鑑識魔道士クロ?
シグナ達は食事を済ませると宿屋に戻った。そしてシグナは今、ベットに腰掛け武器の手入れをしている最中である。
1部屋に4人、しかもその内の2人が大男となると流石に窮屈である。
しかしなんでシャルルは機嫌が悪かったのだろうか? あの後クロムをなだめるため、よいしょとか色々やったのだがシャルルは全く協力してくれなかった。そういう時のシャルルは、体調が悪いか機嫌が悪いかのどちらかである。まあ明日になれば機嫌も戻っているよな。
明日は朝からキタカレの町に向けて出発だ。
しかし暇だな、小さな町には本屋さんがあることは稀である。たとえあったとしてもこの時間だと閉まっているけど。
……まぁしょうがない、あいつで我慢するか。
「なぁクロム、なんでお前んとこの国は国交断絶なんかやっているんだ?」
「気安く話しかけるな、それと国交断絶とかはやっていない。審査が厳しいだけだ」
「えっ、そうなの?」
「まぁ帰国者も入念にチェックや照合を行うが、なんのつてもなく入国しようとすれば、前金を払って貰ったうえで許可証を作るための審査等を行い、だいたい1年は待ってもらっている」
「なんか徹底しているな」
「壁は戦乱時代の名残だが、資源の豊富な我が国は他国と関わり合う必要がないからな」
「その代わりお前んとこの国の情報って全然入ってこないよな、実際クロムの名前と顔なんて初めて知ったわけだし」
「俺様はお前なんかに知って貰われたくなかったんだがな。それと元はと言えばお前等レギザとイールが我が国に恐れをなして併合した事が悪いんだ。それさえ無ければ我が国が全ての領土を統治していたものを」
「そんな事、俺に言われてもどうしようもないんだが」
「たしかに、お前には話がデカすぎたな」
そう言うと高笑いをあげるクロム、ムカつく。
そしてクロムはベットから立ち上がると、カザンのほうへ向き直る。そして袋から小さなツルツルの石を取り出した。
「先生、この石を少しだけで良いので握って貰えないですか?」
「あぁ構わないがこれは?」
「鑑識魔法の一種なんですが、一度魔力に触れさせておくと、遠く離れていてもおおよその位置がわかるようになるのです。先生に何かあればすぐに駆けつけれるようにしたいので」
「魔力を込めるのは構わないが、気持ちだけ受け取っておくよ」
カザンは暫く石を握りしめたあと、クロムのオッケーが出たところで返した。
「どれどれ」
「あっ、貴様! 何をやっている?」
「どうせこんだけあるわけだから、一つぐらい大丈夫だろ?」
「それはお前が思っているよりも高価なものなんだぞ、早く返せ!」
必死になって石を取りにくるクロム。そのさい1発殴られてしまったが、あいつが嫌がるならそれでよしとする。そろそろ大丈夫かな?
「ほら、返すよ」
クロムはシグナが投げ渡した石を掴もうとせず、そのまま手で払い除ける。
「なっ、なんて事を」
「ハハハハハッ、それはすでに価値を無くしたからな」
「面白いじゃないか、やろうってのか?」
「顔を真っ赤にして唾を飛ばすな、気持ち悪い」
「なっ、お前も呪文の詠唱の時、早口で気持ち悪いんだよ」
「なっなんだと!」
「せめて人様に聞こえないよう小声で言え」
「一等兵の分際で偉そうに意見をするな。それになにかしら問題があるから一等兵ではないのか? と言うかちゃんと頭は使っているのか? 少し考えればその仕事がお前に向いていないのが分かるだろうに」
「なんだと!」
そして2人は暫くの間、口喧嘩を繰り広げるのであった。




