服を掴まれる
古城に向かう森の中で日が完全に落ちた。道中雲が出てきたため松明の明かりだけが頼りだ。
そして噂の、例の歌声が耳に届き始める。途切れ途切れに聴こえるそれは、たしかに不気味だ。町の人達の元気がないのが十分に理解が出来る。
「シグー、これ怖すぎ、だよね?」
「あぁ確かに怖いな」
シャルルは身体をすくめてキョロキョロと辺りを警戒している。
「ホラーだよ、ここからはジャンルがホラーだよ。ちゅーことで、少し裾の辺りを摘まませて」
「なんなら手を繋いであげようか?」
「えっ、いやごめん」
「ぐはっ、なんか心に傷を負った気がするんだが」
「ククッ、私はそんなに軽い女じゃないと言う事だ」
「お金では動かない?」
「額によるよー」
「ちなみに手を繋ぐのは?」
「千Gで」
「意外に安い!?」
「正確に言うなら1秒千G」
「ぼったくりだった」
そんなシグナ達を見てクロムが呆れ顔で呟く。
「……緊張感のない奴等だな」
そこへ眼鏡に手を添えながらローザさんがクロムの横に並んだ。
「クロム様、多分あの会話は場に呑まれないための儀式のようなものだと思われます。その証拠に見て下さい、シャルル嬢は本当に怯えているからこそ、シグナさんの脇腹のあたりを後ろからそっと掴んでいます。そしてシグナさんも気付いているはずなのにその事には一切触れずに会話を続けています。ちなみにこのような気遣いはクロム様も学ぶべきポイントですよ」
「ローザ、どうでもいいが丸聞こえみたいで2人は離れてしまったぞ」
「し、しまった! ーーお二方、ささっ、今のは無かった事にしてまた引っ付いて下さい」
心情を朗読された挙句に元に戻れって、どんな罰ゲームですか? しかしそんなローザさんを見て、カザンとガレリンが苦笑を漏らす。彼女のおかげで、皆の気負いが無くなったように感じる。
何が待ち構えているか分からないが、これでより冷静で的確な判断が出来るだろう。
そして進むにつれ段々と歌声がハッキリと聴こえ出す。
月はまだ雲に覆われたままだ。
松明が周囲を照らす。
全身を襲う悪寒。
そして昼とは全く違う雰囲気を放ち、木々の間から古城が姿を現した。




