氷の壁
少し離れて雪原で対峙する2人。互いに自身の獲物を出そうとすると、カザンから待ったが掛かった。
そしてカザンはガレリンに確認をとる。
「ガレリン殿、クロムは一国の王子である訳だが、いいのか?」
「あぁ、あいつが仕掛けた喧嘩だしな。それにクロムの奴は俺と双剣のザギンが鍛えた男だ。全く問題ないよ、なぁローザ」
話しを振られたローザは、眉間にしわを寄せて言う。
「ギリギリセーフです」
「それならーー」
カザンは手に持つ大剣で、そこそこの太さの木の枝を斬り落とすと、さらに剣を振りそれらが地面に落ちる前に綺麗な木刀に仕上げる。そして地面に落ちた木刀を、それぞれシグナとクロムに投げ渡した。
「この棒を先に当てたほうが勝ちとする、2人共それでいいな?」
「オッケー」
「はい、先生」
洞穴に入る前とは違い、風の一つも吹いていない中、2人は木刀を手に改めて対峙する。
そしてクロムは突き出した右手の人差し指の腹を上に向けてシグナをピッと指差すとニタリと笑った。
「始めるぞ」
「どこからでもかかって来い!」
おもむろに呪文の詠唱に入るクロム。
「おい、お前! それは反則だろ!?」
こちらの言葉を無視して、クロムはドンドンと呪文を組み上げて行く。
しかもかなりの早口。
魔法を発動させるためにはただ単に早口で言えば良いわけではなく、呪文に使われる単語を正確にイメージしていかないといけない。
恐らくこいつは不発動なんて間抜けな真似はしないはず。つまり短時間で次から次へと頭の中で様々なイメージを作り上げれる頭を持っているわけだ。
そしてこの呪文は氷系統の高等魔法であるわけだが、なぜこれを?
どのみち今から木刀を当てに行っても奴の魔法が先に出来上がってしまうため、少し様子を見るか。
「氷結系高等魔法」
クロムの声と共に、シグナの足元でビシビシと氷が固まる音がする。そしてそこからシグナ目掛けて鋭い氷の刃が突き出して来た。間一髪それをステップで躱すと、そこからたて続けに氷の刃がシグナを襲い出す。
この野郎、その魔法は普通20枚の氷の壁を作る、守りの魔法だろうが。それを攻撃に転用し、しかもアレンジしているようで一気には出さずに任意で1枚ずつ出現させていやがる。殺傷能力抜群に尖らせた状態で。
シグナは氷の刃を躱しながら声を張り上げる。
「おい、魔法は有りなのか! 答えろ!」
「ピーピーと煩い! 俺はどちらかと言えば魔道士よりの剣士だ、よって魔法を使うのは至極当然のことだ」
この俺様はルールを自分勝手に解釈してやがる。
シャルルはカザンの裾を引っ張る。
「おっちゃん、あいつバンバン魔法使ってるよ」
「……うむ」
カザンは言葉を詰まらせ、そしてガレリンは顎を触りながら首を傾げる。
「クロムの奴、なんであんなに切れているんだ?」
ガレリンの呟きにローザが答える。
「ガレリンさん、クロム様はよくカザンさん以外のレギザイール人は皆死んでしまえば良いと言っていました」
「そんな理由でか?」
「いえ、それだけではないと思うのですが、ーー私の勘だと師として仰ぐカザンさんと、親しく接しているシグナさんが凄く気に入らないんだと思います」
「嫉妬してるってわけか?」
ガレリンは大きくため息をつくと、カザンに問う。
「この決闘止めさせるか?」
その問いに、カザンははっきりと答える。
「シグナはああ見えてもかなりの修羅場をくぐり抜けている、大丈夫だ」




