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愛の伝道師

 シグナ達は早朝からキタカレの町に向かい移動していた。シグナの足取りは重く、最後尾を歩いている。


 昨日はあまり眠れなかった、それは床で寝たからではない。

 クロムとの口喧嘩、流れでその喧嘩の勝者がベットで眠れると言うことになった。そしてカザンにジャッジをしてもらい、床で眠る事が決定した。

 野郎、頭だけでなく口も回るようで、終盤怒涛のようにまくし立ててきやがった。仕事に向いて無い事から始まり、人としてダメダメという事まで言われた。そしてあろうことか奴がシグナを励ましだしやがった。そこで、カザンからストップがかかった。

 あの時、まだ戦えたんだ。あの時間帯は口を休めていただけなんだ。


 ……とにかく奴は許さん、いつか再戦するその時のために、今の内からネタをストックしておいてやる。

 前を行くクロムを睨んでいると、振り返った奴と目が合った。するとクロムは微笑を浮かべ、また前を向いてしまう。

 そうやって笑っていられるのも今のうちだけだからな。


「シグ、なんかしんないけど元気だして」

「いや、俺は元気だがーー」


 はっ、知らず知らずの内に肩を落としていた。地面ばかりを見ていた。これではどこからどう見ても負け犬ではないか。

 立派なリベンジャーになるのだ。ただ負けたのではなく、それすらも糧にして前を突き進む鬼となりて!


「今度は凄い目が燃えてるみたいだけど、元気出てきたのかな?」

「メラメラ元気だ」

「略したら?」

「めらき?」

「そこはメラゲンじゃないかな? ほんっとシグのネーミングセンスは神だよ」


 そう言うとカラカラ笑うシャルル。

 いつも元気をくれるシャルル、どれだけ助けられただろうか。

 たしか特務部隊にいるのは1年間って言っていたけど、……願ってはいけないのだろうが、ついついこれからもずっと一緒にいられればいいなと思ってしまう。


「お二人さんを見ていると、幸せな気持ちになります」


 クロムと並んで歩いていたローザさんが、気がつくと隣にいた。


「愛の伝道師としてあやかりたいものです」


 ん? どゆこと?


「なんの事ですか?」

「いえ、お付き合いをされているお二方の幸せを、少しだけでも頂ければと」

「おっ、俺たちですか!?」

「はい……?」

「そんな関係ではないですよ、なぁシャルル」

「うぅん」

「あれ、カザンさんがそう言われてましたが」

「カザンが?」


 先頭を歩くカザン、後で問いたださねば。


「えーと、嘘を言われているようではなかったので、……もしかしたら勘違いされていらっしゃるのかもですね」

「そうだと思います」


 あれっ、そう言えばローザさんってずっと手ぶらだけど、護身用の武器すら持っていないよな?


「話し変わりますけど、ローザさんって武闘家さんですか?」


 ローザさんは驚きすぎたのか、眼鏡が大きくずれる。そして眼鏡を戻しながら、シグナをジト目で睨んだ。


「どこからどう見ても聖職者、ですよね? と言うか雰囲気でわかりますよね?」

「そ、そうですね」


 すみません、本当は鞭がとてもお似合いだと思います。

 しかし謎が解けた。クロム達と賊を追うと言う危険な任務についているのに、武器を持たない理由。それは回復魔法の使い手、ヒーラーであるからだ。

 回復魔法、それは殺意など負の感情が少しでもあると効果をほとんど発揮しない、相手を慈しむ心を持つ優しい人間にしか使えない特別な魔法である。

 確かにローザさんは、接すれば優しい人だと言うことが伝わってくる、そんな人だ。


「もしもの時は、お世話になります」

「いえ、私はクロム様の専属ですから」

「あーーそうなんですね、すみません」


 そこで口に手をやりプププッと、含み笑いをするローザさん。


「冗談です、ただ当てにしないで下さいね」


 その笑みは天使のようであった。

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