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握手会

 町に着いた時には、すでに日が落ちており辺りは暗くなっていた。

 そのため宿は2部屋しか取れず、シグナ達男性陣4人は2人部屋に無理矢理泊まることとなった。ちなみに宿屋の店主がカザンのために自身の部屋も使うように申し出てくれたが、カザンはそのような施しは一切受けない事にしているため、今回もキッパリ断っていた。

 そして一同は遅い晩飯を食べにその町にある唯一の酒場に来ている。


「カザンさん、ですよね?」


 ウエイトレスをしているお姉さんが注文を取りに来た際、水を運んで来たお盆を抱き締めながら質問してきた。


「えぇ」


 そのお姉さんはカザンの返事に喜びの悲鳴をあげ握手を求めてくる。カザンはそれを快く承諾して手を差し出した。

 お姉さんは感謝の言葉と応援していますと述べたのち注文をとると、興奮冷めやらぬまま奥へと引っ込んでいった。


「おっちゃんの人気は相変わらずだね」


 シグナもカザンと行動し出した時はびっくりしたものだ。なぜならこのような事が日常茶飯事なのだから。

 そしてだいたいこの後は、握手会の列が出来る事が多い。案の定、先ほどのウエイトレスの歓喜の声で、店内の客の視線がカザンに注がれている。

 そして恐らく第二師団の兵士だろう、1人のレギザイール兵が所属と名前を述べたのち、握手を求めてきた。それを見ていたお店の半数ぐらいの人がその後に続いて並んでいく。

 ちなみにこのようになると食事どころではなくなるので、いつも食事をする際シグナとシャルルはカザンの真反対にくっ付いて座り、握手会を目の端で見ながら食事を始めている。

 そして今回、シグナ達の人数が多かったので、カザンとガレリンはカウンター席に並んで座り他の四人で丸テーブルに着いている。ガレリンは落ち着いて食事出来ないかもしれないが、カウンター席のため食事は何とかなるだろう。


「カザンさん、噂には聞いていましたが、この人気は凄いですね!」


 ローザさんはこの普通ではない状況に、目をパチクリさせている。

 そして同じく驚嘆するばかりのクロムに、シグナは声を掛ける。


「ほらっ、こっちのテーブルのほうが良かっただろ?」

「確かにあれでは気が散って食事どころではないがーー」


 そしてクロムは、何故かこちらに疑いの眼差しを向けると言葉を漏らす。


「何を企んでいる?」

「えっ、いやいや、なんでそうなるの?」


 言って気がつく。

 なんて可哀想な奴なんだと。

 クロムは人を信じる事が出来ないんだ。人から優しい言葉や親切心で何か言われても、まず先に何か裏があるのではと疑ってしまう性格なのだ。

 一体今までどんな生活を送って来たんだ。

 そうか、多分王子様であるが為、小さい頃から汚い大人達に囲まれていたのであろう。

 親は子供であるクロムに構う時間などなく、頼る兄弟も異母兄弟しかおらず、挙句にはその兄弟からも嫌がらせを受けて。


「今まで1人で大変だったんだな」


 優しい言葉と共にクロムの肩に手を置く。

 するとその手を払われてしまった。


「汚い手で触るな」

「俺は敵ではないんだ」

「お前は敵だ、それと1人とは何のことだ?」


 友達がいないんだろ? とか言ったら傷つくよな。そこらへんは濁して。


「いやーーなんだ、まあ色々と大変なんだろうなーと。そうそう、クロムは兄弟とかいるのか?」

「……姉上が1人」

「腹違いの?」

「貴様、それはどういう意味だ!」


 あれ? すんごい怒り出してるんですけど。


「シグナさん」


 ローザさんに声をかけられる。


「クロム様にはとても立派なお姉様がいらっしゃいます。いつもクロム様の事を気にかけている優しい方です」

「えっ、それじゃ汚い大人は?」

「シグ、さっきからさっぱりだよ?」


 そこでローザさんが手の平をポンと合わせると、耳元で囁いた。


「クロム様のあの性格ですよね? ただ単に我儘で皆から距離を取られているからなんですよ」


 それって自業自得って奴?


「でもシグナさんは優しい方なんですね、これからもクロム様を宜しくお願いいたします」


 そう言うとローザさんは、耳元から離れてこちらに微笑んだ。

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