声だけがいつまでも響いていた。