0話 フルーレル・クリアスタル
わたし、フルーレル・クリアスタルはある日、自分が人よりも劣っているんだと気がついた。
それ以来、なにもかもが恐くなった。
初等学舎に通っている頃はそんなことはなかった。
むしろ、良くできた子だと褒められることもあった。
いつの頃からだろう。段々周りについて行けなくなった。
中等学舎へと上がる頃には、すっかりわたしは周りの同級生達からは孤立してしまっていた。
当然だろう、わたしが関われば、なにをやっても上手く行かない。
何度も失敗して、何度も間違えた。
その度に、再度挑戦しては失敗し、別の方法を試しては間違えて、何度も痛い思いを繰り返して、何度も人に笑われ怒られ呆れられ、それでもなんとかしようと、がんばった。
ある日。同級生の女の子から、涙を流しながら頬を叩かれた。
もうなにもしないでと、怒鳴られた。あれは痛かった。
あれで痛みを自覚した。
何度もがんばれたのは、痛みを知らない、怖いもの知らずだったから。
気がつけば、どこを見ても、失敗して間違えた道ばかりだった。
気がつけば、身動きが取れなくなっていた。どこを見ても、痛みを思い出す。
痛いけど、がんばったけど、全ての中等学舎の編入試験に落ちた。
その日の夜。
ベッドの中、必死で神様に助けを求めた。お願いします。神様助けてください。怖い。
このままなにもできないのは嫌だ。神様助けてください。お願いします。
そのまま夜が明けた。神様はなにも応えてくれなかった。
どれだけ必死に願っても、神様は姿を見せてくれないことはわかった。
なにもできない日々は流れる。
おねえちゃんは修道士になるようにと言ってくるけど、わたしは神様を信じることができない。
なにもできない。笑われている。痛い。
なにもできないでいるのも痛い。
なにをやっても痛い。
苦しい。
本棚にあった絵本。二代目賢者のおとぎばなし。おちこぼれの魔導士が、ダンジョンで赤く光る魔宝石、賢者の石を手に入れて、賢者になったお話。
ダンジョンに行くなら、冒険者にならないといけない。
わたしは冒険者の酒場に向かった。
ジョブ章がないから入れてもらえなかった。失敗した。痛い。
酒場に居る人達は、みんなわたしを見て笑っている。
怖い。すごく痛い。
酒場から逃げ出して、やっと息が出来た。
ジョブ章がなければ冒険者の酒場には入れない。冒険者の酒場に入れないと、ダンジョンにも向かえない。
ダンジョンに向かえないと、賢者の石は手に入れられない。どこにも行けない。このままずっと痛いままなのかも知れない。怖い。痛い。
「お嬢ちゃん、こんなところでなにしてるの?」
俯いて息をしている私に、張りがあって良く通る、すごく綺麗な声がかけられた。
「……」
声を聞いているだけで心が明るく、わくわくさせてくれるような。
一瞬だけ痛みを忘れることが出来て、顔をあげられた。
すごい。
さぞ素晴らしいジョブの人なのだろう。
わたしは振り向き、口を開いていた。
「あの、じょ、ジョブ、しょうが、あの、あの、欲し、いのが、あの」
ふんわりとした金髪で、華やかな化粧が良く似合っていて、水着姿でうさぎの耳をつけている。変な恰好の人だった。
でも、なんだか見ているだけでお腹の底がくすぐったくなるような可愛さと面白さがあるような気がする。
「え、えっと? お嬢ちゃん、お父さんかお母さんは?」
「あ、あ、わ、わた……わた……」
久しぶりに人と話す。上手く話せない。痛い。うさぎの姉さんは困っている。
わたしは痛みに俯く。
遠くで、誰かがなにか言っている。
「あら……ごめんなさい、お姉さん忙しくて……」
呼ばれたのだろう。
「んー、と。お。そこの僧侶さーん、この子、迷子みたい。あとよろしくー!」
顔を上げると、お姉さんは立ち去って行くところだった。丸い尻尾が揺れているのは少し面白かったけれど。
わたしは茫然と、道の片隅で立ち尽くすことしかできない。
もう、どこにも行けない。
「迷子? 大丈夫か?」
その声は壊れてはいけない、とても大切な物の様子を伺うような、優しい声で。
こんなどうしようもないわたしに向けられている声だとは、すぐには気がつかなかった。
「あ、あの、ひと、の、じょぶは……」
なんですか。言葉になるかならないか、かすれて震えた声。
聞き返されるか、無視される。恥ずかしい。痛い。そう思った。
「あの人のジョブ? あの格好は楽芸士の舞踏家か遊装人でしょうね。確かこの
先に書店が出来るんで、その開店祝いに催し物をやるんじゃなかったかな?」
こんなわたしの声を、あっさり聞き取ってくれた。
わたしの視線の先、去り行くお姉さんの背中を見ながらあっさり教えてくれた。
「ダンジョン探索が無事に終わったら覗いてみるかな。読みたい本があるし。まったく、僕はこれからしばらく潜りっぱなしの大仕事だよ」
優しい声の人はそう言って笑う。
その声はとても気になったけど、不器用なわたしは、今は頭の中で楽芸士、舞踏家、遊装人、と繰り返すので精一杯だった。
「……」
教えてもらった書店へ行ってみようと思った。
「あ、おい、キミは迷子じゃないのか?」
「……だ、だい、じょうぶ、です」
言って、わたしはふらふらと足を進める。
お礼を言うべきだと気がついたときは、もうずいぶんと歩みを進め、路地を曲がる寸前になってからだった。
振り返れば、優しい声の人は遠くで、まだわたしを見守っていてくれた。わたしは慌てて頭を下げた。
優しい声の人は、軽く手を上げて冒険者の酒場へと入って行った。
「ありがとう、ございます」
胸を抑えて、声に出してもう一度言ってみた。
まだ、痛いけど。あと一歩だけ。
あと少しだけ、前に進める気がした。
後にフルーレルが三賢者の一人、白の賢者として数えられることになるとは、このときはまだ神ですら知る由もなかった。
との一文を最後に入れるか入れまい悩んで入れないことにしたのでここに記しておこうと思いました。
あと、裏設定というかフルルさんは死産のところ、ゼィロルが命の残滓を集めてなんとか形にして生き永らえさせたと言うお話はどこかに入れたかったのですが、それはそれで一つ別の話になるので入れられなかったのです。
この後はフルルさんが騙されたり、死にかけたり、失敗したり、やらかしたり、爆発したり、死にかけたりして。
最終的に666の獣の頂点として金色のリヴァイアサン、灼熱のジズ、白のバハムートを生贄に捧げ、怒りのニーズヴォッグを呼び出し世界樹はうんたらかんたらといった構想まであるのですが、構想だけ膨大になって行きましてそこまで書ききる体力ががが。
ということで切りのよいところで形にしてしまいました。
そういうわけで、あとがきとして思うことは……。
それにしても、どうしてこうなった。
フルーレルさん、最初はもっとはっちゃけたキャラでぐいぐい行く子だったんですが、これなら普通に遊び人やれるんじゃ?
逆説だけど遊び人と言うジョブが成り立つ世界なんだから、遊び人でも稼げるんだろう。
ということは羞恥に耐えながらでも、はっちゃけられるなら冒険者をやる必要性が分からん。遊び人で儲ければいい。
というわけでこんな根暗娘に。その代り、こっそりバニーガール衣装を気に入っている子になったのは良かったかも。
でも一生懸命がんばる姿が悲痛なことになってしまった気も。まぁこれはこれで。
プロトタイプフルルさんは山場でバニーイヤーを投げ捨てて遊び人なんて、笑われるなんて嫌だ系の感情を爆発させていました。
リリースフルルさんは、多少気恥ずかしさはありますが、遊び人でもジョブに就けただけでも悲しいくらい無邪気に喜んでいるところあります。
悪い男に簡単に騙されそうで心配です。
それに伴い、悪い男もとい主人公は、はっちゃけキャラに振り回される盗賊スキル持ちの魔導士から、根暗娘の世話役として聖職者へと転職。
キリッふわっとした僧侶へ。もっとウルフ属性だったはずが、僧侶ということで若干ヘタレ属性が加速してしまいまして……どうなんでしょう? といったところ。
バニーガール好きのむっつり変態属性が取れたのはきっと正解だなと。いや、どうなんでしょう、取れてるのかな? どうなんでしょう? とりあえずバニーガールは嫌いではないようです。むっつりかも。
他には病弱な妹がミーティへ変化したり、ダンジョン内でピンチを救ってくれる伝説の熟練冒険者がマアシャンテへ変化したりと、役柄自体は変わらないのですがポジションが変われば大きくキャラクターもストーリーも変化しましたね、と感慨深いものがあり、作中で誰かが叫んでいたように、試行通りにはいかないようです。
という言い訳で、最初からかっちりプロットは固めたほうがいいねという教訓。
ドラ○エの遊び人をモデルに、遊び人がダンジョンに挑む必要とかを真面目に考えながら、ただ目的を目指すだけなのもなぁ、やっぱり世界を救わないとだめだよなぁ、主人公あんまりいい思いしてないなぁ、大丈夫か?この辺サービス入れるか?等々、右往左往としました。
それでもなんとか形になったのは、やはりフルルさんの気の抜けた笑顔のおかげでしょうか。
きっと私の頭の中に漠然とある先の展開構想も、彼らの動き次第で変わって行くのでしょう。
たぶん皆幸せになろうと一生懸命もがいて行くことになるのは間違いないと思います。
といったところで、長々とおつきあいありがとうございました!
またなにか書いて投稿できればいいなと思います!




