古城と歌声
道すがらカザンに先程の件を問いただす。
「うん? シグナとシャルル君は付き合っているのではないのか?」
「なんでそうなるんだよ」
「よく仲良く並んで食事をしているではないか?」
「あれは握手会を避けるための知恵であって結果だよ」
「そうだったのか、それは勘違いをしてすまなかった。しかしシグナとシャルル君は本当にお似合いだと思うのだが、……付き合ってみてはどうだ?」
「それは……」
口ごもっていると、カザンの隣を歩くガレリンに背中をどんと押された。
「人間色々な経験をして成長するものだからな、どんとぶつかってみんか?」
「いや、無理無理」
ここにこれ以上いると何か不味い気がするので、早く戻ろう。
クロムとは視線を合わせないようにすれ違い、ローザさんと雑談しているシャルルの横に並ぶ。
「シグ、おっちゃんはなんて?」
「あぁ、すまなかったって」
「へぇー」
本当の事は言えないですよ。
ちょうどお昼に差し掛かった頃にキタカレの町が見えてきた。何系を食べようか考えて歩いていると、カザンに気づいたキタカレの門兵が、藁をも掴むような憔悴しきった顔で町を飛び出して来る。そしてその門兵はカザンに報告もそこそこに助けを求めるのであった。
話では町の近くにある森の中に、とうの昔に廃れた古城があるそうだ。そしてここ数日も前から陽が落ちると、どこからともなく歌が聞こえ始めたのだ。そしてその不気味な女性の歌声は、微かにではあるが毎晩のように町まで運ばれて来る。
一度町の男達でその歌声がする古城のほうに出向いたが、その日誰も帰って来なかった。
次の日の昼、駐屯するレギザ兵と腕に自信がある男達で古城を捜索するも手掛かりは見つからない。そして夜になるとまたその歌声が聞こえ始めた。そこで今助けを求めてきた彼以外の兵士達と町の男達で古城に向かったそうだが、帰ってきたのは町の男1人だけであった。その戻ってきた人は皆が場内を調べる中、1人外から城の出入り口周辺を調べているたらしい。
そして古城が、一瞬脈打ったように妙な感覚を味わう。そして皆が心配になった彼は、外から古城の入り口を覗くがすでに誰もいなかった。声を掛けても聞こえるのは女性の歌声だけ。
とその時、古城の中からこちらに歩み寄る姿を見つけた。しかも気付いた時にはすぐそこまで来ている。暗くて見えなかったがそれが入り口近くまで来たためその姿を月明かりが照らし出した。それは見たこともない、腰まである長い銀髪を携えた女性。
恐ろしくなった彼は、歌声を背中に受けながら逃げ帰った。そしてそれからずっと家にこもったきりで、今もなお布団に包まったまま怯えているという。
とにかく腹が減っては戦は出来ぬ。まず昼食を取ることにした一行はキタカレの町に入った。
元々小さな町ではあるが、この失踪騒ぎで町を出歩く人も少なくガランとしていた。
 




