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海の国再興譚~腹黒国王は性悪女を娶りたい~  作者: 志野まつこ
第3章 海姫と海の国の物語
46/55

10、どうしてみんな俺をそう言う目で見るのかな(byエミリオ・スミス)

 前半の国家間の軋轢は後書き部分にて「20秒で分かる海の国オーシアン北の台地レイスノート情勢」的な要約文がありますので、面倒でしたら流し読みでOKでっす!


 私自身が他の方の作品を読む際、「国VS国」などの小難しい部分は流し読みしてしまう事が増えてきてしまったので、今回は参考書スタイルを導入してみました。


 ご不要な方は後書きは飛ばしてくださいませ。



 北の台地レイスノートの国王は齢50になるやや卑屈な男であった。

 弟は野心家であるが、自分にはあまり改革を成す気概も無いので都合よく任せていた。

 鉱山の開発も現在は弟が推し進めている。


 輸出のため国の南側の海の国オーシアンとは輸送法や関税、港湾の使用料について長く交渉している。


 半年前、外交相手の海の国オーシアンの進水式に出席した弟は、それから少し人が変わった。

 計画通りではなかったとはいえ、海賊の一団に人質として捕えられた国王の婚約者救出を申し出たのだ。

 海賊を雇った事は知られているだろうが、その後、国交は続いている。

 海の国オーシアンにしてもこれほどの大口顧客は現在無い。

 これから、何十年と長く付き合う事になる。

 お互い下手に刺激し合う事を避けたのだと思っていた。


 それなのに。

 国内でそれは突如広まった。


 海の国オーシアン王妃が単身召喚に応じた。

 国のために単身で北の台地レイスノートを訪れようとした彼女は南東の岬より転落、その後行方不明。

 事故か、自殺か。それとも何者かの故意によるものか━━


 最悪なのは、その岬が北の台地レイスノート領地だった事だ。

 すべての責任が北の台地レイスノートに課された。


 北の台地レイスノート内部で王弟の責任が糾弾される中、追従するように決定打が放たれる。

 海の国オーシアン王妃が身籠っていた可能性。

 それが囁かれ始めた時、国内に大きな動揺が走った。


「隣国の王妃を事故で殺したってのか」

「王妃は身籠っていたそうじゃないか」


 最悪は戦になる。

 二つの国に軍事力に大差はない。

 海の国オーシアンは海軍に力を入れているので、陸での戦争となれば有利である部分もあった。

 しかし、戦争になれば鉄鉱石の輸出は不可能だ。

 資金の枯渇は目に見えていた。

 戦には金が要る。一般的には金で勝敗が決まるといっても過言ではない。

 最北の氷地と呼ばれる北側の小国アイスクにも港はあるが、冬が長く港が機能する期間は短い。


 また海の国オーシアンの海岸部では、北の台地レイスノートの船を襲う理由がドレファン一家にはなく、王妃への嫌疑は誤りではないかとの推測が広がった。


 王妃は間違いを正そうと足を運んだのではないか。

 その仮説は瞬く間に海の国オーシアンを北上し、北の台地レイスノートまで伝わった。

 国としての体面が揺らいだ。


 国内に広がる動揺と不信感。

 周辺各国に広がる醜聞。


 先に風聞を利用したのは北の台地レイスノートである。

 一度流れた醜聞は、おさめられない事を熟知しての計略であった。

 だからこそ、北の台地レイスノートの中枢は揺れた。


 人の口を抑える術を北の台地レイスノートは持たず、気がつけば北の台地レイスノートは世論に追い詰められていた。


◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆


 グレイは突如姿を現した相手に警戒するそぶりを見せた。

 あまり関わり合いになりたくない人間である。


「おたくの王妃様、お迎えに来てほしいんだけど」

 そうエミリオ・スミスは笑顔で実に簡単に言い放った。


「割と元気にしてるんだけど、一つ問題があってね。彼女、記憶がないんだよね」

 「困ったもんだ」とでも言うかのように肩をすくめて嘆息する。演技がかったその態度は実に軽い調子だった。


 西の隣国ソマリの女子修道院に記憶があやふやな黒髪の女がいる。

 すんなりと女子修道院に足を踏み入れたグレイは、責任者である尼僧と傍らを歩く優男の先ほどのやり取りを思い出し、胡乱な目で見た。

「いやだな。彼女との関係は崇高なものプラトニックだよ。寄付ははずんでるけどね」

 エミリオはこれまた芝居がかった様子で肩をすくめた。


 質素な木の扉を開けば、窓辺の椅子に掛けた女がびくりと肩を撥ねさせて振り返る。

 地味顔の女は、グレイを見上げると怯えたように顔を翳らせ視線を落とした。肩につかない長さで切りそろえられた黒髪が揺れる。

 固く握りしめ過ぎたのだろう、両手は白い。

 おどおどと不安そうにしている女を見て、グレイは激しく動揺した。


 確かに、顔は海姫シーアに限りなく似ているとは思う。

 しかしそこにいたのは、存在感のかけらも持ち合わせない怯え切った女だった。

 あの意志の強さを感じさせる瞳。

 それが不安と怯えに染められた女は、あまりにも特徴のない、どこにでもいる女にしか見えない。


 グレイはたじろぐと同時に小さく喘いだ。


 胸をえぐられるような動揺。

 これがあの殺意を覚えるほどに腹の立つ、生意気なあの女なのかと思った。

 執務に没頭し、周囲の目がなくなると思いつめた様子で固く目を閉じ、じっと何かに耐えているかのような男の姿が思い出される。

 声が出なかった。


「どうだ?」

 やがて低い声が小さな部屋に落ちる。

 重苦しい沈黙が続いた後、そう言って顔を上げる女。

 そこにはいつも目にしてきた、あの生意気な笑みがあった。

 腹が立つほど憎たらしい表情。

 生気にみなぎる黒い瞳。

 ああ、そうだ。

 こいつはそういう奴だった。

 グレイは安堵を覚えた。不本意で、不覚にも。


「あれ? もうやめるの。そのまま国に帰るのかと思った」

 エミリオが意外そうに言う。

「まぁな、その気だったんだがあまりにもこいつが泣きそうな顔するもんだからさ」

 肩をすくめたシーアを見て、グレイはいつものように歯噛みした。


 ああ、本当に腹が立つ。



以下 「20秒で分かる海の国オーシアン北の台地レイスノート情勢」 です



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 北の台地レイスノート海の国オーシアンに難癖をつけたところ、どん引きするような非人道的な事態に発展。


「色々あるんだろうけど、妊婦に対して人としてそれはどうなの」


あの国レイスノートなにやっちゃってんの」


 というワケで当事者2か国の国民どころか周辺各国、および海運関係者から北の台地レイスノートのやり方は総スカン、の図です。


 小難しい話を盛り込んだので今回は短めに区切りました。

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