マントをチョイス
月の魔竜教団の件から早いもので3カ月が経っていた。
カザンを加えた一行は南のカイカイールに着いた後、そこから西の旧ダイセン領へと向かい、その後北のホクイールを通り越しさらに北上をしていた。
「結構冷えるね」
「あの山を越える際は、これの比じゃないぞ」
傾斜に作られた町の後方、目と鼻の先にある視界一杯に広がる切り立った雪山を指し示すと、シャルルが身震いをしてみせた。
「ほんと? わたし凍死するかも」
「大丈夫、そのための防寒具を今から調達するから」
一年以上前になるが、シグナはカザンとこの町を訪れた事があり、その際この町で防寒具を購入した事がある。そして今、その時の記憶を頼りにこの町に一店しかない防寒具屋さんを目指しているのだ。
「あっ、雪だ! 人生初めての雪との触れ合いだよ」
シャルルが道端にまだ溶けずに残っていた雪の塊を見つけると、駆け寄りそれを手にとっている。
「雪って硬いんだね」
どうやら人が通るなどして踏み固められていた雪のようで、雪と言うより氷に近い状態のようだ。
「それは踏みしめられて半分氷になってるだけで、あの山に見えてるのはもっと柔らかいよ」
「へぇー」
そして程なくして、目的の防寒具屋さんに到着する。お店は丸太を組んで作られており、屋根は雪が積もらないようにかなりの傾斜がつけられ、軽くて光沢のある、つるすべ石も使用されている。
「カランッコロンカラン」
二重の扉を開くと上部に取り付けられている鈴の音が店内に鳴り響いた。すると奥から手を擦り合わせながらなよなよした店主が現れる。
「外は寒かったでしょう? ささ、お連れ様もどうぞこちらへ」
店主に続いて服や雑貨を素通りして奥へと進む。
生き返る。
奥に据えられた暖炉から暖かな光が、熱となって冷え切っていた身体の芯にまで届く。
「何をお探しで?」
それより前回来た時から思ってたんだけど、ここの店主、なんだかオカマっぽくて苦手なんだよな。今もピッタリと横に付いて離れようとしないし。
「今から雪山を登るので、防寒用の帽子とマントを人数分。でいーよな、カザン?」
店主の視線が後から入ってきた大男、カザンへと向けられる。
「っ、貴方様は、勇者カザン様ではありませんか!」
「久しいな」
「お待ちしておりました! 良かったらまた握手をして頂けないでしょうか?」
シグナの事をすっかり忘れているのがちょいと癪ではあるが、これで目論見通り店主がカザンの方へと付きっきりになるはずだ。
カザン、ごめん。
「シグ、これなんてどう?」
振り返るとシャルルがマントを羽織りくるりと一回転してみせた。
ん、意外と可愛い。
「いーんじゃない」
「じゃ、これとどっちがイーと思う?」
シャルルの手にはもう一枚、棚に置いてあった別のマントが握られている。
「そだなー、この緑ベースの方が似合うかも」
「なるほどね、そしたら留め金を……あっ、このブローチ可愛いー」
そんな感じで防寒具を入手したシグナ達は、その日の内に雪山へと脚を踏み入れるのであった。




