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海の国再興譚~腹黒国王は性悪女を娶りたい~  作者: 志野まつこ
第1章 海姫と拾われ王子
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6、大変結構なものを見せていただきました(Byレオン)

 ドレイク号の船員達が言う「巣」は、ドレファン一家の故郷である島近くの海域にあった。

 各国の航行ルートから外れた、辺鄙な場所にぽつんと大きな山が浮いているように見えた。

 周囲の岸壁は切り立った岩場で、ギルに「あそこだ」と言われた時は着岸は不可能だと思った。

 苦労して小舟を寄せても、着岸と同時に岸壁をよじ登る羽目になる。

 一見して無人島だと思った。

 着岸も出来ないような島で、どうやって船の修繕をするのか……内心首をかしげていると船は島を回り込み、そこでレオンは目を見張る。


 海が、島を分断していた。


 浸食だろうか、渓谷を流れる川のように海が島の中央を二つに分断している。

 満潮を待ち、ゆるやかな海流に逆らって船を渓谷に進み入れる。

 船の幅と渓谷は多少の余裕はあったが、岸壁が高いため圧迫感から圧倒された。

 浅瀬や水路幅が狭い場合流れが速くなるため、操舵には高度な技術が必要となる。

 舳先ではウォルターが垂直に切り立った岸壁を何かを見定めるかのようにじっと注視している。

 ギルは操舵士である父親の傍でじっと操舵輪を回す様子をうかがっていた。

 ふとウォルターの右手がさっと上がり、(いかり)が降ろされるとドレイク号は島に挟まれるようにすっぽり収まった。

 島の内側からだとかろうじて小舟が着岸出来る場所があった。

 先に到着していた島からの応援の小さな船の上で少女が手を振っている。

 

「レオン! 久し振り!」

 縄梯子を登って甲板に顔を出した少女を引っ張り上げてやると、少女は屈託なく笑い、それは太陽のように眩しい笑顔だった。

 ウォルターの実子で、血のつながりこそないがシーアの四つ年下の妹であり、その愛らしい顔立ちは母親譲りだとなぜかシーアは自慢気に言っていた。シーアがいかにこの妹を可愛がっているかありありと見て取れ、レオンは苦笑したものだ。

「シーアから預かりものだ。サシャ、誕生日おめでとう」

 もうすぐ十四歳になる彼女に、レオンは綺麗な箱を二つとその上に巾着袋1つ乗せて手渡した。

 箱はシーアがリザに贈ったものと同じロッティニアのチョコレートの包みであり、サシャも黄色い声を上げて受け取るとレオンに礼を述べた。


 リボンに挟んだ飾り気の無いカードには、中央に義姉の堂々とした字で「大きい箱はみんなで食べること。小さい箱は一人でこっそり食べてよし」とあった。

 滅多に食べられない物なので島の少女達と一緒に、という配慮がさすがだと思った。

 そして下の方の余白に小さく「キャンディはレオンから」と走り書きで添えられていた。彼が自分からは言い出しにくいであろうと慌てて書き加えたのだろう。


 相変わらず男前なんだから、サシャは内心小さく笑った。

「さ、着いて早速だけど仕事、仕事。ロープは山の上に準備してあるから、どんどん繋いでね」

 十四歳のサシャはまわりの大人達を真似るように言うと、ギルを見付けてそちらへ跳ねるように駆けて行った。


 甲板にあった不可解な穴の謎がようやく解けた。

 山の上からロープを投げられ、それをその穴に通して結び付ける。

 ゆとりを持たせろと先輩の船員達には教えられた。

 それを二十人足らずで右舷、左舷とも各五十本ずつ。

 百本ものロープで山の頂上から繋がれた船は圧巻であった。

 作業が終わると「二時間は休憩だ」と、みな思い思いに過ごし始める。

 

 干潮までは六時間足らず。

 その間、徐々に海面が下がって行く。普段海水に晒されている船底が空気に晒される頃、ボートに乗り換え付着した貝や海藻を取り除く作業に取り掛かった。

 時間が経つにつれ、山の上から張られたロープが余裕をなくしてぴんと張る。

 甲板では余裕がなくなったロープを一旦ほどいては余裕を持たせる、という作業が延々繰り返されていた。

 やがて船底に鈍い衝撃。

 まさかとは思っていたが、やはり座礁させるのが目的なのだと思った。

 船大工達は現れ始めた船底を潮が引いた部分から点検していく。


 潮が引き切った時、レオンは息をのんだ。

 水深2メートル足らずの遠浅になり、海底から牙のように岩がいくつも露出している。

 大小さまざまな岩の牙が━━━船底を支えていた。

 船台に乗った形となった船の船底と海面の高さは、ほとんど同じだった。

 だから、「巣」か。

 納得した。


 ウォルターや操舵士は岩の状態を覚えているのだろう。

 これだけ的確な位置で停泊させる技術は海の国(オーシアン)の船乗りでも適わないかもしれない。

 大量の荷を下ろしたのは少しでも船を軽くして停泊前に船底を衝突させないためであり、多数のロープは万が一、船が傾いた際に備えての固定用だったのだ。

 レオンが言葉を失っている姿にウォルターは満足そうな笑みを浮かべ、それから彼を船室に呼びつけた。


 船の修繕は予定通り大潮を挟む三日で終わらせた。

 島から手伝いに来ていた人間が一足先に島へ帰る際、レオンは大きく手を振るサシャに小型の船から「キャンディありがとー」と叫ばれたのだった。


 下船していた船員との待ち合わせの港までは往路と同じく二日がかりの航海となったが、到着した港にシーアの姿はまだなかった。

 レオンはそれを気にする暇もなく、船員総出で倉庫に預けていた荷物を積み込みなおす作業に駆り出される。

「船長、お嬢から荷物が届いていました」

 貸倉庫の持ち主との手続きをしていたギルが小さな箱を持ち帰った。

 ウォルター宛ての箱の中には手紙と彼女の短剣が二十本ほど。

 手紙以外を渡されたレオンは、彼女がほとんど武器を持っていない事を知って表情をこわばらせた。


 海の国(オーシアン)に行く。

 出航には間に合わないかもしれない。

 そのうち帰る。

 

 ウォルターは手紙をたたみ直し、「遅れるかも、だとさ」とだけ告げた。


 何かあったのだろうか、と不安を覚えたレオンの顔は曇ったままだった。

 窓口となった機関が荷や手紙に(スタンプ)を押す風習があり、そこにはソマリのリザが働いている総合商社の印が押されていた。


 入国者の監視の厳しくなった海の国(オーシアン)に入るために、武器は持って行けなかったが、もったいないという理由で手紙のついでに手元に戻るように手配した。

 続々と船員達が戻る中、最後まで彼女が戻る事はなく、ドレイク号は予定時刻通りに出航したのだった。


 

シーアがリザに贈ったチョコレートは1万円くらい。

サシャに贈ったチョコレートはみんな用が1万円、ひとり占め用が5千円くらいの想定です。


ファンタジーのタグがついていますが、魔法や不思議生物は出てきません。

何がファンタジーって、船の動力源が分からない事が一番のファンタジーな気がする今日この頃です。




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