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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

hidden agenda -モンスター侵略-

作者:

ファンタジー系のお話を書くのは初めてだったので、

至らない部分もあるかと思います。

少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。


20XX年 ―アール王国―



「ここはいつ見ても変わらないわね。ずっとキレイなままだわ・・・」

湖で少女が1人佇んでいる。

その少女はどこか寂しげに遠くを見つめていた――――――




――――――――――――――――――――――――――――――


私が住むアール王国は、かつては緑豊かでこの湖のようにとても美しい国だった。

しかし、近年突如発生した謎のモンスター襲撃事件により、4つの地区のうち3つは壊滅してしまった。

かろうじて残ったのは、ここミレニア地区のみ。

生き残った少年少女達は、モンスターと戦う人間兵器として胸にチップが埋め込まれる。

そのチップは魔道書のような役割をしていて、魔法を使用したり身体能力を底上げしたりする力がある。

そんな少年少女達を人々は‘アリア’と呼び、町の中心部にある巨大なドーム型の建物【通称:アヴィス】を拠点とし活動している。


私もそのアリアの一員で昨日までモンスターと戦っていた。

一緒にいた仲間は戦いの途中で戦死してしまい、私だけが生き残ってしまった。

この戦闘には終わりが見えない。いつどこで再びモンスターが現れるのかが分からない。

そんな不安な毎日を過ごしている。

今はつかの間の休息。小さい頃からのお気に入りのこの湖【ワンダー湖】で疲れを癒していた。




ピリリリリリリ・・・・・!!!!!!


けたたましい電子音が、右腕にはめた小発信機から鳴りだした。

この音は緊急事態の招集時のもので、滅多に鳴る事は無い。久々の事に少し緊張が走る。


ふいに冷たい風が吹き出し、肩まで伸びた栗色の髪がなびく。

なんだか嫌な予感がする。この先にとんでもないことが待ち受けているような・・・

根拠の無い勘だが、こういう悪い勘というのは大抵当たるものだ。

呼吸を落ち着かせ、少し駆け足でアヴィスへと向かった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――


程なくしてアヴィスに到着し、司令室へと向かう。

「失礼します。アリア隊、リリアーヌです。」

扉をノックし中へ入ると、アリア隊の隊長であるマルビスが迎えてくれた。

「あぁ、入れ。これで4人か・・・空いている所に座れ。」

「リリアーヌ、こっちよ。」

名前を呼ばれ振り返ると、そこには懐かしい顔が並んでいた。

「ティナ!久し振りね! カイトとカルマも無事だったのね、良かった・・・」


ティナは私と同じ年の女の子。少し強気な所もあるけれど、頼れるお姉さん的存在。

カイトは私達の1つ上で真面目でしっかり者のお兄さん。カルマは普段は無口だけど、2つ年上ということもあって落ち着きがあり頼りになる。


しばらく談笑していると、廊下を慌ただしく駆けてくる足音が響いてきた。

「ちーっす!!!!アリア隊ユウリ参上!!」

「ふざけてないでさっさと入れ・・・」

ユウリはよく言えばムードメーカー、悪く言えばお調子者。この中では一番年下でいつもみんなをからかっていた。

この5人が全員揃うなんて、何ヶ月振りだろうか。

元々幼馴染だった私達だが、アリアになってからバラバラに行動をしていたためこうして顔を合わせるのは久し振りだ。

緊急招集にも関わらずマイペースなユウリに隊長も呆れ顔だ。


「へいへーい、おっ、みんな居るじゃねーか!!」

「ユウリ、お前相変わらず落ち着きが無いな・・・」

「なんだよカイトー、つれないなぁ。すました顔しやがってこのイケメンがー!!」

「それは褒めているのかけなしているのかどっちなんだ・・?」

「おい、隊長の話が始まる。静かにしろ。」

カイトにもたれかかってユウリが頬を膨らませていると、カルマは冷たい口調で咎めた。

「うわ、出たよカルマの説教!つかお前暗過ぎ!!前髪切ろよ、顔見えねーし。

 右目だけ出してるとか中二病かよー!」

「ちょっとユウリ、いい加減にしなさいよ。」

「なんだよツンデレティナちゃん。」

「なんですって!?ユウリのおバカ!」

「だって今時そんな髪型・・ツインテールっていうんだっけ?しかも金髪だし。」

「髪型は性格に関係ないでしょ!!!」

「ユウリ、もうやめなよ。ティナも落ち着いて・・」

ユウリのからかいに怒りだすティナを見て私はすかさず止めに入ろうとした。

「おい、いい加減静かにしないか。」

「いでっ!?!?」

「自業自得だな。」

「あぁ。」

ヘアバンドで前髪をあげている無防備なユウリの額に隊長がデコピンをすると、

カイトとカルマは清々したという表情で頷いていた。


「さて、全員集まった所で本題に入るぞ。」

「えっ、ちょっと待ってください。全員って・・この5人しかいないんですか!?」

「あぁ、つい先日の戦いでほぼ全滅だ。かろうじて生き残った者もいるが、重傷で動ける状態ではない。」

「マジかよ・・ヤベーじゃん・・・」

珍しくユウリが真剣な顔をしている。


「そうだ、今我々は非常に危険な状態だ。まずは現状集まっているモンスターの情報を公開する。既に戦いで知っているとは思うが、しっかり話を聞いてくれ。」

部屋の電気が消され、モニターにモンスターの姿が映し出される。


「まずは‘ヌラ’だ。体はナメクジのような形状で、頭には2本の触角。顔の真ん中にでかい目玉が一つだけ。コイツは体から皮膚を溶かす威力のある液体が染み出ている。接近戦には不向きだな。現にこの液で全身ヤケドを負い死亡した者も出ている。」

「何回見ても気持ち悪いわね、コイツ。」

ティナが眉間にシワを寄せて呟いた。


「まぁコイツは弱いから、アクアバーストの魔法を使えば一撃だ。やっかいなのは大群で来る事だ。囲まれないよう気を付けろ。次はコイツだ。」

画面が切り替わり、トンボのような見た目のモンスターが映し出される。


「あ、俺コイツと昨日戦ったぜ!動きが速ぇーし飛んでるからウザかった!」

「ユウリの言うとおりだ。これは‘ガンボ’と言って羽根を使って空を飛びまわっている。また巨大な目が顔の真横についていて、ほぼ死角はない。その目から光線を出し攻撃してくる。」

「隊長、‘ほぼ’というのは?どこか死角があるのでしょうか?」

「カルマは鋭いな。実はコイツの死角は顔の真上だ。だが常に空中にいるから死角を狙うのは困難だ。」

「では、飛距離に優れているファイアバーストの魔法が一番効果的ですかね?」

「その通りだ。カイトは物分かりが良くて助かる。」




「なぁ、隊長のヒゲすごくね?」

みんなが真剣に隊長の話を聞いている中、ユウリがこっそり話しかけてきた。

隊長は190cmくらいの大柄で、少しごわついている黒い髪を腰のあたりまで伸ばしている。

たしかにアゴヒゲはあるけれど、わざわざ指摘をするほど伸ばしてはいない。

おそらく説明に飽きてきたのだろう。


「ユウリ、懲りない奴だな・・・」

先程の言葉が聞こえていたのか、隊長が険しい顔でユウリを睨む。しかしユウリは懲りずにヘラヘラしているだけだ。

「はぁ、まぁいい。ここからが重要だ。実は新種のモンスターの目撃情報が出ている。」

「え、ほんとですか??一体どんな・・・」

「市民からの情報だが、姿は人間の男と変わりなく、右腕が緑色で怪物のように大きい。

 ヌラが現れた時に一緒にいたようだ。」

「ちょっ、それヤバくね?進化し過ぎだろ・・・」

「数も不明だし、ほんとうにモンスターなのかも定かではないが・・・もしかしたら今後遭遇する可能性があるかもしれない。無理に戦わずに逃げるのも一つの手だ。十分注意してほしい。」

みんな不安そうにお互いの顔を見合う。

本当にそんな人型のモンスターがいたら私たちは勝つことが出来るのだろうか・・・


「では、ひとまず休憩を入れよう。10分後にここに集まってくれ。今後の行動について対策を練る。」


ジリリリリリリリリリリリ・・・・!!!!!!


隊長の言葉が終わったとたん、アヴィス内に鈍いサイレンの音が鳴り響いた。


「な、なんだ!?」

みんなが動揺する中、隊長は冷静に無線で連絡を取っていた。

「全員落ち着いて聞け。町の南東でヌラが大量発生している。市民にも被害が出ているようだ。至急現場へ向かうように。また市民をアヴィスの地下にあるシェルターに誘導してくれ。何かあればこちらに連絡するように。」

「了解!」

やはり嫌な予感は当たってしまったようだ。

私達は急いで現場へと向かって走り出した。




――――――――――――


町の南東にある大広場へとやってきた。

ざっと見ただけでも50体以上はいるだろう。

逃げようとする市民を大量のヌラが追いかけていた。


「うわ、こりゃ酷いな・・・・」

「こんなにたくさん・・・!?」

「しかも市民がいるから下手に魔法攻撃は使えないな。」

「二手に分かれましょう。私とカイトは市民の誘導、ティナ・カルマ・ユウリはヌラの退治をお願い。私達も終わり次第すぐ戻ってくるわ。」

「流石リリアーヌ、私達3人が魔法攻撃得意って分かってるわね。」

「もちろんよ、じゃあ行きましょう!」



私はカイトと一緒に市民の元へ向かった。

「皆さん、落ち着いてください!アリア隊です、俺達の後に付いてきて下さい!」

ざわついていた市民も私達の姿を見て安心したようだ。

先頭はカイトでその後を市民が続いて行き、私は最後尾についた。

市民の数は40名ほどで列を乱すことなく順調に進んでいる。

このままいけばあと5分ほどでアヴィスに着く。

みんなは無事だろうか、早く応援に行かないと・・・

ティナ達の事が気掛かりで油断していた私は、後ろにヌラがいる事に全く気が付いていなかった。


「お姉ちゃん、後ろ!!!!」

「えっ?」

男の子が恐怖に怯えた顔で私の後ろを指差した。振り返ると目の前にヌラの巨大な目玉が迫っていた。

「くっ・・・!!」

咄嗟に腰袋に入れていた小刀を取り出してヌラの目玉へ突き刺した。

「ぐぎょおおおおおおお・・・」

「きゃあぁっ!?」

体をくねらせながら突進され突き飛ばされた。

ヌラの体に触れた腕が熱くてヒリヒリする。

「リリアーヌ、そのまま動くな!!! アクアバースト!!!!」

「ぐぎゃあああおおおおお!!!!」

カイトの援護によりヌラは消滅した。

「カイト、ありがとう・・・」

「大丈夫か!?怪我は??」

カイトは切羽詰まった顔でこちらに駆け寄ってくる。

「腕を少し火傷しただけよ。服の上から触れたから、たいしたことないわ。」

「それなら良かった・・・とにかく急いでアヴィスに向かおう。」

「えぇ、そうね。」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫よ、ありがとう。さぁ、モンスターが現れない内に早く行きましょう!」

心配そうに見つめる男の子に優しく頬笑み、再びアヴィスへと歩き始めた。



――――――――――――――――――――――――


一方、残された3人は大量のヌラに苦戦していた。

「くっそ・・数多過ぎだろ!」

「あと30体・・・リリアーヌ達は無事かしら・・・」

「挟み打ちしよう、俺は正面から迎え撃つからティナとユウリは左右に分かれてくれ。」

「分かったわ!」

「はいよーっ。」

カルマの指示に従いそれぞれ配置に付く。

「よし、一斉に行くぞ!アクアバースト!!!!」

3人揃って魔法攻撃を繰り出す。中心にいた数体を残してほぼ壊滅させることが出来た。

「やったわ!あと少しよ!!」

「おりゃああああ!!!俺の刀捌きを見やがれー!!」

「ユウリ、接近戦は危険だ!!」

カルマの制止を聞かず、ユウリは小刀で次々とヌラを攻撃していく。

「くそ、ユウリが動き回るからこれでは魔法が使えない・・・」

「もういっそのことユウリごと攻撃しちゃえば??」

「ティナ・・お前それは流石に・・・」

「なによ、冗談に決まってるでしょ!!本気にしないでよ・・・もう!」

「よっしゃー!!俺の力を思い知ったか!!!」

二人が困惑しているうちにユウリがヌラを全て倒してしまった。

「まったく・・・でも良かったわ、これで一安心ね。」

「ユウリ、今後はもっと考えて行動しろ。何かあってからじゃ遅いんだぞ。」

「分かったよー、ったく・・せっかく倒したのに・・・」



--------------------


「おーい、みんな無事か!?」

ユウリがぶつぶつ文句を言っているとカイトとリリアーヌがこちらへ向かってきた。

「こちらは平気だ。その様子だと市民の誘導は上手くいったようだな。」

「あぁ、でもリリアーヌが・・」

「ちょっと、その腕どうしたの?服破けて真っ赤になってるじゃない!!」

「これくらい大丈夫よ・・実は途中でヌラが一体現れたの。」

「化膿するといけない、気休めにしかならないかもしれんが・・」

「カルマ、ありがとう。少し痛みが引いたわ。」

キュアの回復魔法でカルマが手当てをしてくれた。

「カイト、どうしたの?」

カイトが複雑そうな表情でこちらを見ていた。もしかして自分のせいで私が怪我をしてしまったと思っているのだろうか。

「え、あぁ・・いやなんでもない。あとで一緒に医療ラボに行こうな。」

「ええ、そうね。」

あまり気にしなくてもいいかと思い、それ以上深く聞くことはしなかった。

広場には逃げ遅れて犠牲になった住民が数人いたため、隊長に連絡をしてアヴィスへ搬送してもらうよう要請した。


しばらく広場の見回りをしてからアヴィスへ向かうと、無事な市民を地下のシェルターへ誘導している最中だった。

「隊長、私達も何か手伝いましょうか?」

「いや、こっちは大丈夫だ。疲れているだろうから2階の応接室で休んでいろ」

「ありがとうございます。」

ティナとカルマを先に応接室へ向かうよう促し、私は腕の治療をしてもらうためカイトと一緒に1階の医療ラボへと向かった。



「あれ、そういえばユウリはいたかしら?」

「トイレに行くって言っていたけどな・・医療ラボの隣の所じゃないかな?ちょっと見てくるよ」

「あ・・・ねぇ、あそこに立っているのはユウリじゃない?」

「本当だ、あんなところで立ち止まってどうしたんだろう。」

ユウリはトイレの奥にある地下へと繋がる階段の前に立ち、じっと中を見つめていた。


「おい、ユウリどうしたんだ?」

カイトが軽くユウリの肩を叩くと、ビクッと反応して素早くこちらを振り向いた。

「・・・!?な、なんだお前らか・・・驚かすなよ。」

「いや、驚かせたつもりはないが・・・」

「何を見ていたの??」

気になって中を覗いてみるが、電気が付いていないため真っ暗で何も見えなかった。

「いや、それがさ・・・あー、ここじゃマズイかもしれない。あとでみんな揃っている時に話すよ。」

「分かったわ。じゃあ2階の応接室で待ってて。私達も治療が済んだらすぐ行くから。」

「おう、了解!」

走って2階へ行くユウリを見送り、私達も医療ラボへと入った。



「失礼します。・・・・あれ、誰も居ないみたいね。」

「本当だな、まだ広場を調べているのかな。」

「カイト、悪いけど包帯を巻くのを手伝ってもらっていいかしら?」

「あぁ、もちろん。任せて。」

カイトは近くにあった救急箱から包帯を取り出し、手際良く処置をしてくれた。

「ありがとう。カルマの魔法のおかげで痛みも引いているしもう平気よ。」

「・・・・そ、そっか。良かった。」

カルマの名前を出した途端、カイトの表情が曇った。

そういえば先程カルマに治療をしてもらった時もこんな顔をしていたような気がする。



「ねぇ、どうしたの?もしかしてカルマと喧嘩でもした?」

「いや、喧嘩なんてしてないよ。」

「そう?でもさっきからなんだか変な顔してるけど・・・」

「それは・・・。キュアの魔法なら俺にも使えるし、あの場で俺が治療してあげればよかったなって思って・・・。」

「カイト、やっぱり私の怪我の事気にしていたのね・・。カイトのせいじゃないし、

 あの場ではゆっくり治療している時間も無かった。だからそんな風に思わなくていいのよ?」

「あぁ、でも・・・お前の事は俺が守ってやりたいんだ。他の誰かに頼ってほしくない。」

私の手をそっと握り、絞り出すような声でカイトは気持ちを打ち明けた。


「え、あの・・・・それって・・・。」

「ごめん、なんか久々に会ったから過保護になっていたよ。・・・・みんなの所に戻ろうか。」

困惑し俯いてしまった私を見て、カイトはすぐに手を離し立ちあがった。

カイトが自分のことをどう思っているか。そんなこと今まで考えたこともなかった。

今の言葉もみんなのお兄さんとしての意見なのか、私だけを特別に思っているということなのか・・・

はっきりしてしまったら今のままの関係ではいられなくなる気がして、結局無言のまま応接室へと向かった。


―――――――――――――――――――――――――――――


「さて、全員集まった所で秘密会議だ!」

応接室へ到着すると、ユウリが待ってましたと言わんばかりにイキイキと喋り始めた。

「一体なんなのよ?ユウリの事だからどうせくだらない話じゃないの?」

「まぁまぁティナ、とりあえず聞いてみましょうよ。」

「いや、今回はマジな話だから安心してくれ!カイトとリリアーヌはさっき会ったから分かると思うけど、医療ラボの奥に地下に行く階段があるのは知ってるよな?」

「あぁ、確か隊長の研究室があると言っていたような・・・」

「俺さ、見ちゃったんだよ。さっきの戦闘で死亡した市民があの階段から地下に運ばれて行くのを!!」

「え、それはほんと?実は負傷した人で、地下で治療するためとか・・」

「それはねーだろ。だって治療ラボがあんのに地下に運ぶなんておかしくね?」

「そういえば、さっき私達が医療ラボに入った時は誰も居なかったわ。

 ラボの中には安置室もあるから、もし死者がいたらラボに運ぶはず・・」

「確かにな・・・そもそも研究室には立ち入り禁止だし何があるのかさっぱりだよな」

みんなが真剣な表情で考えを巡らせるなか、ユウリは探偵にでもなったつもりなのか興奮気味に話を続ける。

「だからさ、みんなで調査しに行こうぜ!」

「え、なに言ってるのユウリ・・そんな探偵ごっこみたいなことやめた方がいいわ。研究室にはロックがかかっているみたいだからどのみち隊長しか入れないのよ?」

「だから、隊長のあとをつけるんだよ。夜中にこっそりさ。」

「俺も反対だな。なんだか嫌な予感がする」

「なんだよー、みんな心配性だな。なら俺1人で行くから!」

「やめなさいよ、さりげなく遺体の供養どうしますかとか無難に確認したらいいじゃない。」

「分かった分かった。勝手に行ったりしないよ・・・」

ユウリは渋々納得してくれたようだったが、私はユウリが懲りていないのではないかと不安なままだった。

何事もなければいいけれど・・・・


――――――翌日、私の嫌な予感は見事的中してしまうのだった。



――――――――――――――――――――――――――


「おい、そっちはどうだ!?」

「ダメだ、まったく手掛かりなし・・・」

「アヴィス付近も調べてみよう、お前達は建物の裏側を見に行ってくれ」

早朝に隊長から呼び出された私達は捜索活動にあたっていた。

ユウリが行方不明になってしまったのだ。

私達アリア隊が腕にはめている小型発信機にはGPS機能が付けられていて、

緊急時には隊長が居場所をチェックすることができるようになっている。

今朝アリア隊に発信をしようとしたところユウリの発信機に不具合が生じて発信できず、GPS機能も作動しなかったらしい。


「なんで私の嫌な予感って当たっちゃうんだろう・・」

「リリアーヌ、大丈夫か?」

「カイト・・ごめん大丈夫よ。昨日の今日だからちょっと心配で・・何かあったのかしら?」

「ユウリの性格だと、昨日の夜忍び込んだ可能性は高いよな・・・」


「きゃああああー!!!」

「おい、早く隊長を呼んでくれ!!!!」

ティナの叫び声と切羽詰まったカルマの声が聞こえてきた。


「俺が隊長を呼びに行くよ、リリアーヌは先に行ってくれ」

「分かったわ!」

急いで声のする方へ向かうとそこには――――



「・・・っ!? え、ユウリ・・なの・・?」

「リリアーヌ、あまり見ない方がいい・・」

木の茂みに変わり果てたユウリの姿があった。

鈍器のようなもので殴られたようで体は酷く損傷しており、周りの木にも血飛沫が飛んでいた。

ティナは泣き崩れてかなり動揺している。

私はショックでその場に座り込んでしまい、カルマがそっと肩を抱き寄せ支えてくれた。



「おーい、隊長呼んで来たぞ!」

カイトが隊長を連れてこちらへ駆け寄ってきた。

悲惨な状況を目の当たりにしてカイトもその場に立ちすくんでしまった。


「こりゃ酷いな・・・」

隊長がユウリの傍へ来て黙祷を捧げた。

「あとの処理は俺がやる。お前達は応接室で待機していてくれ。」

その場を動けないでいるティナを引き摺るようにしてみんなで応接室へと向かった。


―――――――――――


「ねぇ、昨日ユウリに何があったのかしら・・」

「分からない、でもおそらく地下に潜入しようとしたのは間違いないんじゃないか?」

「じゃあ一体誰がユウリを・・・・こんな所でモンスターが出たとは考えにくいわ。」

「あぁ、それにモンスターによる攻撃ではあんな風にならないだろう。明らかに何かで殴られたような外傷だった。」

考えれば考える程謎は深まるばかりで一向に答えは出てこない。

しばらく沈黙が続いていると、隊長が応接室に入ってきた。



「隊長!ユウリは一体誰にやられたの!?まさか人型モンスターの仕業じゃないでしょうね・・・私達もあんな風に殺されちゃうの!?」

隊長に掴みかかるように問い詰めているティナをみんなで宥めた。

隊長はゆっくりと全員を見渡してから重い口を開ける。

「ユウリはおそらくヌラにやられたと思われる。体が全体的に火傷のような炎症を起こしていた。」


「ヌラって・・・では何かで殴られたような跡がありましたがそれは?」

「それは・・突き飛ばされた時に木や壁に打ち付けられたからだろう。」

カルマの問いに隊長が一瞬顔をしかめたのを私は見逃さなかった。



「でも、そんなのおかしいわよ!」

「ティナ、落ち着いて。ここで言っていても何も変わらないわ。

 隊長、少しこの部屋を借りても良いですか?

 私も含めみんなまだこの状況を受け入れられていないから・・」

「あぁ、何かあれば連絡してくれ。俺は念のため昨日の広場を見てくる。」



隊長が部屋を出てからティナが私にキツイ口調で咎めた。

「ねぇ、さっきのどうして止めたのよ?このまま分からなかったらいずれ私達も・・・

 リリアーヌは怖くないの!?」

「おい、そんな言い方はないだろう。リリアーヌは何も悪くない。」

カイトが私を庇うように前に出てティナを睨みつける。

カイトの冷たい視線にティナはビクリと反応し涙目になってしまった。


「カイト、言い過ぎよ。ティナごめんね、私だっておかしいと思ったわ。

 あの場でもっと問い詰めたかった。」

「じゃあどうして!?」

「隊長は意図的に何かを隠しているわ。絶対おかしいもの。あの場で聞いても絶対

 教えてくれないだろうから、言うとおりにして出方を見た方がいいわ。」

「確かに、俺の質問にも歯切れ悪かったな。」

「多分、俺達がそこまで見ていたと思わなかったんだろうな。」

「・・・みんなごめんなさい、私動揺して全然気が回らなかった。」

「いいのよ、でもまさかこんなことになるなんて・・・」


そのあとはしばらく誰も言葉を発することができず、重い空気が漂っていた。


ピリリリリリリ・・・・・・


静まった部屋に発信機の音が鳴り響く。


「はい、リリアーヌです。」

「全員いるか?至急応援に来てくれ。広場を見回りしていたらこの前話した

 人型モンスターらしきものを見かけたんだが・・追っていた途中で大群のガンボに出くわした。」

隊長の声に被さってガンボの鳴き声が聞こえてくる。


「分かりました、全員で向かいます。」

「あぁ、頼んだ。」


「みんな、急ぎましょう。」

「あぁ、しかしヌラに引き続きガンボの大量発生とは・・・どうなっているんだ。」

私達は表情を引き締めて救援に向かった。



――――――――――――――――――――――


「うわ、なんでこんなたくさんいるんだ・・!」

そこには先日のヌラの時のようにガンボが広場に大量発生していた。

腕を負傷した隊長がこちらに気付いて駆け寄ってくる。


「こんなに数がいると俺一人じゃどうにもならん、光線を出される前に

 さっさとケリを付けるしかないぞ。」

「みんな、広場を囲むように分かれて攻撃しましょう。その方が効率がいいわ。」

「あぁ、そうだな。」


それぞれ持ち場に付き戦闘を開始する。

「こっちが優勢だな、数も今いるものから増えてはいないみたいだ」

「ええ、そうね。カイトとティナの援護に回りましょうか。」

「あぁ。・・・ん、そういえば隊長は?」

「え、さっきまでカルマと一緒に居なかった?」

「そのはずなんだが・・・」

「腕を怪我していたから、もしかしたらアヴィスに戻ったのかも・・

 取敢えずガンボの消滅を優先しましょう。」

「そうだな、行くか・・」



「リリアーヌ、私はいいからカイトの援護をお願い!」

ティナに言われてカイトを見るとガンボに挟み撃ちにされていた。

「カイト、伏せて!ファイアバースト!!!」

「・・・っ!ありがとうリリアーヌ。」



「こっちも終わったわ!これで駆除完了ね。」

最後の1体をティナが倒しこちらに近づいてくる。

「結局人型モンスターらしき姿は無かったな。」

「ええ、そうね。アヴィスに戻りましょう。」


「シャアアアアアアア!!!!」

広場から背を向けた所で、ガンボの甲高い鳴き声が後ろから響いてきた。


「な、また再発生したのか!?」

「光線が来るわ!!!今からじゃ攻撃が間に合わない・・!!!」

振り返るとガンボの目は既に光っており光線を発射する寸前だった。

「リリアーヌ、諦めろ!一度避けるべきだ!!」

「きゃっ・・・!!」

カイトに腕を引かれ後ろに倒れこむ。

するとその直後に光線が放たれ間一髪で避けることができた。


「きゃあああああっ!!!」

「ファイアバースト!!!!」

ティナの悲鳴とカルマの魔法がほぼ同時に起き、ガンボは消滅した。

「ティナ、大丈夫!?」

「う、うぅ・・・」

慌てて駆け寄るとティナは逃げ遅れたようで右半身がガンボの光線で負傷していた。


「おい、この傷はまずいぞ・・血が止まらない・・」

全員でキュアの回復魔法を唱えるがまったく効果がない。

ティナは意識が朦朧としてきて体の力も入らなくなってきている。

「どうしたらいいの!?早く医療ラボまで向かわないと・・!!」


「おい、全員無事か!!」

広場の方から隊長がこちらに駆け寄ってくる。

「ティナが・・早くなんとかしないと!!!」

「落ち着け、すぐに搬送車を手配する。」

隊長が発信機でアヴィスへ連絡をして1分も経たないうちに搬送車が来た。

その間私達は気休めにもならないが回復魔法を唱え続けた。


――――――――――――――――――――――――――――――



アヴィスに戻った私達は応接室で待機することとなった。

隊長によるとティナは医療ラボの設備では回復が難しく、

地下にある特殊なカプセルの中で治療をするらしい。

ティナの姿を見たいと隊長に問い詰めるも聞き入れてもらえず

おとなしく待つことしか出来ない。



「はぁ・・・・ティナは大丈夫かしら・・」

「信じて待つしかないよ・・」

「それにしても、地下に治療のための設備があるなんて知らなかったよ」

「確かに、今までなぜ使わなかったのかしら・・」

「・・・ティナの件で動揺していたから忘れていたけど、隊長って戦闘の間

 どこにいたんだろう?」

「広場の奥から来たわよね。どうしてあんな方から?てっきりアヴィスに

 戻ったんだと思っていたわ。」

「人型モンスターが居ないか見回っていた、とかかな・・?」

「やっぱり隊長は何か隠しているわ・・ユウリは何か証拠を掴んで

 殺されたのかも・・・」

「アヴィス内でこういう会話はしない方がいいかもな、聞かれると

 俺達もヤバイことになるかもしれない。」

「そうね、確実に三人だけの時にしましょう。隊長にさぐりを入れたりも

 せずしばらくおとなしくしていた方がいいわね。」


その後隊長が部屋に来て私達は休暇を取ることになった。

連日の戦闘と仲間の負傷で心身ともに疲れていたため非常にありがたかった。



――――――――――――――――――――――――


翌日、私はワンダー湖に来ていた。

「ふぅ・・・」

この湖を見ていると今までの疲れや悲しみを全て忘れることが出来る気がした。


ガサッ・・・!


「・・!もしかしてモンスター・・・?」

後ろの茂みが揺れる音がして慌てて振り返る。


「・・・」

木々の隙間から現れたのは、綺麗な白髪を胸元まで伸ばした男だった。

その男の整った顔立ちに思わず見惚れてしまった。


「ぁ、待って・・」

「・・っ!?」

無言で立ち去ろうとする男の右腕を咄嗟に掴むと顔を歪めてその場に座り込んでしまった。



「腕を怪我しているじゃない・・!ごめんなさい、今治療しますから!」

回復魔法を唱えてから、持っていたピンクのハンカチを包帯変わりに腕に巻く。

「・・・ありがとう。」

「気にしないで。でも、どうしてここへ?市民の方達はシェルターの中にいるはずじゃ・・」

「俺はアリア隊として他の地区に派遣されていたんだ。」

「え、でも生き残った人はいなかったって隊長が・・・」

「・・・あぁ、戦闘で負傷して発信機を無くしてしまったんだ。」

「そうなの・・・」


釈然としない部分も多いが、生きていた人がいるという事実が嬉しくてさほど気に留めなかった。

「じゃあ一緒にアヴィスに行きましょう?隊長にも報告しないと。」

「・・!!待ってくれ、俺のことは誰にも話さないでほしい・・」

「どうして・・?疑いたくはないけれど、さっきから貴方の言動は不審な点が多いわ・・」

「すまない、隊長に俺の存在を知られるわけにはいかないんだ。

 理由も話さずにこんなことを言って申し訳ないが、どうか分かってほしい。」

必死に私に訴えかける姿を見て、悪い人ではなさそうだと判断した私はそれ以上詮索するのをやめた。


「分かったわ、貴方の事信じます。隊長や他の仲間には今日の事は言わないわ。」

「・・ありがとう。」

ほっとした表情をする相手に微笑みながら言葉を続ける。

「せめて名前だけでも教えてもらえないかしら?私はリリアーヌよ。」

「そうだな・・・俺はキリュウだ。」



キリュウは名前を名乗るとまたいつか会えたらハンカチを返すと約束し、その場を立ち去った。

「やっぱりこの湖に来て良かったわ。」

思いがけない出会いに少しだけもやもやした気持ちが晴れた気がする。

私は軽い足取りでアヴィスへと戻った。



――――――――――――――――――――――――――――


アヴィスへ戻ると隊長から招集がかかり応接室へと集まった。

「みんな、昨日は御苦労だった。ティナはまだお前達に会わせられる状況ではないが、

 回復の兆しをみせている。」

「良かった・・・」

隊長の言葉に全員安堵する。

「ここに集まってもらったのは確かめたいことがあったからなんだが、昨日の戦闘の時に

 前回話した人型モンスターらしきものを見ていないか??」

「いや、見ていないですね・・」

「俺も見ていません。」

「私も、見ていないです。」

「そうか・・・」

全員首を横に振り否定する。


「隊長はそれらしきものを見たんですよね?」

「あぁ、人影を見た気がしたんだが、気のせいかもしれん。」

「じゃあ戦闘の途中から隊長がいなかったのはモンスターを探していたからなんですね、

 何かあったかと思ってみんな少し心配していたんですよ」

「・・あぁ、すまない。ちょっと気になって広場から離れたんだ。」

私の指摘にバツが悪そうに答える隊長は誰の目から見ても怪しかった。


「まぁ、何事もなければいいんだ。明日は全員出動してもらうつもりだから、

 今日のところはしっかり休んでくれ。では解散。」


明日の任務に備えて、私達は早めに休息をとった。



――――――――――――――――――――――――


そして翌日の昼過ぎ、応接室に全員集まり待機していると隊長がかなり慌てた様子で、

ノックもせずに部屋に入ってきた。


「全員揃っているな・・!?地下の爆発を知らせる警報が鳴った。危険だからすぐに外に出てくれ!」

「地下って・・ティナは無事なの!?」

「大丈夫だ、既にカプセルごと搬送機で移動させている。とにかくすぐにここから離れるんだ!」

そう言って隊長は部屋を飛び出していった。



「ねぇ、どう思う?」

「怪しいな・・・」

「少し見回ってから外に出ようか。」

私達は一番怪しい場所である研究室へと続く階段付近に向かうことにした。


「特に変わった感じはしないな・・・」

「物音も聞こえてこないし・・・でも施設に不具合があったのなら逆におかしいわよね」

「そうだな・・・っ、誰か来るぞ!!!」


3人で階段を覗き込んでいると後方から足音のようなものが近付いてきた。

身構えて振り返るとそこには・・・・



「え・・・・なに? 嘘でしょ・・・!?」

「ヌラ!?・・いや、あの髪はティナ、なのか・・・!?」


「ぐぎょおおおお・・・」

ほぼ全身がヌラの体で覆われており、かろうじて左頭部からティナの特徴である金髪が飛び出していた。

あまりにも衝撃的な見た目に私はその場に崩れ落ちて呆然としていた。



「ど、どうしたらいいんだ・・・!?」

「ぎょおおお・・・タ・・・タス・・・」

「おい、何か喋っているんじゃないのか?ティナ、俺達が分かるのか!?」


「タ、スケテ・・・・ぎょおおおぐおおお」

体をくねらせて苦しんでいるような叫び声が廊下に響く。

だんだんと体が大きくなっていき、金髪部分も飲み込んで完全なヌラになってしまった。


「いや・・・いやああああああ!!!!」

「リリアーヌ、落ち着いてくれ・・・。一体なんでこんなことに・・」

変わり果てていくティナを見て泣き叫んでいる私の手をカルマがそっと握ってくれた。

カイトはヌラになってしまったティナの様子を窺っている。



「くそっ、やるしかないのか・・・?」

「カイトやめて!あれはヌラじゃなくてティナなのよ!!」

「・・・・!!みんな伏せろ!!!」

カルマの一言で全員がその場に伏せた。

すぐにヌラの光線が放たれたが、間一髪で私達の上を通り過ぎ壁に穴を開けた。


「リリアーヌ、あれはもうティナじゃない・・・」

「嫌、嘘よ・・・ティナ・・・」

「見ない方がいい・・」

カイトがヌラに向き直り魔法を唱え始めると、私の視界はカルマの手によって遮られた。


「ぎょおおおおお・・・シテ、ワタシ・・ヲ、コロシテ・・・」

「アクアバースト!!!!」


「ぐおおおおお・・・!!!!!」

カイトの魔法によりヌラは消滅した。

もちろんティナの姿も残っておらず、辺りは静寂に包まれた。


「ティナ・・・ティナ・・・」

「階段を上がってくる音がする、早く離れるぞ!!」

歩ける状態ではなかった私を二人が支えるようにしてその場を後にした。



アヴィスを出たところで隊長が後ろから駆け寄ってきた。

「お前達、まだここにいたのか!?・・リリアーヌはどうしたんだ、怪我でもしたか?」

「あ、実は逃げる途中でヌラに遭遇して・・・」

「な、なんだと・・・」

カイトがヌラという言葉を発した途端、隊長が焦ったような表情になる。

「なんとかカイトが倒したんですが、戦闘途中でリリアーヌが頭を打ってしまって・・」

「心配かけてすみません・・・少し休めば大丈夫です・・」

誤魔化してくれたカルマに続いてなんとか言葉を繋ぐ。


「そうか、無事だったなら良かった。」

「しかし、どうしてアヴィス内にヌラがいたのでしょうか・・」

「地下の爆発は大丈夫なんですか?」

「どこかから侵入したヌラのせいで地下の制御装置が作動したのかもしれんな。

 確認したが、異常は治まったようだ。もう戻って構わない。」

「分かりました、では応接室で休ませてもらいます。」

「ティナは、また地下に戻ってくるんですか?搬送機で運び込む時に一目でも会えないでしょうか?」

「あー・・いや、しばらく地下の設備の点検をしてから戻すことにするからまだなんとも・・。」

「そうですか、分かりました。」

言葉を濁す隊長に、怪しいという疑惑は確信に変わった。



―――――――――――――――



「二人ともごめんね、もう大丈夫よ。」

「リリアーヌ、無理はするなよ。」

「えぇ、ありがとう・・」

「やはり隊長が裏で糸を引いているらしいな・・・実はさっきこれを発見した。」

カルマが取り出したのは鍵のかかった日記帳のようなものだった。


「それ、どうしたの?いつの間に・・」

「さっきの戦闘のあと、これが落ちていたんだ。もしかしたらまだ正気だったティナが俺達へ渡すために持ってきたのかもしれない・・」


「中を見てみよう、これくらいの鍵なら針金で開けられそうだ。」

カイトが電気コードを留めていた針金を使って何度か試すと、意外にもすぐに外れた。

「このタイトルの“human experimentation” って人体実験って意味よね・・?」

「さっきのヌラの件で大体予想は付くが、やはり隊長が・・・」

そこにはティナが怪我をして搬送されてからの出来事が綴られていた。


―――


○月×日


アリア隊員だったティナが右半身を負傷。

能力も高かった為良い結果が得られそうだ。

実験用のカプセルに入れて一晩様子を見ることにする。



――――――


○月□日


どうも負傷部分の損傷が激しく良い結果が出ない。

これでは人型を保ったままモンスター化するのは難しそうだ。

仕方ないのでヌラを作る物質を負傷部分へ取り付け融合させることにする。


―――


○月△日


ヌラの体の浸食力がとても高い。

既に右半身はヌラの体で覆われている。

時折こちらを見ているようだが、まさか意識があるのだろうか?



―――


○月○日


やはりまだ意識があるようだ。

こちらが動く方向を目で追ってきている。

明日カプセルから取り出し処分してしまおう。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



日記はここで終わっていた。

最後の日付が昨日だから、おそらく今日カプセルからティナを出した際に逃げられたのだろう。

「まさかほんとにこんなことが行われていたなんて・・・」

「前にユウリが言っていた地下へ負傷した市民が運ばれていたというのも本当だろうな。」

「あぁ、きっとその市民達をヌラにしていたんだろう・・・・なんと恐ろしいことだ。」

「このことは知らないフリをして様子を見ましょう。下手に行動すると危険だわ。」

「そうだな、その方がいい。」

「はぁ、しかしこんなことが実際に起こり得るなんてな・・・現実味がない。」


その後は各自で夕食を取り、全員応接室で休眠することにした。



――――


深夜0時

応接室へと忍び込む人影があった。

物音を立てないよう侵入すると辺りを見回し全員寝ていることを確認する。

そして机の上に置かれていた日記帳を手に取ると、鍵が開けられていることに気付く。


「くそ、思ったよりもカンのいい奴等だ・・・・早急に片付けねばな・・・」

日記帳に持っていたペンで何かを書き足すと、そのページを開いたまま応接室を後にした。




――――


「・・・ん・・・?」

翌朝、体を揺さぶられて目が覚めると切羽詰まった二人の顔があった。

「ど、どうしたの・・?」

「説明は後だ、早く逃げるぞ!」

「えっ!?ちょっと待ってよ!!」

状況が分からないまま二人に手を引かれ外へと駆けだした。

アヴィスから少し離れた茂みに身を隠し、カイトが昨日見ていた隊長の日記を取りだした。


「この日記帳がどうかしたの?まさか、私達が見たことがバレたの!?」

「あぁ、俺達が朝起きたらこのページが開いた状態で置かれていたんだ。」

「迂闊だったな、これを机の上に置いたままにしておくべきではなかった・・・」

それはティナの実験記録の次のページに記されていた。


“次はお前達の番だ・・”  と―――――



「こ、これは・・隊長からのメッセージよね・・?」

「おそらく昨晩応接室に来た隊長が、日記を発見してメッセージを残したんだろう。」

「隊長は俺達を人体実験に使うか、もしくは証拠隠滅の為に殺そうとしているか・・どちらかだろうな・・・」

「とにかく、なるべくアヴィスから遠くに逃げましょう。この近くにいるのは危険だと思うわ。」

「そうだな、行くか。」



――――――――――


そうして私達は隊長の魔の手から逃れるためにアヴィスとは反対方向へと逃げだした。

しかし、現実はそう甘くは無かった。


「はぁ、はぁ・・・」

「少し歩きながら進むか・・だいぶアヴィスからは離れたし・・・」


スピードを落とししばらく歩いていると、広場へと辿り着いた。

「ねぇ、この先どこへ逃げたらいいのかしら。」

「他の地区は既に壊滅状態だしな・・・」

「確か町外れに通信機があった筈だ。他国と連絡が取れるかもしれない。」

「そうね、試してみる価値はあるわね。じゃあそこを目指しましょう!」


ぐぎょおおおおお!!!

シャアアアアアアア!!!!!


目的地へと向かい出した私達の前に、ヌラとガンボの集団が立ち塞がった。


「まぁ、簡単に逃がしてくれるわけないか・・・」

「でもこの数じゃ・・・」

「おそらく今までと同じくらいいるな、先に空中にいるガンボから攻撃しよう。」

「了解、俺はこっち側からガンボを攻撃する。カイトは俺の反対側からガンボを、リリアーヌはヌラを頼む。」

挟み撃ちにするためカルマは私達の向かい側へと回った。



「こんなところで足止めくらっている暇はないんだよ!!」

「さっさと終わらせるぞ・・・ファイアバースト!!」

「絶対に逃げ切って見せる!!」

二人がガンボを倒している間にこちらに向かってくるヌラを私が攻撃する。

何度も戦闘を重ねてきたおかげでいいチームプレーが取れるようになった気がする。

数分経つとガンボは全て消滅しており、残りはヌラが数体だけになっていた。


「もうすぐね・・早く終わらせましょう。」

「カルマ、そっちに行くぞ!」

「まとめてやってやる、アクアバースト!!」


ぐおおおおお・・・・・


「やったわ!これで全部倒したわね!」

「ふぅ・・・また発生するといけない、早く行こう。」



「あぁ、そうだな!じゃあ早く・・・ぐはっ、う・・なんで・・・」

「え・・・?カイ・・ト・・?」

カイトが急に苦しみ出しその場に倒れた。

恐る恐る見ると背中に大きな触手のようなものが突き刺さっていた。

「・・・どうしたんだ!?」

先を歩いていたカルマもこちらの異変に気付き駆け寄ってくる。


「カイト!!しっかりして!!目を開けてよ!!」

「・・・・・・・・・ぅ・・・」

傷口はとても深く、あっという間にカイトの周りは血だまりになってしまった。



「なっ、モンスターとは違うよな・・・一体誰がこんなものを・・っ!?」

「カルマ、どうしたの?誰か居るの!?」

「一瞬見えた後ろ姿が隊長に似ていた・・・くそ、この傷の深さじゃ魔法では治りきらない・・」

「・・・・カイト・・もう少しなのに、こんなのあんまりだわ・・・」



「はぁ・・・リリ、アーヌ・・・」

「カイト!?」

うっすらと目を開けこちらを見てくるが、焦点が合わず意識も朦朧としているようだった。

カルマが回復魔法を何度も唱えているが全く効果が出ていない。



「カルマ、リリアーヌを頼んだぞ・・」

「やめてよ、そんなセリフ言わないで・・三人で生きようって決めたじゃない!」

「・・・・・リリアーヌは何があっても俺が守る。」

「・・・あぁ。リリアーヌ、ごめんな・・お前は絶対に生きて幸せになってくれ・・

 本当はずっと好きだった・・よ・・」

冷たくなったカイトの手が私の頬に触れる。

最後の言葉を言い終わると手の力が抜けていき、ゆっくりと目を閉じていった。


「・・!カイト・・カイト!!!いや・・もうこれ以上何も失いたくないよ!」

「・・・・・リリアーヌ、行こう。ここで俺達が死んだらカイトが悲しむから・・」

泣きじゃくる私の頭をカルマは宥めるように撫でてくれた。

「う、うん・・・」


ガサガサ・・・


「・・・何かいるな。後ろの茂みから音がした。」

「もしかして隊長が・・?」

「下手に動くと攻撃されるかもしれない、あそこの建物の陰に隠れよう。」

カイトを連れていくのは危険だと判断し、仕方なくその場に残した。

身を屈めて歩き出すと、私達に気付いたのか茂みから何者かが現れた。


「あ、あれは・・・もしかして・・」

「人型モンスター!?・・・逃げるぞ!!」

振り返った際に見えた相手は確かに人間の姿をしていたが、右腕だけが緑色で通常の3倍以上の太さだった。


「追いかけてくるわ!どうしようここままじゃ追いつかれる!」

「くそ、速いな・・先に逃げてくれ、俺が囮になる・・」

カルマがモンスターの方を向き直り戦闘態勢に入った。


「ダメよ!一緒に逃げましょう!!」

カルマの腕を引っ張り逃げるように促すがその場を動こうとしなかった。

そんなやりとりをしている間に追いつかれてしまいモンスターが目の前までやってきた。


「早く逃げるんだ!!」

カルマが魔法を唱え始めるとモンスターは少し焦ったような表情になった。

「カルマ待って!!なんだか様子がおかしいわ!」


「待ってくれ!!俺はお前達に危害を加えるつもりはない!!」

モンスターは両手を上に挙げ、その場に立ち止まった。


「な、普通に話せるのか・・?」

「ここにいるとマルビスに見つかってしまう。俺に付いてきてくれ。」

「隊長のことも知っているのか?・・・リリアーヌ、どうする?」

「・・・・・行きましょう。信じても大丈夫だと思うわ。」

初めて見たはずなのに、何故か安心した気持ちになっている自分が不思議だった。


――――――


しばらく後を付いていくと見覚えのある景色が広がってきた。

「もしかして、ワンダー湖に向かっているの・・?」

「・・・・・・」

人型モンスターは少しだけ視線をこちらに向けると小さく頷いた。


「綺麗だ・・こんな場所があったなんて・・」

カルマはこの湖に来るのは初めてのようで物珍しそうに辺りを見回している。


「ねぇ、貴方はもしかして・・・」

白髪に端正な顔立ち、よく見てみるとこの人型モンスターはあの時出会ったキリュウにそっくりだった。

「また会えるとは思わなかった。これをいつ返そうかと悩んでいたんだ・・」

そう言って取り出したのは私が手当のために腕に巻いたピンクのハンカチだった。

「あ、このハンカチ・・・やっぱりキリュウだったのね。でもどうして貴方が・・」

「リリアーヌ、知り合いなのか・・?」

カルマは戸惑いの表情を浮かべ私達を見ている。


「前にこの湖で会ったの。その時は人間の姿だったけれど・・」

「もしかして、隊長に人体実験をされてその姿に?」

「あぁ、そうだ。・・その口ぶりからすると既にマルビスの正体を知っているのか?」

「隊長が人体実験でモンスターを作り出していることまでは知っているわ。私達がその秘密を知ったことがバレて必死で逃げていたところなの。」

「なるほどな・・マルビスは自分自身にも人体実験をしている。」

「な、なんだって!?じゃあ隊長もモンスターだっていうのか?」

「俺もはっきり確認したわけではないが、背中から触手のようなものが生えているのは見たことがある。」

「なんてことなの・・・じゃあキリュウは実験途中で逃げ出したから隊長に追われていたのね。」

「あぁ、実験のことをバラされる前に俺を処分しようとしたんだろうな。

 ところで二人はどこへ向かうつもりだったんだ?あてもなく逃げているのなら

 マルビスに捕まってしまうぞ。」

「実はさっきの広場を奥に進むと通信機が設置されているの。もしかしたら他国と連絡がとれるかもしれないと思ってそこを目指していたのよ。」

「なるほどな・・・この湖の反対側から行けば辿り着けるはずだ。急いで向かおう。」

「あぁ、話している間に体も休まったし早速出発しよう。」



―――――――――――――


「こんなところにいたのか・・・・・探したぞキリュウ。」

歩き出した私達の前にゆっくりと隊長が現れた。



「マルビス・・・」

「そんな怖い顔で見るなよ。俺の元へ来い、今戻ってくれば殺さないでおいてやる。」

「戻ったら俺を完全にモンスターにするつもりなんだろ・・・そんなのはお断りだ。」

「俺に逆らったらどうなるか分かっているだろう?」

「どうだかな・・人体実験をされたおかげで俺はお前を殺せるほどの力を持っている。」

「ふん、何をバカな事を・・そんな実験途中の体で何も出来る筈がない!」

「なら俺の力を見せてやる!!」


キリュウは大きく右腕を振り上げて力を込め、地面へと叩きつけた。

すると地響きが起き半径5M程の大きな穴が開いた。


「す、すごい・・・」

「なっ、どうしてそこまで力が出ているんだ・・」

隊長も含め私達は想像以上の力に呆気にとられていた。


「地下室を逃げ出してから町に発生したモンスターと戦っているうちに色々とコントロール出来るようになったんだよ。」

そう言ってキリュウは人間の姿へと自分の意思で変化してみせた。


「くそ・・・やはりお前はこのまま生かしてはおけない。そこの二人もまとめて殺してやる!!」

隊長の周りがドス黒いオーラに包まれると、体が全体的に赤く膨れ上がっていき背中から4本の触手のようなものが生えてきた。


「なんだよあれ・・・・」

「隊長・・・」

あまりの変わりように私達は言葉を失った。

モンスターを作り出したのが隊長なら私達の攻撃だってきっと効かないだろう。


「二人とも自分の身を守ることだけに集中しろ!奴は俺が倒す!」

キリュウは再びモンスターの姿に変わり、隊長に向かって腕を振り攻撃を仕掛けた。


「ふはは、お前の攻撃なんぞ効かないわ!」

隊長の背中から生えている触手が素早くキリュウの動きを捉え地面へと叩きつける。

「ぐあっ・・!」

どうやらあの触手をなんとかしなければ隊長に近づくことさえ困難だ。

「カルマ、キリュウを援護しましょう。私は右から攻めるわ。」

「了解。」

私達は左右に分かれ、触手に向かってナイフを投げつけた

「ふん、無駄な事を・・・」

何本か触手にナイフが刺さるものの、全く痛みを感じていないようだった。

「目障りな奴等から処分するか・・・」

「きゃあああ!!」

「リリアーヌ!!」

2本の触手が伸びてきてリリアーヌの身体を締め付けた。

「はぁ・・・ぐっ、う・・・・」

身体がミシミシと音を立てて悲鳴を上げている。

息をすることもままならず意識が朦朧とし始めた。


「くそ、リリアーヌを離せ!」

「ではキリュウ、お前にどちらを生かすか選ばせてやる。」

「どちらかって・・・っ、カルマ!!」

「くっ、しまった・・・!!」

リリアーヌを救う事に気を取られ、カルマも呆気なく触手に捕らわれてしまう。


(くそ、どうしたらいいんだ・・・

マルビスの触手は自由自在で力も強い。判断を間違えれば2人とも命はない・・・)

2人を救う方法を考えるも絶望的な状況に不安がよぎる。


「どうした?諦めるのか?ならば仲良く一緒に死なせてやろう!」

「キリュウ!俺はいいからリリアーヌを!早く!!」

「・・・分かった。」

自分の今の能力ではどちらかを犠牲にするしか助かる方法はない。

カルマのためにも必ずリリアーヌを助け出すと決意した。


「ぐ、ぁ・・・!!!」

カルマにも強烈な痛みが襲いかかり一瞬で意識が飛びそうになる。

リリアーヌは限界が近づいているようで、苦痛に顔を歪め浅い呼吸を繰り返していた。


「うおおおお!!!」

右腕に全神経を集中させ筋肉を隆起させる。

渾身の力を込めリリアーヌを捕えている触手を引き千切った。




「・・・・油断したな。」

「ぐおおお!!お前・・まだ意識が・・」

2本の触手が引き千切れた際、拘束していた触手が若干緩んだのをカルマは見逃さなかった。

咄嗟に放ったナイフは見事マルビスの後頭部に突き刺さり、触手の拘束から逃れることが出来た。

「はぁ、はぁ・・・危なかった・・」

身体が思うように動かず、その場に膝をついて新鮮な空気を吸い込む。


「おい、リリアーヌしっかりしろ!」

「う・・・げほっ、はぁ・・・・・ありがとう、平気よ・・」

リリアーヌはすっかり衰弱しているが、なんとか一命をとりとめることができた。


「ふははは!!まさかここまで手こずるとはな・・・」

「全然攻撃が効いていない・・」

マルビスの声に振り返ると、いつの間にか後頭部のキズは塞がっており再び触手が生え始めていた。


「だから言っただろう、この身体は俺が作った最高傑作だ。お前等の攻撃なんぞすぐに修復できる!」


「仕方ないか・・・こうなったら最後の手段だ。」

カルマはゆっくりと立ち上がり、険しい表情でマルビスを睨みつける。


「カルマ、何をするつもり・・・?」

「お前、まさかチップを破壊する気じゃ・・・」

キリュウは何か気付いた様子でカルマを真剣な眼差しで見つめている。

「本当ならさっき絞め殺される予定だったんだ。ここで2人を守って死ねるなら本望だよ。」

「ね、ねぇ・・・一体どういうことなの?」

私にはカルマの考えが分からず、困惑し2人の顔を交互に見つめることしか出来なかった。


「・・・・俺達がいくら止めようがやるつもりなんだろ?」

「あぁ、もう覚悟は出来ている。」

「そうか・・・・くそ、俺にもチップが埋め込まれていれば代わりになれたのに・・・」

「・・・これでいいんだ。・・・・リリアーヌを頼んだ。」

悔しそうに顔をしかめるキリュウにカルマは穏やかな表情で述べ、マルビスに向き直った。




「リリアーヌ、こっちだ。」

「え、逃げるの?カ、カルマはどうなるの・・!?」

キリュウに手を引かれ湖へと向かって歩き出す。

「あれが出来るのはアリア隊の中でもトップの能力を持つ者だけなんだが・・」

キリュウは少し渋った後、カルマの行動について話し始めた。


「俺達アリア隊の胸には力を宿す為のチップが埋め込まれているのは知っているな?」

「えぇ、そのおかげで私達は魔法や高い身体能力を得ることができるのよね。」

「あぁ、その通りだ。そして非常に優秀だと認められた場合、新たにチップを埋め込まれるんだ。俺もその予定だったんだが、その前にマルビスに捕らわれてしまったからな・・」



「でもマルビスはアリア隊の隊長なんだから、そのチップの事も知っているんでしょ?

 何か対策があるんじゃないしら・・」

「いや、マルビスは知らないはずだ。隣国に避難している政府から該当者へ直々に連絡がくるからな。今までの該当者リストにもマルビスの名前は無かった。」

「そう・・・それで、肝心のチップの機能はどういうものなの?」

「それは・・・・・」

核心に迫った質問をするとキリュウは固く口を閉ざしてしまった。


「隊長、いやマルビス・・・お前も俺もここで終わりだ!」

カルマは勢いよく走りだし、マスビスに正面から立ち向かっていった。

「ふん、お前の全力攻撃で俺が倒れるとでも思っているのか?」

マルビスはやはりチップのことは何も知らないようで、カルマが自棄になって

攻撃をしかけてくると思っているようだ。


「お前なんぞこの触手1本で充分だ!」

自分の元へ飛び込んでくるカルマをめがけてマルビスは触手を放った。

「マルビス、お前は1つ勘違いをしている。俺はあんたを倒して自分は助かるなんて一言も言っていない。」

「どういうことだ、言葉で油断させようという魂胆なら・・・・・」

「お前も俺もここで終わりだと言っただろう。この身に埋め込まれた起爆チップでな・・・」

「なんだと・・・?そんなものあるわけ・・!」

「うおおおおお!!!!!」

カルマは躊躇することなく触手に自分の心臓を貫かせた。

「ぐはっ・・・!!」

カルマが呻きながら血を吐いた後、小さく“カチッ”と機械音が鳴った。

「ま、まさか・・・本当にこんなところで!?ぐおおおあああああ!!!」




「リリアーヌ!!!鼻と口を塞げ!」

呆然とその光景を見ていた私の腕をキリュウが掴み、そのままワンダー湖へ飛び込んだ。


ドーンという大きな爆発音と地響きの衝撃のあと、パチパチと草木が燃える音がした。

「ぷはっ、一体何が・・・・」


湖から顔を出し、振り返るとそこには――――――


「あ・・・・・」

またたく間に草木が燃え広がり、あたり一面が炎の海となっていた。

先程までカルマ達が居た場所に焦げた塊のようなものが転がっているのが見えた。


「・・・ここは危険だ、早く湖の向こう岸まで行くぞ。泳げるな?」

「・・・・・・えぇ、大丈夫。」

カルマは一体どうなってしまったのか?

激しく動揺していたが答えを聞いたところですぐに状況を受け入れられる気がせず、

おとなしくキリュウに従い必死に泳ぎ続けた。



――――


「はぁ、はぁ・・・・・なんとか助かった、のか?」

無事に向こう岸まで辿り着き、2人で恐る恐る振り返る。

「しばらく消えそうにないわね・・・・」

炎はさらに勢いを増してゆらめいており、全てを飲み込んでいく大蛇のようだった。



「おい、もしかして通信機ってあれのことじゃないか!?」

不意にキリュウが森の奥を指差した。

「あ、確かに・・・小屋の前に何かの機械みたいなものが見えるわね。ここからそう遠くはなさそう。行ってみましょう!」

「あぁ!・・・・カルマのことだが・・・」

「・・・・まだ何が起こるか分からないわ。全てが終わったら聞かせてくれるかしら?

 カルマのことと、キリュウ・・・貴方の事ももっと知りたい。」

「リリアーヌ・・・・・分かった。最後まで気を抜かずに行こう。」

そうして私達は手を取り合い森の奥へと駆けて行った。



「キリュウ、あったわ!他国に繋がる通信機で間違いなさそう!」

しばらく進むと森がひらけ広い場所に出た。

そこには先程発見した小さな小屋とスピーカーがついた通信機があった。

通信機には他国の名前が書かれたボタンが付いており、これを押すだけで繋がるようだ。


「念のため小屋の中と周囲を確認してくる。リリアーヌはここで待機していてくれ。」

「分かったわ。」

特に異常はなかったようですぐにキリュウは戻ってきた。

「問題なさそうだ。さて、どこに連絡するべきか・・・」

「以前交流のあった隣国のイザベル国にしましょう。」

ボタンを押すとツー・ツーと発信音が鳴り、すぐに応答が来た。


「こちらはイザベル国政府機関である。国名と用件を述べよ。」

「繋がった!・・・・こちらはアール王国。既にご存知の通りモンスターによる襲撃を

 受けておりましたが、先程モンスターの壊滅に成功しました。一般市民も何人か生き残りがいます。至急応援を要請致します。」

「なんと・・・無事に生き残った者がいたとは・・・。

 承知した!至急応援を向かわせる。詳しい場所や目印になるものはあるか?」


―――――――――


それからイザベル国に詳細を説明し、私達は再度アヴィスへと向かうことにした。

帰路の途中でワンダー湖を通った時既に炎は鎮火し、一面焼け野原となっていた。

やはり焼け焦げた黒い塊がいくつか散らばっていたが、近寄って確かめる気にはならなかった。


「イザベル国にはどこまで話していいのかしら・・・」

「マルビスの事は、言うべきだよな・・・どちらにせよアヴィスの研究室を見ればバレてしまうからな。」

「そうね。・・・・キリュウ、貴方の身体の事は言わない方がいいんじゃないかしら。」

「え、でも・・・」

「自分の意思で人間の見た目のまま維持できるでしょう?もし貴方の事を怖いと感じる人が出てきたら、どうなるか分からないもの。」

「リリアーヌ、ありがとう・・・そうだな、今の所は黙って様子を見た方がいいかもな。」

「もし貴方の身に何か起きるようなことがあれば、今度は私が守る。」

「・・・・あぁ、頼りにしている。」

私達は互いに顔を見合わせ頬笑みあった。


カルマの胸に埋め込まれていたチップは、言葉の通り起爆チップだった。

そのチップが割れた時、初めに埋め込まれていたもう一つのチップが爆発する仕組みになっているらしい。

もし自分の手に負えないほどの強敵が現れた時、自分達が死んで敵が生き残ってしまうと

他国にも侵略する恐れがある。そう見込んだ政府が極めて優秀で能力の高い人物にだけ行っていたそうだ。


先程のカルマの真相を聞いているうちにアヴィスに到着した。

地下に匿っていた市民も皆無事で、私達は称賛を浴びることとなった。

数時間後にはイザベル国から軍隊が派遣され、国の復旧活動をしてもらえることになった。

復旧には数年かかる見込みで、しばらくはイザベル国へ移住生活となるだろう。



アヴィスの研究室も調べられたが、キリュウに関する書物は残っていないようで

当初の予定通り人体実験をされたことは伏せることにした。




――――――――――――――――――――――――


そして数ヵ月後―――――




「ねぇ、キリュウ。実はアール王国への帰国が許されたの。今日早速行ってみない?」

「え、本当か?そりゃもちろん行くに決まっているだろう。」

「ふふ、良かった。午前中だけしか居られないみたいだけど、軍隊の人が送迎してくれるって。」

「そうか、じゃあすぐに準備するよ。」

私達は小さなアパートに2人で共同生活を送っている。

最初は慣れない土地で知り合いも1人もおらず不安だったが、

キリュウが傍にいれば心強かった。

失った仲間達のためにも、私達は前を向いて進んで行こうと決めたのだ。


―――――――――――


「結構建物は綺麗に修復されてきているな・・・・」

アヴィス自体は取り壊されてしまっていたが、新しく政府の機関を置く為の施設や

居住物が新設されていた。


「ここに戻ってこられるのももうじきかもね。」

「あぁ・・・・リリアーヌ、実は行きたい場所があるんだが・・ついてきてくれるか?」

「・・・・えぇ、もちろん。」



――――――――――――



青い空、白い雲。風は穏やかで草木がゆっくりと揺れている。

暖かい陽射しを受け、湖の表面はキラキラと輝いて見えた。


「やっぱりここか・・・」

「あ、バレてたか?」

「だって、ここは貴方との思い出の場所だから。」

「同じ気持ちでいてくれて嬉しいよ。」

そう、キリュウに連れられてやってきたのはワンダー湖だった。

初めての出会い、そして仲間の犠牲の元に生き延びることができた大切な場所・・・・


「思い返すと、今ここで生きているのが信じられないくらいだな。」

「そうね、本当に酷い事件だった・・・・」

「リリアーヌ、お前に出会えてよかった。自分の生きる価値なんてないと思っていたし、

 あの広場で再開していなかったら違う結末になっていたかもしれない。」

「キリュウ・・・・・」

「これからも、お前のことを守らせてくれ。ずっと傍にいてほしい。」

「あ、あの・・・それって・・・」

キリュウの手が私の頬に触れる。緊張しているのか指先が少し震えていた。



「あの事件から今まで一緒に過ごしてきて実感したんだ。リリアーヌのことが誰よりも大切で、愛している。」

真剣に見つめられ、その言葉に思わず涙ぐんでしまう。

「・・・・・嬉しい。私も好きよ・・・アール王国が復旧したら一緒に住む理由がなくなるのが怖かった。あの頃の私は貴方の傍にいられない事がこんなにも不安に感じるなんて思いもしなかったけれど・・・。」

「・・・・良かった。こんなに想っているのは俺だけかもしれないと思って、なかなか言い出せなかったんだ。」

「私もよ。キリュウは事件のせいで私と一緒にいるだけだったら・・・って思うと恐くて伝えられなかった。キリュウ、これからもよろしくね。」

「俺達似た者同士だな。あぁ、よろしく・・・・」

ゆっくりと顔を寄せ合い、唇を合わせた。

初めての口付けはとても甘酸っぱく、胸が締め付けられるような気持ちだった。


私達を祝福するかのように、小鳥のさえずりが聞こえてくる。


もう1人じゃない。これからは2人でどんな困難も乗り越えていこう。

夢と希望を持って、私達は共に歩きだした。



end


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