魔宝石の取説っす
「先生、魔宝石にはその封じられた能力で、いくつかに分類されているのはご存知ですか?」
「いや、さっぱりだ」
「という事は、未だに『星の魔法石』は封印されたままなんですね?」
封印? なんの事を言っているのだ?
そして問われたカザンは、一度こちらを見て考える素振りを見せた後に口を開く。
「いや、その封印は数ヶ月前に解かれた」
「……ついに、レギザイールの手に落ちたと言う訳ですか」
クロムの表情は険しいものとなっていた。
「では今から話す情報もいずれ知れる事となるでしょうが、今夜のためにも初めからお話しをさせて頂きます。星の魔法石はレギザとイールの連合軍から奪われるまでは、我がゼルガルド王国が所有していました。そして今からの情報は、当時の王が星の魔法石から引き出した情報を書面に残したものとなります」
クロムは咳払いを一つすると続ける。
「まず我々は魔宝石を大きく分けて4つに分類しています。最初に炎、氷、雷、風からなる四属性のどれかが封じられた物。次に体の巨大化、超回復など何かしらの肉体強化を施す物。次に何かの力を増幅、もしくは呼び起こさせる代わりにその人間にとっての不利益を支払わせ殻に閉じ込める物。そして最後に侵入不可の結界と記されているのですが、即席の見えない壁を作り出す物があります。このように色々とありますが、どれも使用を続けると魔物化するのは変わりません。そしてこれらの魔宝石は意外に多く存在し、近年では15年前に現れた魔竜、灼熱赤竜、そしてそこの馬鹿が倒した魔竜、双頭の飛竜は我々の見解では魔宝石を飲み込んだりして魔物化した竜だと見ています」
こいつは普通に人の名前を呼べないのか?
しかしクロムが話す内容は初めて聞く事ばかりだ。双頭の飛竜、確かに他にあんな二首を有する竜は見たことも聞いた事も無かった。そして多くの町を壊滅させたレッティーは、カザンの前任である特務部隊の人達が倒せなかったまでも、深手を負わせて退けたらしい。
「そして壁を作り出す魔宝石は、数ある魔宝石の中でも少なく、我が王国が保管していた物を含めてもあまり世に姿を現していません」
そしてそこで苦笑するクロム。
「そうそう、世に出ていないと言えば、なぜか魔物化しない代わりにただ光るだけで使えない魔宝石もあるらしいですよ。そして当時の王はその魔宝石を後生大事に持っている一族の事をボロクソに書いていました」
「おい、それは俺のご先祖様をバカにしているのか?」
「なんだ藪から棒に!」
「その光るしか脳がない魔宝石は、うちの家宝なんだよ」
すると珍しく目を見開くクロム。
そして何時ものように鼻で笑う。
「……落ちぶれたものだな」
「なんだって?」
「いや、気にするな。お前と話しをしていたら脱線してしまう」
またカザンに向き直るクロム。
「それよりここからが本題になるのですが、我がゼルガルドが所有していた魔宝石、即ち盗まれた物は、その代償に力を与える魔宝石と、壁を作り出す魔宝石になります。そしてこの町で起こっている事から前者の方は既に魔物化しているようです」
憎々しい表情の中、その瞳にどこか悲しそうな色を見せるクロム。
「ちなみにその魔宝石で魔物になると、可笑しな空間に人を閉じ込めるそうです。今回それが古城の中で発動しているようですが」
「カザン、それって」
「あぁ、セスカの悪夢か」
星の魔法石に封印した、夢の世界に現れた醜い化物。あれは魔宝石で魔物化したものだったのだ、そして恐らく元となっているのは……人間の女性。




